【F1 2017 続報】第14戦シンガポールGP「奇跡を願った男の勝利」
2017.09.18 自動車ニュース![]() |
2017年9月17日、シンガポールのマリーナベイ・ストリートサーキットで行われたF1世界選手権第14戦シンガポールGP。金曜日はレッドブル、土曜日はフェラーリ、そして日曜日はメルセデス――日ごとに主役が変わる目まぐるしい展開となった今回、最も重要な日曜日に笑ったのは、レース前まで奇跡を願っていたポイントリーダーだった。
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「マクラーレン・ルノー」「トロロッソ・ホンダ」が決定するまで
シンガポールGP初日、マクラーレンとホンダの決別がようやく公になった。1988年からの5年間で44勝、表彰台91回、ポールポジション53回、ドライバーズ&コンストラクターズタイトルを各4回獲得した「伝説のパートナーシップ」。その2期目は、ともに夢見た成功を味わうことなく3年で終わることになった。
2015年、マクラーレンへの独占供給というかたちでパワーユニット(PU)サプライヤーとしてF1にカムバックしたホンダ。彼らを待ち受けていたのは実に険しい道だった。PUのパフォーマンス、さらには信頼性を著しく欠き、まともな走行もままならず、初年度は27点獲得でコンストラクターズランキングは下から2番目の9位だった。2年目はコンスタントにポイントを稼げるまで持ち直し、76点でランキング6位に躍進したが、3年目の今年、シーズン前のテストから再びPUが足を引っ張ることに。問題解決の糸口をつかめぬままチームの迷走は続き、13戦を終えて11点で9位と低迷から抜け出せないでいた。
業を煮やしたマクラーレンは、ホンダとの関係に見切りをつけ来季のPU探しに入った。現行1.6リッターターボ・ハイブリッド規定下の雄であるメルセデス、そしてフェラーリとの話はまとまるはずもなく、残るルノーに照準を定めたのはいいが、ルノーPUユーザーは既に3チーム(ルノー、レッドブル、トロロッソ)で埋まっていた。
ここで手の込んだ複雑なプロセスが必要となった。カギを握っていたのは、レッドブルのジュニアチームであるトロロッソと、その若手有望株カルロス・サインツJr.。今年ルノーPUで戦うトロロッソは、来季、ワークスのルノーチームにサインツJr.をレンタル移籍させることで合意。代わりにルノーとのPU契約を解除し、2018年に「トロロッソ・ホンダ」として参戦する道筋をつけた。レッドブルがバックにいるとはいえ規模は小さいトロロッソにとって、自動車業界の巨人ホンダとタッグを組むことには大きな意義とポテンシャルがあるのだ。
そして、ひとつ空きができたルノーPUをマクラーレンが載せることになり、「マクラーレン・ルノー」が誕生することになった。マクラーレンもホンダも新たなパートナーを見つけることができ、またホンダに不信感を募らせていたエースドライバー、フェルナンド・アロンソのマクラーレン残留も見えてきた。隘路(あいろ)を歩み続けた両者の決別だが、これもハッピーエンドと見ることもできるのではないだろうか。
しかし、事はこれだけで終わらなそうな気配がある。今度はトロロッソの兄貴分、レッドブルとルノーの離別が報道されるようになったのだ。公式な発表はないものの、4年連続ダブルタイトルを獲得した「レッドブル・ルノー」は、2018年が最後になるとのうわさが流れている。そうなれば、レッドブルが抱える次世代チャンピオン候補の2人、ダニエル・リカルドとマックス・フェルスタッペンの動向も気になる。さらには2019年の「レッドブル・ホンダ」の可能性も出てきて……さまざまな要因が絡み合ったドミノ倒しは、いったいどこまで続くのだろうか。
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好調レッドブルを駆逐、ベッテルが今季3度目のポール
話題をチャンピオンシップに移せば、前戦イタリアGPで今季初の2連勝を飾ったメルセデスのルイス・ハミルトンが初めてポイントリーダーとなり、2位に落ちたフェラーリのセバスチャン・ベッテルを3点引き離した。
F1ナイトレースの元祖、シンガポールGPが行われるマリーナベイは、カレンダー最多の23ものターンが連なるストリートサーキットで、短いホイールベースと強力なダウンフォースを武器に、タイトなコースを得意とするフェラーリにとっては、何としても勝たなければならないGPだった。
