第12戦ベルギーGP「ライコネン対フィジケラ、真剣勝負」【F1 09 続報】
2009.08.31 自動車ニュース【F1 09 続報】第12戦ベルギーGP「ライコネン対フィジケラ、真剣勝負」
2009年8月30日、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで行われたF1世界選手権第12戦ベルギーGP。戦闘力不足で今シーズン苦境に立たされていたフェラーリのキミ・ライコネンと、シーズン序盤にはバックマーカーにすぎなかったフォースインディアのジャンカルロ・フィジケラ、意外な組み合わせの一騎打ちは、最後までフラットアウトの真剣勝負だった。
■意外なリザルト
最初のGPが開かれたのが1925年という伝統のコースであり、ドライバーの間でも人気のあるスパ・フランコルシャンは、1コーナーから名物オールージュ、ケメル・ストレートと続く長い全開区間をもつハイスピードトラックだ。これだけ高速なコースは、今年のカレンダーのなかでは次のイタリアGPの舞台、モンツァ以外にない。この際立ったコースで、意外なリザルトがもたらされた。
その意外性を演出したのは、2年目の新興チーム、フォースインディアと、GP出走226戦のベテラン、ジャンカルロ・フィジケラだった。
かつてジョーダンとして1990年代のF1に新風を巻き起こした、イギリスはシルバーストーンをベースとするGPチームは、ミッドランド、スパイカーと名前を変え、2008年からフォースインディアとしてグリッドに並んでいる。インドの実業家で大富豪のビジェイ・マリヤが中心となり、インドのプレゼンスを前面に押し出したこのチームは、これまでポイント獲得の経験すらない弱小チームだったが、今年からはマクラーレン・メルセデスとの技術提携が始まり、着々と上位進出に向けて体制を整えてきていた。
今年のモナコでは9位フィニッシュと初入賞まであと一歩のところまでこぎ着け、シーズン中盤のマシンアップデートにより調子は上向いていたものの、このチームが、高次でのパフォーマンスが問われるスパで優勝争いに絡むとは、誰も予想していなかっただろう。
トップを争った相手は、これまでここで3勝している“スパ・マイスター”、フェラーリのキミ・ライコネン。GPキャリア3勝の老兵フィジケラと2007年チャンピオン、ライコネンは、最後まで全開走行で覇を競り合い、ライコネンはわずか0.9秒差でレースを制した。
前戦ヨーロッパGPで5年ぶりの勝利を味わったルーベンス・バリケロしかり、今回のフィジケラしかり、30代半ばを過ぎた200戦を超える年長ドライバーが2戦連続で久々に上位に顔を出した。フィジケラは、怪我で欠場中のフェリッペ・マッサの代役候補として、次戦イタリアでフェラーリを駆るのではないかと噂されているひとりであるが、彼がフェラーリに乗るか否かは別にして、ベテランが走る意欲を再確認した2戦であったことは間違いないだろう。
これら“オジサンドライバー”の活躍を、マッサのシートでカムバックしたかった、ミハエル・シューマッハーがどういう気持ちでみているか、気になるところである。
■ライコネンの勝負所
意外なレースウィークは土曜日の予選からはじまった。トップ10グリッドを決めるQ3まで駒を進めたフォースインディアのフィジケラが、まさかの最速タイムでチーム初、自身4度目のポールポジションを獲得したのだ。予選2位はヤルノ・トゥルーリ、同3位ニック・ハイドフェルド、4位バリケロ、5位ロバート・クビサと、上位には新鮮な名前が並んだ。タイトルを争うトップランナーはグリッド中段に沈み、セバスチャン・ベッテル8位、マーク・ウェバー9位、そしてポイントリーダーのジェンソン・バトンは苦しい14位。予選結果からすれば、ランキング2位のバリケロが点差を大きく詰められる有利な状況にあった。
だが日曜日の決勝スタートでは、そのバリケロが早々に脱落。今年何度か見られたストール気味のスタートで大きく順位を落とし、ポイント圏外からレースを組み立て直さなければならなくなった。
