いばらの道のフォルクスワーゲン再建計画 ――10万人のリストラと4工場閉鎖は本当か?――
2026.07.31 デイリーコラム止まらない経営環境の悪化
最近、フォルクスワーゲン(VW)グループの経営不振にまつわる報道をよく目にする。VWグループは2025年の純利益が前年比37.8%減と、2年連続で3割超の減少だった。これを受けて「2030年までにドイツ国内のグループ従業員を5万人減らす」というリストラ策を2026年3月に公表したのだ。今回の経営不振の主たる原因は、アメリカでのトランプ関税、中国市場での不振、そして性急すぎた電気自動車(BEV)シフトといわれる。
そして、この2026年上半期(1月~6月)のVWグループの純利益は、前年同期からさらに35.7%減となって、経営環境の悪化に歯止めがかかっていない状況が明らかになった。それに合わせて、VWグループがさらなるリストラを検討中とドイツ国内メディアが報じた。報道によると、その内容は、当初の計画から5万人の上乗せとなる世界で最大10万人の人員削減に加えて、ハノーバー、ツヴィッカウ、エムデン、そしてアウディのネッカーズルムというドイツ国内の4工場を閉鎖する……というものだ。
ハノーバーは「ID.Buzz」のほか商用車やピックアップトラックを、ツヴィッカウは「ID.4」やアウディの「Q4 e-tron」をはじめとしたMEBプラットフォームのBEVを、エムデンは日本向けのID.4や日本未導入の「ID.7」などのBEVを生産している。そして、ネッカーズルムはもともとアウディの前身メーカーのひとつであるNSUが本拠としていた土地で、現在もアウディの「e-tron GT」や「A5」「A6」を生産し、つい最近までは「A8」、さらにさかのぼると「R8」などを手がけていた、アウディの象徴ともいえる工場のひとつだ。いずれにしても、これらの人員削減や工場の閉鎖が実現すれば、VWグループ史上最大規模の経営再編になる。
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固定費に手をつけにくい特有の事情
こうして世界が注目するなか、VWグループは2026年7月9日に再建計画を発表した。その骨子は「車種数を段階的に50%削減」「装備オプションも75%減少」「プラットフォームやソフトウエアを地域に合わせて統合する」というもので、注目されていた人員削減や工場閉鎖は盛り込まれなかった。報道によると、やはり労働組合(労組)側の反対が強かったからだという。
この再建計画については、国内外メディアで「生ぬるい」という論調が大半だ。なるほど発表内容だけを見ると、人員や生産設備などの経営を圧迫する固定費には手をつけないまま、車種やオプションの選択肢、そしてプラットフォーム統合など、商品まわりの削減やコストダウンにしか言及していない。車種数や仕様数の削減、プラットフォーム共有化も経営の効率化には欠かせないが、そこは自動車という商品そのものの魅力や商品性に直結する部分でもあり、やりすぎると肝心の販売台数や売上高への影響も懸念される。
もっとも、そこにはドイツやVW特有の事情もある。ドイツの大企業の監査役会は、株主代表と従業員代表が半数ずつで構成されている。つまり、経営にまつわる重要事項を決定する場で、経営側と労組側の力関係が均衡しているのだ。さらに元国営企業のVWには、生産工場の設立や移転には、監査役会の3分の2以上の賛成が必要という特別法も適用される。
日本でも“企業は社会の公器”といわれるように、労使が対等に手を取り合う理念そのものは悪いことではない。しかし、スピード感のある改革が求められる局面では、それが足かせになることも少なくない。今回も労組に加えて、20%の株式を握る(VWが本社をかまえる)ニーダーザクセン州の政府も、人員削減と工場閉鎖に反対したらしい。
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改革の足を引っ張る過去の成功体験
また、VWグループが大胆なリストラになかなか踏み切れない背景には、かつての成功体験も影響しているかもしれない。
VWはこれまでにも何度か経営難に見舞われているが、最大級のもののひとつが1992年~1993年の危機といわれている。当時のVWグループは、グローバル競争の激化に備えて、1986年にスペインのセアトを、そして1991年にチェコのシュコダを買収するも、その成果が出る前に、主力の西欧市場で販売不振に見舞われた。しかも、似たような部品をライバルのオペルやフォードより15%も高い価格で仕入れていたことも重しとなり、1993年には営業赤字におちいってしまう。
そんななかで新会長となったフェルディナント・ピエヒ氏は、ブランドを横断したプラットフォームの共用化など、商品開発手法にメスを入れるとともに、人員削減の可能性も探った。当時もドイツ国内の20%≒3万人の削減が必要とされたが、労組側はそれを拒否。労使の話し合いの結果、VW側は2年間の雇用維持を約束し、労組側は賃金20%ダウンを受け入れるかわりに、労働時間の削減を含めたワークシェアリング制が導入された。それまでの週休2日を週休3日として、あまった時間を職業教育などにあてた。そうこうしているうちに、VWグループの業績も回復。こうして人員削減を最小限にとどめながら成し遂げられた経営再建は、VWの本拠地になぞらえて当時「ウォルフスブルクの奇跡」ともいわれた。
筆者のような門外漢の勝手な想像をお許しいただければ、今回の経営計画が煮え切らない印象なのも、労組やニーダーザクセン州政府に、このウォルフスブルクの奇跡の記憶があるからでは……とかんぐりたくもなる。
しかし、実際の状況はそう楽観できるものでもないようだ。経営計画発表後の2026年7月24日に開かれた2026年上半期の決算説明会で、VWグループのオリバー・ブルーメCEOは、あらためて最大10万人規模の人員削減が「競争力強化に必要」と表明して、労組との協議を続けて年内にさらなる合理化案をまとめる意向を示した。生産拠点についても、まずは稼働率向上に取り組むとしつつも、「経営合理化の最終手段」として工場閉鎖に言及している。欧州最大の自動車グループ再生ストーリーは、まだまだ序盤にすぎないようだ。
(文=佐野弘宗/写真=フォルクスワーゲン、newspress/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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