【F1 2018 続報】第4戦アゼルバイジャンGP「拾った勝利の意味」
2018.04.30 自動車ニュース![]() |
2018年4月29日、アゼルバイジャンのバクー・シティ・サーキットで行われたF1世界選手権第4戦アゼルバイジャンGP。スタートからフェラーリのセバスチャン・ベッテルがリードする展開は、レッドブルの同士打ちで入った2度目のセーフティーカーを機に、大きく様変わりすることとなった。
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連敗からの脱出
開幕からフェラーリのセバスチャン・ベッテルが2連勝を飾り、2週間前の第3戦中国GPではレッドブルのダニエル・リカルドが逆転優勝――2018年シーズンは、過去4年間79戦で63勝をマークしてきた孤高のチャンピオンチーム、メルセデスが3連敗を喫するという予想外の幕開けとなった。
開幕戦オーストラリアGPこそポールポジションからレース前半をリードし速さを示したメルセデス&ルイス・ハミルトンだったが、第2戦バーレーンGPから2戦連続してフェラーリにフロントロー独占を許し、レースのみならず予選での一発の速さという絶対的アドバンテージすら危うくなっている状況だ。
今季3戦を終えた時点で、チャンピオンシップリーダーのベッテルに9点差をつけられたランキング2位のハミルトンは、「タイヤの使い方を改善する必要がある」と、自らのチームの問題点を指摘。ライバルチームに比べ、タイヤを適切に使える幅が狭いという課題の解決方法については、まだ模索している最中という。
2017年においても、王者メルセデスは低速コースで苦戦を強いられていた。時として扱いづらくなるマシンを、チーム率いるトト・ウォルフは「ディーバ(歌姫、転じてわがまま娘、じゃじゃ馬の意)」と称していた。今年の姫はよりいっそう手ごわそうだが、果たしてアゼルバイジャンで王は姫の機嫌を直すことはできたのだろうか?
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ベッテル、3戦連続のポールポジション
アゼルバイジャンの首都バクーでの市街地レースは今年で3回目。近代建築が並ぶ街並みや世界遺産の旧市街地を駆け抜ける、シーズン2番目に長い約6kmのコースは、90度ターンの連続から、最小幅7.6mのツイスティーセクション、そして2kmを超える直線区間と、異なる3つの顔を見せるユニークさを持ち合わせている。
金曜日の1回目のフリー走行でこそバルテリ・ボッタスがトップタイムをマークしたものの、2回目はレッドブルのダニエル・リカルド、土曜日の3回目はベッテルが最速と、3強が拮抗(きっこう)。フェラーリ、レッドブルに押されていたメルセデスは、土曜日午後の予選になるとセットアップを大幅に見直し、息を吹き返してきた。
トップ10グリッドを決める予選Q3、最初のラップで最速だったのはベッテル。0.342秒遅れての2番手はハミルトン、次いでボッタス。最後のアタックでベッテルはタイヤをロックさせタイムアップを果たせなかったものの、メルセデスの2台との間には十分なマージンがあったため、3戦連続、通算53回目のポールポジションを決めることができた。キミ・ライコネンが痛恨のドライビングミスで6番手に終わったことで、フェラーリの3連続フロントロー独占はならなかった。
0.179秒届かずハミルトンは予選2位、ボッタス3位。リカルド4位、マックス・フェルスタッペン5位とレッドブル勢が続いた。今季初めて2台そろってQ3に進出したフォースインディアはエステバン・オコン7位、セルジオ・ペレス8位。ニコ・ヒュルケンベルグ9位、カルロス・サインツJr.10位とルノーが並ぶも、ヒュルケンベルグはギアボックス交換による5グリッド降格となり、ウィリアムズのランス・ストロールが繰り上がってトップ10入りした。
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後続で相次いだ接触、クラッシュ
ペルシャ語で「風の街」を意味するバクー。決勝日は強い風に見舞われたのだが、レースはこの風雲に乗じてか、2度のセーフティーカーを呼び込む荒れた展開となった。
