【F1 2019 続報】開幕戦オーストラリアGP「復活の年、最良のスタート」
2019.03.17 自動車ニュース![]() |
2019年3月17日、オーストラリアのメルボルンにあるアルバートパーク・サーキットで行われたF1世界選手権第1戦オーストラリアGP。話題多き新シーズンの開幕戦で表彰台にのぼったのは、復活を心に誓って臨んだあのドライバーとあのチームだった。
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70年目のチャンピオンシップ、3年目の銀赤対決
待望のF1新シーズンがオーストラリアGPで開幕。1950年にスタートしたF1世界選手権にとって70年目の節目にあたる今年は、昨季同様最多タイとなる21戦が、12月1日の最終戦アブダビGPまで続く長丁場となる。
2月にスペインで2週に分けて行われた8日間の合同テストで絶好調だったのはフェラーリ。チーム創立90周年を記念し「SF90」というネーミングを与えられたマシンは、抜群の速さと安定感でバルセロナのコースを駆け抜けた。2017年、2018年とコース上で高いパフォーマンスを発揮しながら、チームのおぼつかないオペレーションで栄冠を逃してきたスクーデリアは、新たにマッティア・ビノットがトップに就任。エースのセバスチャン・ベッテルと、GPキャリア2年目の新星シャルル・ルクレールのコンビで「3度目の正直」をもくろむ。
テストで軽快に飛ばす“赤の軍団”に比べると、昨季5年連続のダブルタイトルを獲得したシルバーアロー、メルセデスには黄色信号がともったかに見えた。例年、盤石の構えでプレシーズンを終えるメルセデスだが、今季型「W10」はペースも挙動も今ひとつ定まらず、テスト期間中に空力面での方向性を大きく変えるなど対応に追われていた。
6年目の1.6リッターターボハイブリッド規定はそのままとなるが、今シーズンは、F1が抱える「前車を抜きづらい」という慢性的な課題を克服すべく、エアロパーツのレギュレーションが変更されており、メルセデスの空力面での問題が表面化したかっこうとなった。とはいえ、自身6度目のタイトルを目指すルイス・ハミルトンと、勝利なしに終わった昨季の雪辱を果たさんとするバルテリ・ボッタス、そして何より6連覇達成に向けて士気を高めるチャンピオンチームの底力は侮れない。3年目の“銀赤対決”への期待は高まるばかりだ。
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「レッドブル・ホンダ」、デビューイヤー初勝利なるか?
3強の一角であるレッドブルは、長年付き合ってきたルノーからホンダにパワーユニットをスイッチ。メルセデス、フェラーリと違い自社製パワーユニットを持たない元4冠王者は、チーム史上初めてワークス並みの体制で臨むこととなる。名デザイナー、エイドリアン・ニューウェイがかつてないほどの高いモチベーションで開発したというニューマシン「RB15」は、冬のテストでは順調に周回数を重ね、既にルノー時代と遜色ないパフォーマンスを披露していた。昨季4勝の強豪が、ホンダとのパートナーシップ初年度に勝利をつかめるか。気鋭のマックス・フェルスタッペンとピエール・ガスリーという2人の若手、さらにホンダとしては2年目のトロロッソを含めた2チーム4台体制で戦いを挑む。
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混戦の中団チーム、抜け出すのは……?
中団勢は例年通り混戦模様だ。優勝経験のあるダニエル・リカルドが加わったルノーは3強との差を縮めたいところ。さらに昨年躍進したハース、フォースインディアの名前を捨て再出発するレーシングポイント、最年長キミ・ライコネンを擁するザウバー改めアルファ・ロメオ、復活の糸口をつかみたいマクラーレン&ウィリアムズが、「クラスB」トップの座を目指す。
メルセデスとハース以外はドライバーラインナップが変わり、新人3人がデビュー。ラリー中の大クラッシュで大けがを負ったロバート・クビサが8年ぶりにウィリアムズでF1カムバックを果たすなど、ドライバーの変動が多かったのも今年のポイント。またファステストラップを記録したドライバーが10位以内でフィニッシュすると1点のボーナスポイントが与えられるというルール変更も行われた。かように話題多き2019年シーズンは、夏の終わりのメルボルンでスタートした。
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ハミルトンがポール、メルセデス最前列独占
いかにテストが順調でも、実戦で走らなければ本当のポテンシャルは分からないもの。アルバートパーク・サーキットでの24回目のGPウイークが始まると、3回のフリー走行すべてでトップに立ったのはメルセデスのハミルトン。“冬のチャンピオン”フェラーリは最大のライバルとの差を詰められないでいた。
予選に入ってからもメルセデスの2台がペースセッターとなり集団をけん引。トップ10グリッドを決めるQ3では、最初のアタックでボッタスがハミルトンに0.457秒という大差をつけてP1を取ったものの、最後のラップでハミルトンにひっくり返されてセッション終了。ハミルトンは、オーストラリアで6年連続8度目のポールポジションを獲得。F1最多ポール記録を「84回」に伸ばした。僚友に0.112秒負けたとはいえボッタスが2位に入り、メルセデスは最前列独占となった。
