【F1 2020】第8戦イタリアGP「ホンダとの50戦目 イタリアで再び奇跡が起きる」
2020.09.07 自動車ニュース![]() |
2020年9月6日、イタリアのアウトドローモ・ナツィオナーレ・モンツァで行われたF1世界選手権第8戦イタリアGP。通算90勝目を目指しトップ快走中だったメルセデスのルイス・ハミルトンに、思わぬ落とし穴。1台のリタイアがもたらしたセーフティーカーが、レースの様相を一変させた。
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さよならウィリアムズ・ファミリー
ひょっとしたらあるかもしれないと予想していたが、いざそうなると戸惑いを隠せない──第8戦イタリアGPを最後に、ウィリアムズから創設者フランク・ウィリアムズ代表とその実娘クレア・ウィリアムズ副代表らが退任するという報に、そんな感情を抱いたひとも多かったのではないか。
過去2年で最下位と低迷、経営面でも苦境に立たされていたウィリアムズは、2020年8月にアメリカの投資会社ドリルトン・キャピタルに買収されることが決まったばかり。チーム名やファクトリーなどは維持されることが分かっていたものの、経営体制についてはしばしの沈黙の後、9月3日に明らかにされた。その内容は、創業家ウィリアムズ・ファミリーをはじめ旧経営陣は退任し、ドリルトン・キャピタルのマシュー・サベージ会長らが新たに取締役会メンバーとなるというもの。ただし、これまで現場で陣頭指揮を執っていたクレアの代わりに誰がチームを率いるのかなどは未定で、近日中にアナウンスされるという。
2002年からプレス担当としてチームに加わり、10年の後に取締役、そして2013年から副代表として奮闘を続けてきたクレアは、「チームから去ることは厳しい決断だった。ウィリアムズ家の遺産を次の世代に引き継ぎたい、そう望んできたが、自分たちではコントロールできない状況下で新たな投資が必要だったため、ドリルトン・キャピタルに売却することにした」と思いを告白。「私たちウィリアムズ家は、チームとそこで働くひとたちを一番に考えてきたが、今回の決断は本当に正しかったと思っている。(ドリルトン・キャピタルは)ウィリアムズの遺産を守りながら、常勝チームに戻してくれるであろう最適なひとたちです」と、苦渋の色をにじませながらも、チームの将来のためを思っての売却、退任であったと語った。
1977年のチーム設立から43年。フランクのレースにかける並々ならぬ情熱と、彼の右腕であったパトリック・ヘッドの技術的采配により世界の頂点にのぼりつめ、歴代3位の114勝、コンストラクターズタイトル9回、ドライバーズタイトル7回という多くの栄冠を勝ち取ってきた名門。F1では珍しい家族経営の独立系チームとして長きにわたり参戦を続けてきたウィリアムズに、ひとつの時代の終焉(しゅうえん)が訪れたことになる。
昨今の低迷をウィリアムズの失敗として片付けることもできる。しかし、自動車メーカーや大資本に頼らないインディペンデントチームの居場所がなくなったという、F1自体の問題に置き換えれば、ウィリアムズのような、戦っているひとの“顔”が見え、“熱量”が伝わってくるようなチームは二度と現れないかもしれない。これは、F1のいち時代の終焉をも意味している出来事である。
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ハミルトンが史上最速で今季6回目のポール
モンツァはF1の歴史そのものだ。1922年に完成、現存する欧州のサーキットでは最古参となるここは、選手権設立の1950年から、1980年を除いて毎年イタリアGPの舞台となっているのだ。そんな伝統のコースで、歴史に残るラップを決めたのがメルセデスのルイス・ハミルトンだった。
名うての超高速サーキットで、各車密集しながらトー(スリップストリーム)を奪い合う中、圧倒的なスピードを誇るメルセデスは単独でアタック。ハミルトンがたたき出した1分18秒887は、コースレコードであるのに加え、平均スピード264.362km/hはF1史上最速記録となった。このGPからパワーユニットの“予選モード”が使えなくなったものの、その影響をみじんも感じさせない、3戦連続となる今季6回目、通算では94回目、モンツァでは最多7度目のポールだった。
0.069秒差で2位だったのはバルテリ・ボッタス。6戦連続となるメルセデス最前列に次ぐ2列目には、トップから0.8秒離されたマクラーレンのカルロス・サインツJr.が3位、そしてレーシングポイントのセルジオ・ペレスが4位に並んだ。レッドブル勢は、マックス・フェルスタッペン5位、アレクサンダー・アルボン9位と苦戦。マクラーレンのランド・ノリス6位、ルノーのダニエル・リカルド7位、レーシングポイントのランス・ストロールは8位からレースに臨んだ。トップ10グリッドの最後は、アルファタウリのピエール・ガスリーだった。
なお、地元モンツァで最多19勝を記録しているフェラーリ勢は、前年の覇者シャルル・ルクレールがQ3進出ならず13位、セバスチャン・ベッテルはQ1落ちの17位と厳しい予選結果となった。
