アウディQ6 e-tronクワトロ(4WD)/SQ6 e-tron(4WD)
未来は技術で切り開く 2024.07.02 試乗記 アウディの未来を担う新型電気自動車(BEV)「Q6 e-tron」。その国際試乗会がスペイン・バスク地方で開催された。ポルシェと共同開発した新しい電動プラットフォームと、新世代の電子アーキテクチャーが織りなす異次元の走りをリポートする。各システムの専門家が多数参加
試乗を前に、スタート地点となるスペイン・ビルバオ空港内のラウンジでは、各システムの担当者が入れ代わり立ち代わり登壇して、詳細なブリーフィングが行われた。Q6 e-tronが、アウディにとって非常に重要なモデルだったからだ。
アウディでは2018年に「e-tron」を発売して以来、4ドアクーペの「e-tron GT」、コンパクトSUVの「Q4 e-tron」、そしてラージサイズSUVの「Q8 e-tron」と、BEVのラインナップを展開してきた。ところが、彼らが最も重要なセグメントとする“プレミアムミッドサイズセグメント”だけは商品が欠けており、ようやくそこに投入されるのが今回のQ6 e-tronなのだ。ライバルには「テスラ・モデルY」「BMW iX3」「NIO EL6/EC6」「フォード・マスタング マッハE」「ジャガーIペース」といった車名が並ぶ。
ターゲットとなる購入層は、カップルや若いファミリー層、そして「日常的な使い勝手を求めつつも妥協のないテクノロジーとパフォーマンスを求める人たち」(クリスチャン・ステインホースト プロダクトマネジャー)とのこと。アウディの本拠地である独インゴルシュタットで生産される初のBEVであり、現在は米国市場での発売も準備中。年内には、その他の海外マーケットへも導入されるという。さらに中国向けとして、オリジナルモデルの「Q6L e-tron」を開発して自社工場で生産し、こちらも2025年に市場投入する見込みだ。
このようにQ6 e-tronは、アウディのBEV戦略において主力車種として期待される一台なのだが、同時に技術的にも、既存のBEVとは別の次元にある。核となるのはポルシェと共同開発した電動プラットフォーム「プレミアムプラットフォームエレクトリック(PPE)」であり、また「E3(end to end electronic architecture )1.2」と呼ばれる電子アーキテクチャーを搭載する、最初のモデルでもあるのだ。
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スタンダードモデルの航続距離は最大625km
パワートレインの子細を述べると、リアアクスルに搭載する“ヘアピンコイル”を使ったPSM(永久磁石同期電動機)は、最高出力280kW、最大トルク580N・mを発生。重量は118.5kgに抑えられている。これに加えて、4WD仕様ではフロントアクスルにもASM(非同期電動機)を搭載。最高出力140kW、最大トルク275N・mを発生し、重量は87.5kgだ。いずれも800Vの電動アーキテクチャーで稼働し、レーシングカーに用いるようなドライサンプ方式の冷却システムを採用するなどして、コンパクト化と軽量化を果たしているという。
また、ブレーキの95%がエネルギー回生によって行われるので、ドライバーは効率を気にすることなく、気持ちよくアクセルペダルを踏み込むことが可能。その強さはパドル操作で調整でき、「B」モード(ワンペダルモード)を選択すれば最大の力で回生が行われる。
新開発のリチウムイオンバッテリーは12個のバッテリーモジュールで構成され、そのおのおのが15個の角型セルを内包。重さは590kgで、容量は100kWh(正味は94.9kWh)だ。800Vテクノロジーによって充電開始から40%までは一定して出力270kWで充電できるため、大容量のバッテリーを積みながら10%→80%はわずか約21分。最初の10分間で255kmの航続距離を回復できるという。もっとも、試乗の舞台となったスペインにはこれを試せるような設備はなく、残念ながら、その充電スピードを確かめることはできなかったのだが。ちなみに標準的な400Vの充電ステーションを使うと、2つのバッテリーに135kWの出力で並列充電するよう、自動で充電方式が切り替わる。
性能値を列挙すると、今回試乗した4WDモデルの「Q6 e-tronクワトロ」は、システム出力が285kW(387PS)で、0-100km/h加速は5.9秒、最高速度は210km/h、航続距離は最大625km(WLTPモード、以下同)。高性能版の「SQ6 e-tron」は、システム出力380kW(517PS)で、0-100km/h加速は4.3秒、最高速度は230km/h、航続距離は最大598kmである。
