【F1 2018 続報】第10戦イギリスGP「銀と赤のマッチレース」
2018.07.09 自動車ニュース![]() |
2018年7月8日、イギリスのシルバーストーン・サーキットで行われたF1世界選手権第10戦イギリスGP。これまでメルセデスが得意としてきたコースでフェラーリが肉薄。予選、さらには決勝でも銀と赤のマッチレースが繰り広げられた。
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英国系名門チームの凋落
イギリスGPを前に、現在苦境に立たされている、同国を代表する名門2チームが注目を集めることとなった。
まずは、1980年代にホンダ、1990年代にはルノーのエンジンとともに圧倒的な強さを発揮し、これまで歴代3位となる114勝と、合計16ものタイトルを獲得してきたウィリアムズ。その後の凋落(ちょうらく)は著しく、最後のコンストラクターズタイトルは1997年、最後の優勝は2012年のスペインGPと、栄華を極めた時代も今は昔となってしまった。V6ハイブリッド規定が始まった2014年から2年連続でコンストラクターズランキング3位に入り復活の兆しを見せていたものの、今季は9戦を終えてたった4点しか取っておらず、10チーム中最下位に沈んでいる。メルセデス躍進の立役者のひとりだったパディ・ロウをチーフテクニカルオフィサーに迎えるも、今季型「FW41」には競争力がないのが実情。シルバーストーンでもスランプから脱せないでいた。
それに比べると、コンストラクターズランキング6位につけるもうひとつの英国の雄、マクラーレンの方が立派にも思えるが、むしろ惨めな状況なのはこちらかもしれない。ホンダとタッグを組んだ過去3年、パワーユニット(PU)の出来の悪さをあげつらい、「自らのシャシーはベストだ」と言い張ってきたこのチームは、ホンダと別れた今年も引き続き苦戦をしいられており、同じルノーPUで戦うレッドブル、またルノーワークスに後れを取っている。「MCL33」には、風洞では見つけられない空力上の問題があるといわれ、またこの週末になって、昨年型マシンよりダウンフォースが減少している事実も明かされた。マシン開発の方向性を見失っているといっていいだろう。
迷走しているのはチーム組織も同様だ。マクラーレンを常勝チーム、そして高級自動車メーカーにまで育て上げたロン・デニスをはじめ、デニスの後任として一時期チーム代表を務めたマーティン・ウィットマーシュ、半年ほどでCEOの座を去ったヨースト・カピートなど、トップマネジメントはここ10年で落ち着くことがなかった。今年に入りマクラーレン・レーシングのCEOに就いたザック・ブラウンの体制下、まずは組織改変としてティム・ゴスがチーフテクニカルオフィサーを辞し、そして7月4日には、レーシングディレクターのエリック・ブーリエが辞任。元CARTチャンピオンのジル・ド・フェランがスポーティングディレクターに就任するなどの人事発表がなされた。マクラーレンは、あるリーダーを頂点とした「ピラミッド型」の組織ではなく、複数の指揮系統を持つ格子状の「マトリクス型」を採ることで知られるが、こうした組織形態がレーシングチームにそぐわないのではないかということは度々指摘されているところである。
歴代2位の182勝、総タイトル数は実に20を数える、最古参フェラーリに次ぐ輝かしい戦績を誇るマクラーレンは、再建への道を歩み始めたようだが、トップチームへの返り咲きはなるのか。
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フェラーリとの接戦を制し、ハミルトンが会心のポール
史上初の3連戦の最後の舞台は、超高速コースとして知られるイギリスのシルバーストーン。1950年にF1世界選手権の最初の1戦が行われたモータースポーツの「聖地」であり、母国で通算5勝、4連勝中と波に乗るルイス・ハミルトンの「庭」である。
前戦オーストリアGPでは、メルセデスがシーズン最大級のアップデートを実施。結果的にメカニカルトラブルで2台リタイアとなったものの、フロントローを独占するなど速さではライバルとの差をつけることに成功した。今度は宿敵フェラーリの番と、スクーデリアもハイスピードなイギリスにフロアなどを改修した「SF71H」を持ち込み、その効果は、早速予選での接戦というかたちであらわれることになった。
予選Q3、まずトップタイムを記録したのはセバスチャン・ベッテルのフェラーリ。この時点で0.057秒遅れたメルセデス駆るハミルトンは、最後の渾身(こんしん)のアタックで見事逆転し、今シーズン4回目、通算76回目のポールポジションを獲得した。首を痛め予選出場も危ぶまれた中での好走でベッテル2位。ハミルトンとの差はわずか0.044秒と僅差だった。またポール争いに絡むも、中間セクターでタイムを失ってしまったキミ・ライコネンは3位。こちらも最速タイムから0.098秒差と、フェラーリがメルセデスに肉薄したセッションだった。
