第8戦オーストリアGP「そして、いつものマッチレース」【F1 2014 続報】
2014.06.23 自動車ニュース ![]() |
【F1 2014 続報】第8戦オーストリアGP「そして、いつものマッチレース」
2014年6月22日、オーストリアのレッドブル・リンク(4.326km)で行われたF1世界選手権第8戦オーストリアGP。高速コースでストレートが速いウィリアムズが伏兵として現れたが、レースは中盤を過ぎると、常勝メルセデス軍団の2台によるいつものマッチレースとなった。
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■“ディディ”さまさま
1970年チャンピオンのヨッヘン・リント、1975年、1977年、1984年に世界制覇を成し遂げたニキ・ラウダ、そしてF1通算10勝のゲルハルト・ベルガーらを輩出したオーストリアに、11年ぶりにGPが戻ってきた。
同GPの初開催は1964年。飛行場を使った仮説コース、ツェルトベクでのレースは1度きりに終わったものの、その近くに常設コースとしてエステルライヒリンクが造られると、1970年から毎年開催となった。まるで絵はがきのような牧歌的な丘陵地に横たわるコースは起伏に富み、超高速サーキットとしてドライバーたちから人気を得たのだが、多重クラッシュの起きた1987年を最後に、いったんはカレンダーから姿を消した。
1997年、改修を受けA1リンクに名前を変えた同コースで復活するも、2003年のレース後再び消滅。浮き沈みの激しいかの地で三度F1開催のチャンスが与えられたのは、同郷の大富豪、ディートリッヒ・マテシッツのおかげ。いまや世界企業として知られるレッドブルの、創業者のひとりであり、過去4年ダブルタイトルを獲得した強豪チームのオーナーであり、A1リンクからレッドブル・リンクへと改称したこのコースを“救った”男である。
中東やアジアといったF1新興国がもてはやされる昨今、ヨーロッパのオールドコースが復活するのは異例なこと。すべてはマテシッツの財力と政治力の成せる業だ。今年タイトルまっしぐらのメルセデスの首脳であるラウダも、同じくこのドイツの雄を率いるトト・ヴォルフも、レッドブルでアドバイザーを務めるヘルムート・マルコも、あるいはトロロッソの代表であるフランツ・トストも、この国のモータースポーツファンを含めた“オーストリア・ファミリー”が“ディディ”(マテシッツの愛称)には頭が上がらないわけである。
2019年までの開催契約といわれるオーストリアGP。残念ながらオーストリア人の現役F1ドライバーはいないが、前戦カナダGPでレッドブル駆るダニエル・リカルドが初優勝を飾ったことは何よりの土産となったであろう。
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■ウィリアムズ、まさかのフロントロー独占
2週間前のカナダでは、トップ独走のメルセデスの2台がトラブルに見舞われ予想外の展開となったが、今回も予選でまさかの事態が起きた。
Q1、Q2と順当にメルセデスが速さを見せ、ポールポジション争いも当然のことながら今季最速のシルバーアローが火花を散らすだろうと思われていたが、一番速かったのは、何とウィリアムズ・メルセデスのフェリッペ・マッサ。フェラーリ在籍中の2008年ブラジルGP以来となる、自身通算16回目のポールポジションを獲得したのだった。さらに驚きは続き、マッサのチームメイト、バルテリ・ボッタスが2番手に入り、ウィリアムズが2003年ドイツGP以来となるフロントロー独占に成功した。
常勝メルセデスに何が起きたのか? ルイス・ハミルトンはQ3最初のアタック中にコースを規定以上はみ出したことでタイムが認められず、また最後のフライングラップでは突如マシンが挙動を乱しスピン、計時されずにセッション終了。結果9番グリッドと後方からのスタートとなってしまった。
