ジウジアーロ×F1ドライバーの家系が5台の新作コンセプトカーを一挙公開

2023.05.08 自動車ニュース 大矢 アキオ
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究極のオフローダーとバルケッタ、そして公道走行可能な耐久マシン

イタリアのカーデザイン会社「GFGスタイル」と「ラフィット・アウトモービリ」は2023年5月3日(現地時間)、米国マイアミで電動コンセプトカー5台を公開した。

GFGスタイルは、2015年にイタルデザインを完全に売却したジョルジェット・ジウジアーロ氏が、子息ファブリツィオ・ジウジアーロ氏と共に同年トリノで新たに設立したデザインコンサルタント会社である。

いっぽうGFGスタイルにデザインを依頼したラフィット・アウトモービリは、ブルーノ・ラフィット氏が主宰する新興自動車ブランド。同氏は1974年から1986年までウィリアムズおよびリジェでF1パイロットを務めたジャック・ラフィット氏(1943年~)の甥(おい)にあたる。2020年には2シーターのハイパーSUV「GテックXロード」を限定リリースしている。ファブリツィオ氏とは学生時代からの親友である。

両社は、F1マイアミGPに合わせて現地で発表会を催した。5台はいずれもファブリツィオ氏のディレクションによる100%電気自動車コンセプトで、「アトラックス」「アトラックス ストラダーレ」「バルケッタ」「バルケッタ クーペ」そして「LM1」と命名されている。ラフィット氏は席上、「(自分の理想のクルマをつくるのは)少年時代以来、約40年の夢でした」と語った。

アトラックスはハードなオフロード走行に耐えるハイパーSUVで、2+1のシート配置が採用されている。発表会でアナウンスされたモーターの最高出力は馬力換算で1200HP、最高速は200mph(321km/h)である。

そのアトラックスを基に、より公道走行を意識してエレガントに仕上げたのがアトラックス ストラダーレだ。

バルケッタは運転席と助手席それぞれが独立したコックピット+ウインドシールドを持つスパイダーである。バルケッタ クーペは、そのシングルキャノピー仕様である。

5台目のLM1は「耐久レース仕様でありながら、公道走行のホモロゲーションを取得できる車両を」というラフィット氏の長年の夢をかなえるために開発された。

いずれもエンジニアリングは、GFGスタイルと以前から関係がある「LMジャネッティ」社が担当した。

ファミリーフィーリング

ファブリツィオ氏は新ブランドであるラフィット・アウトモービリに個性を与えるべく、「スタイル的特徴を定義し、全5モデルに展開することを編み出しました。すなわち、まったく異なるユニークな特徴を持つ、独特のクルマをデザインすることはチャレンジでした」と解説する。

ただしフロントには、5モデルに共通するアイデンティティーが保たれている。低いスポイラーにライトクラスターを挟む水平基調、輪郭が強調されたエアインテーク、そしてブランドエンブレムをかたどったデイタイムランニングライト(昼間走行用ライト)だ。いっぽうBピラーのプロポーションや機能は各車で異なるものの、共通のグラフィックテーマが維持されている。

これは、ファブリツィオ氏の父ジョルジェット氏がかねて強調してきた、同じブランドには家族に相当する意匠、彼の言葉で言うところの“ファミリーフィーリング”を与えるべきという主張とも一致する。

新しさのなかにみる「伝統」

今回、同一のデザインランゲージを持つ5台を同時発表したGFGスタイルだが、彼らのイタルデザイン時代を振り返ると、同様のバリエーション展開がみられる。1987年~1988年のイタル創立20周年記念コンセプトカー「アズテック」「アスピッド」「アスガード」だ。2010年にはコンパクトカーのコンセプト「Go!」「Tex」を同時提案している。ファブリツィオ氏のディレクション下でも、2013年に「パークール」「パークール ロードスター」を2013年のジュネーブで同時発表している。

今回の5台の開発に要したのは6カ月弱。コンピューター支援による開発を早くから採り入れてきたファブリツィオ氏が新たに取り組んだチャレンジだったといえる。開発期間の短縮は、カロッツェリアの世界でも人ごとではない。

5台のうち最もジウジアーロ的デザインといえるのがバルケッタだ。独立した2つのシートおよびキャノピー状のウインドシールドは、遠く1959年にジョルジェット氏がカロッツェリア・ベルトーネ社の就職面接のために描いたスケッチにまでさかのぼる。先に米国で同様のアイデアが1955年の「リンカーン・フテューラ」や1958年の「GMファイアーバードIII」でみられたが、イタリアでは極めて早いものであった。さらに、前述したイタルデザインのアズテックでも試みられている。

先に書いたとおり、LM1は耐久レース仕様でありながら、公道走行を実現したモデルだ。かつてのレースの世界では戦ったあと、同じクルマでサーキットから家まで帰ったドライバーがいた。そうした時代が再び到来することも夢見させてくれる一台である。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=GFG Style/編集=藤沢 勝)