4位に入ったメルセデスのバルテリ・ボッタスの後ろにはレッドブルの2台、マックス・フェルスタッペン5位、ダニエル・リカルド6位。3強に次ぐ「ベスト・オブ・ザ・レスト」は、3戦連続で2台そろってQ3に進出したハースで、ケビン・マグヌッセン7位、ロメ・グロジャンは8位だった。ザウバーのルーキー、シャルル・ルクレールが9位に続き、トップ10最後にはフォースインディアのエステバン・オコンがつけた。
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ベッテルがトップ、ハミルトンは接触で後退
タイヤに高い負荷がかかるシルバーストーンに、ピレリは今季初投入のハードをはじめ、ミディアム、ソフトとかためのタイヤを用意。決勝日の気温は27度、路面温度は51度に達し、暑さがタイヤにどう影響するかがレースのポイントとなった。
52周レースのスタート、絶妙な飛び出しでトップを奪ったのはベッテル。一方ポールシッターのハミルトンはホイールスピンが多く3位まで落ち、さらにライコネンと接触し17位まで後退した。ベッテルを先頭に、2位ボッタス、3位フェルスタッペン、4位ライコネン、5位リカルドが続いた。
思いもよらない最後尾からの追い上げを余儀なくされたハミルトンは、6周してポイント圏内の10位、11周目には6位と着々と挽回。一方で4位を走行していたライコネンには、先の接触の原因をつくったとして10秒ペナルティーが科されることになった。ライコネンは14周目にペナルティーを受けつつ、ソフトタイヤからミディアムに交換し、フレッシュなタイヤで上位を目指すこととなった。
その後は、18周目にフェルスタッペン、翌周リカルド、さらに21周目にはトップのベッテル、続いてボッタスと上位陣が続々とピットに入り、ソフトからミディアムに換装。ハミルトンは26周目までピットストップを引っ張った。
最初のタイヤ交換が一巡すると、首位ベッテル、2位ボッタス、3位フェルスタッペン、4位リカルド、5位ライコネン、6位ハミルトンという順位となり、各車第2スティントへと突入していった。
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フェラーリ1-3フィニッシュ、そしてハミルトンは……
50度オーバーの灼熱(しゃくねつ)の路面に、タイヤが耐えきれるのか。各陣営がタイヤのライフに神経を尖(とが)らせている中、31周目に4位リカルドが2回目のピットストップを敢行し、ソフトタイヤを装着して6位でコースに復帰。ライバルがこれに追随するか注目が集まった矢先、ザウバーのマーカス・エリクソンがスピンし、ウオールにしたたかにヒットしたことでセーフティーカーが入り、戦局が大きく変化することになった。
このタイミングでベッテル、フェルスタッペン、ライコネンらが続々とピットインしソフトタイヤを選択。一方でメルセデスは2台ともコースにとどまったことで、優勝を争うチーム間で戦略が分かれることとなった。1位ボッタス、2位ベッテル、3位ハミルトン、4位フェルスタッペン、5位ライコネン、6位リカルドという隊列で、38周目にレース再開。しかしすぐさま、今度はルノーのカルロス・サインツJr.とハースのロメ・グロジャンが当たりクラッシュしたことで、再びセーフティーカーの出番が回ってきた。
42周目に再スタート。残り10周、ライコネンがフェルスタッペンを抜き4位に上がり、ボッタス、ベッテル、ハミルトン、ライコネンの4台がたった2秒の間にひしめくマッチレースに。レッドとシルバーのまだらな隊列は、47周目、ベッテルが意を決して飛び込み首位奪還に成功したことで、レッド2台がシルバー2台を挟むかたちとなった。
その翌周にはメルセデス同士が順位を変え、2位ハミルトン、3位ボッタスに。しかし古いミディアムタイヤを履くメルセデスに力はなく、ボッタスはライコネンにもオーバーテイクを許し4位へと後退した。
チェッカードフラッグが振られると、ベッテル、ライコネンでフェラーリが1-3フィニッシュ。母国での6勝目を目指したハミルトンは、最後尾から2位まで挽回できたものの笑顔はなく、「フェラーリは“興味深い戦術”を取ってきた」と不満げなコメントを口にした。「フェラーリはわざと接触したのではないか」と、より鋭い疑問を投げかけたのは、メルセデスのトト・ウォルフ代表。たしかに3連戦の初戦フランスGPでも、ベッテルとボッタスが接触しベッテルは5秒ペナルティーを受けていた。タイトルを争うトップチームが故意に事故を起こすことは考えにくいが、これも接戦ゆえの事態なのだろうか……。
次戦ドイツGP決勝は、7月22日に行われる。
(文=bg)