2つの工場が持つ性質の違いは何のため? ダイハツが誇る九州の製造拠点を見学
2026.07.29 デイリーコラム軽自動車の77%が九州製
ダイハツの本拠地といえば大阪。その本社をはじめ、近隣の滋賀県や京都府にも工場を構えているので、ダイハツ車は関西生まれと連想しがちだったのだが、実はダイハツの軽自動車の約8割が九州製なのだ。多くのダイハツ軽の故郷であるダイハツ九州の大分(中津)工場を訪問し、良品廉価のクルマづくりの現場に潜入した。
ダイハツが九州に生産拠点を構えたのは2004年のこと。その前身は、1960年に群馬県前橋市に設立されたダイハツ前橋製作所(後のダイハツ車体)である。もともとは中島飛行機前橋第1工場の跡地だったそうだ。3輪トラック「ミゼット」の生産からスタートし、戦後の復興を助け、その流れから「ハイゼット」シリーズも手がけてきた。現代に至り、生産能力の拡張や工場の次世代化などを目的に工場移転を決断。社名も新たにダイハツ九州とした。
移転先である大分(中津)工場の敷地面積は、130万平方メートル。よくある例えだが、東京ドームが約28個も収まるほどの広さだ。移転と同時に第1工場が稼働。2007年には第2工場が加わった。両工場を合わせた生産台数は、2025年度が44.1万台で、ダイハツの総生産の50%、軽生産の77%を占める。なんと、大分以外でつくられる軽自動車は「コペン」と「タント」だけ。まさにダイハツ軽の生命線ともいえる生産拠点なのだ。ちなみに、出荷もスムーズにできるように、隣接する中津港まで約2kmの専用道路も備えている。
それぞれの工場の特徴を見ていこう。第1工場は多品種混流ラインが特徴。ハイゼットや「アトレー」などの軽商用車に加え、「ムーヴ キャンバス」も同じラインを流れている。さらに、上記のモデルをベースとした特装車も手がける。その数は型式だけで「124」にも上る。また現在は製造されていないが、登録車にも対応可能なマルチな生産ラインでもある。
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メインラインとバイパスライン
そのフレキシブルさに感心する一方で、一つの疑問が頭をよぎる。これだけ種類が多いと車種ごとの製造時間差の影響も大きいのではないかと……。ダイハツ九州の担当者に尋ねてみると、最も短い「ハイゼット トラック」と最も長いムーヴキャンバスでは、時間差が約95分にもなるというではないか。ただ、生産ラインは最も短時間で仕上がるハイゼット トラックをベースに組まれている。その時差を埋める工夫がメインとは別に設けられたバイパスラインだ。軽トラよりも工数が多い車種は、このバイパスラインで必要な組付けを行い、再びメインラインに戻されるのだ。
より手間がかかる特装車には、専用架装のための作業場であるドックを用意。ドックは仕様ごとに分かれており、全部で6つ設けられている。一部を紹介すると、Aドックでは、「デッキバン」を、Dドックでは「赤帽仕様」を製造。このドックの仕組みを応用して、電気自動車(BEV)のバッテリーユニットの搭載などもできる。工場の中に小さな専用工場をつくってしまったというわけだ。近くには塗装ブースまで構えている。注文によっては特装車に専用の塗装を施すこともあるからだ。追加の設備を設けることで、全ての車種がボディー組み立てから最終の完成検査までをひとつのラインで終えられるようになっている。
しかし、メインラインに多品種が流れているのは作業者にとっては大変なことだろう。分かりやすい例が、第1工場でのパワートレインの組付けだ。ハイゼット(エンジン車)のミドエンジン・リアドライブやムーヴ キャンバス等のフロントエンジン・リアドライブ、「eアトレー」系のリアモーター・リアドライブの3種がランダムに流れてくるのだから。搭載位置が若干異なるので、車種によって作業者の動きにも変化がある。
