プジョー3008 GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド(FF/6AT)
どこまでもフランス流 2025.09.22 試乗記 世界130カ国で累計132万台を売り上げたプジョーのベストセラーSUV「3008」がフルモデルチェンジ。見た目はキープコンセプトながら、シャシーやパワートレインが刷新され、採用技術のほぼすべてが新しい。その進化した走りやいかに。さすがはプジョーの屋台骨
プジョー3008は、プジョー初の自社製クロスオーバーSUV(三菱自動車によるOEMの「4007」という前例はあったが)として、2010年に初代モデルが発売された。その後、初代とは一転したスポーツクーペルックをまとって2017年に登場した2代目が世界中で大ブレーク。その年の欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しただけでなく、およそ7年間のモデルライフの間に、世界130カ国で累計132万台を売り上げて、欧州CセグメントSUVのベストセラーといえる一台になった。
よって、今回の3代目は、その2代目のコンセプトをキープした正常進化版である。車体サイズは全方位で少しずつ拡大しながらも、リアウィンドウをさらに傾斜させることで特徴的なクーペルックをより強調している。分不相応なくらい立派なセンターコンソールを中心にドライバーを取り囲む、独特のコックピットスタイルのインテリアも健在だ。
いっぽうで、基本骨格は、従来の「EMP2」にかわる次世代プラットフォーム「STLAミディアム」に一新。同プラットフォームは、この新型3008が初出しだ。パワートレインも、1.2リッター直3ターボのハイブリッドと1.6リッター直4ターボのプラグインハイブリッド、そして電気自動車……の“三刀流”というか、“ひとりマルチパスウェイ?”とでも呼びたくなる多様なラインナップを用意する。さすがはプジョーの屋台骨。商品企画やデザインはド直球の正常進化ながら、技術はほぼすべてが新しい。
ちなみに、日本向けの新型3008は今回試乗した1.2リッターの「ハイブリッド」が先行発売されて、この2025年内に電気自動車の「E-3008」も追加予定。残る1.6リッターターボのプラグインハイブリッドについては、今のところ日本導入のアナウンスはない。
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デザインや装備に出し惜しみなし
それにしても、3008は新しくなっても、相変わらずのオシャレ番長というほかない。実車のデザインは、画像で見る以上に凝った美形である。
新型3008はリアウィンドウを先代より強く傾斜させただけでなく、フロントのAピラーの根元もグッと後ろに引くことで、FRスポーツカー的な“ロングノーズ+スモールキャビン”のプロポーションを醸成している。また、フロントエンドは最新の「408」や「2008」と同様の車体同色グラデーションのフレームレスグリルに、これまでのような1本ずつの“牙”から、3本ずつの“爪痕”がモチーフとなったデイタイムランニングランプを左右に従えさせている。
また、すべてのウィンドウモールを“隠しデザイン”としたのも新型3008の売りである。言葉や画像だけだと「だからどうした?」と冷めたツッコミを入れたくなる向きもあろうが、実車を前にすれば、その効果は納得するほかない。このおかげで、クルマ全体のカタマリ感が飛躍的に上がっているからだ。
インテリアも正常進化のアゲアゲである。ファブリックを随所にあしらったコックピットデザインは従来どおりの路線だが、運転席の囲まれ感はさらに強烈になり、手触りのいいファブリックが、隅々までこれでもかと張りめぐらされる。そして、ドライバー前とセンターを一体化した大型ディスプレイや、任意のショートカットキーを置ける中央の「iトグル」など、そこに組み合わされるインターフェイスもすべて最新である。デザインや装備に出し惜しみはなし。さすがの屋台骨。
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この乗り味にハマってしまう
今後出てくるステランティスの新型車すべての基礎となる予定のSTLAプラットフォームは、多様なパワーソースに対応しつつ、「スモール」「ミディアム」「ラージ」「フレーム」の4サイズがある。そのうち、新型3008にも使われるSTLAミディアムは、従来のEMP2系プラットフォームと同様にC~Dセグメントに使われることになっている。
ただ、試乗車のような右ハンドル仕様でも、ブレーキのマスターシリンダーが左側に残されるところや、右ハンドルの助手席側のグローブボックス容量があからさまに小さくなるところは、前身にあたるEMP2系と変わらぬ弱点である。実際、ブレーキフィールはそのペダル構造の問題か、回生制御との兼ね合いの問題か、あるいはその両方か、いずれにしても利きもリニア感ももうちょっと引き上げたいところだ。
いっぽうで、基本形式は前後とも従来どおりながらも新開発となったサスペンションは素直によくできている。豊かで滑らかなストローク感も心地いいが、それ以上に、路面に根を下ろしたかのようなリアの安定性がうれしい。
