【F1 2017 続報】最終戦アブダビGP「自信を勝ち取るために」
2017.11.27 自動車ニュース![]() |
2017年11月26日、アブダビのヤス・マリーナ・サーキットで行われたF1世界選手権第20(最終)戦アブダビGP。前戦ブラジルGPに続き、なかなか勝てなかったドライバーがようやくポディウムの頂点に立った。
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タイトル争いとは別の「最後の戦い」
3月にオーストラリアで開幕した2017年のF1も20戦目、アブダビでのフィナーレを迎えた。10月のアメリカGPでメルセデスが、続くメキシコGPではルイス・ハミルトンがそれぞれタイトルを決めていたが、最終戦では、頂上決戦とは別の戦いが続いていた。
前戦ブラジルGPでようやく今季後半戦における初勝利を飾ったフェラーリとセバスチャン・ベッテル。自滅を繰り返しタイトルを逃した悪い流れを断ち切り、最後に2連勝して来季に弾みをつけたかった。サンパウロでの今季5勝目をきっかけに、失いかけた自信を取り戻したのか、ベッテルの表情からはある種の“こわばり”が消え、ハミルトンへの「怒りの体当たり」でペナルティーを食らったアゼルバイジャンでの一戦をジョーク交じりに話すなど、リラックスした中にも新たなモチベーションを感じさせる雰囲気に包まれていた。
赤いチームと同様に、メルセデスのバルテリ・ボッタスもアブダビで良い結果が欲しかった。ブラジルでは今季3度目のポールを勝利につなげることができず、ここぞという時の勝負弱さを露呈。チームボスのトト・ウォルフからは、チャンピオンに不可欠な「闘争本能が足りない」とまで言われてしまった。ランキング2位ベッテルとの差は22点と大きく開いていたが、いまやハミルトンが中核となったメルセデスで存在感を出さないと、今後のキャリアも危うくなりかねない。彼が今いるのはチャンピオンチーム。今季フォースインディアで覚醒したエステバン・オコンや、今年GP3王者となったジョージ・ラッセルなどのメルセデス育成ドライバー、さらには他チームのベテランだってそのシートを欲しがっているのだから。
コンストラクターズランキングでは6位争いが熾烈(しれつ)だった。トロロッソ53点、ルノーが4点差の49点で続き、8位ハースも47点でこれを追っていた。このうちトロロッソとパワーユニット(PU)を供給するルノーとの間では、シーズン後半にきて著しく性能・信頼性を欠くルノーPUを巡っての“口撃”も勃発(ぼっぱつ)しており、「ルノーがトロロッソの邪魔をしているのでは」との陰謀論すら聞こえるほど。ランキングの差は、すなわちF1における分配金の差につながる。資金的に恵まれているといえない中団チームにとっては、プライド以上に現実的で切実な戦いなのである。
そしてこのレースで引退するウィリアムズのフェリッペ・マッサ、パートナーシップを解消するマクラーレンとホンダにとっても特別な一戦となった。それぞれの思いともくろみが交錯しながら、F1随一の贅(ぜい)を尽くしたサーキット、ヤス・マリーナでファイナルレースは幕を開けた。
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ボッタス、2戦連続のポールポジション
この週末をけん引したのはメルセデスの2台。中でもハミルトンはフリー走行2回目、3回目をトップで終えチームメイトをリードしていたのだが、予選になるとボッタスが調子を上げてきた。
トップ10グリッドを決める予選Q3、最初のアタックでボッタス1位、ハミルトンは0.172秒遅く2位。2回目のフライングラップでは両車ともタイムアップが果たせず、ボッタスが2戦連続、今季4度目のポールポジションを獲得した。シルバーアローにとっては通算50回目のフロントロー独占となる。
フェラーリは、ベッテルがポールタイムから0.546秒も離されて3位、キミ・ライコネンは5位。レッドブルのダニエル・リカルドが2度目のアタックで4位に上がり、そのチームメイトのマックス・フェルスタッペンは6位だった。
