第12戦ベルギーGP「打倒ベッテルのラストチャンス(のはずだった)」【F1 2011 続報】
2011.08.29 自動車ニュース【F1 2011 続報】第12戦ベルギーGP「打倒ベッテルのラストチャンス(のはずだった)」
2011年8月28日、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで行われたF1世界選手権第12戦ベルギーGP。最強マシン、レッドブルの弱点とされるトップスピート不足に、ライバルが付け込む隙があったであろう今回、しかしレッドブルもセバスチャン・ベッテルも、いつもの勝ちパターンで逃げ切ってしまった。
■レッドブルの、分の悪いサーキットで
F1サーカスは長い夏休みを終え、いよいよ後半戦に突入した。
これまでの11戦を振り返れば、レッドブル、というよりセバスチャン・ベッテルの独り舞台だったといっていい。ポールポジションからスタートすること8回、勝利すること6回、ポディウムにのぼること10回、そしてライバルに85点もの差をつけて、2年連続タイトル獲得に向けて盤石の態勢を築いてきた。
残るレースで得られる最大ポイント数は、優勝25点×8レース=200点。チャンピオンの座を手中に収めかけている24歳のドイツ人に、ライバルが何とか待ったをかけられる最後のチャンスが、ここベルギーと続くイタリアでのヨーロッパ・ファイナル2連戦と目されていた。
ベルギーGPが開かれるスパ・フランコルシャンとイタリアのモンツァは、レッドブルにとって分が悪いサーキットといわれてきた。
レッドブル「RB7」は高効率なエアロマシンとされるが、ルノーエンジンとのパッケージングは、トップスピードでライバルに劣る。スパには、鋭角の1コーナーから名物コーナーのオールージュ、ケメルストレートと速さが試される長いセクションがあり、そしてモンツァは世界屈指のハイスピードコース。ここでライバル、つまりはマクラーレン、フェラーリが、僅かながら残される打倒ベッテルの可能性に賭けなければ、本当にシーズンは“終わってしまう”かもしれないのだ。
昨年のリザルトをみれば、スパではポールシッターのマーク・ウェバーはルイス・ハミルトンに敗れ、ベッテルはクラッシュして自滅した。そしてモンツァでは、地元フェラーリのフェルナンド・アロンソが勝利し、ベッテル4位、ウェバーは6位でゴールした。
今年のチャンピオンシップを蘇生させるためにも、マクラーレン、フェラーリの活躍に期待がかけられた今回だったが、しかしフタを開けてみれば、下馬評に反してレッドブル&ベッテルがポールポジションを獲得、レースでもベッテルが7回目の勝利を記録し、レッドブルは1-2フィニッシュを達成してしまった。
銀色のチームは、ハミルトンという“飛び道具”が小林可夢偉のザウバーと接触しリタイア。前戦ハンガリーのウィナー、ジェンソン・バトンは続々と前車をオーバーテイクし観客を魅了したが、それはつまり前を走るマシンが多かったということで、予選での失敗、スタートでの接触が響き3位どまりだった。
赤いマシンはというと、一時トップを走るアロンソだったが、レース終盤、苦手なピレリのハードタイヤに苦戦し、バトンに表彰台から引きずりおろされた。フェリッペ・マッサは最終周になんとか前のルノーをかわし8位だった。
ライバルに好機到来せず。ベッテルのリードは、85点から92点へとさらにひろがり、いよいよ100点の大台目前となった。いっぽうで最大獲得可能ポイント数は25点減り、175点となった。
最終戦のブラジルGPは師走間近の11月27日だが、戴冠までのカウントダウンは、晩夏の今にも準備しなければならなくなったようだ。
■スパ・ウェザーの影響、タイヤの悩み
アルデンヌの森の雲行きはめまぐるしく変わる。例年通り、ドライバーとチームは、今年もこのスパ・ウェザーに翻弄(ほんろう)されることとなった。
金、土といつもより多めの雨に見舞われた今回、土曜日の予選でその影響は顕著にあらわれた。特にQ2、そしてトップ10グリッドを決めるQ3では、セッションの進行に合わせて濡れた路面が乾き、周回を重ねるごとにコースコンディションが上向いていった。この状況に乗り切れなかったのが、マクラーレンのバトン。ミスコミュニケーションからQ2半ばでアタックを切り上げてしまい、セッション終了ギリギリまで攻め続けたマシンに次々と抜かれ13番グリッドと中段に沈んだ。
いっぽうでQ3最速、ポールポジションタイムを叩き出したベッテルは、セッション最後の最後でハミルトンと最速を争い、今季9度目の“指定席”を獲得した。ハミルトンが予選2位、ウェバー3位と続き、フェラーリ勢はマッサが4位と善戦したものの、アロンソは8位と浮かないポジションに。ニコ・ロズベルグのメルセデスが5位、ダークホース、トロロッソのハイミ・アルグエルスアリは自身最高の6位と好位置につけた。