超小径のステアリングホイールは近年のプジョーのお約束だが、そのぶんステアリングギアレシオもスローになっているので、外周部分での絶対的な操作量は格別にクイックなわけではない。
とはいえ、ステアリングホイール自体が小さく軽いと、つい操作は速くなりがち。3008はそれを見越して、シャシー自体はあえてゆったりとした動きにしつけてある。前後方向はしなやかで荷重移動も滑らかであるいっぽう、ロール剛性は明らかに高めだ。前記のように強固に安定したリアを軸に動くので、超小径ステアリングを少しばかり手荒にあつかっても、クルマ自体は過敏に動いたりはしないし、姿勢はくずれにくい。こうした特性は歴代3008でも一貫しており、この乗り味にハマって3008を乗り継いでいる人も意外に多いのかも……と思ったりもする。
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必要十分だが十二分とはいえない
この1.2リッターターボのハイブリッドは、48Vというシステム電圧や控えめなモーター性能から“マイルドハイブリッド”と定義する向きもある。これをプジョー日本法人はマイルドハイブリッドと表記するが、本国ではマイルドとは呼んでいない。
実際には、ハイブリッド専用の新開発6段DCTにモーターが内蔵されており、低速発進や低負荷巡航でEV走行になるのもしばしばである。
このパワートレインはすでにステランティスグループの各車で広く使われているが、マナーにちょっとクセが出ている例もある。ただ、今回は新プラットフォームのおかげもあるのか、その種のクセはいい意味で弱めだった。
さすがにEV発進からいきなりアクセル全開みたいな下品なあつかいではショックが大きいが、それ以外はモーター駆動の出入りもまずまずスムーズ。モーターアシストのおかげか、従来の純エンジンモデルより振動騒音も軽い。エンジン単体の特性はいかにも現代的なフラットトルク型ターボだし、最大トルクは230N・mあり、しかも電動アシストもつくので、市街地や都市高速で流れに乗るには不足はない。
ただ、その動力性能がドンピシャなのは、プジョーならひとクラス下の2008というのが正直なところで、3008でも必要十分ではあるが十二分とはいえない。とくに高速で100km/hを超えてくると、アタマ打ち感が出るのも事実。19.4km/リッターというWLTCモード燃費は優秀だが、現実の交通環境でキビキビ走らせようとすると、アクセルの踏み込みが大きくなって実用燃費は意外に伸びない。
このように、新型3008では少し物足りなさがなくはないステランティスの最新ハイブリッドだが、大きめの車体を、あえて非力気味のパワートレインで走らせるのは、昔から馬力課税がおこなわれるフランスの伝統でもある。新型3008も動力性能は控えめでも、アシがいいので長距離移動のアベレージは意外なほど高い。これぞフランス車である。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=ステランティス ジャパン)
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テスト車のデータ
プジョー3008 GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4565×1895×1665mm
ホイールベース:2730mm
車重:1620kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:136PS(100kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:230N・m(23.5kgf・m)/1750rpm
モーター最高出力:22PS(16kW)/4264rpm
モーター最大トルク:51N・m(5.2kgf・m)/750-2499rpm
システム最高出力:145PS(107kW)
タイヤ:(前)225/55R19 103V/(後)225/55R19 103V(ミシュランeプライマシー)
燃費:19.4km/リッター(WLTCモード)
価格:558万円/テスト車=559万8120円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ETC1.0車載器(1万6060円)/電源ハーネス(2060円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2349km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:430.0km
使用燃料:38.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.0km/リッター(満タン法)/11.5km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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