【F1 2021】2つの予選、2つのレース、ぶつかり合った2人の意地
2021.07.19 自動車ニュース![]() |
2021年7月18日、イギリスのシルバーストーン・サーキットで行われたF1世界選手権第10戦イギリスGP。通常の予選に加え、史上初の「スプリント予選」が開かれた今回、レースのオープニングラップでタイトルを争うマックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンが接触し赤旗中断がもたらされ、主役を1人欠いて再開された戦いは、ハミルトンの復活劇の様相を呈するのだった。
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“F1の故郷”で開かれた「初スプリント予選」
「GPウイークをよりエキサイティングにしたい」という興行主の思いと、「本当におもしろくなるのか?」という周囲の疑念が渦巻くなか、今季3つのコースで試験的に行われる「スプリント予選」。その記念すべき1回目の舞台は、1950年にF1最初のレースが開かれた、F1の故郷ともいえる英国シルバーストーンだった。
金曜日は、たった1時間のプラクティスの後に、通常のQ1、Q2、Q3フォーマットで予選を実施。ただしタイヤは全車ソフトタイヤを装着。さらにここでの順位は、土曜日午後のスプリント予選のグリッド順にすぎないという点がいつもと違うところである。予選の上位には、1位はメルセデスのルイス・ハミルトン、2位レッドブルのマックス・フェルスタッペン、3位メルセデスのバルテリ・ボッタス、4位フェラーリのシャルル・ルクレール、5位レッドブルのセルジオ・ペレス、6位マクラーレンのランド・ノリスといったおなじみのドライバーたち。またアルファタウリの角田裕毅はQ1敗退で16位だった。
初日にもかかわらずサーキットに詰めかけた8万6000人ものファンの目の前で、ハミルトンが3連勝中のフェルスタッペンを0.075秒差で破った接戦。セッション後の7冠王者の、若干の安堵(あんど)を含んだ笑顔が印象的な金曜日だった。
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「100kmの予選」を制したのはフェルスタッペン
翌土曜日、2回目のプラクティスを挟んで、いよいよレースのスターティンググリッドを決めるスプリント予選がスタート。通常レースの約3分の1にあたる100kmを駆け抜ける、タイヤ交換義務のない、17周の短期決戦では、フェルスタッペンが素晴らしい滑り出しでトップに立ち、チェッカードフラッグまでの25分間、終始安定したペースでその座を守り切った。
いつもの“純粋な一発の速さ”で勝ち取ったわけではないが、フェルスタッペンが4戦連続、今季5回目、通算8回目のポールポジションを奪ったことになり、スプリント予選で与えられる選手権ポイント3点を追加した。スタートで抜かれた直後、フェルスタッペンに必死に食らいついたハミルトンだったが、その後は逃げられて2位2点獲得。前日の予選での喜びから一転、レッドブルの速さを前に肩を落としていた。そしてボッタスは3位で1点を手に入れた。
ルクレールは4位のままゴール。マクラーレンはノリス5位、ダニエル・リカルド6位とそれぞれ1つ順位を上げた。今回のスプリント予選を一番盛り上げてくれたのは、11番グリッドから出走したフェルナンド・アロンソだろう。大勢がミディアムタイヤを履いたなか、ソフトを選んだ彼のアルピーヌはスタートで一気に6つポジションアップし、2台のマクラーレンを相手に善戦。結果抜かれはしたが、今季最高グリッドとなる7位につけたのだ。
10番グリッドスタートのアストンマーティンのセバスチャン・ベッテルも2つ順位を上げ、今シーズンベストタイの8位。ウィリアムズのジョージ・ラッセルは1つダウンの9位となるも、フェラーリのカルロス・サインツJr.との接触で3グリッド降格。アルピーヌのエステバン・オコンが9位、サインツJr.が10位に繰り上がった。角田は16位のままゴール、ペレスは7位走行中にスピンし最後尾、ピットレーンスタートとなった。
スプリント予選の成果はたった1回だけでは語れず、関係者やファンの視座もまだしっかりしていない。しかし、GPウイーク3日間それぞれに見どころがあり、コース上のアクションも充実していたことは好材料だった。一方で、2つの予選の立ち位置が曖昧になり、金曜日の予選が形骸化するのではといった懸念の声も上がった。この週末を通じて唯一はっきりしたことは、サーキットに戻ってきた観客の存在と反応が、さらなる興奮を呼び起こすということだったかもしれない。
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フェルスタッペンとハミルトンが接触し赤旗中断へ
