【F1 2018 続報】第13戦ベルギーGP「跳ね馬の反撃」
2018.08.27 自動車ニュース![]() |
2018年8月26日、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで行われたF1世界選手権第13戦ベルギーGP。話題多きサマーブレイクを終えたF1は、ハイスピードコースから始まる後半9戦に突入。休み明けの初戦では、力強い跳ね馬のひづめの音が響くこととなった。
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電撃移籍に、大物の事実上の引退
これほど話題に事欠かないサマーブレイクもめずらしく、特にドライバーマーケットはファクトリー休業期間中に急展開を見せた。
最大のトピックは、8月3日に発表されたダニエル・リカルドの電撃移籍だ。2014年にトロロッソからレッドブルに昇格して以来、同チームとともに7回の優勝を勝ち取ってきたリカルドは、2019年からニコ・ヒュルケンベルグとペアを組み、ルノーのステアリングを握ることとなった。3強の一角であるレッドブルから、ワークス復帰3年目にしてまだ表彰台すらないルノーへの移籍に、レッドブル首脳陣を含め誰もが驚いたに違いない。これでトップチームのレッドブルに突如空席ができ、そしてレッドブル陣営からルノーに貸し出されていたカルロス・サインツJr.は、来年のシートを探さなければならなくなった。
続いて、もう1人の大物が自らの去就を決した。8月14日、フェルナンド・アロンソが来季F1に参戦しないことを表明したのだ。2005年、2006年とルノーを駆りチャンピオンに輝き、17年のGPキャリアで通算32勝を記録したアロンソ。現役最高のドライバーといわれながらも、2連覇以降は、間の悪いタイミングでの移籍で泣くことが多かった。最後の優勝は、フェラーリをドライブしていた2013年の母国スペインGP。2015年からのマクラーレンでの苦戦は今も続いており、中団同士の争いに追われている。今後の復帰を匂わせてはいるものの、勝てるマシンにありつけなければ引退となる公算が大きいとみられている。
レッドブルとマクラーレンの空いたシートも、程なくして埋まることに。8月16日、アロンソと同じスペイン出身のサインツJr.が来季マクラーレンに加入することが発表され、さらに8月20日には、トロロッソのピエール・ガスリーがレッドブルにステップアップ、マックス・フェルスタッペンとのコンビで戦うことが明らかになった。
ハンガリーGPの週末に資金難から破産手続きに入ったフォースインディアの新オーナーが決まったのは8月7日のこと。現在ウィリアムズに在籍するランス・ストロールの父、大富豪ローレンス・ストロールを中心としたコンソーシアムにより再建の道が開かれた。夏休み明けのベルギーGPでは法的な問題で参戦も危ぶまれたが、新たに「レーシングポイント・フォースインディア」の名前でエントリーし直すことで決着がついた。
そんな話題多きサマーブレイクも過去の話。残り9戦の2018年シーズンは、ハイスピードコース、スパ・フランコルシャンから再スタートを切った。
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フェラーリ優勢の中、雨の予選でハミルトンがポール
夏休み前の第11戦ドイツGP、そして第12戦ハンガリーGPと、メルセデスのルイス・ハミルトンが2連勝。一方で、勝てるレースを落とし続けたフェラーリのセバスチャン・ベッテルは、宿敵ハミルトンに今季最大の24点もの差をつけられた。メルセデスはさらにギャップを広げるべく、またフェラーリは何としてもライバルに離されまいと、両陣営とも新型のパワーユニットを用意し、パワーサーキットでの戦いに臨んだ。
GP最長7kmのスパのコースのうち、フェラーリのマシンは特に直線基調のセクションで速く、メルセデスは山間部のハイスピードコーナーで強さを発揮。一周のトータルタイムではスクーデリアが優勢で、3回のフリー走行、そして予選Q1、Q2とフェラーリがトップタイムをマークしたのだが、肝心のQ3になると、ドイツ、ハンガリー同様、またしても雨がシルバーアローに加勢することとなった。
Q2終了間際から強く降り始めた雨はすぐに小降りとなるも、ドライタイヤでは走行困難。各車インターミディエイトに履き替え周回を重ね、コンディションが回復するセッション後半に賭けた。順位が目まぐるしく変わる中、最後にハミルトンがそれまでのベッテルの最速タイムを上回ることに成功し、今季6回目、スパで最多となる5回目、通算78回目のポールポジションを決めた。
