第15戦日本GP「嵐に始まり、嵐に終わった週末」【F1 2014 続報】
2014.10.05 自動車ニュース ![]() |
【F1 2014 続報】第15戦日本GP「嵐に始まり、嵐に終わった週末」
2014年10月5日、三重県の鈴鹿サーキットで行われたF1世界選手権第15戦日本GP。レース前に大物ドライバー移籍という“嵐”に揺れたパドックは、レースデイになると今度は台風の影響による“嵐”に見舞われた。大雨の中行われた決勝では、メルセデスのルイス・ハミルトンが3連勝でポイントリードを広げたが、マルシャのジュール・ビアンキが事故で重傷を負うというショッキングなニュースに、鈴鹿は重苦しい空気に包まれた。
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■ベッテルがレッドブル離脱、フェラーリへ
過去幾度にもわたりタイトル決定戦が繰り広げられた鈴鹿サーキット。今年の日本GPは、メルセデスを駆るルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグが3点差で覇を競い合う接戦で迎えたため、戴冠の瞬間こそ訪れることはないが、大きな2つの“嵐”が接近したことで、パドックの関係者やメディアはレース前から色めき立っていた。
まずは文字通りの嵐、台風18号だ。日曜日の予報は雨、特にレース前後に強く降るのではないかとされ、スタート時間の前倒し案などが聞こえてきた。鈴鹿では2004年に台風の到来で予選が土曜日午後からレース目前の日曜日朝に変更されたことがあったが、今回は予定通り、日曜日午後3時のレース開始でスケジュールは進行した。
もうひとつの嵐は、来季に向けたトップチーム&大物ドライバーの移籍の話題だ。土曜日朝、チャンピオンのレッドブルは、ともに4連覇を達成したセバスチャン・ベッテルが今季限りでチームを離れること、その後釜に今季姉妹チームのトロロッソでデビューしたダニール・クビアトがおさまることを正式に発表した。ベッテルは契約を1年切り上げて“他のチーム”へ移籍することになる。
その移籍先は未発表ながら、F1最古参チームのフェラーリであることはほぼ間違いなく、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表もベッテルの口からフェラーリの名前を聞いたと漏らしている。
そして、こちらもまだうわさの域を出ないものの、2016年までスクーデリアに在籍するはずだったフェルナンド・アロンソのフェラーリ離脱発表も間近だと見られている。
セルジオ・マルキオンネ新会長とマルコ・マティアッチ代表の新体制下、組織改革真っただ中のフェラーリにあって、2010年以来チームの精神的支柱として君臨してきたエース、アロンソも例外とは見なされていない。一方で、キャリア後半に差し掛かった33歳のアロンソも、目指す自身3回目のタイトル獲得までに時間的な余裕はなくなってきている。こうしたチームの再建計画とドライバーの思いが相いれなくなったのではないかといわれている。
2005、2006年にルノーで2連覇したアロンソ。来季は、2007年に1年だけ在籍した(苦い経験をした)マクラーレンへの移籍が濃厚とされている。2015年、かつて黄金期を築いたホンダとのパートナーシップが復活するマクラーレンは大物ドライバーを探しており、アロンソに加えベッテルの名前も候補として挙がっていたのだ。
ドライバーズ・マーケットが玉突きのように動き出したということは、シーズンも終盤を迎えたことを示唆している。
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■ロズベルグ、今季8回目のポールポジション
土曜日のセッションはドライで行われたものの、翌日の雨を見越してセットアップをどう詰めるか、各陣営が頭を悩ませていた。
大方の予想通り、予選ではメルセデスがグリッド最前列を占めた。ポールポジションは、前戦シンガポールGPのリタイアでポイントリーダーの座から滑り落ちたロズベルグ。Q3の最初のアタックで最速タイムを刻み、2回目のフライングラップでも更新、今季8回目の予選P1を獲得した。
チャンピオンシップ首位のハミルトンは0.197秒差で2番グリッド。ヘアピンでタイヤをロックさせたことが痛手となった。
2列目はウィリアムズの2台が並び、バルテリ・ボッタスはポールタイムの0.622秒落ちで3位、フェリッペ・マッサは1秒以上離され4位。パワフルなメルセデス・ユニット搭載車が、トップ4を固めた。
フェラーリのアロンソは“定位置”の5番グリッド。レッドブルは雨を意識したセットアップが足を引っ張り、一時はQ3進出も危ぶまれるほど苦しんだ。最終的にダニエル・リカルド6位、ベッテルは9位からレースに臨むこととなった。マクラーレンのケビン・マグヌッセンとジェンソン・バトンが7、8位、トップ10最後尾はフェラーリのキミ・ライコネンだった。
