第16戦韓国GP「結果を残したかった男」【F1 2011 続報】
2011.10.17 自動車ニュース【F1 2011 続報】第16戦韓国GP「結果を残したかった男」
2011年10月16日、韓国の韓国インターナショナル・サーキット(5.621km)で行われたF1世界選手権第16戦韓国GP。前戦日本GPではマクラーレンに敗れ3位に終わったセバスチャン・ベッテル。2年連続タイトル獲得を勝利で祝いたかった彼の思いが結果にあらわれたレースとなった。
そしてもう1人、結果をどうしても残したかった男にとっても、ひとつの区切りをつける一戦となった。
■逆境の元チャンピオン
昨年セバスチャン・ベッテルが最年少チャンピオンとなる前まで、そのレコードホルダーはルイス・ハミルトンだった。
デビューから2年目の2008年最終戦、劇的なスタイルでタイトルを決めた当時23歳のハミルトンは、それから3年がたった今年、逆境に立たされていた。シーズン序盤こそベッテルに次ぐチャンピオンシップ2位につけていたが、その後徐々にポジションを下げ、今ではトップランナーとしては最下位の5位。特に7月のドイツGPで今季2勝目をマークしてからは表彰台から遠ざかっていたばかりか、フェリッペ・マッサとは度々コース上で接触するなどし、ドライビングの荒さ、注意力散漫などが批判の対象となった。
またパフォーマンス、結果が下降線をたどるいっぽうで、チームメイトのジェンソン・バトンは終盤5戦連続表彰台、うち2戦で勝利するなど調子をあげてきており、マクラーレンのガレージは左右で鮮明なコントラストを放っていた。
ハミルトンへの厳しい目は、コース外の彼のコメントにも向けられた。5月のモナコGPでは、自らが絡んだ接触でスチュワードから受けたペナルティーに「自分が黒人だから(ペナルティーが科された)」と問題発言。他のドライバーに対する辛らつな言葉や、チームが彼自身の実力に見合ったマシンを用意できないといった内部批判まで飛び出した。
マネージャーであった父アンソニーから離れ、サッカー選手のデビッド・ベッカムらを擁するタレントマネジメント会社と契約した26歳のハミルトンは、自分とハリウッドスターをイメージで重ね、スポーツマンとしての矜持(きょうじ)を忘れてしまったのではないか。パドックから聞こえるそんな声もあった。
日本GPでマッサと絡み5位でチェッカードフラッグを受けたハミルトン。レース後、マクラーレンは彼をサポートし続けることを明言し、元チャンピオンの軌道修正を試みた。
一度世界の頂点に立った男には、ちゃんとプライドが残っていた。予選ではレッドブルの連続ポールポジションを断ち、自身にとって27レースぶりの最上位グリッドを獲得。決勝ではあっという間に2位に落ちてしまうが、それでもレース終盤、思うようなハンドリングが得られないなか、マーク・ウェバーと抜きつ抜かれつ、フェアな争いを繰り広げ、僅か0.4秒差で見事2位の座を守り切った。
アグレッシブな走り、鮮やかなオーバーテイクは、ハミルトンの、というより、F1の魅力のひとつに数えていい。結果を残したかった男は、この力走をひとつの区切りとし、残り3戦、そして来期につなげたい。
■レッドブル、再び実力を発揮
今年で2回目の開催となる韓国GP。昨年は激しい雨に見舞われレース中断という事態となったが、今年も金曜日が雨となり、ドライでのセットアップ時間が実質土曜日の1回のフリー走行のみとなってしまった。持ち込まれたピレリタイヤの「ソフト」(ハード側)と「スーパーソフト」(ソフト側)をどう使えばいいか、各チームは頭を悩ませたが、結果からすればいずれも持ちはよく、大勢が2ストップで走り切れるほど安定していた。
スタートでは、ポールシッターのハミルトン以下、予選2位のベッテル、同じく3位バトン、4位マーク・ウェバー、5位マッサ、6位フェルナンド・アロンソと上位陣はほぼグリッド順のままターン1をくぐり抜けたが、GP最長1.2kmのストレートでスリップストリームについたベッテルのレッドブルは、その先のターン4でマクラーレンを抜いてトップに立つ。
この時点で一番のルーザーはバトンだった。ストレート後のヘアピン立ち上がりでマシンのつけた場所が悪く、マッサ、ウェバー、アロンソらに続々と抜かれ6位にまで下がった。
小雨がぱらつくコース上で、ベッテルは今年何度もみられた、後続車がDRSを作動できる「1秒内」から早々に抜け出す。ハミルトンとのギャップは、3周で1.2秒だったが、10周もすると2.9秒にまで拡大。予選までマクラーレンの後塵(こうじん)を拝してきたレッドブルは、再びその実力をジワジワと発揮しはじめた。
いっぽうのハミルトン駆るマクラーレンには、原因不明のフロントダウンフォース減という問題が発生しており、思うようにベッテルを追えないでいた。
上位陣が最初のタイヤ交換を済ませた17周目、セーフティーカーが導入。ビタリー・ペトロフのルノーが、ミハエル・シューマッハーのメルセデスに追突。その破片をクリアにするためだった。
■ハミルトン対ウェバー、白熱の2位争い
セーフティーカー走行時点でのトップ10は、1位ベッテル、2位ハミルトン、3位ウェバー、4位バトン、5位ニコ・ロズベルグ、6位マッサ、7位アロンソ、8位ハイミ・アルグエルスアリ、9位ポール・ディ・レスタ、10位エイドリアン・スーティル。
21周目にレースが再開すると、セーフティーカーでなくした約4秒のリードタイムを取り戻そうとベッテルがファステストラップ連発で逃げる。ハミルトンも負けじと食らいついたが、32周目には3.2秒先行され、以降は1秒内後方のウェバーとの接戦に身を投じることになる。
34周目、2位ハミルトンと3位ウェバーは2度目にして最後のピットストップを同時に行う。同じ位置関係でコースに戻ると、このレース一番の見せ場が訪れた。
長いストレートでマクラーレンの背後に迫ったウェバーのレッドブルが、一瞬2位に上がったかと思うと、2台は並走しながらターンをくぐり抜け、今後はハミルトンが抜き返した。お互いに1台分の隙間を残しながらのつばぜり合い、トップドライバーの妙技とはこのことだ。
この白熱の2位争いは、「DRS+KERSでオーバーテイクを試みるウェバー」に対し、「KERSフルパワーで対抗するハミルトン」というテクニックの応酬でもあった。その後ウェバーが一瞬前に出ることはあったが、ハミルトンがすかさずポジションを奪還し、最後まで息の抜けない戦いが繰り広げられた。
背後での丁々発止のおかげで、ベッテルは悠々とトップを走ることができた。55周してチェッカードフラッグが振られると、ベッテルは12秒先行。いっぽうハミルトンとウェバーの間には、0.4秒の差しかなかった。
■次はアジアの大国、インドでの初GP
韓国での1-3フィニッシュで、レッドブルは日本GPで決めたベッテルのドライバーズタイトルに加え、コンストラクターズチャンピオンシップも手中に収めることができた。
2年連続の2冠達成の後に残るのは、ドライバーズチャンピオンシップ1-2フィニッシュだ。今季まだ勝ち星のないウェバーは、現在ランキング2位バトンから13点差の4位。2012年も残留することが決まっているオージーにとって、来年に向けて弾みをつける意味での残り3戦となる。
次戦は、世界第2位の人口を誇るアジアの大国、インドでの初GP。決勝日は10月30日だ。
(文=bg)
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