第4戦トルコGP「ベッテルの2011年的な勝ち方」【F1 2011 続報】
2011.05.09 自動車ニュース【F1 2011 続報】第4戦トルコGP「ベッテルの2011年的な勝ち方」
2011年5月8日、トルコのイスタンブール・パーク・サーキットで行われたF1世界選手権第4戦トルコGP。前戦中国GP同様、KERSやDRSを使ったオーバーテイクが各所でみられたが、セバスチャン・ベッテルの独走は誰もとめられなかった。4戦して3勝、開幕からチャンピオンシップをリードし続ける2010年王者は、きわめて“2011年的な勝ち方”を心得ているようだ。
■タイヤを極力いたわること
スタート直後の短い直線で、メルセデスのニコ・ロズベルグが3位から2位にあがった時、ポールポジションから真っ先にターン1へ進入したセバスチャン・ベッテルは、ヘルメットの中でほくそ笑んだに違いない。
フロントローから3位に落ちたマーク・ウェバーは、5周目、可変リアウィングのDRSを利用してロズベルグを抜き2位に返り咲いたのだが、先頭のベッテルは、ロズベルグがフタをしてくれたおかげもあり、既に4.4秒ものマージンを築いていたのだ。
その後、ベッテルはやみくもに突っ走ることなどしなかった。2台のレッドブルの差は7周で5.4秒、8周目で5.6秒、9周目には5.7秒と微増したに過ぎず、ベッテルはロズベルグという幸運がもたらした貯金を大切に運用しているようだった。
予選で最前列を確保すること、スタートで失敗しないこと、“適度な”リードタイムをキープし続けること、そして、タイヤを極力いたわること。特に最後のミッションこそが、2011年シーズンを勝つ上で非常に重要だということを心得ている、そんな印象を受けるベッテルのドライビングだった。
冬のテストの段階から、新しいピレリタイヤの“意図した扱いづらさ”が指摘されてきた。突如寿命を迎えタイムが急激に落ちるタイヤの特性がレースを面白くすることは、先の中国GPでも実証されたが、ドライバーにとっては、どれだけ長い間タイヤのライフをもたせるか、その技量が求められていることになる。
ベッテルはレース中、タイヤに必要以上の負荷をかけずに長持ちさせ、ウェバーやフェルナンド・アロンソらライバルよりもタイヤ交換を一歩遅らせることに成功した。つまり優勝を争うドライバーの動向にあわせて安全策を取ることが可能になり、築いたリードを守ることが容易になるのだ。
さらに予選では、チームメイトのウェバーとともにQ3のアタックを1回にとどめ、フレッシュタイヤを温存することもできた。俊足レッドブルだからこそ成せる技だが、タイヤ(特にソフトタイヤ)を多く持ち作戦のバリエーションを広げるのは今年のトレンドといえる。
レース中の給油が許されていた1990年代中盤から2000年代は、ピットストップのたびに軽いマシンで予選のようなアタックを繰り返す、まさにスプリントレースのような様相を呈していたが、今年のF1は“抑えのドライビング”がないと上位に入ることは難しい。
ほとんどが4ストップ作戦をとったという忙しいトルコでのレースは、F1の耐久レース化を思わせる内容だった。
■KERS&DRS効果、コース各所で丁々発止
今シーズン、ベッテル以外にポールポジションについたものはいない。前年度の覇者は、金曜日の最初のフリー走行でクラッシュ、マシンを壊し走行時間が大幅に削られたのにもかかわらず、土曜日の予選Q3では後続に対し0.4秒もの差をつけ今季4度目の定位置についた。僚友ウェバーは2番グリッドを確保。今年も最速の呼び声高いレッドブルの「RB7」だが、意外にもフロントローを独占したのは今季初となる。
ロズベルグのメルセデス「W02」が予選3位。上昇気流に乗っている感のあるこのチームだが、代表のロス・ブラウンいわく、マシンの大きなアップデートは実施しておらず、ファインチューニングのたまもの、なのだという。ミハエル・シューマッハーは予選8位、若き同郷のチームメイトに(今回も)差をつけられた。
マクラーレン「MP4-26」は苦戦。ルイス・ハミルトン予選4位、ジェンソン・バトンは同6位と上位に食い込めず、最前列のベッテルからは1秒近くも離された。フェラーリはアロンソが今季4度目の5番グリッドからスタート。フェリッペ・マッサは予選10位と、「150° Italia」は一発の速さに劣る。
決勝レースは、走行ライン外の不利な偶数グリッドについた予選2位ウェバーが、同3位のロズベルグにポジションを奪われスタートした。4番グリッドのハミルトンは、3位に落ちたウェバーに並びかけるが、ターン3で痛恨のミス、ラインを外れてしまいアロンソ、バトンに先行を許した。オープニングラップを終えての上位の順位は、1位ベッテル、2位ロズベルグ、3位ウェバー、4位アロンソ、5位バトン、6位ハミルトン。
今回も先の中国GP同様、可変リアウイングのDRS、そして80馬力の電気ブーストであるKERSが威力を発揮し、コース各所でオーバーテイクショーが繰り広げられた。5周目にウェバーがロズベルグを、その2周後にはアロンソがロズベルグを料理。メルセデスは予選こそ好調だったがレースペースには大きな課題を残していた。
レース中盤には、トップを追えないウェバーにアロンソがDRSで襲いかかり2位にポジションアップ。レースで息を吹き返したフェラーリが、このまま今季初表彰台を2位で終えるか、とも思われたが、終盤にきてより新しいタイヤのウェバーが今度はアロンソを抜き、2位奪還に成功。レッドブルの今季初1-2がようやく実現した。
バトンとハミルトン、ロズベルグの4位争いは、タイヤを巡る作戦の違いが出た場面。バトンは大勢が4ストップだったのに対し3ストップを選択、一時はトップを、終盤には4位を走行していたが、これに4ストッパーのハミルトン、ロズベルグが迫ってきた。よりフレッシュなタイヤで勢いづく後続にあらがうことはできず、バトンは後退を余儀なくされ、結果6位。ハミルトンは4位、ロズベルグは5位というリザルトを手にした。
■ウェバーの再起
4戦3勝、2位1回、そして全戦ポールポジション獲得。ベッテルは、ランキング2位のハミルトンに対し、1勝分(25点)以上、34点という大差をつけている。大敗したマクラーレン勢は、次のスペインGPでのリベンジを誓ういっぽう、同じ道具で戦うウェバーからは、レース後「セブ(ベッテル)を負かすのは難しかった」という率直かつやや弱気な声が聞こえた。
ウェバーのポイントは55点で現在3位。シーズン出だしでつまずきながらも中国3位、トルコ2位と徐々にいいリザルトを残しつつあるが、予選でのタイムアタック、そしてレースでのタイヤの使い方がウイークポイントともいわれている。2011年シーズンを制するには、克服が急務な弱点だ。1976年生まれのオーストラリア人ドライバーの再起が、いまのところベッテル一本調子のチャンピオンシップに刺激を与えることは、間違いないだろう。
次のスペインGPは、5月22日に決勝が行われる。バルセロナのコースは、空力に優れるレッドブル向けといわれるが……。
(文=bg)
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