第13戦イタリアGP「2年連続タイトル奪取へ王手」【F1 2011 続報】
2011.09.12 自動車ニュース【F1 2011 続報】第13戦イタリアGP「2年連続タイトル奪取へ王手」
2011年9月11日、イタリアのモンツァ・サーキットで行われたF1世界選手権第13戦イタリアGP。レッドブルの“鬼門”といわれたモンツァで、セバスチャン・ベッテルは、2年連続タイトル奪取へ王手をかける勝利を手にした。
■遅くて速い猛牛の戦い
モンツァのコースレイアウトは、どこか競馬場に似ている。直線的な4つのセクションに申し訳程度のシケインやコーナーが設けられた、世界屈指の高速サーキットには、現に1922年のサーキット創設時から1960年代まで使われていたバンク付きの楕円(だえん)コースも残っている。最終コーナーのパラボリカ(放物線の意)からメインストレートを立ち上がるF1マシンは、駿馬(しゅんば)たちがゴールめがけて力走するイメージとダブる。
このコースを苦手としてきたのが、馬ならぬ赤い猛牛、レッドブルだった。実に1周の75%をフルスロットルで駆け抜ける超ハイスピードトラックは、トップパワーに劣るルノーエンジンでは劣勢。参戦をはじめた2005年以来、一度もフロントローにつくことなく、ポディウムにのぼることもなく。ダブルタイトルを獲得した2010年でさえ、フェラーリのフェルナンド・アロンソに優勝を奪われ、セバスチャン・ベッテルは4位、マーク・ウェバー6位という戦績だった。
しかし、このチャンピオンチームの“鬼門”で今年、ベッテルは13戦目にして10回目、自身通算25回目のポールポジションを奪ってしまった。しかも、予選で2位につけたマクラーレンのルイス・ハミルトンを、およそ0.5秒も突き放して、だ。
同じく苦手だった前戦ベルギーGPでも1−2フィニッシュを達成したレッドブルに、もはや死角はないのか、と思われたが、予選での直線スピードをみると、レッドブル・ルノーは下から数えた方が早いほど。最高速を記録したセルジオ・ペレスのザウバーからは、なんと約22km/hも遅かったのだ。
それでもラップタイムは、ペレスが1分24秒845(予選15位)、ベッテルは約2.5秒も速い1分22秒275。レッドブルがいかにシケインやコーナーで他車を圧倒しているかがわかる。
そんな「直線で遅く、1周で速い」レッドブルでも、レースで優勝できるかは別、というのがレース前の見方だった。2つのDRSゾーンが設定された5.8kmのコースでは、スリップストリーム合戦となれば前を走るマシンより追う方に都合がいい。“遅い牛”の勝ち目は、スタート数周でDRSが作動されない1秒以上のマージンを築き逃げ切る、というベッテルが得意とする作戦にかかっていた。
その作戦は、スタート直後に早くも崩れかけた。地元産の“跳ね馬”にむち打つアロンソが、まさに生き馬の目を抜かんばかりに飛び出し先頭を奪ってしまったのだ。
■ベッテル、スタートでアロンソにトップの座を奪われる
予選でアロンソ4位、フェリッペ・マッサ6位と振るわなかったフェラーリだったが、スタートの蹴り出しは抜群で、アロンソはフロントローのハミルトン、ベッテルと3台並び、コースをはみ出しながらも最初のコーナーをトップで通過。マッサもひとつポジションをあげた。
いっぽうで3番グリッドのジェンソン・バトンは出だしでつまずき7位までポジションを落とした。バトンは最終的に2位でフィニッシュするのだが、このスタートでの失敗さえなければ、レース展開はまた違ったものになっていたかもしれない。
後方集団では、ビタントニオ・リウッツィのHRTがコントロールを失い、ニコ・ロズベルグ、ビタリー・ペトロフが巻き込まれての多重クラッシュが発生、セーフティカーが3周目まで導入された。
4周目に再開。アロンソを先頭に、ベッテル2位、ハミルトン3位、ミハエル・シューマッハー4位、マッサ5位、バトン6位、ウェバー7位の順でスタート・フィニッシュラインを通過した。このうち、シューマッハーのメルセデスは最初のシケインで3位にジャンプアップを果たし、以後、この日何度かみられることになるハミルトンとの攻防戦をはじめることになった。
ベッテルの勝利へのプランは、このままでは成就できない。レッドブルはフェラーリのギアボックスをとらえ続け、そしてまだDRSが使用できない5周目、第1シケインで照準を合わせ、ダートにタイヤを落としながら第2シケインでアロンソのインに飛び込み、ついにトップへ返り咲いた。
首位に立ってしまえば、あとはベッテルのペースだ。タイムが伸びない2位アロンソとの差を、ファステストラップを記録しながらどんどん広げ、17周目には10秒ものギャップが築かれた。この時点で、勝敗は決したといっていいだろう。
チームメイトが勝利に向けて気迫のこもった走りを披露する陰で、ウェバーはマッサのフェラーリと接触、フロントウイングを壊しながら走行中にコースアウトしてしまい、レッドブルにとって今季初のリタイアを喫した。
■レース巧者のバトン、2位へ
早々にトップ争いが終息した頃、シューマッハーは好走し3位を守っていた。同じエンジンを積むマクラーレンのハミルトンが背後に迫るが、メルセデス「W02」はスピード番長とも呼べる速さで抜かさせない。
さらにシューマッハーならではの“いやらしいディフェンスライン”がハミルトンをいらつかせていた。一度オーバーテイクしては再びシューマッハーが抜き返す、丁々発止を繰り返す2台に、やがてバトンが追いつき、3台が団子状態となった。
16周目、ハミルトンが一瞬コースオフした隙にバトンが4位にあがり、リアタイヤが限界にきていたシューマッハーも立て続けに抜き去って3位に。レース巧者のバトンは、その後タイヤ交換のタイミングを早め、タイヤがいい状態で速いペースを刻む、いわゆる「アンダーカット」でアロンソを料理し2位の座をせしめたが、序盤の遅れが尾を引き、既にベッテルははるか手の届かない場所だった。
■早ければ次戦でタイトル決定も
レース後の表彰式、ポディウムの頂点に立つベッテルの目には涙がにじんでいた。弱小トロロッソをドライブし、歴代最年少ウィナーとなったのは3年前のここモンツァ。「とてもエモーショナルになった」と語るドイツ人は、初優勝からわずか3年で、2度目のタイトルに王手をかけている。
2011年シーズンは6戦を残しているが、112点というまれにみる大差をつけるベッテルには、早ければ次の第14戦シンガポールGPで2連覇を達成する可能性が出てきた。
2008年からはじまったシンガポールGPは、2勝しているアロンソが得意とするコース(うち初年の優勝は、あの有名な“クラッシュゲイト事件”によりもたらされたものだが)。フェラーリとアロンソの踏ん張りが、時間の問題となった今年のタイトル争いを、多少なりとも盛り上げてくれるのだろうか? 決勝レースは9月25日に行われる。
(文=bg)
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