「GFGスタイル」と「ラフィット・アウトモービリ」が2023年5月3日にマイアミで公開した5台のコンセプトカー。写真上左から「アトラックス」「アトラックス ストラダーレ」、下左から「バルケッタ クーペ」「LM1」「バルケッタ」。
「GFGスタイル」と「ラフィット・アウトモービリ」が2023年5月3日にマイアミで公開した5台のコンセプトカー。写真上左から「アトラックス」「アトラックス ストラダーレ」、下左から「バルケッタ クーペ」「LM1」「バルケッタ」。拡大
写真左から「アトラックス」「アトラックス ストラダーレ」「LM1」「バルケッタ」「バルケッタ クーペ」。
写真左から「アトラックス」「アトラックス ストラダーレ」「LM1」「バルケッタ」「バルケッタ クーペ」。拡大
アトラックス
アトラックス拡大
「アトラックス」のタイヤは直径1mにも達する。スペアはクモ形のアタッチメントで支えられる。
「アトラックス」のタイヤは直径1mにも達する。スペアはクモ形のアタッチメントで支えられる。拡大
発表会に登場した「アトラックス」。
発表会に登場した「アトラックス」。拡大
「アトラックス」はシザースドアを持つオフローダーだ。
「アトラックス」はシザースドアを持つオフローダーだ。拡大
「アトラックス」よりも公道走行を意識した「アトラックス ストラダーレ」。
「アトラックス」よりも公道走行を意識した「アトラックス ストラダーレ」。拡大
「アトラックス ストラダーレ」。通常のセンターコンソール部分には専用のトロリーケースが収められるようになっている。
「アトラックス ストラダーレ」。通常のセンターコンソール部分には専用のトロリーケースが収められるようになっている。拡大
発表会場に展示された「アトラックス ストラダーレ」。
発表会場に展示された「アトラックス ストラダーレ」。拡大
バルケッタ
バルケッタ拡大
「バルケッタ」。シザーズドアと連動し、キャノピーもポップアップする。
「バルケッタ」。シザーズドアと連動し、キャノピーもポップアップする。拡大
「バルケッタ」のコックピット。
「バルケッタ」のコックピット。拡大
「バルケッタ クーペ」。Aピラーの延長のように後方に続くビーム(はり)は、GFGスタイルが2020年にリリースした「ドーラ・コンセプト」を再解釈したものといえる。公道走行用オープンモデルとしては異例の高い安全性を実現できるとファブリツィオ氏は説明する。
「バルケッタ クーペ」。Aピラーの延長のように後方に続くビーム(はり)は、GFGスタイルが2020年にリリースした「ドーラ・コンセプト」を再解釈したものといえる。公道走行用オープンモデルとしては異例の高い安全性を実現できるとファブリツィオ氏は説明する。拡大
「バルケッタ クーペ」。リアビューミラーは、ジウジアーロが早くから提唱していたデジタル方式である。
「バルケッタ クーペ」。リアビューミラーは、ジウジアーロが早くから提唱していたデジタル方式である。拡大
「バルケッタ」(写真左)と「バルケッタ クーペ」(同右)。
「バルケッタ」(写真左)と「バルケッタ クーペ」(同右)。拡大
「LM1」のプレゼンテーション風景。
「LM1」のプレゼンテーション風景。拡大
「LM1」は公道走行も可能な耐久マシンというコンセプトだ。
「LM1」は公道走行も可能な耐久マシンというコンセプトだ。拡大
「LM1」のリアビュー。センターには巨大なフィンがせり立っている。
「LM1」のリアビュー。センターには巨大なフィンがせり立っている。拡大
「LM1」のコックピット。左右幅はレースのレギュレーションに準じ、90cmとタイトに設定されている。
「LM1」のコックピット。左右幅はレースのレギュレーションに準じ、90cmとタイトに設定されている。拡大
ジョルジェット・ジウジアーロ氏による若き日のスケッチ。
ジョルジェット・ジウジアーロ氏による若き日のスケッチ。拡大
ジョルジェット・ジウジアーロ氏が1959年12月にベルトーネに提示したスケッチ。
ジョルジェット・ジウジアーロ氏が1959年12月にベルトーネに提示したスケッチ。拡大
ファブリツィオ・ジウジアーロ氏(写真左)と、ブルーノ・ラフィット氏(同右)。
ファブリツィオ・ジウジアーロ氏(写真左)と、ブルーノ・ラフィット氏(同右)。拡大
ファブリツィオ・ジウジアーロ氏(写真左)と、ブルーノ・ラフィット氏(同右)。
ファブリツィオ・ジウジアーロ氏(写真左)と、ブルーノ・ラフィット氏(同右)。拡大