これが日産復活の切り札! いいクルマを速くつくる「ファミリー戦略」とは何か?
2026.09.14 デイリーコラム「順々に企画」では勝負にならない
日産自動車は2026年8月21日にメディア向け説明会を行い、新たな開発プロセスである「ファミリー戦略」について説明した。従来は個々のモデルごとに企画して開発していたが、複数の車種をひとつの「ファミリー」と捉えて企画・開発するのがファミリー戦略である。「やりたいことは、『より魅力のある商品を、より納得のできる価格で、よりタイムリーに』お客さまに届けること」と、説明役を務めた商品事業企画部 副本部長の佐々木英王氏は話す。
従来の日産の企画・開発はまず“マザーモデル”を決めることから始まった。イメージしやすいように仮に「エクストレイル」がマザーモデルだとしよう。すると、マザーモデルであるエクストレイルに必要な技術をひととおりそろえることになる。そろえる技術は、プラットフォームやパワートレイン、ソフトウエア、コンポーネント(ナビシステム、先進運転支援システム系、シートなど)に分類できる。
次に「キャシュカイ」を企画・開発するとする。このクルマを開発するときに必要な技術はマザーモデルであるエクストレイルを開発する際に一応は考えておいたつもりだったが、いざ開発してみると不足が生じ、新たに起こす技術が出てくる。キャシュカイの次に「セントラ」の開発に取りかかると、また足りない技術が発覚し……。
「今までは、あるクルマを企画して設計し、次のクルマを企画して設計し、とやっていくうちにちょっとずつ違う部品がたくさん出てくる状況でした。それらの部品に対して設計作業や品質確認が必要になる。サプライヤーさんとの共同作業も必要になるので、すべてが掛け算になります(結果、工数が膨大になる)」
開発の手戻りが多いこともあり、ひとつのモデルを開発するのに約50カ月を費やしていた。4年2カ月である。これだけの開発期間を費やしていると、4年2カ月後にウケると思って企画した内容が陳腐化してしまう恐れがある。開発開始から3年後に、「これはもうだめだろう」と気づいたところで後戻りはできない。実際に日産はそういう経験をしたということだろう。開発期間を短縮しないことには勝負にならないと実感したわけだ。
拡大 |
必要な技術を“ファミリー”で決める
モデルごとの開発で、専用の部品を採用できるとも限らない。初期につくるモデルほど生産のボリュームは大きくなる傾向にあり、アセットを有効活用する後のモデルほどボリュームは小さくなる傾向にあるという。
となると、後でハイパフォーマンスなクルマをつくりたいと企画しても、「少量なので経済合理性がなく専用の部品開発はNG。だから、企画そのものにゴーサインは出せない」となる。また、後から30スピーカーの高級オーディオが欲しいとなっても、最初に10スピーカーしか想定していなければ対応するのに余計なコストと時間がかかるため、「ゴーサインは出せない」となる。スピーカーの数や位置はあらかじめ想定し、必要なブラケットなどはあらかじめ織り込んでおかなければならない。
だからこそのファミリー戦略である。エクストレイルもキャシュカイもセントラも、その次や次のモデルも含めて、4車種~5車種程度のモデルを最初に一括で企画し、必要な技術(プラットフォーム、パワートレイン、ソフトウエア、コンポーネント)をきっちり決めておく。すると、2番目、3番目のモデルを開発するときに違う部品を開発する必要がなくなるので開発期間を短縮できるし、そのぶんの労力を「魅力ある商品の開発」に振り向けることができる。
目指す開発期間は、マザーモデルで37カ月、後継モデルで30カ月(2年半)だ。これならクルマが出るころに陳腐化している恐れはなく、十分に競争力を維持できると読む。これまではモデルごとに意思決定をし、違う部品を開発したりしていたが、ファミリー戦略では基本的にそれをやらず、2番目、3番目のモデルでのブレを極力抑える。そのため、最初の意思決定が重要になり、責任は重くなる。ただし世の中の動きに合わせて軌道修正できるような柔軟性は持たせるという。
拡大 |
ノウハウと部品の共有がポイント
複数車種をまとめて企画すると聞くと、マツダの「一括企画」が思い浮かぶ。これは5年~10年先に必要となる商品・技術をまとめて企画し、開発部門と生産部門が一体となり、車種間で共通化する固定要素と、各車種の個性となる変動要素を明確にしたうえで、将来の多様な商品に対応できる構造と工程を設計するものだ。簡単に言えば、多様な車種をあたかもひとつの車種であるかのように開発する。2012年の初代「CX-5」から始まった、いわゆる“第6世代商品群”で初めて適用された。
日産は「技術ノウハウを共用するところはマツダと同じ」と認める。一方で、「違う」と強調する側面もある。
「(技術)ノウハウの共用と並行して物理的な共用化も進めていきたいと考えています。日産はグローバルにクルマをつくり続けていて、(世界中に)工場をたくさん持っている。われわれはお客さまのことを真剣に考えて個別最適した結果、ものすごい種類の部品をつくり続けてきました。その結果、部品を管理するだけで身動きが取れなくなってきました。部品の管理工数を減らし、浮いたぶんを、日産らしさを取り戻すことに振り向けたいと考えています」