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■大雨によりセーフティーカー先導でスタート
夜から降り出した雨は日曜日の朝を迎えてもやまず、レース直前になると予報通り雨脚は強まり、セーフティーカー先導でのスタートとなった。隊列を守っての徐行中ですらアクアプレーン現象が起き、予定された53周のわずか2周を終えたところで赤旗が振られ、レースは中断した。
やがて雨が弱まり、午後3時25分に再びセーフティーカーを先頭にしてレースは再開した。その直後、フェラーリがトラブルによりコース上にストップ、アロンソは今年2回目のリタイアを喫した。
9周を終えセーフティーカーがピットへ戻り、本格的な戦いが始まった。路面状況は好転しており、すかさずバトンらがフルウエットタイヤから浅溝インターミディエイトへ交換。バトンのマクラーレンが好タイムを刻んできたのを見て、ボッタス、リカルドらがインターに履き替え、さらに翌周にはメルセデス勢を除く大多数が、そして13周を終えると首位ロズベルグ、次の周で2位ハミルトンもこの動きに倣った。
タイヤ交換が一巡してのトップ10は、1位ロズベルグ、2位ハミルトン、3位にバトンが上がり、4位ボッタス、5位マッサ、6位ベッテル、7位リカルド、8位ヒュルケンベルグ、9位ライコネン、10位クビアト。
この中でウエットセッティングに賭けたレッドブルが水を得た魚のような走りを披露し、16周目にはベッテルがマッサを抜き5位、翌周リカルドもS字でオーバーテイクし6位へ。続いて19周目、ヘアピンでベッテルがボッタスをかわし4位、リカルドもまたS字で追い越し5位へとポジションを上げた。
トップのロズベルグ、2位ハミルトンは1秒強のギャップ、3位バトンは18秒後方、4位ベッテルはその14秒後方という位置関係。そしてレース中盤を迎えてから、優勝争いは激しさを増していった。
悪天候により当初使用が認められていなかったDRSが使えるようになったのは25周目。この段階でトップ2の差は1秒を切っており、翌周にはオーバーステアを訴える1位ロズベルグの背後にハミルトンがピタリとつけた。
そして29周目の1コーナー、アウト側からハミルトンがかぶせ、ロズベルグから首位の座を奪うことに成功。両車のギャップは2秒、3.9秒、4.8秒、5.6秒と瞬く間に拡大し、今日の主役がハミルトンであることが明々白々となった。
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■ビアンキの事故で2度目の赤旗、そのままレース終了
先頭集団のメルセデス勢の後方では、バトンとベッテルが表彰台の最後の一角をかけて激しく争っていた。29周を終え4位ベッテルが2度目のタイヤ交換を実施。31周目には3位バトンがピットに飛び込んだのだが、マクラーレンが作業に手間取り、ベッテルに先行を許してしまった。
4位に落ちたバトンは、今度は後ろのリカルドと丁々発止と渡り合ったのだが、42周目にもう一台のレッドブルにも抜かれてしまった。
この時点で雨が強まり、バトンをはじめフルウエットタイヤを選択するドライバーも出始めた。さらに日没が近づいたこともあり、あたりは徐々に暗くなっていた。
そんな状況が悪化していた中で、事故は起きてしまった。
43周目、エイドリアン・スーティルのザウバーがS字後の「ダンロップ・カーブ」でコースオフ、バリアーに突っ込んだ。スーティルの証言によると、彼の車両を片付けている作業車に、マルシャのジュール・ビアンキが当たったのだという。
FIA(国際自動車連盟)がレース後に発表したところでは、ビアンキは意識不明の状態でメディカル・センターに運ばれ、救急車により病院へ搬送。CT検査の結果、頭部に大きな損傷が認められ、緊急手術が行われているという。
レースは44周目にセーフティーカー出動。激しくなった雨を前に多くがピットへとなだれ込みタイヤを交換した。徐行中の46周を終える前に、この日2度目の赤旗が振られ、隊列を組んだ一群はピットに戻ってきた。その後再開することなく、中断する1周前の、44周時点の順位でレースが成立した。
これでハミルトンは、3連勝で今季8勝目、自身通算30勝目を飾り、2位に終わったロズベルグとのポイント差は3点から10点へと広がった。最後のセーフティーカーラン中にタイヤを替えたことで4位に落ちていたベッテルだったが、44周時点で3位だったため、ポディウムにのぼることができた。
しかし、表彰台に立つ彼らに笑顔はなかった。鈴鹿にいた誰もが、仲間の回復を祈っていた。
次戦はF1初開催となるロシアGP。新設されたソチ・オリンピックパーク・サーキットで、1週間後の10月12日に決勝を迎える。
(文=bg)