第13戦ベルギーGP「明と暗の分水嶺」【F1 2010 続報】
2010.08.30 自動車ニュース【F1 2010 続報】第13戦ベルギーGP「明と暗の分水嶺」
2010年8月29日、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで行われたF1世界選手権第13戦ベルギーGP。レッドブルの“鬼門”とされるスパでマクラーレンが奮闘した今回、例年通りの気まぐれな空模様が各人の明暗を分けた。
■名物“スパ・ウェザー”にもてあそばれて
4週間のサマーブレークを経て再開したF1は、11週で7戦をこなす怒とうの終盤戦に突入した。事実上タイトル争奪戦は5人─ポイントリーダーのマーク・ウェバーを筆頭に、2位ルイス・ハミルトン、3位セバスチャン・ベッテル、4位ジェンソン・バトン、5位フェルナンド・アロンソ─に絞られたが、1位と5位の間にはわずか20点の差しかなく、この接戦を抜け出すには、微細なことの積み重ねが重要となる。
そういった意味で、今回のベルギーGPは微細とは言い難い明と暗に分かれた。例年どおり気まぐれな空模様“スパ・ウェザー”が分水嶺をかたちづくり、明に流れるもの、暗に落ちるものの境となったのだ。
前者は、もちろんウィナーのハミルトンと2位に終わったウェバーのことであるが、だがこの2人とてトラブルフリーだったわけではない。スタートからトップに立ったハミルトンは順調にリードタイムを広げたが、雨脚が強まった35周目、ドライタイヤのままコースオフ。しかしギリギリで壁との接触を避け、かつ首位を維持したまま戻ることができた。
ウェバーは、今季5度目のポールポジションをスタートの失敗でフイにし一気に7位に後退。そこからしぶとく周回を重ね、最終的にはロバート・クビサのピットでのトラブルに助けられ2位でフィニッシュし、18点を追加できた。
いっぽうアンラッキーの先鋒はアロンソだ。オープニングラップで前人未到の300戦目を達成したルーベンス・バリケロに追突され、その後復帰したものの今度は自分が雨でスピンしリタイアをきっした。
序盤に2位を走行したバトンだったが、フロントウィングにダメージを負っておりペースがあがらない。その背後でいら立ちを覚えていた3位ベッテルは、16周目の最終シケイン手前でマシンを制御不能状態とし2台は激しく接触。バトンはマシンを降り、ベッテルはクラッシュの責任を取らされドライブスルーペナルティを受け、その後追い上げるも前車を抜く際にタイヤを痛めパンクに遭い、ポイント圏外の15位でレースを終えた。
今年3勝目をマークしたハミルトンはポイントを182点とし、それまでポイントリーダーだったウェバーを3点しのいで再び首位の座に躍り出た。雨で自滅したベッテルはハミルトンに31点差、無実のバトンは同35点差、アロンソに至っては41点ものギャップをつけられてしまった。1勝で25点を獲得できる今年のF1にあって、逆転はまだまだ可能な点差だが、取り返すためには自力とともに多分な運が必要となってしまった。
リザルト上の明暗はかくも大きなものとなったが、不安定な天候に踊らされたのは5人とも同じ(むしろドライバー全員がそうだ)。各人の差は、一瞬の判断や居場所の違いによる、読めない天候がもたらした、ほんのささいなことに起因していた。
■レッドブルの“鬼門”
2010年の最速マシン、レッドブルにとって、スパは“鬼門”と思われていた。全長7kmものコースは、直線的なセクションをメインに、山間部のツイスティな部分が合わさった構成。トップスピードに劣るレッドブルが苦手な、そして直線で有効な「Fダクト」のアドバンテージを生かしたマクラーレンらが得意とするレイアウトである。
その下馬評を覆してウェバーが予選1位につけたが、2位ハミルトン、そしてFダクトを付けたルノーのロバート・クビサが3位と、スピードに自信のあるライバルたちがポイントリーダーの背後に忍び寄った。
決勝日の予報は雨、だったが、何しろここはスパである。いつ、どの程度の雨が、長いコースのどこで降るのかを当てるのは至難の業だ。スタートから10分後に降る、という予報も聞かれたが、フォーメーションラップの時点で既に雨粒が路面を叩きはじめていた。
シグナルが変わった瞬間、エンジンをストールしかけたウェバーを、ハミルトン、クビサ、バトン、ベッテル、フェリッペ・マッサ、エイドリアン・スーティルが次々と抜いていった。
オープニングラップを締めくくる最終シケイン、濡れた路面をドライタイヤで走り抜けようとした各車がバランスを崩し多くのマシンがコースをカットしていくなか、バリケロとアロンソの接触が起き、最初のセーフティカーが導入された。
この間、通り雨と判断した上位陣はピットに入らず、ドライタイヤを装着し続けた。再スタート後、ハミルトン1位、クビサをオーバーテイクしていたバトン2位とマクラーレンの1-2フォーメーションが早々に完成していたが、バトンはフロントウィングを破損しており、ハミルトンはあっという間にリードを築いていった。
ウェバーは2周目に7位から5位にあがり、16周目のベッテルとバトンの接触を受け、早くも表彰台圏内の3位まで挽回(ばんかい)した。
序盤のシャワーはすぐに止み、ほぼドライレースとなっていたが、44周のレースが30周を過ぎることには、またしても黒い雲がコースに近づいていた。トップのハミルトンがコントロールラインを通過し35周目に突入した直後、いよいよ空が泣き出し、スリックタイヤのハミルトンはグラベルに寄り道するはめに。今度の雨は強めでより長い時間降るだろう、ということで、ここでようやく上位陣は溝付きウェットタイヤを装着することになった。
38周、アロンソがクラッシュしコース上にマシンを止めたことで、2度目のセーフティカーが導入された。この徐行走行が終わる頃には残り4周となり、水煙立ち上る隊列は、時折各所でコースをはみ出しながらゴールを目指したのだった。
■レッドブル対マクラーレン=ウェバー対ハミルトン?
ベルギーGPを終え、トップ3チームのうちフェラーリが苦しい立場に追いやられ、覇権争いはレッドブルとマクラーレンに絞られた感がある。アロンソは大きな差をつけられ、コンストラクターズチャンピオンシップでも、レッドブル330点、マクラーレン329点に対し、フェラーリは250点と大きく突き放された。
では、ドライバーズタイトル争いがウェバーとハミルトンに絞られたかといえば、いずれのチームも「ノー」という立場を引き続きとっている。ランキング2位のウェバーは、レース後、そろそろ1人のドライバーに注力すべき時期が近づいている、と発言したのに対し、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は「まだ150点(6勝分)もある」と時期尚早であるという見解を示し、マクラーレンのマーティン・ウィットマーシュもハミルトンとバトンを対等に扱うことを明言した。
二兎を追うものは一兎をも得ず、ということわざは、F1界にも通用する。チームの采配にもいよいよ注目が集まる残り6戦だ。
次戦は早くもヨーロッパ最終戦、イタリアGP。またも直線的かつ高速な、レッドブル向きではないモンツァが舞台となる。決勝レースは9月12日に行われる。
(文=bg)
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