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スピードの感覚がなくなる
こうしたレクチャーにより頭がいっぱいになったところで、ようやく試乗開始である。ビルバオ空港で最初に乗ったのは、スタンダードなQ6 e-tronクワトロの「Sラインパッケージ」仕様。グレイシャーホワイトのボディーカラーにグレーのレザースポーツシートの組み合わせだ。
Q6 e-tronのボディーサイズは全長×全幅×全高=4771×1939×1648mm、ホイールベース=2899mmで、全長はQ4 e-tronより約20cm長く、Q8 e-tronより約13cm短い。エクステリアはe-tron GTや「RS e-tron」にインスパイアされたブリスターフェンダーと、短い前後オーバーハングが目を引くスポーティーなSUVスタイルだ。ディテールに目をやると、完全に閉じられたシングルフレームグリルと、その周囲のワイドなブラックの加飾も目を引いた。既存のQ4/Q8 e-tronと比べてさらにダイナミックな印象で、アウディのスタイルがまた新しい時代に入ったことを主張する。インテリアも同様で、11.9インチの「バーチャルコックピット」と14.5インチのタッチディスプレイを組み合わせた「MMIパノラマディスプレイ」と、助手席側に設置された10.9インチの「MMIパッセンジャーディスプレイ」が、これまでのアウディとは大きく異なった景色を見せている。
130km先にあるワイン農場「HIKA Bodega」を目指す初日のルートは、その3割が高速道路、残りは狭いワインディングロードという設定だった。スペイン北部の高速道路は制限速度120km/hで、直線区間は少なく、代わりに右へ左へとコーナーが連続する箇所が多い。加えて、走っているクルマはどれも結構なハイペースをキープしているのだが、そうした流れのなかにあっても、Q6 e-tronの車内は平静としている。抜群の乗り心地と安定感と静粛性でもって、ドライバーの速度感覚をそいでしまうのだ。試乗前に受けた「いたるところにスピードカメラがあるので、注意してください」という警告が頭に浮かんだ。
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操作だけでなく走りも“デジタル”に
高速を降りた後は、道幅6mほどの狭い対面通行が延々と続く山岳ルートとなる。片側はノリ面、反対側は崖で、高さ1mほどの古いコンクリート壁の向こうは千尋の谷……という、なかなかハードな環境だ。日本にあるようなカーブミラーは全くなく、たまに出現する対向車はスピードを緩めることなく突っ込んでくる。そうした難しいコンディションのなかでも、Q6 e-tronは常に正確にラインをトレースするので、こちらも安心して狭いコーナーをクリアしていくことができた。
Q6ではくだんの電子アーキテクチャー、E3 1.2によって車両が高度にデジタル化されていて、前後のモーターによるパワー配分、サブフレームに直接ボルトで固定されたプログレッシブステアリング、さらにエアサスペンションとダンパーのチューニングなど、走りに関わる多くの部分が5台の高性能ドメインコンピューター「HPC(ハイパフォーマンス・コンピューテングプラットフォーム)」で制御されているのだ。
正確無比な走りの印象は、翌日、サンセバスチャンからビルバオに戻る海沿いの別ルートを走った高性能モデル、SQ6 e-tronで、さらに顕著に感じることができた。ドライブセレクトで「ダイナミック」モードを選ぶと、車高がグッと下がり、少し遠くで鳴る「ドォオオオーン」という低いモーター音とともに力強く加速。コーナーに差しかかれば、ワンペダルモード(Bモード)で見事に減速する。その感覚は、ハイパフォーマンスなe-tron GTや「RS」シリーズのモデル群をほうふつさせるもので、SUVタイプのBEVである既存のQ4 e-tronやQ8 e-tronとは、明らかに異なるものだった。例えて言うなら、今まで使っていたコンピューターを最新のものに入れ替えたときのような、あの感じ。同時に開発されたポルシェのBEV「マカン」もかくやというほどのハイパフォーマンスを満喫できた。
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車載のインターフェイスでゲームを満喫
アウディがこれまでもこだわってきたライティングテクノロジーは、今回のQ6 e-tronにも存分に盛り込まれている。