3強チームに次いだのはルノーのニコ・ヒュルケンベルグで7位。フォースインディアのセルジオ・ペレス8位、オコン9位と続き、ウィリアムズのフェリッペ・マッサが10番グリッドから最後の花道に向かった。
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スタートでボッタスがトップを守る
今年で9回目を迎えたアブダビGPは、夕方にスタートし夜にゴールするトワイライトレース。西日に照らされたコースで55周レースが始まると、今度こそはとボッタスがトップを守ってターン1へ。2位ハミルトン、3位ベッテル、4位リカルド、5位ライコネンと上位陣は順当にオープニングラップを終えていった。
順当なスタートでなかったのはルノーのヒュルケンベルグ。スタートでフォースインディアに抜かれるも、その後コースをはみ出して7位に返り咲いたのだからいただけない。ヒュルケンベルグには程なくして5秒加算のペナルティーが言い渡されることになった。トロロッソからランキング6位の座を奪いたいルノーは、ヒュルケンベルグに慎重なレースをと願ったはずだが、結局この30歳のドイツ人ドライバーはミスなく走り切り6位でフィニッシュ、チームの期待に応えランキング6位をプレゼントすることになる。
10周を過ぎ、トップを走るボッタスは2位ハミルトンに2秒のギャップを築いた。3位ベッテルはさらに4秒後れをとっており、この日のフェラーリにはメルセデスに対抗する速さがないことが早々に明らかとなった。
順位が変動する気配のないまま、各陣営のピット作戦が動きはじめた。15周で6位フェルスタッペン、翌周5位ライコネン、そして20周には4位リカルドがウルトラソフトからスーパーソフトへ換装。3位ベッテルも21周目、続いて1位ボッタス、そしてハミルトンも25周目にスーパーソフトに履き替えた。
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来季に向けての勝利
タイヤ交換後、リカルドのマシンにハイドロリック系の問題が発生し、レッドブルの1台が脱落。順位は1位ボッタス、2位ハミルトン、3位ベッテル、そして4位にライコネンが上がり、シルバーとレッドのタンデム走行となる。このうちシルバー同士のタイムは時として1秒内に接近するも、後ろのハミルトンがタイヤをロックアップさせて、再び1.5秒程度の間隔ができた。
もともとヤス・マリーナは抜きにくいサーキットであったが、レース終盤にかけてはすっかり順位が落ち着いてしまった。1位ボッタスと2位ハミルトンは1.3秒のギャップが続き、まるでハミルトンが「チームメイトのお手並み拝見」とばかりに見守っているかのようだった。ハミルトンには、タイトルの心配もプレッシャーも何もなかった。
一方のボッタスは、何としても勝ちたかった。同郷ライコネンと似て、普段から感情を表に出さないボッタスは、トップでチェッカードフラッグを受けた後、無線で「イエス!」と一言、力強く叫んだ。4月の第4戦ロシアGPで念願の初優勝、7月の第9戦オーストリアGPでは初のポール・トゥ・ウィンを達成。ボッタスはチャンピオンチームでの初年度で少しずつ結果を残しはじめていたが、シーズン後半からハミルトンの猛攻に存在感を薄め、そして復調の兆しを見せはじめたブラジルでは自らのふがいないレースに肩を落としていた。
やはりシーズン後半になかなか勝てなかったベッテルがブラジルで5勝目を挙げ、来季への前向きな発言が出てきたように、ドライバーがその力量を存分に発揮するためには結果が必要であり、そこで自信を勝ち取らなければ、次の高みには向かえないものである。今回笑顔で2位表彰台に上がった王者ハミルトンだって、昨年ニコ・ロズベルグとの激闘でへし折られた自信を、今年しっかりと取り戻したのだから。
ボッタスは来季の飛躍に向けて自信を勝ち取る勝利を手にし、そして今季善戦したフェラーリ&ベッテルは、なおもメルセデスとの力量の差が大きいことを痛感しつつ、それぞれのオフシーズンに入っていった。2018年開幕戦オーストラリアGPは、120日後だ。
(文=bg)