最終戦アブダビGP「それぞれの2010年に向けて」 【F1 09 続報】
2009.11.02 自動車ニュース【F1 09 続報】最終戦アブダビGP「それぞれの2010年に向けて」
2009年11月1日、新設されたヤス・マリーナ・サーキットで行われた初開催のアブダビGP。今年17戦目にして最後のレースで、新2強のブラウンとレッドブル、新チャンピオンのジェンソン・バトンと前年王者ルイス・ハミルトンら、役者たちが揃って輝きを放っていた。
■新コースで迎える1年の終わり、一時代の終焉
2009年最終戦の舞台は、オイルマネーで潤うアブダビに建てられたヤス・マリーナ・サーキット。バーレーンに次ぐ中東2カ国目、かのヘルマン・ティルケがデザインした最新コースでのGPは、数々の興味深い特徴を持っていた。
文字通りヤス島のマリーナ沿いに横たわる1周5.5km(ちなみに周回数は55周)のサーキットは反時計回りで、現役GPコース最長となる1.2kmのストレートを持つ。コース前半はヘアピンを含め7つのターンが続き、中間部は2本の直線を中心とした高速セクション、そして後半は市街地コースのように壁が迫る90度コーナーが次々とあらわれる。
ストレートの終わりにあるランオフエリアは観客ひしめくスタンドの真下に潜り込んでおり、コースオフしたマシンはスタンド下に吸い込まれるように消える演出がなさせる。さらにピットロードも個性的で、マシンはコンクリートの壁に挟まれた狭い道を駆け抜け、メインストレート地下のトンネルをくぐり抜けコースへと出ていく。
コースをまたぐ格好でそびえるウルトラモダンなヤス・マリーナ・ホテル、太陽光発電を行う高さ60メートルのサン・タワーを含め、この国のやる気と懐具合があからさまに表現されたサーキットといえる。
2009年シーズン最後のレースであり、そして夕方5時に決勝レースがスタートし、徐々に夜の帳に包まれていくという初の“トワイライト・レース”であるアブダビGP。既にドライバーズ、コンストラクターズ両タイトルは前戦ブラジルで決しているが、決して消化ゲームにはならなかった。
ランキング2位の座を虎視眈々と狙うものが他を圧倒し、とてつもないプレッシャーから解き放たれた新王者は久々に伸び伸びと戦い、前年チャンピオンは苦しかった1年を次への糧にすべく善戦し、サーキットをわかせた。
2009年は、2強と呼ばれたチームが、マクラーレンとフェラーリからブラウンとレッドブルに変わった。まさにジャイアント・キリングとなった1年の終わりは、一時代の終焉とも重なる。
1994年から導入されたレース中の給油が、ここアブダビで見納めとなった。トラクションコントロールやアクティブサスペンションといったハイテク装備の禁止とともに、エンターテイメント性を向上させるために採用されたのがリフューエリング(再給油)だった。だがレース戦略の複雑化が進み、レースそのものがわかりづらくなったということで批判の対象ともなった。それと矛盾するように、給油タイミングが勝敗を大きく左右するようになり、単調なレース展開をもたらすともいわれた。
かつてない大幅なレギュレーション変更が勝負の行方に大きく影響した今シーズンに続き、無給油レースとなる2010年も混戦模様となるのだろうか? 新興チームを加えグリッドが活況を呈するであろう来季は、3月14日のバーレーンGPからはじまる。
■ハミルトンの善戦と苦戦、ベッテルとバトンの好走
アブダビレースウィークの出だしから好調だったのがハミルトンだった。金曜日の最初のプラクティスでトップ、2回目で2位。そして土曜日のプラクティスでも2位につけ、予選ではQ1、Q2、Q3すべてで最速タイムをマークし、最終的に2位に0.7秒もの差をつけ今季4度目のポールポジションを獲得した。
このレース、2008年王者に死角なしかと思われたが、予想に反しマクラーレンのエースは序盤から苦しい戦いをしいられる。スタートで首位の座を守り、同じく好調のレッドブル勢、ベッテルを2位に、ウェバーを3位に従え周回を重ねるが、この2人を引き離すことができないでいた。ハミルトンのマシンは、3周目から右リアのブレーキパッドに問題を抱えはじめていたのだ。
トップ3台は互いにファステストラップを記録し、三つ巴のマッチレースを展開。18周に1位ハミルトン、翌周3位ウェバー、そして20周目に2位ベッテルがそれぞれピットに駆け込むと、ベッテルがトップに立ち、ハミルトンは2位に落ちていた。
そしてほどなくして、マクラーレンはブレーキトラブルの悪化を理由にハミルトンをピットへ呼び戻し、リタイアを決断した。
これで俄然優位となったベッテル。2位ウェバーは数秒後方にいる。バリケロと争っていたチャンピオンシップ2位の座を、若きドイツ人は静かに闘志を燃やし狙っていたのだ。ベッテルはバトンの6勝に次ぐシーズン4回目の勝利を力強く手繰り寄せ、来季の雪辱に向け、この1年を最良のカタチで締めくくった。
その後方では、プレッシャーから解放された新チャンピオン、バトンが好走。スタートでウェバーと接触しフロントウィングを壊していたチームメイトのバリケロを早々に抜くと4位、そしてハミルトンのリタイアで3位にあがると、終盤2位ウェバーに猛然と襲いかかった。
2人の間にあった12秒ものタイム差は、残り6周というところでノーズ・トゥ・テール状態となり、白(ブラウン)が紺(レッドブル)に並びかけるシーンが何度かみられた。最後まで順位逆転はならなかったが、バトンの復活を印象づける最終戦だった。
■可夢偉、来季のシートに近づく
もちろん、勝者やチャンピオンだけがレースを戦っていたのではない。今季限りでF1を撤退するBMWザウバーにとって、ニック・ハイドフェルドのシュアな走りは最高の置き土産となった。ハイドフェルドは5位でフィニッシュし、チームに4点を献上。BMWはウィリアムズを抜き、コンストラクターズ選手権を6位で終えることができた。
そしてトヨタの小林可夢偉は、デビュー2戦目にして初入賞6位ゴールという快挙を成し遂げた。予選12位から1ストップ作戦でのぞみ、一時は表彰台も狙えた。ピットアウト直後のバトンをブラジルGP同様に困らせ、チャンピオンを見事追い抜くなど、冴えた走りを随所で披露した。出走した2戦の出来映えをみれば、来シーズンのシートもいよいよ確かなものになってきたといっていいだろう。
スタート時に沈みかけていた太陽はすっかり水平線の彼方に姿を隠し、暗闇と人工の光が支配する夜にゴールを迎えた。60年目のF1ワールドチャンピオンシップは、17戦の全スケジュールを終了した。
(文=bg)
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