ポイントリーダーのニコ・ロズベルグは、最後の計測中にハミルトンのスピンのとばっちりを受けたことで、タイムアップを果たせず3番手どまりとなったが、最大のライバルであるチームメイトの不運もあり、記者会見での表情には余裕すら感じられた。
フェラーリのフェルナンド・アロンソは今季ベストグリッドタイとなる予選4位、カナダGPウィナーのリカルドは5番手、マクラーレンのケビン・マグヌッセン6番手と続き、トロロッソのダニール・クビアトが自身最高位の7番グリッドを得た。
8番手タイムはフェラーリのキミ・ライコネン。トップ10の最後は、ハミルトンとフォースインディアのニコ・ヒュルケンベルグというノータイムの2人が並んだ。
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■ウィリアムズ勢を追うメルセデスの2台
まるでジェットコースターのような上り下りが連なる全長4.3kmにコーナーが9つ(実質7つ)しかなく、ターンの先が読みづらいという難しいハイスピード・サーキットで、71周の戦いの火ぶたが切られた。
スタートでトップを守ったマッサ。蹴り出しのよいロズベルグが一瞬2位に上がるも、その先でボッタスがすかさず抜き返し、ストレートスピードに勝るウィリアムズは1-2を堅持した。オープニングラップを3位で終えたロズベルグの後ろには、瞬く間にポジションアップを果たした9番グリッドのハミルトン。序盤はウィリアムズ、メルセデスの4台が1秒前後の間隔で周回を重ね、5番手のアロンソ以下を突き放していった。
12周目、3位ロズベルグが最初のピットイン。14周目にハミルトン、翌周にマッサ、16周目にボッタスらトップ集団が続々とタイヤ交換を終えると、アウトラップが速かったロズベルグがウィリアムズ2台をアンダーカットすることに成功。ロズベルグ、ボッタス、ハミルトン、マッサと順位が変動した。
その間、15番手スタートのフォースインディア駆るセルジオ・ペレスがノンストップで走行を続け、ロズベルグの鼻面を抑えたため、メルセデス・ユニット搭載の上位5台が数珠つなぎ状態に。均衡が崩れたのはレース3分の1を過ぎた27周目で、ロズベルグとボッタスが、翌周ハミルトンが、それぞれペレスをオーバーテイクしていった。
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■そして、いつものマッチレース
レース中盤でようやく首位に立ったロズベルグだったが、2位ボッタス、3位ハミルトン、やや離れて走る4位マッサらを振り切れない。そんな中、メルセデスが先手を打った。40周して3位ハミルトンが2度目のタイヤ交換。続いてロズベルグがピットに入ったのだが、ウィリアムズのボッタスは42周目までタイヤを変えなかった。その間フレッシュタイヤで飛ばしたメルセデスが、1-2フォーメーションを形成することに成功した。
その後しばらく、1位ロズベルグ、2位ハミルトンの間は1.5秒前後で落ち着いていたが、いよいよゴールが近くなり、タイヤやブレーキ、燃費の心配がほぼなくなると、覇を競う2人はいつものように互いに激しいマッチレースを繰り広げ、チームもそれを許した。
ファイナルラップ、ロズベルグがタイヤをロックさせるミスをおかしたが、ハミルトンはそれをものにできず、万事休す。ロズベルグは開幕戦オーストラリア、第6戦モナコに次ぐ今季3勝目をあげた。
2位に甘んじたハミルトンだったが、はじまりが9番グリッドだったのだからダメージは最小限に抑えられたというべき。ポイントはさらに7点広がり、1勝分を超え29点差となったものの、シーズンはまだ11レースも残っているのだから焦ることはない。
晴れやかなポディウムで明暗が分かれたメルセデス勢の横には、3位ボッタスの姿。24歳のフィンランド人は、ポールシッターだったベテランのチームメイトを上回り、キャリア2年目にして自身初表彰台にのぼった。牧歌的なオーストリアの景色に、純朴そうな北欧男子の、はにかんだ笑顔が妙にマッチしていた。
7月は、およそ1カ月間の夏休み前の、駆け込み3戦が待ち構えている。次戦イギリスGP決勝は7月6日に行われる。
(文=bg)