51周レースの幕開けは、上位陣が順当にスタートを切った一方、その後方ではセルゲイ・シロトキン、フェルナンド・アロンソ、ニコ・ヒュルケンベルグらが各所で接触。さらに6位を争っていたオコンとライコネンがぶつかり、フォースインディアがコース上にマシンを止めたことで、最初のセーフティーカーの出番が回ってきた。
6周目にレース再開。1位ベッテル、2位ハミルトン、3位ボッタスとトップ3台は順位そのまま、フェルスタッペンが4位、そしてサインツJr.が5位に上がり、リカルドは6位に後退した。トップのベッテルを追いかけたいハミルトンだったが、「タイヤのグリップがない」とチームに伝え、両車のギャップは一気に3秒まで開いてしまった。
元気がいいのはルノー勢、逆にバッテリーを十分にチャージできずペースが伸び悩んでいたのは、同じパワーユニットを積むレッドブル勢だった。9周目にサインツJr.がフェルスタッペンを抜き4位。さらにヒュルケンベルグもリカルド、フェルスタッペンを相次いでオーバーテイクし5位までポジションアップ。しかし、程なくしてヒュルケンベルグはウォールにタイヤを当ててリタイアすることとなり、ルノーはダブル入賞の機会を逸してしまった。
2位を走るハミルトンは、強風にあおられたか、直線区間手前のターン16でコースオフ。さらに20周を過ぎるとターン1で止まり切れなくなるなど、タイヤが寿命を迎えたと訴えることとなった。23周目にメルセデスはハミルトンをピットに呼び、スーパーソフトタイヤから、一段硬めのソフトタイヤに履き替え、3位でコースに復帰させた。
トップのベッテルがピットインしたのは31周目。やはりソフトタイヤに替えて2位でコースに戻り、スタートタイヤで周回を重ねるボッタスが暫定首位となった。
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レッドブルの同士打ちで様相一変
このレースの様相を一変させたのが、コース上で度々丁々発止とやり合っていたレッドブル同士のクラッシュだった。タイヤ交換を済ませたフェルスタッペンが4位、リカルドは5位を走行中の40周目、スリップストリームに入ったリカルドがフェルスタッペンのリアに突っ込み、2台はターン1のエスケープロードに投げ出された。
これで2度目のセーフティーカーが入ったのだが、暫定首位のボッタスにとっては好機到来。このスロー走行中にタイヤ交換を済ませ、1位の座を手放すことなくコースに戻ることができたのだ。ボッタスにしてやられたことに気がついたベッテル、ハミルトンらも相次いで2度目のピットストップを行い、フレッシュなタイヤで心機一転、再スタートに備えた。
さらに各車徐行中に、ハースのロメ・グロジャンが壁に激突、マシンがコース上にストップしたこともボッタスには追い風だった。セーフティーカーランがさらに伸びたことで、彼が後続を抑える周回数も減ることになったからだ。
48周目にセーフティーカーがはけると、残り4周のスプリントレースに突入。2位ベッテルが思い切ってターン1でボッタスに並びかけトップ奪還を狙ったが、タイヤスモークを上げたフェラーリのラインは大きく膨らんでしまった。ベッテルはハミルトン、ライコネンにも抜かれ4位に落ち、優勝戦線から脱落した。
労せずしてライバルの1人がいなくなったボッタスだったが、優勝まであと一歩という時点で不運に見舞われてしまう。コース上に落ちていた破片を踏んだメルセデスの右リアタイヤがバーストしてしまったのだ。
こうした一連の波乱をくぐり抜けトップでチェッカードフラッグを受けたのは、上位にいながら地味な存在だったハミルトン。スタート直後の接触でポイント圏外に落ちたライコネンが2位に入り、今季これまでノーポイントだったフォースインディアのペレスが3位表彰台を獲得したのだから、レースは何が起こるか分からない。
ウィナーのハミルトンとてもろ手を挙げて喜んでいるわけではなく、「ボッタスこそ勝者にふさわしい」とチームメイトに称賛となぐさめの言葉をかけていた。
ハミルトンの今季初優勝は、言ってみれば「拾った勝利」のようなものである。しかしその1勝の本当の意味は、今後のメルセデスのマシン次第で変わってくる。ベッテルに4点差をつけポイントリーダーの座についたハミルトンが、そのポジションをあっという間に失ってしまうのであれば、単なるフロックとみなされてしまうだろう。王者復権に向けた起死回生の1勝となることを、ファンは願っているはずである。
次の第5戦スペインGP決勝は、5月13日に行われる。
(文=bg)