第18戦アブダビGP「ベッテルなき後の攻防」【F1 2011 続報】
2011.11.14 自動車ニュース【F1 2011 続報】第18戦アブダビGP「ベッテルなき後の攻防」
2011年11月13日、アブダビのヤス・マリーナ・サーキットで行われたF1世界選手権第18戦アブダビGP。タイトル争いは既に決着し、初開催のインドGPほど話題性もなかった3度目の“トワイライト・レース”は、過去2年のウィナー、セバスチャン・ベッテルのポールポジション記録タイにはじまり、いきなりのリタイアを経て、ルイス・ハミルトンの復活劇で幕を閉じた。
■ベッテル、シーズン最多ポールポジション記録に並ぶ
セバスチャン・ベッテルが、ついに年間最多ポールポジション記録に並んだ。1シーズン14回、ナイジェル・マンセルが打ち立て19年間破られていないレコードだ。
1992年シーズンを席巻したマンセルは、この年開幕から5連勝、その後も3連勝するなどし、ライバルであるマクラーレン・ホンダのアイルトン・セナや、デビュー2年目のミハエル・シューマッハーらを圧倒。8月の第11戦ハンガリーGPで早々にタイトルを決めた。1980年のデビューから、何度かつかみかけては遠のいた栄冠が、39歳の“苦労人ドライバー”の手にようやく渡ったのだった。
彼の活躍を支えたのが、ウィリアムズ・ルノー「FW14B」。前年信頼性の欠如で足を引っ張られたマシンの改良型は、空力を高効率化するための「アクティブ・サスペンション」や「トラクション・コントロール・システム(TCS)」など、当時の最新技術がつまったハイテクの固まりと称された。全16戦でマンセル9勝(すべてポール・トゥ・ウィンという快挙)、チームメイトのリカルド・パトレーゼ1勝、ポールポジションは15回獲得というすさまじいリザルトを刻み、1980年代から続いた「ホンダの時代」との決別を決定付けた。
時代は変わり、アクティブ・サスもTCSも許されなくなり、エンジンは開発を凍結された今日、文字通りフォーミュラ(形式)化したレギュレーションのなかからも傑作が生まれることは、尽きることのないF1開発競争の一端をあらわしている。
19年前のウィリアムズ・ルノーがハイテクと空力を武器にしたのに対し、今年のレッドブル「RB7」は、いまでは数少ないフロンティアとなった、エアロダイナミクスを極限にまで洗練させたマシンといえる。2009年シーズンを戦った「RB5」からの流れをくみ、驚くほど絞られたリアセクション、そこに収まる低重心化に効果的とされるプルロッド・サスペンションを搭載。さらに昨年来疑惑をもたれながら違法性を決定付けられない、走行中微妙にしなるフロントウイングなど、微に入り細をうがった設計が、2年連続ダブルチャンピオンを生み出した原動力となった。
マンセルが“アラフォー”寸前で初にして唯一の戴冠を成し遂げたのに対し、ベッテルは史上最年少王者。ポールポジションの数は、マンセルが通算32回だったのに対し、ベッテルは既に29回、歴代6位タイまできている。
ひとつの記録は、かように対照的なドライバーによって現時点で共有されている。そしてマンセル、ベッテルを頂上まで押し上げた2台のマシンとも、ひとりのデザイナー、エイドリアン・ニューウェイが手がけたということは、記録の陰に隠れた興味深い共通項である。
■突然のリタイア
レースは、スタート直後に様相が一変した。ポールシッターのベッテルが順当にトップのまま最初のターンに飛び込んでいったかと思うと、2つ目の左ターン、エイペックスを越えた時点でレッドブルは右リアタイヤが瞬間的にパンクし、コースオフした。
ベッテルは1輪なしの状態でコースの大半を走りきり、何とかピットまでたどり着いたが、マシンにダメージがおよんでおり、昨年の韓国GP以来となるリタイアを喫した。
いきなり目の前がクリアになったのはルイス・ハミルトンだ。予選2番手からオープニングラップで転がり込んだ首位の座。それを脅かそうと、予選5位のフェルナンド・アロンソが、マーク・ウェバー、ジェンソン・バトンを抜きマクラーレンを追った。
4周で1位ハミルトンと2位アロンソの差は2.7秒。かつてのチームメイト同士は、レース序盤に付かず離れずの状態で周回を重ね、ハミルトンの独走とまではならない。アロンソは「予選のように走った」とレース後語っている通り、劣勢否めないフェラーリ「F150°Italia」を駆り、2回目にして最後のピットストップを遅らせて逆転を狙ったが、この日のハミルトンは一枚上手だった。2台は8.4秒差で55周のレースを終えた。
■レッドブル、全戦表彰台途絶える
ハミルトン、アロンソの後方では、ウェバーとバトンの3位争いが繰り広げられていた。レース序盤、前を走るバトンに対し、ウェバーがDRSを使い抜きにかかるが、すかさずバトンが抜き返すというシーンがみられたが、最初のピットストップで、ウェバーの運のなさが再び露呈し、この戦いは終息してしまう。
18周目、ピットへ飛び込んだウェバーは、右リアタイヤの交換で手間取り、9.4秒も時間を費やすことに。これが決定的となり、レッドブルは今季全戦表彰台をもふいにしてしまった。
バトンとて、トラブルフリーだったわけではない。マクラーレンのKERSが不調をきたし、ペースが上げられない症状に見舞われていたのだ。30周を過ぎたあたりで、KERSシステムを再起動させたバトンは速さを取り戻し、3位の座を盤石なものとすることができた。
■アロンソ、チャンピオンシップ2位に向けて
過去7戦、どうしてもバトンの前でフィニッシュすることができなかったアロンソが、ついにバトンを従えてゴールした。このことは、チャンピオンシップ2位を狙う両者にとって、大きな意味を持つ。
最終戦を前に、ランキング2位のバトンは255点、3位アロンソは245点。1レースで10点差を埋めるのは至難の業だ。しかし今年1勝しかしていないフェラーリにとって、来る2012年シーズンへ士気を高める上で「2位」のポジションはとても重要だ。苦しい1年を戦い抜いている、チームの精神的支柱を担うアロンソが、そのことを一番よく知っているはずである。
次戦はいよいよ最終戦ブラジルGP。11月27日に決勝が行われる。
(文=bg)
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