レクサスがポルシェ・アウディらとタッグ 急速充電網の提携で何が変わる?
2025.03.20 デイリーコラム日本最大の充電ネットワークが誕生
レクサスは2025年2月、ポルシェ、アウディ、フォルクスワーゲンの3ブランドが統合展開しているBEVオーナー向けのプレミアム充電サービス「Premium Charging Alliance(プレミアム チャージング アライアンス)=PCA」との業務提携に関する覚書の締結を発表した。具体的には「LEXUS Electrified Program(レクサス エレクトリファイド プログラム)=LEP」とPCAの急速充電設備ネットワークを2025年7月から連携させることで、LEP会員とPCA会員はそれぞれのアプリケーションを通じて、相互の高出力急速充電サービスが利用可能になるということである。
まずは現状を整理しよう。LEPはレクサスのBEVオーナー向けの専用サービスで、全国のレクサス販売店に一般的な出力の急速充電器を設置するだけでなく、商業施設などに150kWの急速充電器を備えた「レクサス充電ステーション」を設置。同ステーションではLEPの対象者のみ、専用アプリを通じて高出力急速充電器の事前予約と充電状況の把握、支払いなどがシームレスに行える。
レクサスは「2030年までに100カ所を目標としてレクサス充電ステーションの全国展開を行う」としているが、2025年3月中旬時点では、全国で5カ所のみの設置にとどまっている。
それに対してPCAで利用可能な高出力急速充電器は、2025年2月中旬時点で371拠点・385基にのぼっている。
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レクサスのBEVユーザーにはメリット大
最大350kW級の公共急速充電インフラ整備が進んでいる欧米に比べ、日本国内の公共急速充電インフラは高速道路などでも、一部を除いて最大90kW出力の設備である場合が多い。そして日本でEVに乗って移動していると「90kWどころか、50kWの急速充電器しか空いてないじゃないか……」という悲しい事態にもしばしば遭遇する。
近距離スペシャルである小型EVの場合はさておき、レクサスが今後目指すとしている「プレミアムなEV」の利便性を担保するには、出力150kWの急速充電はミニマムな性能とすらいえる。その意味で2025年7月以降、LEP会員となったレクサスのBEVユーザーが、全国のポルシェ、アウディ、フォルクスワーゲン販売店に設置されている150kW充電器(一部90kWもあり)を利用できるようになるというのは朗報だろう。
2025年7月以降にLEP会員がPCAの高出力急速充電器を利用する際の料金は今のところアナウンスされていないが、現時点(2025年3月中旬)におけるLEPとPCAそれぞれの料金設定は以下のとおりだ。
●LEXUS Electrified Program
- プログラム加入料:レクサスブランドのBEVを購入したユーザーは無償
- レクサス充電ステーションの利用
- 基本料金:新車は3年間、レクサス認定中古車(CPO)は2年間無償 それ以降は月額1000円
- 従量料金:80円/分
●Premium Charging Alliance
- 基本料金:月額会員プラン=1800円/月 都度会員プラン=0円
- 月額会員プラン従量料金:150kW=75円/分、90kW=45円/分
- 都度会員プラン従量料金:150kW=200円/分、90kW=120円/分
- 登録料金:2000円(都度会員プランは不要)
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レクサスは2035年にBEV販売100%を目指す
前述したとおり「プレミアムなEV」の利便性を担保するためには、150kW出力の充電器の設置はマストまたはミニマムであるといえる。その意味で、PCA以外でも150kW充電器が増えつつある現状はレクサスのBEVユーザーにとってうれしい話であろう。そして、どこかのうらぶれた道端ではなく「レクサスと同様のエクスクルーシブでラグジュアリーな世界観に包まれているポルシェ、アウディ、フォルクスワーゲンの各販売店」で急速充電のための時間を過ごすことができるという点も、レクサス車のユーザーにとっては好ましい話であるに違いない。
これに加えて「2030年までに全国で100カ所を超えるレクサス充電ステーションの展開を目指す」というプランが予定どおり完遂されるのであれば、レクサスのBEVは急速充電の面においても「常にラグジュアリーな気分でいられる」ということになり、おおむね非の打ち所のない存在となるはずだ。
しかし同時に思うのは、「レクサスは本気で2030年までにBEVでフルラインナップを実現し、その5年後の2035年にはグローバルでBEV販売100%を目指すのだろうか?」ということだ。
筆者個人は、これからの“たかが10年”で、BEVが(ハイブリッドを含む)内燃機関を一掃できるほどの全方位的な実用性能を獲得するのは不可能であると考えるため、「レクサス、本気かよ?」と思ってしまうのである。
とはいえレクサスだからこそ、その方向性でいいのかもしれない。
実用的なクルマによって社会全体を支えているトヨタブランドが「2035年には100%BEVにします!」と言い出したら徹底的に反対の声を上げたいが、そもそも少数の人に向けたプレミアムブランドであるレクサスは、何がどうなったところで「世の中の大勢」にはさほどの影響は及ぼさない。とことん充電の利便性を高め、エレクトリック化にとことんまい進したとしても、それはブランド自身と、それを選ぶ裕福で趣味的な顧客の自由でしかないのだ。
(文=玉川ニコ/写真=ポルシェジャパン、アウディ ジャパン、フォルクスワーゲン ジャパン、トヨタ自動車/編集=櫻井健一)
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玉川 ニコ
自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。
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