それでも、チームメイトのバトンよりは幸運だった。オープニングラップ、ケメル・ストレート後のレコームでロマン・グロジャンにヒットされたポイントリーダーのマシンはコースを外れ、レース続行不可能に。今年全戦で得点していたバトンは初めて無得点でレースを終えた。スタート後の混乱で、ルイス・ハミルトン、ハイメ・アルグエルスアリを含む4人がリタイアに追い込まれ、セーフティカーが導入された。
1位フィジケラ、2位には、6位からKERSのおかげでジャンプアップしたライコネン、3位クビサ、4位ティモ・グロック、5位ウェバーというオーダーで5周目にレース再開。壁のように立ちはだかるオールージュを抜けると、トップのフィジケラに、KERSで80馬力余分にパワーを得たライコネンが襲いかかった。
レース後ライコネンが語ったように、勝敗の行方はこのオーバーテイクで決したといっていい。両車、同じようなタイミングでのピットインが予想され、しかもこの日のフォースインディアには、首位を守り切るだけのスピードがあった。フェラーリにあったのは、KERSによるアドバンテージ。その利点を生かすべきタイミングをライコネンは逃さなかった。
久々に1位を走るライコネンだったが、フィジケラは終始背後にピタリとつけたまま1秒前後後方を追走。2度のピット作業とも2台同時に行ったが順位は変わらず、44周のレースでは最終的に0.9秒しか差がつかなかった。これだけトップ2が長きにわたり接戦を繰り広げたのも久しぶりといえる。
ライコネンにとって今年4度目のポディウムは、2008年スペインGP以来となる頂点。自身通算勝利数は「18」となった。またフェラーリにとっては今季初、通算210回目の勝利となった。
ウィナーがライコネンなら、2位に入ったフィジケラはこのレースのヒーローである。220戦を超える老兵と、フォースインディアという30戦目にようやくポイントを獲得できた新興チームの飛躍。そして最古参チームとの攻防。F1の層の厚さが織りなす、勝負の面白さがここにある。
■バトン、復活の糸口
トップ2が僅差で鍔迫り合いを繰り広げるいっぽうで、チャンピオン争いを展開するブラウン、レッドブルは悲喜こもごもだった。
バトンのリタイアのメリットを最大限まで生かしたいランキング2位のバリケロは、スタート失敗後なんとかポイント圏の7位まで順位を戻した。だが6位を目指していた終盤にマシンからオイルがリークし、息も絶え絶え7位2点獲得。バトンとバリケロの差は16点に縮まったが、シーズンが終盤に向かうにつれて、チームメイト同士の覇権争いは難しい局面をつくりだしかねない。
さらに初無得点のバトンは、再びタイヤのグリップ不足に苦しんだ。この夏、予選、決勝を通して悪い流れから抜け出しきれない彼は、これからタイトル獲得にともなう大きなプレッシャーとも戦わなければならない。バトンは復活の糸口をどこで掴むことができるのか。チャンピオンまでの道のりは険しく、先はまだ見えないでいる。鳴り物入りでデビューし選手権をリードし続けるブラウンの、夏からの憂鬱はまだ終わらない。
マーク・ウェバーは、予選9位から上位を狙ったが、ピットでの作業後にピットレーンでBMWとニアミス。危険行為としてドライブスルーペナルティを受け、結局1点も手にできないまま失意の9位でレースを終えた。
もっとも息巻いたのはベッテルだ。2回目のピットストップで、高速コースで復調したBMWのクビサから3位の座を奪うと、終盤ハイペースで2位とのタイム差を削ってきた。順位はひっくり返らなかったが、6点を追加し、ランキング2位のバリケロと3点差まで詰め寄ることに成功した。
2009年はこれまで12戦で6人の勝者が誕生した。開幕から第7戦まででバトン/ブラウンが6勝。以降第8戦からは毎レース違うウィナーが名を連ねている。この中盤以降の不規則性は混戦の様相をあらわしていると同時に、残り5戦の行く末を読みづらいものにしている。次戦はモンツァでのイタリアGP。2戦連続の高速コースで笑うのは誰か? 決勝は9月13日に開催される。
(文=bg)
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