第7戦カナダGP「ハミルトン、会心の1勝」【F1 2015 続報】
2015.06.08 自動車ニュース ![]() |
【F1 2015 続報】第7戦カナダGP「ハミルトン、会心の1勝」
2015年6月7日、カナダ・モントリオールのジル・ビルヌーブ・サーキットで行われたF1世界選手権第7戦カナダGP。前戦モナコGPでは、優勝目前でチームのミスにより勝利を逃したメルセデスのルイス・ハミルトンが、得意のカナダでポール・トゥ・ウィンを達成。悪い記憶を払拭(ふっしょく)する、会心の1勝を記録した。
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■マクラーレンとホンダの正念場
今年23年ぶりにタッグを組んだマクラーレンとホンダは、前戦モナコGPでジェンソン・バトンが8位でゴールし、今季初ポイントを獲得した。
1.6リッターターボ+ハイブリッドでのレースに1年遅れで参戦したホンダにとっては特に厳しいシーズン前半となった。冬のテストでさまざまなトラブルに見舞われマイレージを稼ぐことができず、ぶっつけ本番状態でここまで戦ってきた。
過去6戦のバトンとフェルナンド・アロンソの戦績を振り返ると以下のようになる。
第1戦オーストラリア
バトン(予戦17位・決勝11位)/ケビン・マグヌッセン*1(予戦18位・決勝 出走できず)
第2戦マレーシア
バトン(予戦17位・決勝リタイア)/アロンソ(予戦18位・決勝リタイア)
第3戦中国
バトン(予戦17位・決勝14位)/アロンソ(予戦18位・決勝12位)
第4戦バーレーン
バトン(予戦・決勝 いずれも出走できず)/アロンソ(予戦14位・決勝11位)
第5戦スペイン
バトン(予戦14位・決勝16位)/アロンソ(予戦13位・決勝リタイア)
第6戦モナコ
バトン(予戦12位・決勝8位)/アロンソ(予戦15位・決勝リタイア)*2
*1:アロンソはウインターテスト中のクラッシュにより欠場。
*2:他車ペナルティーにより予選グリッドはバトン10位、アロンソ13位。
3戦目に2台そろって初完走、4戦目の予選で初Q1突破、5戦目には2台ともQ2進出。そしてモナコではバトン、アロンソともQ3目前まで迫り、レースではバトン初入賞、アロンソもマシンが止まるまでは9位を走行し十分ポイント圏内(の後ろの方)でゴールできたはずだった。
目下マシンの、というよりパワーユニットの弱点は、パワー不足からくるストレートスピードの遅さとされる。スローでツイスティーな市街地コースであるモンテカルロでは、そのウイークポイントが出にくかったのが入賞につながった。
だが続くカナダ、オーストリア、イギリスは、いずれも長い直線を持つ、パワーが重要なサーキットばかり。ホンダはカナダGPを前に、有効な9つの「トークン」(エンジン開発の回数券のようなもの)のうち2つを使い、改良を実施して戦いに備えたのだが、モントリオールではその効果を求める以前に、もうひとつの切実な課題である、信頼性の低さにも対応を迫られた。
1988年から5年間でドライバーズ&コンストラクターズタイトルを各4回獲得したかつての黄金期と比べれば、現状はさびしい限りのマクラーレン・ホンダ。しかし、一進一退を繰り返しながらも、徐々にだがパフォーマンスを上げてきている。これから続くパワーサーキットでの3連戦は踏ん張りどころ。元チャンピオンチームは正念場を迎えている。
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■ハミルトン「44」回目のポールポジション
メルセデスのチームミスで前戦モナコでの勝利を逃したルイス・ハミルトンだったが、ショックに打ちひしがれている暇はなかった。スペイン、モナコと自身初の連勝を記録した最大のライバル、ニコ・ロズベルグはわずか10点後方に迫っていたのだ。
ハミルトンにとって、GP初優勝を含む3勝をマークしている、ゲンのいいサーキットであるモントリオールは、反撃するには絶好の場所。フリー走行では雨でクラッシュ、さらに他車が原因の赤旗で邪魔をされ十分に走り切れなかったが、予選になるとチャンピオンはしっかりと好タイムをたたき出してきた。
予選Q3、1発目のアタックでハミルトンが最速。これをロズベルグが追ったのだが、タイヤを中心としたセッティングで帳尻が合わず、0.309秒差の2位に終わった。ハミルトンにとっては7レース目で6回目、通算では彼がカーナンバーに選んだ数字と同じ44回目のポールポジションとなった。
ホンダ同様にエンジンその他を改良してきたフェラーリは、Q1中にセバスチャン・ベッテルのパワーユニットにトラブルが発生、元チャンピオンはまさかの16番手、フリー走行中のペナルティーなどが加わり18番グリッドからスタートすることとなった。
僚友のキミ・ライコネンは、ベッテルの不運に助けられることになったものの、勢いのいいメルセデス・パワーユニット勢を抑え3番グリッドを手に入れた。