ベッテルは予選2位。僚友のキミ・ライコネンは、歴代最多4勝を記録する得意のスパでポールを狙える位置にいたものの、フェラーリが燃料計算を誤り最後のアタックを断念、6位に沈んだ。2列目には、何と新生レーシングポイント・フォースインディアの2台が並び、来季のシートに不安を抱えるエステバン・オコンがキャリアベストの3位、セルジオ・ペレスは4位につけた。
ハース勢はロメ・グロジャンが5位、ケビン・マグヌッセン9位。レッドブル勢はフェルスタッペン7位、リカルド8位と後方に沈んだ。パワーユニット交換により最後尾スタートが決まっていたメルセデスのバルテリ・ボッタスは、アウトラップを行ったのみで10番手。代わりにトロロッソのガスリーが繰り上がり、トップ10グリッドの最後につけた。
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オープニングラップ、ストレートでベッテルがトップに
ピレリがベルギーに持ち込んだタイヤは、硬い方からミディアム、ソフト、スーパーソフト。トップ10台はスーパーソフトを履いて、44周のレースが幕を開けた。
ポールシッターのハミルトンがトップのままターン1に進入するも、その後のケメル・ストレートでスリップストリームに入ったベッテルがハミルトンをかわし1位に。2位ハミルトン、3位ペレス、4位オコン、5位フェルスタッペンとなった時点で、後方集団の多重クラッシュによるセーフティーカーが入ることとなった。
5周目にレースが再開すると、首位ベッテルはファステストラップをたたき出しながら2位ハミルトンとの差を開き始め、10周目には3秒以上のマージンを築いた。一方もう1台のフェラーリ、ライコネンはといえば、オープニングラップでレッドブルのリカルドに接触され、リアタイヤがパンクし後退。同時にマシンを壊したことで、レース早々にリタイアを喫した。
序盤に元気のいい走りを見せていたのがフェルスタッペンだった。7周目にオコンを抜き4位、10周目にはペレスをオーバーテイクし3位にポジションアップすると、詰め掛けたオレンジ色の母国応援団から大歓声が湧くのだった。しかしハミルトンは既に10秒前方で、その差はジワジワと開くばかり。優勝争いは、ベッテルとハミルトンの2人に絞られていた。
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ベッテル&フェラーリ、力でハミルトンを負かす
トップの2人にとっての勝負所は、レースのちょうど半分で訪れたタイヤ交換。どちらが先に動くかと双方にらみ合いを続けていたが、ハミルトンが22周目にソフトタイヤに交換、3位でコースに戻ると、今度はベッテルが翌周ピットに飛び込み、同じくソフトに換装した。フェラーリがピットレーンを後にすると、タイヤ交換をしていないフェルスタッペンを間に挟み、ハミルトンの前でコースに復帰することができた。
すかさずレッドブルを抜いて2位に返り咲いたハミルトンだったが、ベッテルとの間にあった1.7秒の差は、27周もすると4秒、30周で5秒とどんどん開いていき、最終的には11秒もの差をつけられてチェッカードフラッグが振られるのだった。
上位勢に動きがない中、ペナルティーで17番グリッドと後方からスタートしたボッタスの躍進は、レース終盤の冷めかけた空気に熱を入れた。オープニングラップで前車に追突、ピットに入って新しいノーズとスーパーソフトタイヤを与えられたボッタスは、13周目にトップ10入りを果たすと、30周目には2度目のタイヤ交換でソフトタイヤを履き6位。そこからハイペースで飛ばし、オコンをかわし5位、そして残り5周でペレスをオーバーテイクし、4位でゴールした。
「ベッテルは、まるで私がそこにいないかのように走り去っていった」とは、オープニングラップを振り返る2位ハミルトンの弁。パワーサーキットのスパで、ベッテルはフェラーリの強心臓のパワーをいかんなく発揮してハミルトンを負かし、24点あったポイント差を17点にまで縮めることに成功した。
次戦はフェラーリの本拠地イタリア。舞台は、これまたパワーがものをいうモンツァだ。さらに近年スクーデリアが得意とするシンガポールも控えているとなると、跳ね馬の反撃がこの先も続く可能性は高い。王者メルセデスは、この流れを変えることができるか。イタリアGP決勝は、1週間後の9月2日に行われる。
(文=bg)