第10戦イギリスGP「レッドブルの憂うつ、マクラーレンの悩み」【F1 2010 続報】
2010.07.12 自動車ニュース【F1 2010 続報】第10戦イギリスGP「レッドブルの憂うつ、マクラーレンの悩み」
2010年7月11日、イギリスのシルバーストーン・サーキットで行われたF1世界選手権第10戦イギリスGP。下馬評通りレッドブルが強さと速さをみせつけマーク・ウェバーが圧勝、大幅なアップデートが決まらず応急処置を施したマシンで挽回(ばんかい)し、ルイス・ハミルトンは2位でフィニッシュした。タイトルを争う2強チームがポディウムの上位を分け合ったが、表彰台での笑顔の奥には、それぞれの頭痛の種が見え隠れしていた。
■記念の地で、2強の対決
今年60周年を迎えたF1世界選手権の、記念すべき第1回大会が行われた地、シルバーストーンにGPサーカスが“戻ってきた”。2010年からイギリスGPを開催することが決まっていたドニントン・パークが、コース大改修にともなう資金繰りに失敗。1987年以来毎年GPコースをつとめてきた“ホーム”に、再びお鉢が回ってきたのだ。
飛行場を利用した平坦なコースは、通算10度目となる大きなコースレイアウト変更を受け、後半部分がインフィールドに食い込んだ「アリーナ・セクション」として生まれ変わり、距離も800m近く延び5.9kmとなった。
この歴史あるシルバーストーンで優勢と目されていたのがレッドブルだった。コース改修されてもハイスピードな性格はそのまま。究極のエアロマシンである「RB6」は、昨年の「RB5」同様、このサーキットで他を寄せつけないパフォーマンスを発揮するであろう、というのが下馬評だった。
これに対し、数々のニューパーツを満を持して投入したのがマクラーレンだ。なかでも、既に他のライバルも採用に踏み切っている、排気ガスでダウンフォースアップをはかる「ブロウン・ディフューザー」に注目が集まったのだが、レースウィーク初日の金曜日、チームはこの新機軸を早々にあきらめなければならなくなった。
フリー走行中、「MP4-25」を駆るハミルトンとジェンソン・バトンは、ハンドリングとセットアップに悩み、コースオフするシーンがたびたびみられた。レッドブルに1.5秒以上ものタイム差をつけられたのをみて、マクラーレンは急遽ディフューザーを元に戻し、応急処置バージョンで予選、決勝にのぞむこととなった。
予想された通り、レッドブルは予選でフロントローを独占し、2番グリッドのウェバーはスタートでトップに立つとファステストラップを次々と更新し後続を引き離した。途中セーフティカーランでマージンが帳消しになってもその勢いは止まらず、今季3回目、チームにとっては5回目の勝利を収めた。
いっぽう最悪の出だしだったマクラーレンは、予選でハミルトンが4位の座をしとめ、スタートで2位にジャンプアップを果たし、ウェバーにはまったく歯が立たなかったものの、そのままの順位でゴール。バトンも14番グリッドから4位フィニッシュと、上々の成績を収めることができた。
チームは両チャンピオンシップでトップを守ったが、シーズン折り返しのこの1戦でアップデートがうまく機能しなかったことは、今後の戦況を占う上で大きなマイナス材料となる。
そして大勝したレッドブルにも、暗雲が垂れ込めている。土曜日のフリー走行、セバスチャン・ベッテルのマシンがフロントウィングにダメージを負ったことを受けて、チームはウェバー車の新型ウィングを取り外し、ベッテルに与えたのだ。パーツの量に限りがあったとはいえ、ベッテルをひいきしているようにみえるこの決断にウェバーは憤慨。快勝の後も「ナンバー2ドライバーにとっては悪くない結果だね」と無線で皮肉った。
タイトルを争う両陣営にはそれぞれの頭痛の種がある。2010年は、まだ9戦も残されている。
■レッドブル1-2、早々に崩れる