気温は30度になんなんとする快晴の日曜日。スタンドに鈴なりの観客を前に、この週末の本番、52周のレースが行われたのだが、開始早々に、タイトル争いを繰り広げる2人の接触で赤旗中断となってしまう。
スプリント予選導入によりタイヤ選択は全車自由となったが、ハードを履いてピットレーンスタートとなったペレスを除き、全車がミディアムタイヤを選んでグリッドに並ぶこととなった。
2番グリッドのハミルトンは、今度こそ失敗なく、抜群の加速で先頭のフェルスタッペンに迫った。しかしフェルスタッペンも負けじとアグレッシブなラインでトップを死守し、2台は度々横に並んでは激しいつばぜり合いを繰り広げて高速のターン9「コプス」に進入しようとしていた。そこで、フェルスタッペンの真後ろからインに入ったハミルトンの左フロントタイヤと、フェルスタッペンの右リアタイヤが接触。飛ばされたレッドブルはしたたかにタイヤウォールにヒットし、レースはセーフティーカーののちに赤旗中断となった。レッドブルによれば、このクラッシュの衝撃は51G。自力でメディカルカーに乗ったフェルスタッペンは検査のため病院へと運ばれ、肩の痛みなどは聞かれたものの大事には至っていなかったことが分かっている。
約40分がたち、スタンディングスタートでレースは4周目より仕切り直しとなったが、そこにこの日を盛り上げるはずだった主役の1人はいなかった。中断前の順位は、ルクレールが1位、マシンに軽いダメージを負ったハミルトンは2位、ボッタス3位、ノリス4位、リカルド5位、そしてペレスはまだ最後尾。再スタート後にはルクレールがトップを守り、2位ハミルトン、3位にノリスが上昇し、ボッタスは4位に落ちた。そして5周目になると、ハミルトンへの10秒のタイムペナルティーが決定することとなった。
思わぬかたちでレースリーダーとなったルクレールは、パワーが途切れる現象に悩まされつつも堅調に首位をキープ。しかし、ちょうど70年前のイギリスGPで初勝利を飾った最古参チーム、フェラーリの今季初優勝という夢は、ファンの大声援に後押しされたハミルトンにより、ゴール目前にして打ち砕かれてしまう。
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ハミルトン、起死回生の勝利
想定通り1ストップが大勢を占め、20周を過ぎるころから上位陣のピットも忙しくなった。
それぞれの作業が終わると、トップはルクレール、2位にボッタスが上がり、タイヤ交換に手間取ったノリスは3位、そして10秒ペナルティーを受けたハミルトンは4位。これで終わっては王者の名に傷がつくとばかりに、ハミルトンの挽回劇が始まる。31周目にノリスを抜いたことで表彰台圏内の3位に復帰。4秒前を走るのはチームメイトのボッタスということもあり、メルセデスはボッタスに「ルイスと戦うな」と伝え、41周目にはハミルトンが2位に戻った。
ハミルトンの猛追は続き、ファステストラップを連発しながら8秒前の1位ルクレールを目指す。残り10周で6.4秒、ラスト5周で2.1秒、あと3周でいよいよ1秒を切った。場所は因縁のコーナー「コプス」。果敢にインに飛び込むハミルトンに、ルクレールは蹴落とされコースオフ、ついにメルセデスがトップに立ったのだった。
そんな動きを見て取るや、レッドブルはポイント圏内の10位を走っていたペレスをピットに呼び、ソフトタイヤを履かせコースに戻した。その目的は、ハミルトンが持っていたファステストラップの記録を奪うこと。1点すらライバルに与えたくないという考えだった。
2つの予選で始まった週末は、中断を挟んで様相が異なることとなった2つのレースにより締めくくられた。5月の第4戦スペインGP以来ポディウムの頂点から遠ざかっていたハミルトンが、自らのホームで起死回生の勝利を、そして復活ののろしを上げた一戦となった。
ランキング首位フェルスタッペンのハミルトンに対するリードは32点から8点、またレッドブルもメルセデスへの44点ものアドバンテージが4点に縮まり、2強による対決は事実上の振り出しに戻ったが、同時に両者には遺恨も残った。レッドブル陣営はハミルトンの危険なドライビングを責め、またハミルトンは「フェルスタッペンは十分なスペースを与えなかった」、つまり向こうがドアを閉めた結果のクラッシュだったという見解を口にした。
古今、チャンピオンを目指すライバルの間に接触や意見の相違はつきもの。1980年代の「セナ×プロスト」や1990年に入っての「ヒル×シューマッハー」、そして最近では「ハミルトン×ロズベルグ」といった、コース内外で火花を散らした前例は枚挙にいとまがない。スプリント予選初開催という記念すべきウイークエンドでぶつかり合った2人の意地。その行く末は、歴史のページにどのようにつづられるのだろうか。
次の第11戦ハンガリーGPは、夏休み前の最後のレース。決勝は8月1日に行われる。
(文=bg)