第15戦日本GP「最年少ダブルチャンピオンの誕生」【F1 2011 続報】
2011.10.09 自動車ニュース【F1 2011 続報】第15戦日本GP「最年少ダブルチャンピオンの誕生」
2011年10月9日、三重県の鈴鹿サーキットで行われたF1世界選手権第15戦日本GP。いつもの「勝ちパターン」には持ち込めず、3位でレースを終えたセバスチャン・ベッテルだったが、4戦を残し最年少ダブルチャンピオンの座に輝き、鈴鹿では8年ぶりのタイトル決定となった。
■124点と0.009秒の差
タイトルに王手をかけたベッテルに必要なのは、10位完走でも得られるわずか1点。日本GP前の14戦すべてで得点し、しかも1戦を除きすべてで表彰台にのぼり、うち9回はその頂点にのぼっているという事実からしたら、あまりに簡単な条件といっても過言ではなかった。
しかも舞台は、過去2年ぶっちぎりでポール・トゥ・ウィンを達成しているベッテル大得意の鈴鹿サーキットである。ピレリタイヤや可変リアウイング「DRS」が導入された今年も、エアロマシンであるレッドブルが優位に戦えるだろう、という下馬評だったが、その予想にレース前から疑問符が付いた。
今月に入り、マクラーレンとの契約延長にサインしたジェンソン・バトン。いまやチームの秘蔵っ子とみられていたルイス・ハミルトンを出し抜き、その中心的役割を担いつつある2009年チャンピオンが、金曜、土曜の3回のフリー走行すべてでトップタイムをマークした。
そして土曜の予選Q3では、渾身(こんしん)のアタックでベッテルが今年12回目、鈴鹿で3年連続となるポールポジションを獲得するものの、0.009秒という僅差でバトンが2位につけたのだ。
数字上ベッテルからタイトルを奪える可能性のある唯一のドライバー、バトンは、ほぼ5勝分のポイントとなる124点ものギャップを背負っていた。それほど突き抜けたポジションにいるベッテルだったが、ここにきてレッドブルの破竹の勢いは、ライバルの追い上げを前に衰えをみせてきていた。
現に今回のレースでも、バトンのマクラーレンのみならず、フェルナンド・アロンソのフェラーリにもレッドブルは先を越された。バトン、アロンソ、ベッテルのトップ3台は、レース終盤に数珠(じゅず)つなぎとなり、チェッカードフラッグを受けた時には3台の間には3秒のギャップしかなかった。
レギュレーションが大きく変わった2009年にリーディングマシン・チームとして台頭し、これまで3年間で24勝を記録してきたレッドブルは、今シーズンが深まるにつれて、その圧倒的なマシンパフォーマンスを使い果たしつつあるという見方がある。
それでも、4戦を残し再び王者の座につくことができたのは、ベッテルというドライバーの力量によるところが非常に大きい。
このレースを4位で終え、ベッテルから130点も離されている、同じマシンを操るもう1人のドライバーをみれば、よくわかるだろう。
■小林可夢偉、自身最高グリッドを生かせず
秋晴れの決勝日、ベッテルの「1点」が、危うく0点になりそうなシーンがスタートで見られた。シグナルが消えると、出だしが鈍いポールシッターのベッテルに予選2位のバトンが追いついた。レッドブルの後ろ半分にマクラーレンの前半分が重なりそうになりながら、ベッテルはバトンの進路を急激に狭めた。行く手を失いかけたバトンは一瞬ダートにタイヤを落とし、減速を余儀なくされた。
ベッテルはトップで1コーナーへ。予選3位のハミルトンが2位で続き、バトンは3位に落ちた。「ベッテルはペナルティーの対象ではないか?」、すかさず無線でチームに訴えるバトン。実際、このインシデントは審議されたが、何のおとがめもなく終わった。
オープニングラップのトップ10は、ベッテル1位、ハミルトン2位、バトン3位、フェリッペ・マッサ4位、アロンソ5位、マーク・ウェバー6位、ミハエル・シューマッハー7位、ポール・ディ・レスタ8位、エイドリアン・スーティル9位、そしてビタリー・ペトロフ10位。自身最高の7番グリッドを得た小林可夢偉の名前は、既にそこにはなかった。
