第7戦トルコGP「最速チームの死角」【F1 2010 続報】
2010.05.31 自動車ニュース【F1 2010 続報】第7戦トルコGP「最速チームの死角」
2010年5月30日、トルコのイスタンブール・パーク・サーキットで行われたF1世界選手権第7戦トルコGP。レース前から勝者が2人に絞られている、すなわちレッドブルのいずれかが真っ先にチェッカードフラッグを受けるであろうという大方の予想は、58周のレース中40周目に起きた同士討ちにより大きく覆された。
■“あってはならない事故”
エアロ・コースのスペイン、メカニカル・グリップが求められるモナコ。性格のまったく異なる2つのコースで他を圧倒し連勝したレッドブルとマーク・ウェバーが、ここトルコで3戦連続、4度目のポールポジションを獲得した。僚友セバスチャン・ベッテルは3番グリッド。レースデイを迎え、向かうところ敵なしのレッドブルは、今年3度目の1-2を目指し、ウェバーはハットトリックに向かって突き進んでいた。
過去2戦ほどの一方的なアドバンテージはなかったものの、強力なダウンフォースを武器に、直線スピードで勝る強敵マクラーレンを従えての1-2体制。レースはレッドブルのもくろみ通りの展開となっていた──40周目までは……。
4台による接近戦のなか、長いバックストレートの後のターン12手前、2位ベッテルは1位ウェバーのインに思い切って飛び込んだ。レッドブルの2台はサイド・バイ・サイドの状態から、瞬く間にベッテルの右リアタイヤとウェバーの左サイドポッドが接触、ベッテルはマシンを回転させ激しくコースアウト、リタイア。ウェバーはコースアウト直後に復帰することができたが、マクラーレンの2台に先行を許し、優勝を逃した。
興奮ぎみにマシンを降りたベッテルは、頭の横で指をクルクルと回転させ、チームメイトへの怒りをあらわにした。そしてゴールまで走り切り3位となったウェバーは、表情を硬くしながら、奥歯にものが挟まったような発言に終始した。
言ってしまえば、よくあるレーシング・アクシデントかもしれない。現にスチュワードから何のおとがめもなかった。だが、優勝争いを繰り広げていた2台同士の接触ということ以上に、いまチャンピオンにもっとも近いチーム内での“あってはならない事故”であったことが大きかった。
かつてマクラーレンでアイルトン・セナとアラン・プロストが、あるいは最近ではフェルナンド・アロンソとルイス・ハミルトンがそうであったように、勝てるマシンを与えられた2人のドライバーの間にはある種のあつれきが運命づけられている。頂点のいすはひとつしかない。強烈なエゴで他人を蹴落とすメンタリティがない限り、この激烈ないす取りゲームには勝てない。
レース後、ウェバー、ベッテルともに自分に非がないことを訴えていた。これをきっかけにレッドブルのなかに確執が芽生えたとしたら、最速マシンをもってしてもチームのかじ取りが困難となり、今後の戦況もわからなくなる。アロンソ、ハミルトンの関係悪化が足を引っ張り、結果としてキミ・ライコネンとフェラーリにタイトルをさらわれた、という2007年シーズンの記憶もまだ新しい。2010年のターニングポイントになるかもしれない1戦で、2人のチャンピオンを擁する“確執歴の先輩格”マクラーレンが勝利したということに、何かの因果を感じてしまう。
■レッドブル“接触の背景”
ポールシッターのウェバーの横には、今年初フロントローのハミルトン。3番グリッドにベッテル、次いでジェンソン・バトンと、レッドブルとマクラーレンが互い違いに並んだ。この予選順位が示唆するように、レースは2強同士の拮抗(きっこう)した展開となった。
走行ラインのアドバンテージを生かし、シグナルが変わった瞬間、クリーンなサイドの3位ベッテルは前方横の2位ハミルトンを抜き、早くもレッドブルがトップ2を占めた。しかしコーナー1つでハミルトンがすかさずオーバーテイクし、同じカラーリングのマシンの間にシルバーのマシンが割って入った。
スペイン、モナコでは後続を引き離せた首位ウェバーも、この日はハミルトンの猛チャージにあう。両者はおよそ0.5秒程度と僅差(きんさ)で周回を重ねたが、15周でトップ2台が同時ピットインをすると様相が変わる。リリースまで時間のかかったハミルトンは、このタイミングでウェバーを抜けなかったばかりか、コースに復帰すると逆に後ろのベッテルに抜かれ3位に落ちてしまったのだ。
何もなければ1ストップレースとなる今年のF1。最初(ほとんどのマシンにとっては唯一)のピット作業を終えると、1位ウェバー、2位ベッテル、3位ハミルトン、4位バトンという2強が数珠つながりとなっていた。この4台は2秒内に収まっており、5位ミハエル・シューマッハー以下後続の視界からどんどん遠ざかっていった。
そして、40周目の接触が起きた。実はこのとき、トップのウェバーは燃費走行に切り替えたばかりだったことが、レッドブルのチーム代表、クリスチャン・ホーナーの口からレース後語られた。
その1周後に同じモードで燃料をセーブしなければならなかったベッテルは、すぐ背後に迫るハミルトンからのプレッシャーも加わり、僚友のスピードが鈍るこの一瞬に賭けたのだ。
追い抜かれる方と追い抜く方。F1がスポーツである以上、両者に求められるのは当たらない分だけのスペースだ。ウェバーとベッテルの間には、それが皆無だった。
いっぽう、思わぬ1-2が転がり込んだマクラーレンの2人も、その後の丁々発止で観客をわかせた。小雨降る残り9周という時点、レッドブルと同じターン12でバトンがハミルトンの間隙(かんげき)を突き、続く最終セクションでの並走の後、首位の座を奪った。
だがそのオーダーも数百メートル程度で元に戻り、ターン1手前でハミルトンが首位奪還に成功。2人のチャンピオン経験者が駆る2台の同じマシンは、接触することなく、チームにとって第4戦中国GP以来となる1-2フォーメーションのままチェッカードフラッグをくぐり抜けた。
■マクラーレンがランキングトップに
前戦モナコで結成以来初めてコンストラクターズランキングトップに躍り出たレッドブルは、今回1-2をみすみす逃したことで、得られたはずのポイント43点をまるまるマクラーレンに献上。その結果、マクラーレンがわずかながら1点上回り首位に立った。
ウェバーは引き続きドライバーズランキングをけん引しているが、2連勝で築き上げたポイントと自信が、この事件で揺らぐようなことがあれば……背後に迫る2位バトン、3位ハミルトン、4位フェルナンド・アロンソ、5位ベッテルまでが、1勝=25点獲得でトップに浮上する可能性を持つ。タイトル経験者とそうでないものの違いは、マシンの性能差以上に、精神面に作用するかもしれない。
次戦は久々の北米ラウンド、カナダGP。決勝は6月13日に行われる。
(文=bg)
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