まずフロントに設置したデジタルデイタイムランニングランプは、70個のLEDを透明な3Dユニット内に収めるかたちで設計(メインのヘッドランプはその下だ)。いっぽうリアランプにはOLED(有機LED)を用いた360セグメントの次世代パネルを搭載しており、車内からMMIを使いて8種類の点灯パターンを自由に選択できる。これを制御するのは先に述べたドメインコンピューターのひとつで、リアランプでは10ミリ秒ごとに新しい画像が生成できるという。今のところは「楽しい」というのが一番の効能といった機能だが、将来的には停車時に三角停止板の形で光って周囲に注意を促すなど、車外とのコミュニケーション(Car to X)機能の可能性も示唆するシステムとなっている。
また、充電時間中に車内で過ごす乗員のための、サードパーティー製のゲームも体験できた。筆者がプレイしたのは「space ship」で、起動するとオプションの拡張現実(AR)ヘッドアップディスプレイに、浮遊する宇宙船とトンネルが出現。パドルシフトで宇宙船の向きを変え、トンネルの奥深くまでどんどん進んでいく……というシンプルなものだけれど、これがやり始めると止まらなかった。今後も、オンラインでさまざまなコンテンツを提供していく予定だという。
“BEVシフト”のスピードが世界中で鈍化したといわれる昨今だが、聞けば今回の試乗会には、中国から22人ものジャーナリストが訪れたというから、かの国ではまだまだBEVへの注目度が高いのだろう。話を聞いた技術者たちの説明も微に入り細に入りで、最新BEVに対する開発姿勢は感動的ですらあった。
Q6 e-tronの日本への導入時期は今のところ未定だが、価格はグレードによって1000万円台の半ばから後半ぐらいを見込んでいるという。
(文=原アキラ/写真=アウディ、原アキラ/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アウディQ6 e-tron
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4771×1939×1648mm
ホイールベース:2899mm
車重:2325kg(空車重量)
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流誘導電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:190PS(140kW)
フロントモーター最大トルク:275N・m(28.0kgf・m)
リアモーター最高出力:381PS(280kW)
リアモーター最大トルク:580N・m(59.1kgf・m)
システム最高出力:388PS(285kW)
タイヤ:(前)235/65R18/(後)255/60R18
一充電走行距離:540-625km(WLTPモード)
交流電力量消費率:19.6-17.0kWh/100km(約5.1-5.9km/kWh、WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
参考電費:--km/kWh
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アウディSQ6 e-tron
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4771×1939×1648mm
ホイールベース:2899mm
車重:2350kg(空車重量)
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流誘導電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:190PS(140kW)
フロントモーター最大トルク:275N・m(28.0kgf・m)
リアモーター最高出力:381PS(280kW)
リアモーター最大トルク:580N・m(59.1kgf・m)
システム最高出力:517PS(380kW)
タイヤ:(前)255/50R20/(後)285/45R20
一充電走行距離:565-598km(WLTPモード)
交流電力量消費率:18.4-17.5kWh/100km(約5.4-5.7km/kWh、WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
参考電費:--km/kWh

原 アキラ
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