フェラーリはベッテルが予選3位、ルクレールは5位。ベッテルはポールタイムから0.704秒も遅く、そのギャップの大きさに誰もが驚いた。赤いマシンの間に割って入ったのは、レッドブルのフェルスタッペンで4位。ホンダは復帰後の最高位グリッドを得ることとなったが、もう1台のレッドブル、ガスリーはQ1落ちの17位と明暗が分かれた。ロメ・グロジャン6位、ケビン・マグヌッセン7位とハースが2台そろって好位置につけ、マクラーレンのランド・ノリスがルーキー最高位の8位と健闘。アルファ・ロメオのライコネンが9位、レーシングポイントのセルジオ・ペレスは10位だった。
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ボッタス、スタートでトップを奪取
いかに予選までが速くとも、真のポテンシャルは300km超のレースで発揮されるもの。ロングランでもメルセデスが他を圧倒するのか、あるいは抜群のスタビリティーでフェラーリが昨年同様の逆転勝利を飾るのか。さまざまな期待や思惑が渦巻く中、58周のレースが始まった。
最高のスタートをきったのはボッタス。ハミルトンに並びかけるとターン1をトップで抜け、2位ハミルトン、3位ベッテル、4位フェルスタッペン、5位ルクレールらが続いた。最悪の出だしだったのは母国GPを戦うリカルドで、メインストレートのダートにタイヤを落とした弾みでフロントウイングを壊し早々にピットイン、最後方からの追い上げを強いられることとなった。
1位ボッタスと2位ハミルトンの間隔は少しずつ広がり、10周して3.6秒のギャップができた。3位ベッテルもほぼ同じ差で周回を重ねていたが、フェラーリは、上位陣の中では一番早い14周目にピットストップを実施した。フレッシュタイヤに履き替えたベッテルにポジションを奪われては困ると、メルセデスは翌周ハミルトンを入れたのだが、結果的にこの対応がハミルトンを苦しめることになる。
なお今季ピレリが用意したドライタイヤは、一番硬い「C1」から最もやわらかい「C5」までの5種類。レースウイークに持ち込まれる3種類は、この中からセレクトされるが、呼称は「ハード」「ミディアム」「ソフト」と分かりやすくなった。ベッテル、ハミルトンとも、ソフトからミディアムに履き替え、第2スティントに向かった。
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フェルスタッペン、3位表彰台へ
トップ快走のボッタスは24周してようやくピットイン。さらに暫定首位に立っていたフェルスタッペンも26周目、ルクレールは29周目にタイヤを交換すると、1位ボッタスは2位ハミルトンに15秒ものギャップを築き、ハミルトンから2.5秒離れて3位ベッテル、フェラーリの真後ろに4位フェルスタッペンという元のオーダーとなった。
しかしハミルトンとベッテルは、ライバルに比べ使い込んだミディアムタイヤで戦わざるを得ず苦戦。レース終盤、2人のチャンピオンドライバーに若獅子フェルスタッペンがかみついた。まずはペースの上がらないベッテルをオーバーテイクし表彰台圏内の3位に駒を進めると、今度は1.5秒前の2位ハミルトンに照準を合わせることとなった。
迎え撃つハミルトンは、タイヤの状態が思わしくないと無線で訴えるも、フェルスタッペンとの1.5秒差を何とかキープ。対するフェルスタッペンも、残り10周を切った時点でコースオフしタイムを失ったものの、最後の数周にかけてスパートをかけてきた。54周目、それまでボッタスが記録していたファステストラップをフェルスタッペンが更新し、その差がいよいよ1秒を切った両車だったが、いまや円熟の境地に達したチャンピオンには隙がなく、そのままの順位でチェッカードフラッグが振られた。
20秒もの大量リードを築いての完勝で、ポディウムの頂点に立ったのはボッタス。昨年は不運やチームオーダーにより勝利に恵まれず、シーズン後半になるとすっかり精彩を欠いていた彼にとって、復活の糸口をつかむ重要な1勝となったはずである。ゴール目前、「俺は(優勝の25点だけでなく)26点が取りたいんだ」と、ボーナスポイント1点すら貪欲に稼ぎたいという姿勢を見せ、フェルスタッペンに奪われたファステストラップをしっかりと奪い返した。おとなしく従順というこれまでのイメージが、強いドライバーへと変わったかのような印象を受けた開幕戦だった。
そして同じく最良のスタートをきったのがレッドブル・ホンダだ。レッドブルやフェルスタッペンは表彰台の常連であるが、ホンダにとっては2015年に復帰してから初、2008年の第9戦イギリスGP以来となる、実に11年ぶりのポディウム。しかも王者メルセデスを追い回して3位となったのだから内容も充実していた。
好調のテストから一転、ベッテル4位、ルクレール5位と期待外れに終わったフェラーリ。しかし、急加減速を繰り返すアルバートパークのコースではなく、よりコンベンショナルなサーキットに移れば、また別の戦いの様相が見えてくるかもしれない。次戦以降の活躍に期待をかけたいところだ。
次の第2戦バーレーンGPの決勝は、3月31日に行われる。
(文=bg)