予選でライバルに0.8秒もの大差をつけたレッドブル。52周先にある今年3度目の1-2フィニッシュは、しかし決勝スタート早々に難しくなった。
2番グリッドのウェバーがトップを奪い1コーナーへ。ポールシッターのベッテルは、クラッチのセッティングを誤りスピードが伸びず後退。さらに予選4位のハミルトンと接触したからか、右リアタイヤをパンクさせてしまい、ピットに入りほぼ1周遅れの最後尾に落ちた。
パンクで順位を落としたマシンがもう1台。予選7位のフェリッペ・マッサが僚友フェルナンド・アロンソと当たりタイヤを痛め、ピットへと駆け込んだ。
1位ウェバー、2位ハミルトンと続き、6位から3位にあがったロバート・クビサ、5位から4位にアップしたロズベルグ、3位から5位に下がったアロンソらが追いかける展開。だがクビサのルノーはペースが思わしくなく後続にフタをする格好となり、この時点で優勝争いは2台に絞られた。
ウェバーは序盤からファステストラップを連発し、ハミルトンを突き放しにかかる。両者のギャップは、5周で1.5秒、10周で2.9秒と徐々に開き、この日の力量の差が明らかになりはじめた。
前戦ヨーロッパGPでマシンアップデートがうまく結果に結びつかなかったフェラーリだったが、この週末は好調さを示し、アロンソが予選で3位を獲得。出だしでつまずき5位にドロップしたが、順位を挽回すべくタイヤ交換後、7位クビサに照準を合わせていた。
17周目、クビサに並びかけたアロンソはコースをはずれ、ショートカットしてクビサを抜いてしまった。通常ならクビサに順位を“返す”のだが、アロンソは「クビサに押し出された」として7位に居座ったまま。ほどなくしてクビサのルノーがメカニカルトラブルでリタイアしたが、スチュワードはアロンソにドライブスルーペナルティを科すことにした。このペナルティ発令の直後に、コース上にザウバーのパーツが落ちていることでセーフティカーが導入され、アロンソは再開後に罰を受けることでポイント獲得すら絶望的となった。
セーフティカーが入ったことは、ベッテルにとっては朗報だった。各車の差が詰まったことで、31周目のレース再開後に次々と前車を追い抜き、33周目にはマッサ、38周目にはクビサ、その翌周にはヒュルケンベルグをオーバーテイクし9位に。41周目にはミハエル・シューマッハーを料理し8位にあがり、そして残り2周でエイドリアン・スーティルから7位の座を奪いチェッカードフラッグを受けた。
■サポートする側、される側のはざま
ベッテルが怒濤(どとう)の快進撃で観衆をわかせたのと比べると、トップのウェバーは目立たないレースに終始した。後ろでハミルトンが善戦するのを尻目に、必要なときに必要なだけペースをあげ、いとも簡単にみえるほどファステストラップを立て続けに更新し圧勝した。
シーズンの折り返しを過ぎ、今年のウィナーはこれまで5人。最多の3勝がウェバーで、バトン、ベッテル、ハミルトンが2勝ずつ、そして開幕戦を制したアロンソが1勝を記録している。
チャンピオンシップでは、トップのハミルトン、2位バトン、3位ウェバー、そして4位ベッテルまで24点の差がある。ポイント制度が変わりウィナーに25点が与えられるようになった今年、1回の勝利でポジションが変動する機会をはらんだ激しいコンペティションとなっている。
このことには、もうひとつの意味をみつけることができる。マクラーレンとレッドブル、それぞれのチーム内の序列も、均衡がとれているため、サポートする側、される側に明白なラインを引きづらくなっているのだ。先に記したレッドブルの2人の微妙なバランスも、このことが大きく影響しているはずである。
次戦からは夏の2連戦、7月25日のドイツGP、8月1日のハンガリーGPを経て、3週間のブレークが待っている。
(文=bg)
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