【F1 2018 続報】第2戦バーレーンGP「フェラーリは負け、ベッテルが勝った」
2018.04.09 自動車ニュース![]() |
2018年4月8日、バーレーン・インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権第2戦バーレーンGP。予選までの劣勢を作戦でひっくり返そうとしたメルセデスに対して、レースでのフェラーリは防戦に追われることとなった。
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「管理」という呪縛
開幕戦オーストラリアGPでは、メルセデスのルイス・ハミルトンが予選、決勝を通じて速さというアドバンテージを得ていながら、バーチャルセーフティーカーをきっかけに宿敵フェラーリのセバスチャン・ベッテルにトップを奪われ敗北するという番狂わせがあった。
メルセデスは、レース管理を行うソフトウエアにバグがあったことを明らかにした。タイヤ交換を遅らせ暫定トップを走っていたベッテルと、先にニュータイヤを履いて首位奪還を狙っていた2位ハミルトンのタイム差を誤って算出したことが敗因とされた。結果、V6ハイブリッド時代の王者メルセデスと、その牙城を切り崩したいフェラーリの強豪対決の初戦は、フェラーリが幸運な1勝を手にして終わった。
一方で、優勝争いから遠く離れたテールエンドでは、パートナーシップ1年目のトロロッソとホンダが厳しい現実に直面していた。オフシーズンのテストでは大きなトラブルに見舞われることなく好調さをアピールしたトロロッソ・ホンダだったが、開幕戦ではブレンドン・ハートレー、ピエール・ガスリーとも予選でQ1落ちしたばかりか、レースではガスリーのMGU-Hに問題が発生しリタイア。ハートレーは15位完走という結果となった。ホンダはその対策として、第2戦バーレーンGPに新しいターボとMGU-Hを投入。さらにトラブルが発生したガスリーのエンジン(ICE)を一新することとした。
メルセデスとトロロッソ・ホンダ。それぞれ戦うポジションは違えど、両者にはF1全チームが抱える、同じ課題が見え隠れする。それは「信頼性への対応」だ。今季はパワーユニットの使用制限数がいっそう厳格化され、史上最多タイの21戦もの長丁場を、たった3基のICE、ターボ、MGU-Hで戦わなければならなくなった(バッテリーとMGU-K、コントロールユニットはそれぞれ2基しか使えない)。
2戦目にしてICE、ターボ、MGU-Hを交換せざるを得なくなったホンダにとっては、シーズン中どこかのタイミングで4基目以上の投入を決断せざるを得なくなるかもしれず、そうなればグリッド降格ペナルティーというハンディを負うことになる。タイトル防衛を狙うメルセデスとて状況は同じであり、いたずらにパワーユニットを酷使してリスクを大きくすることは避けなければならず、オーストラリアでは、本来ならそのリスクを最小限にするはずのコンピューターが仇(あだ)となってしまった。
信頼性の確保とは、裏を返せばマシンやパワーユニットの品質やGPの戦い方の徹底した管理を意味する。力の限り走りライバルに大差をつけての優勝ではなく、マージンを残しながら戦況をコントロールする、と聞けばやや興がさめるかもしれないが、近年のF1がそういう傾向にあることは事実だ。
しかし、高度な管理下に置かれながらも思わぬ出来事で予想だにしないことが起きる、という不確実性も当然ながら残っている。オーストラリアでのフェラーリ優勝がその一例だ。そしてバーレーンGPでも、そんな意外な展開が待ち受けていた。
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ハミルトンに降格ペナルティー、フェラーリ最前列独占
1回目のフリー走行ではレッドブルのダニエル・リカルドがトップ。続く2回目はフェラーリ1-2と、タイミングモニターの最上に王者の名前がなく終わった金曜日の夜、ハミルトンのマシンがギアボックス交換を行うことが分かった。オーストラリアGPレース中に油圧系の漏れが起きていたとされ、修理不能と判断。ギアボックスはルール上6戦連続使用が義務付けられているため、ハミルトンには5グリッド降格ペナルティーが科されることになった。
一方フェラーリは予選になっても好調を維持し続けた。トップ10グリッドを決めるQ3になると、最初のタイムアタックからキミ・ライコネンとベッテルが最速タイムを競い合い、結果ベッテルが0.143秒差をつけチームメイトを逆転。今季初、自身通算51回目のポールポジションを獲得した。2位はライコネンで、フェラーリにとっては2017年ハンガリーGP以来となるフロントロー独占となった。
