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完全自動運転を実現に導く!? カーナビの地図技術最前線

2020.02.19 デイリーコラム 林 愛子

不確定要素を極力排除

自動運転レベル3が今年お目見えするのではないかといわれている。レベル3は基本的にドライバーではなく自動運転システム側が運転を担うが、「運行設計領域(ODD:operational design domain)」は自動車専用道路(自専道)に設定されるだろう。ODDとは自動運転システムが正常に作動する前提となる設計上の走行環境に係る特有の条件、つまり自動運転システムの使用条件のこと。例えば、アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストは自動車専用道路に、パーキング支援は駐車場内に、それぞれ限定されている。

ODDを設ける理由は、ざっくり言えば、不確定要素を極力排除するためだ。自専道ではほぼ同じ速度で車両が走行し続けているが、一般道には歩行者だけでなく、自転車や車いすなど多様なモビリティーが共存する。信号無視や急な飛び出し、路上駐車などもある。ゴルフカートのように走行ルートも走行環境も決まっていれば自動化しやすいが、オーナーカーでそれは無理。技術開発のゴールを完全自動運転に据えつつも、当面はODD付きで新技術を導入していくことになる。

なぜ自専道なのか? 先に述べたとおり不確定要素が少ないからなのだが、それゆえに自専道は以前から自動運転に適した場に位置付けられ、一般道に先駆けてダイナミックマップ基盤の「高精度3次元地図(HDマップ)」が作成されているのだ。

自動運転レベルの概念図。レベル3では特定の条件(自動車専用道路など)において、運転の主体が自動運転システム側に切り替わる。
自動運転レベルの概念図。レベル3では特定の条件(自動車専用道路など)において、運転の主体が自動運転システム側に切り替わる。拡大

一般道のHDマップ化にかかるコスト

現状の自動運転システムは、人間のように視覚や聴覚に相当するリアルタイムのセンサー情報だけで走行することができない。しかし、HDマップには路面情報や車線情報、3次元構造物などの情報が含まれ、これら情報とセンサー情報とを組み合わせることで、環境を適切に把握することが可能になる。一般道にもHDマップがあればよいのだが、地図づくりには莫大(ばくだい)な費用が必要。いまあるHDマップの距離約3万kmに対して、一般道は150万km超。そのすべてのHDマップをつくるとしたら、国家予算を超えるレベルの金額が必要だという。

そこで、日立製作所が提案するのが「DGM(Detailed Geometry Map:高詳細地図)」という新技術だ。

現状のカーナビに搭載されている地図(HDマップに対して、SDマップという)は道路を一本の線で表現している。それゆえに、右折や左折のポイントを交差点の中心でしか表現できない。カーナビで走行中、右折するつもりが交差点までの距離を見誤って右折しそびれた経験のある人、右折専用レーンに入りそびれて交差点を通過してしまった経験のある人は少なくないと思う。あるいは、次の左折に備えて中央車線から左車線へと車線変更をしたのに、その分岐では左側2車線が左折で、無理に車線変更する必要がなかった……といった経験もあるのではないか。

もしもカーナビではなく、道路事情に詳しい人が助手席で案内をしていたら「次の次の信号で右折して」「ここから右折レーンに入って」「このあとは左折だけど、車線変更は不要」と運転しやすいようにガイドしてくれるだろう。余談だが、筆者の父はこういったガイドが得意なので、ひそかに父のことを「パパナビ」と呼んでいる。安全第一ゆえに「はい、信号が変わった」「左前方に自転車あり」と逐一案内するのが煩わしいが、道路案内は完璧。さらに「のどが渇いた」とつぶやくとコンビニまで自動案内するアシスタント機能や、途中で運転を代わってくれる自動運転機能までも備えている。

「高精細3次元地図」のイメージ。車線だけでなくフェンスや建造物などの情報も含まれているのが分かる。
「高精細3次元地図」のイメージ。車線だけでなくフェンスや建造物などの情報も含まれているのが分かる。拡大

地図情報とセンサー情報とを組み合わせる

……話を元に戻そう。

現状のSDマップは道路情報に広がりがないため、目的地までのレールを敷くことはできても、実際にどう走行するかはカーナビを使う人間側にゆだねられている。しかし、日立製作所のDGMでは車載の光学カメラやミリ波レーダー、LiDAR(ライダー)などから道路上の車線や停止線といった情報を獲得。これら情報をSDマップに組み合わせることで、HDマップのように道路を線ではなく広がりを持った道路環境として表現できる。

そのパフォーマンスはHDマップに引けを取らず、一方で開発費用はHDマップと比べて格段に抑えられるという。自専道のHDマップに、全国約150万kmの一般道のDGM採用SDマップが組み合わされば、完全自動運転の実現が一歩近づく。そのためには地図以外の技術革新も必須ではあるが、まずはカーナビの精度向上だけでも十分価値があるだろう。カーナビの案内が「パパナビ」のガイドに近づけば、無理な車線変更や不意のリルートに伴う逆走などの無謀運転を防ぐことができる。

現在、日立製作所では地図メーカーと協業し、2021年度の商品化を目指して開発を進めている。目の前の交通社会の安全と、将来の自動運転システム実現につながる地図の誕生に期待したい。

(文=林 愛子/写真=SIP、ダイナミックマッププラットフォーム、日産自動車/編集=藤沢 勝)

「日産スカイライン」が搭載する「プロパイロット2.0」にも「高精細3次元地図」が使われている。
「日産スカイライン」が搭載する「プロパイロット2.0」にも「高精細3次元地図」が使われている。拡大
林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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