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セーフティーカーに赤旗中断 独走ハミルトンに10秒ペナルティー
70周年のF1、70回目のモンツァでのイタリアGPは、前半と後半とでまったく異なる様相を呈した。まず53周レースの前半は、ハミルトンがトップを快走するという、いってみればいつものパターンだった。
ハミルトンはスタートでトップを守るも、2番グリッドのボッタスは6位に後退。一方でサインツJr.が2位、そのチームメイトのノリスが3位に上がり、マクラーレン勢が表彰台圏内を走るという展開でレースは始まった。3周目、スタートで3つ順位を落としていたフェルスタッペンがストロールを抜き7位となるが、3位ノリスより後ろは1秒前後の間隔で各車が連なり、レッドブルもこの“列車”の一部として周回を重ねるしかなかった。
首位ハミルトンが2位サインツJr.に13秒ものマージンを築いていた20周目、このレースの行方を左右する出来事が起きた。ケビン・マグヌッセンのハースがピットエントリー手前の路肩にストップしたことでセーフティーカー導入。各陣営がタイヤ交換に動くも、ハミルトンと、アルファ・ロメオのアントニオ・ジョビナッツィは、ピットレーンがまだ閉まっているタイミングでピットに入ってしまったのだ。
1位ハミルトン、2位にタイヤ交換をしなかったストロール、3位ガスリー、4位ジョビナッツィ、5位キミ・ライコネン、6位ルクレールといった順位で24周目にレース再開。4位にジャンプアップしたルクレールが、最終コーナーでバランスを崩しクラッシュしたことで再びセーフティーカーとなるも、マシン撤去とタイヤウォール修復のために時間がかかると判断されたため、レースは赤旗中断となった。
中断直前の順位は、1位ハミルトン、2位ストロール、3位ガスリー、4位ライコネン、5位ジョビナッツィ、6位サインツJr.といつもとは違う上位の顔ぶれ。このうちハミルトンとジョビナッツィには、10秒のストップ/ゴーペナルティーが科されることが決まった。
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ガスリー対サインツJr. 初優勝をかけた手に汗握る攻防戦
約25分の中断を終え、フォーメーションラップから通常のスタンディングスタートで28周目からレース再開。劇的フィナーレを迎えることになる、後半戦の始まりである。
ハミルトンに次いでガスリーが2位に躍進。中断中にタイヤ交換を済ませることができたストロールは6位に落ち、3位ライコネン、4位ジョビナッツィ、5位サインツJr.というオーダーとなった。ハミルトンは翌周ピットに入りペナルティーを受け、トップから30秒遅れの最後尾まで脱落。その後は猛追を仕掛けるも、さすがのメルセデスでも挽回するには差が大きすぎた。ハミルトンは最終的に7位でゴールすることとなる。
一方、もうひとつの強豪チームも苦しい戦いを強いられていた。14位と後方に埋もれていたフェルスタッペンはパワーユニットの異常に見舞われ、31周目にピットに入りリタイア。アルボンは、レース早々に接触、他車を締め出すドライビングで5秒ペナルティーを受けるなどし15位完走と、レッドブルは散々な結果でイタリアGPを終えることとなった。
値千金のトップに躍り出たガスリーは4秒のリードを築くことに成功。その後ろのライコネンにはスピードがなく、サインツJr.が2位に上がると、マクラーレンがアルファタウリを追撃することになる。残り10周、1位ガスリーと2位サインツJr.の差は2秒前半まで接近。残り5周になると1.1秒と見る見る差は縮まっていった。ガスリー対サインツJr.、初優勝をかけた手に汗握る攻防戦は、ガスリーが0.415秒という僅差で逃げ切ったのだった。
2017年のシーズン途中にトロロッソでF1デビューを飾ったガスリー。2018年の活躍が認められ、昨季はトップチームのレッドブルに昇格するも、成績不振でシーズン半ばにトロロッソに戻されたという苦い経験があった。それでも、昨年のブラジルGPでは2位に入り初の表彰台を獲得。そしてアルファタウリと名を変えたチームで、今年悲願の初優勝を遂げ、史上109人目のウィナーとなった。
「このチームは僕にさまざまなことをしてくれた。F1デビューの機会も、初の表彰台も、そして今日の初優勝も、このチームが与えてくれたんだ。感謝してもしきれないよ」とチームへの思いを語るガスリー。くしくもホンダとタッグを組んでからの50戦目、2008年にセバスチャン・ベッテルのドライブでチーム初優勝を飾った地元イタリアで、アルファタウリは再び奇跡を起こした。
惜しくも勝利を逃した2位サインツJr.、自身2度目のポディウムにのぼった3位ストロールとフレッシュな顔ぶれとなった表彰台。2014年から始まったターボハイブリッド規定化で、メルセデス、フェラーリ、レッドブルのいずれもトップ3に入れなかったのは、これが初めてである。
高速コース3連戦の最後は、初のF1開催となるムジェッロでのトスカーナGP。決勝は9月13日に行われる。
(文=bg)
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