しかしレースウイークが始まると、まばゆい照明の下でレッドブルが輝きを放った。3回のフリー走行すべてでレッドブルがトップタイムをマークしたのだが、予選最終セッションのQ3になると、本命フェラーリのベッテルが牙をむき、壁に接触しながらの気迫のこもった走りで今季3回目、シンガポールで4回目、通算49回目のポール奪取に成功した。
接戦を繰り広げたレッドブルだったが力及ばず、フェルスタッペン2位、リカルドは3位。2台ともベッテルのタイムに0.3秒届かなかった。予選4位はフェラーリのキミ・ライコネン、そして苦しんだメルセデス勢はルイス・ハミルトン5位、バルテリ・ボッタス6位と3列目に沈んだ。
7位にルノーのニコ・ヒュルケンベルグが続いて、アロンソは8位、ストフェル・バンドールン9位とマクラーレンが好位置を得た。トップ10の最後はトロロッソのサインツJr.だった。
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初の雨のナイトレース、スタートでフェラーリがそろってリタイア
例年、酷暑の長丁場となるシンガポールGPだが、今年はF1史上初めてウエットでのナイトレースとなり、波乱含みで幕を開けた。
シグナルが消えると、ポールシッターのベッテルと好スタートを切ったライコネンが、フェルスタッペンを両脇から囲むようにしてターン1を目指した。ベッテルが2台に寄せるようなラインを取ったため、行き場所を失った真ん中のフェルスタッペンとライコネンが接触、ロケットスタートで3位まで上昇していたアロンソを巻き添えにしてコース外に飛び出した。さらにライコネンはベッテルにも激しくヒットしており、ベッテルの手負いのマシンはその後しばらくしてスピン、フロントウイングを落としてコース上に止まった。フェラーリにとっては、2台そろっての0周リタイア、さらに宿敵ハミルトンにトップに立たれるという、最悪の結果となってしまった。
セーフティーカーランの後、5周でレース再開。1位ハミルトン、2位リカルド、3位ヒュルケンベルグ、4位セルジオ・ペレス、5位ボッタス、6位ジョリオン・パーマーというあまり見ない顔ぶれが上位に並んだ。
漁夫の利を得た首位ハミルトンは、水煙がないクリアな視界を味方に2位リカルドとの差を広げ、7周して4秒以上先行。リカルドがペース上げるとハミルトンもファステストラップで応戦するなど、レースをコントロールし始めた。
11周目、ダニール・クビアトのトロロッソがオーバースピードで壁に突っ込み、2度目のセーフティーカー出動。これを機にリカルド、ペレス、ヒュルケンベルグらがピットに入り、新しいインターミディエイトを履いてコースに戻った。既に雨はやみ、コンディションは回復基調にあった。
15周目に、1位ハミルトン、2位リカルド、3位ボッタス、4位サインツJr.、5位ヒュルケンベルグという隊列でレース再開。ここでもハミルトンはファステストラップを更新し、ニュータイヤを装着したリカルドを寄せ付けなかった。
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ハミルトン、予選5位からの「奇跡」
レースの折り返しを前にしてドライタイヤに履き替えるドライバーが出始め、29周目に2位リカルド、3位ボッタスらもウルトラソフトタイヤに換装。翌周ハミルトンもこの動きにならい、1位のままコースに復帰した。
先頭をひた走るハミルトン、その8秒後方に2位リカルド、さらに16秒遅れて3位ボッタスと、間延びした状態での周回がしばし続いたのだが、38周目、マーカス・エリクソンのザウバーがスピンし、マシンをコース上に止めたことで3度目のセーフティーカーが入ると、再びその差は詰まることに。しかし、42周目のリスタートでハミルトンがリードを譲ることはなかった。
序盤のウエットコンディション、3度のセーフティーカーでレースは規定周回数の61周に満たず、上限の2時間で終わることになった。予選後のインタビューでは見るからに落胆していたハミルトンが、その翌日に晴れやかな表情で表彰台の頂点に立っていた。過去9年間、シンガポールGPで1度も降らなかった雨がもたらした「奇跡」には、宿敵ベッテル&フェラーリの脱落というおまけまで付いていた。
ハミルトンのベッテルに対するポイントリードは3点から28点に拡大。シンガポールのような、フェラーリがその強さを発揮するだろうと予想されるサーキットはこの先見当たらない。リカルドに次いで3位に入ったボッタスを含めて、メルセデス陣営がタイトル防衛に自信を深めたレースとなったことは事実だろう。
次戦は、今季でF1カレンダーから外れることが決まっているマレーシアGP。決勝は10月1日に行われる。
(文=bg)