ウィリアムズのバルテリ・ボッタスが予選4位、チームメイトのフェリッペ・マッサはマシンに問題がありQ1止まりだった。メルセデスの強心臓を武器にロータス勢がQ3に進出し、ロメ・グロジャン5位、パストール・マルドナド6位。フォースインディアのニコ・ヒュルケンベルグは今季最上位グリッドの7位、ダニール・クビアト8位、昨年のカナダGPウィナー、ダニエル・リカルド9位とレッドブルの2台が並び、セルジオ・ペレスのフォースインディアが10番グリッドに収まった。
マクラーレンは、14番手タイムのアロンソが、他車のペナルティーで13番グリッドからのスタート。バトンに至ってはパワーユニットのエネルギー回生機構「ERS」に問題があり今年2度目の「予選出走ならず」。この週末、両マシンともエンジンを替え、2人は年間で使用が許される、4基のエンジンのうち最後のユニットを7戦目から使うことに。さらにバトンは熱エネルギーを回生する「MGU-H」の投入数が規定数を超えたためレースでドライブスルーペナルティーを受けることになった。
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■ハミルトン、モナコでの記憶を払拭する会心の1勝
例年スタートで混乱するカナダGPだが、今年は大きなトラブルなく70周レースが幕を開けた。上位陣では、ヒュルケンベルグが1つ順位を上げ6位になった以外はグリッドと同じポジションが維持された。
1位ハミルトンは2位ロズベルグに対し10周で2.8秒のマージンを築き、3位ライコネン、4位ボッタスまでがほぼ等間隔で周回。しかしラップを重ねるごとにトップ2台とその後ろの差は開き、やはりこの日の優勝争いはシルバーのマシンに絞られていった。
29周を終え首位ハミルトンがスーパーソフトからソフトタイヤに交換、翌周ロズベルグもそれに倣ったが順位は変わらず。1ストップで走り切れることを考えると、ロズベルグはコース上でハミルトンを抜かなければならなかった。
トップ2台の差は1秒台前半から後半でつかず離れずの展開。2人ともマシンの様子に細心の注意を払いながらの走行に終始した。それもそのはず、ストップ/ゴーのカナダは特にブレーキと燃費に厳しいコースとして知られており、プレッシャーをかけ続けるロズベルグにはブレーキをいたわるようにとピットから指示が飛び、またハミルトンにも燃費に気をつける旨が伝えられていたのだ。
やがてゴールが近づくと、ハミルトンは本領発揮とばかりにペースを上げ、最終的には2.2秒と必要十分なリードタイムで真っ先にチェッカードフラッグを受けた。カーナンバー44のハミルトンが44回目のポールから今季4勝目、カナダで通算4勝目と、何かと「4」が並んだこの勝利で、ロズベルグとの間のポイント差は10点から17点に拡大。後味が悪かったモナコでの記憶を払拭(ふっしょく)する会心の1勝となった。
逆に連勝を2で止められたロズベルグは、いつもの“負けパターン”に持ち込まれてしまい、今年3回目の2位に。なおメルセデスは7戦全戦で2台そろって表彰台をものにしていることになる。
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■観客をわかせたトップランカーの追い上げ
優勝争いがいつもの(単調な)展開であったのに対し、予想外に後方からスタートしたトップランカーの追い上げはヒートアップした。
まずは18番グリッドから5位に終わったベッテルだ。1ストップが大勢を占めた今回、フェラーリは2ストップ作戦をとり、フレッシュなタイヤで挽回を図った。途中、アロンソとの元王者同士の丁々発止は迫力満点で見るものを魅了、結果的にベッテルはダメージを最小限にとどめることには成功した。
その陰で惜しくも表彰台を逃したのがライコネン。3位走行中の27周目に先頭集団では先陣を切ってピットに飛び込んだものの、アウトラップのヘアピンでスピン。トルクマップの不調が疑われているが、このタイムロスで同じフィンランド人ボッタスに久々のポディウムをプレゼントしてしまった。
フェラーリはフリー走行中、メルセデスに0.3秒差と好タイムを記録していた。もしベッテルが上位グリッドからスタートしていたら、あるいはライコネンがスピンしていなければ、戦いはもっとおもしろいものになったかもしれない。
マシン不調で15番グリッドに沈んだマッサのウィリアムズは最終的に6位。次々と前車をオーバーテイクし、特に10周目にはマーカス・エリクソンのザウバーを接触ギリギリのつばぜり合いで抜いて観客をわかせた。
一方、マクラーレン勢は失意のうちにカナダをあとにした。レース中は燃費セーブの走行に徹しなければならず、アロンソ、バトンともレース中に問題発生で今年2度目のダブルリタイア。3戦連続で完走できなかったアロンソに至っては、デビューイヤーの2001年以来となるワースト記録をつくってしまった。マクラーレン・ホンダの隘路(あいろ)はまだ続きそうである。
次戦オーストリアGPの決勝は6月21日に行われる。
(文=bg)