金土と雨続きだったため、ドライでの走行はほとんどなかったが、決勝の日曜日には雨は降らないと予報が出ていた。こうなるとドライタイヤでのデータ不足に各陣営が頭を悩ますことになる。
そして悩みといえば、フロントタイヤにブリスター(火ぶくれ)が起きたマシンが続出したこと。Q3に進出したマシンは、予選で使用したタイヤを履きレースをスタートしなければならないため、この問題を抱えるベッテルらは一抹の不安を胸にグリッドに並ばなければならなかった。
■レッドブル、4周のうちにタイヤ交換
予報通りドライで迎えたレースデイ。スタートで3番グリッドのウェバーはアンチストールが作動し、一気に8位まで順位を落とした。ポールシッターのベッテルはトップのまま1コーナーを抜けるが、長いケメルストレートで2位にあがっていたロズベルグに抜かれた。
オープニングラップのトップ10は、1位ロズベルグ、2位ベッテル、3位マッサ、4位ハミルトン、5位アロンソ、6位セバスチャン・ブエミ、7位セルジオ・ペレス、8位ウェバー、9位小林、10位ビタリー・ペトロフ。ロズベルグの首位は、DRSを使ったベッテルに抜かれ、3周で終わった。
トップ奪還に成功したかにみえたベッテルだったが、44周レースの4周目、早々にタイヤを交換するためピットインを行った。予選で起きたブリスターを気にしてのアクションで、レッドブルはウェバーも3周目にピットへ呼んでいた。
その間、ロズベルグ、そしてメルセデスをオーバーテイクしたアロンソが1位となるが、レッドブルはニュータイヤでペースをあげ、フェラーリ、マクラーレンらがタイヤを交換する10周前後を過ぎると、ベッテルは首位、アロンソを2位に挟み、ウェバーも3位まで躍進していた。
13周目のオールージュ手前、タイヤをまだ交換していない小林に、既にピットストップを行ったハミルトンが襲いかかり、マクラーレンが4位にあがった。しかし小林も諦めず、続く長いストレートでアウトから並びかけた。小林のザウバーとハミルトンのマクラーレンは接触し、ハミルトンのマシンはウォールに激しくヒット、リタイアせざるを得なくなった。接触直前、死角に入ったことで、ハミルトンから小林の存在を確認することは難しかったようだ。
■バトン、怒濤の追い上げ
ハミルトンのクラッシュでセーフティカーが16周まで入った。これを機にベッテルは2度目のタイヤ交換に踏み切り、トップは再びアロンソ、2位ウェバー、そして3位ベッテルという位置関係となった。
17周目にレースが再開すると、ベッテルは早々にウェバーを抜き2位へ。そして翌周、ニュータイヤで余勢を駆りアロンソをも料理、首位を奪還する。その後は、ベッテルお得意のいつもの勝ちパターンに持ち込み、19周目には1.7秒あったギャップは、29周までに6秒までひろがっていた。
この時点から、バトンが怒濤(どとう)の追い上げをみせてくる。バトンは予選での失敗に加え、スタートで不運にも他車に接触され、フロントウイング交換のため1周目にピットストップを余儀なくされていた。19位と後方に追いやられた2009年チャンピオンだったが、セーフティカー導入時に11位、21周目には7位、そして26周目には4位まで巻き返してきた。
レース終盤、アロンソはフェラーリ「F150°Italia」の苦手とするピレリのハードタイヤに履き替えると、37周目、2位の座をウェバーに明け渡しレッドブル1-2フォーメーションが完成。そして42周目、今度はバトンにも抜かれ、フェラーリは表彰台から脱落した。
■ドライバーズサーキット、スパで初優勝
バトンがもし、予選で上位につけていたら、もしくはスタートを無傷で終えていたら、このレースの優勝争いは違った様相を呈していたかもしれない。しかし勝負事に「もし」をつけたらキリがない。
ベッテルはブリスター問題につまずくことなく、いつも通りの落ち着いたレース運びで、ドライバーズサーキット、スパで初優勝した。
6月のヨーロッパGP以来、しばし離れていたポディウムの頂上に再び立ったことで、ベッテルは2度目のタイトルにさらに近づいた。
「ここはすばらしいサーキットだからね。勝つことには多くの意味がある。今日は毎周を楽しんだよ」
仮に、次の“鬼門”、モンツァで勝てなくとも、この楽しめる余裕は十分すぎるほど残っているだろう。
そのイタリアGPは、9月11日に決勝が行われる。
(文=bg)
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