より新しい第2工場の特徴は、軽乗用車に特化したラインであること。ここでは、「ミラ イース」「ムーヴ」「タフト」、さらにムーヴ キャンバスの4車種を生産している。そのため、生産される型式は第1工場の半分以下の「54」。こうしてあるのは、「SSC」のマザー工場という役目を担うためだ。SSCとは「シンプル」「スリム」「コンパクト」の頭文字であり、すなわち工場のスペースの削減、工程の短縮、設備の簡素化を実現することで、今後もダイハツの良品廉価なクルマづくりを継続するための基礎となるべき、新たな生産工場を具現したものとされる。実際、第1工場との差は明確で、両工場の年間生産台数はともに23万台だが、工場の面積は半分で、設備も4割減を実現。工場内を見学していても、メインラインが小さくすっきりしていることを感じた。工程や設備が簡素化できれば、コストダウンにつながるだけでなく、設備故障のリスクも減らせる。まさに将来にわたって、安くていいクルマをつくり続ける秘策のひとつというわけだ。そのため、同工場のノウハウは、国内工場だけでなく、海外工場にも展開。さらに海外では、トヨタとの協業拠点でも取り入れられ、磨かれている。世界の人々に安くていい日本車を届けることにも貢献しているのだ。
目指すは「メイドイン九州」
しかし、単に価格が安いだけでは、消費者の役に立つとは限らない。そのニーズをしっかりと受け止めるべく、フレキシブルに稼働する第1工場の存在がある。特装車まで取り扱うのもそのためで、顧客の声に柔軟な対応ができるように、ダイハツ九州が開発から製造までを一貫して行っている。決して利益率の高い商品ではないが、メーカー純正だからこその信頼や使いやすさを提供したいというこだわりだ。実は、一部の新型軽自動車では、開発にもダイハツ九州が携わることで、品質と価格のバランスに貢献している。また第1工場は、SSC実現のためのテストの場でもあり、それを第2工場の進化に役立てている。個性の異なる2つの工場の存在こそが、ダイハツ車をより成長させるために重要なのだ。
そのための礎となるのが、熱心かつ地元愛にあふれたスタッフによるチーム力だ。本社と工場のある大分(中津)とエンジン製造を担う久留米工場を合わせた従業員は約3000人。そのうち92%が現地採用という地域密着型企業であるが、同社も日本中の他の製造業と同じように人材の確保という悩みを抱えている。それを裏づけるように、従業員の平均年齢は年々上昇傾向にあり、現在の「37歳」が10年後には「43歳」になると予想されている。そのため、長く働けるだけでなく、誰でも楽に作業ができる労働環境づくりに、社員自ら取り組んでいる。そのキーポイントのひとつが、肉体的負担の軽減や削減だ。例えばかつては人力だったドアパネルの取り付けは、ロボットがサポートするように改善されている。担当者が「若いころはドアパネルを自らボディーまで運んで取り付けていたが、つらい作業だった」と振り返っていたのが印象的だった。無塗装・骨組みだけの状態でもドアパネルの重さは12㎏以上、日々数えきれないほどの数を扱うのだから、負担の大きさは想像以上だろう。ベテラン従業員になれば技術レベルは上がっていく一方で、加齢とともに重量物の運搬などがつらくなる。そこでロボットや搬送機などを活用し、人的負担を減らす工夫を盛り込んでいる。
さらにダイハツでは、九州内で車両の開発から調達、製造までを九州内で完結させる体制の構築に取り組んでいる。つまり、「メイドイン九州」体制だ。サプライヤーの工場も周辺地域に集まっており、基盤づくりは進んでいるが、肝となるのは人材だ。そのため、ダイハツ九州では、「みんなから選ばれる会社になろう」という企業スローガンを掲げている。従業員はさまざまな施策を通じて、働きたいと思われる職場、そしてみんなが欲しくなるクルマをつくるため、懸命かつ前向きに取り組んでいる。われわれユーザーも、多くのダイハツ車が「メイドイン九州」であることを意識し、応援してあげることも大切なのではないかと思う。
(文=大音安弘/写真=大音安弘、ダイハツ工業/編集=藤沢 勝)

大音 安弘
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