ファミリー戦略の採用は、部品の数を減らす狙いも含まれている。無駄なバリエーションを増やさないことで部品管理のコストを減らすのも、新しい開発プロセスを採用する狙いだ。
考えてみればファミリー戦略の採用は社内で周知すればよく、わざわざ公表する必要はない。黙って進めれば、失敗しても外からは分からない。それなのにあえて公表したのは、逃げ道をふさぐ意図があるからだろう。不退転の覚悟というわけだ。何としてでも状況を変えるんだという、日産の決意の表れである。思惑どおり、魅力ある商品が納得のいく価格で、タイムリーに出てくるかどうか、しっかり見守っていこうではないか。
(文=世良耕太/写真=日産自動車、webCG/編集=関 顕也)
拡大 |

世良 耕太
-
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビューNEW 2026.10.29 メルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。
-
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る 2026.10.28 ポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。
-
ホンダが次世代ハイブリッドの名称を「Honda Hybrid」に決定 命名の理由とその背景を探る 2026.10.26 本田技研工業が2027年からグローバルで用いる次世代ハイブリッドシステムの名称を発表した。その名は「Honda Hybrid」である。「i-MMD」から「e:HEV」へと変更されて6年。慣れ親しんできた名称が変更される理由と、その背景を探る。
-
「マツダRX-7」の復刻部品を生産!? ミクニの挑戦は旧車オーナーの福音となるか? 2026.10.23 ミクニが「マツダRX-7」向け復刻部品の開発検討を開始した。古い自動車部品の供給は、なぜここまで困難を極めるのか? ミクニの挑戦は世のロータリーオーナーにとって福音となるか? 日本の自動車文化に潜む課題と、その解決に挑む企業と人をリポートする。
-
2028年までに復活! 名車「シトロエン2CV」の現代版はその名に値する一台か? 2026.10.22 パリモーターショー2026の会場で大注目を集めた「シトロエン2CVコンセプト」。あの「2CV」の復活とあって多くのファンが目を輝かせるが、それは名車の名を継ぐに足る一台なのか? オリジナルの2CVに乗る今尾直樹が魅力に迫る。
-
NEW
写真で解説する「メルセデス・ベンツ・エレクトリックGLC」
2026.10.28画像・写真メルセデス・ベンツの新たなフル電動SUV「エレクトリックGLC」がデビュー。2026年10月28日に国内での注文受け付けがスタートした。一体どんなクルマなのか、その見どころを写真とともに解説する。 -
NEW
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る
2026.10.28デイリーコラムポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。 -
NEW
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】
2026.10.28試乗記「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。 -
NEW
第134回:アウディデザイン水掛け論 ―これが未来のアウディか? 「ヌヴォラーリ」と他のモデルに見る不整合―
2026.10.28カーデザイン曼荼羅微妙に迷いが見えていたアウディのデザインに、新しい潮流が? これまでとは異なるモチーフが取り入れられた「ヌヴォラーリ」の造形は、次世代のフォーシルバーリングスを指し示すものなのか? カーデザインの識者と、アウディデザインの未来について考えた。 -
第879回:メルセデスがうたう「想像以上」は本当か? フル電動の新型「メルセデス・ベンツCLA」に1000km乗ってわかったこと
2026.10.27エディターから一言フルモデルチェンジした「メルセデス・ベンツCLA」の中でも本命とされるのが「CLA with EQテクノロジー」。新世代EVをアピールするメーカーのうたい文句は本当なのか、北海道で1000km乗って確かめた。 -
ダイハツ・ミラ イースtuned by D-SPORT Racing(FF/5MT)【試乗記】
2026.10.27試乗記ダイハツのベーシックな軽乗用車をもとに、ラリーやレース向けの競技車両に仕立てた「ミラ イースtuned by D-SPORT Racing」。軽量ボディーをロールバーで固め、力強いターボエンジンを搭載した一台は、クルマの楽しさを学べる教科書のような一台となっていた。
