メルセデス勢はバルテリ・ボッタス3位、ハミルトンは4位だったがペナルティーで9番グリッドにダウン。5番手タイムのリカルドが繰り上がって4番グリッドにつき、初めてQ3進出を果たし大健闘したトロロッソのピエール・ガスリーが5番グリッドと好位置を得た。開幕戦でポイント圏を走りながらリタイアを喫したハースのケビン・マグヌッセンが6番グリッド、その後ろにはルノーのニコ・ヒュルケンベルグ、フォースインディアのエステバン・オコン、そしてハミルトンが続き、トップ10の最後にはルノーのカルロス・サインツJr.がつけた。
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2ストッパーのフェラーリ対1ストッパーのメルセデス
バーレーンでのポール・トゥ・ウィンは過去10年で2回だけ。とはいえ、最前列のフェラーリに勝負を挑みたいメルセデス勢は2列目と5列目に分かれており、赤い牙城の切り崩しは容易ではないように思えた。そこでメルセデスは、大勢がやわらかめのスーパーソフトタイヤを履いてスタートするかたわら、ハミルトンにはより長持ちするソフトタイヤを装着させ、異なる作戦でダメージを最小限にする方法を選択した。スタート位置が悪ければ頭脳で勝ってみせる。このチャンピオンのしたたかさがレースを大いに盛り上げることになる。
57周レースのスタートでトップを守ったベッテル。蹴り出しが良かったボッタスは2位に上がり、ライコネンは3位に落ちた。
その後ろでは、予選Q1でパワーユニットが変調をきたし15番グリッドと後方に沈んでいたマックス・フェルスタッペンが怒涛(どとう)の追い上げを見せるも、9位ハミルトンとホイールが当たりタイヤがパンク。最後尾に脱落したフェルスタッペンは程なくして戦列を去った。さらに4位を走行していたリカルドも電気系トラブルに見舞われリタイアとなり、レッドブルにとっては最悪の週末となってしまった。
バーチャルセーフティーカーの後、1位ベッテル、2位ボッタス、3位ライコネン、4位ガスリーというオーダーで4周目にレース再開。ハミルトンは瞬く間に4位まで挽回し、表彰台を虎視眈々(たんたん)と狙うことになる。
先頭集団で先に動いたのはフェラーリだった。首位ベッテルは19周目、ライコネンはその翌周にピットに飛び込み、スーパーソフトからソフトに履き替えてコースに戻る。対するメルセデスは21周目にボッタスを呼び込み、こちらは長持ちするミディアムタイヤに換装した。2ストップ作戦のフェラーリ対、1ストップで走り切ろうとするメルセデス。両チームが異なる作戦をとってきたことが、この時点で明白になった。
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「実はコントロールできていなかった」
レース折り返しを前に、まだタイヤ交換をしていないハミルトンが暫定首位、ベッテル2位、ボッタス3位、ライコネン4位。ハミルトンは、ニュータイヤで勢いのあるベッテルに26周目に抜かれるとようやくピットインに踏み切り、ミディアムを履いてレース後半戦に向かった。
1位ベッテル、2位ボッタス、3位ライコネン、4位ハミルトンと、順位こそレース序盤と変わらないが、ソフトを履く赤いチームはもう1回ピットストップの可能性を残しており、フェラーリの旗色は悪くなってきていた。そんな状況で焦りが出たか、フェラーリが失態を演じてしまう。36周目、ライコネンが2度目のピットに入ると、フェラーリのクルーは左リアタイヤを交換できていない状態でライコネンにゴーサインを出してしまったのだ。既にピットレーンを走りだしていたライコネンはマシンを止め、コックピットから降りざるを得なかった。
孤軍奮闘となった1位ベッテルも、いよいよ追い詰められてきた。もう1回タイヤ交換をすればメルセデス勢に優勝をさらわれてしまうのだから、寿命が近づきつつあるソフトタイヤをこのまま履き続けてゴールを目指すしかない。残り10周で2位ボッタスとの間にあった6秒弱の差は徐々に目減りし、残り5周で3秒、ラスト2周では1秒を切った。
そしてファイナルラップ、ターン1でボッタスがベッテルのインに飛び込もうとしたがベッテルはギリギリのところで踏みとどまった。ポジションそのまま、2台は0.6秒の僅差でチェッカードフラッグをくぐり抜けた。
予選まではメルセデスを上回る速さを見せていながら、レースではライバルの陽動作戦に翻弄(ほんろう)されたフェラーリ。ライコネンの一件を含め、今回のスクーデリアの戦い方には反省点が残された。今回の勝利は、タイヤに厳しいバーレーンのコースで、無謀なソフトタイヤでのロングランを成功させたベッテルの手腕によるところが大きかった。
「レース中の無線では“すべてはコントロールできている”と言ったけど、あれはウソ。コントロールなんてできてなかった」とはベッテルの弁。コントロールしようにもできないところがあるから、F1は、つまりはスポーツはおもしろい、ということを再確認させられた一戦だった。
次の第3戦中国GP決勝は、1週間後の4月15日に行われる。
(文=bg)
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