小林のザウバーはアンチストールが起動し、5台ものマシンにかわされるという最悪のスタートを切ってしまったのだ。小林は、昨年みせた鮮烈なオーバーテイクショーを再現できず、苦しみながら13位でレースを終えた。
■バトンの腕の見せどころ
8周目のスプーンカーブ、バトンはスローパンクチャーに見舞われペースが著しく落ちたハミルトンを抜き、2位にあがる。この時点でベッテルのリードタイムは5.2秒まで開いていたが、ここからが2009年チャンプの腕の見せ所となった。
ソフトタイヤを履いてスタートした各車は、その持ちの悪さから53周レースの10周前後で早くもピットに駆け込むことになった。10周目にトップのベッテル、翌周にはバトン、アロンソ、ウェバーらがピットイン。再びソフトを装着してコースに戻る。
この時点での上位の顔ぶれは、1位ベッテル、2位バトン、3位アロンソ、4位ハミルトン、5位マッサ、6位ウェバー。ベッテルは12周目に2.5秒のリードタイムを有していたが、バトンがプレッシャーをかけはじめ、そのギャップは18周もすると1.6秒まで縮まっていた。
タイヤ状態が悪化したベッテルのレッドブルは、たまらず20周目に2度目のタイヤ交換に踏み切る。いっぽうのバトンも翌21周目にはピットに入るが、タイヤのコンディションを維持していたおかげでインラップも絶好調、ベッテルの前でコースに復帰することができた。
24周目、コース上のデブリー(マシンの破片)をクリアするためセーフティーカー導入。28周目に再開すると、バトンはファステストラップを連発し、ベッテルとの差は1.2秒から32周もすると2.8秒に拡大していた。
3度目にして最後のピットストップも、やはりベッテルが最初。34周目に入ると、レッドブルはトラフィックのなかに入り込んでしまい、バトンに加勢するかたちとなった。
さらに37周目にタイヤを変えたアロンソにも2位の座を奪われてしまったが、ベッテルはチームから「リスクをとるな」との指示を受けるまで、前方のフェラーリに迫り、何度か追い抜きを仕掛けた。またアロンソも、ファイナルラップまで諦めずバトンを追い回した。
トップ3人のチャンピオン経験者は、お互いをごく間近にみながら、53周のレースを終えた。23回目の鈴鹿でのF1は幕を閉じ、2011年のワールドチャンピオンが決まった。
■新たに加わった「最年少記録」
きっと勝利してチャンピオンになりたかったであろうベッテルだが、記者会見での顔は、悔しさと、しかしそれを上回る、やり遂げた充足感がないまぜになった表情をしていた。
「いいたいことがたくさんあり過ぎてすべてを思い出せないけど、チームのみんなには本当に感謝している。コースや(ファクトリーのあるイギリスの)ミルトン・キーンズにいるたくさんの仲間が、昼夜問わず、週末はもちろん月曜から金曜まで毎日ハードワークし、ポイントのため、チャンピオンシップのために戦ってきた。われわれが目標に掲げたゴール(チャンピオンになる)に(4戦を残して)到達できたことは素晴らしいことなんだ」
「最年少」のつく数々の記録を樹立してきたベッテルは、最年少入賞、同ラップリーダー、同ポールポジション、同ポディウム、同優勝、同ポール・トゥ・ウィン、同ワールドチャンピオンと続くレコードに、最年少で2連覇達成という偉業を付け加えた。
来シーズン、これに「最年少3連覇」という記録が仲間入りすることも、夢物語ではないかもしれない。今年のベッテルは、昨年とは違いそれほどドライバーとして「完成」されていた。
次戦は、今年で2回目となる韓国GP。決勝レースは10月16日に行われる。
(文=bg)
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