プジョー206RC(5MT)【試乗記】
刺激し、煽り立てる 2004.07.21 試乗記 プジョー206RC(5MT) ……308.7万円 かつて“ホットハッチ”に憧れを抱いた、自動車ジャーナリストの金子浩久が、ブルーライオンのホットモデル「プジョー206RC」に試乗し、青春時代に思いを馳せる。“ホットハッチ”は憧れだった
運転免許を取ったら「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」か「ルノー5アルピーヌ」に乗るのが、今年43歳になる筆者の、高校生の頃の夢だった。
当時の日本には、「ホンダ・シビック」と「アコード」、「日産チェリー」ぐらいしか、ヨーロッパ風の2ドアハッチバックボディを持つ前輪駆動車が存在しなかった。ウナギイヌのような「マツダ・ファミリア」はまだ後輪駆動だったが、シンプルなエクステリア&インテリアを持っていたから、まだイイ。その頃、大半の日本車の造形センスは、ゴテゴテとしたアメリカ車の悪いところだけを縮小したような代物で、高校生のクルマ好きの眼から見たってカッコ悪いものばかりだった。
だから、初代シビックやアコード、チェリーなどのハッチバックが、ヨーロッパの小型車のように合理的で清潔に見え、輝いていた。それらのクルマが直接的にも間接的にも規範とした、ゴルフやルノー5、「アルファロメオ・アルファスッド」などが、憧れの対象だったのである。
いわゆる“スーパーカーブーム”から数年を経ていたこともあり、ゴルフGTIや5アルピーヌは、極東の島国の高校生にとって“現実的なスーパーカー”だった。資金さえ貯まれば買えない値段ではないし、“2ドアハッチバックの実用性”と“スポーツカー顔負けの動力性能&ハンドリング”を兼ね備えるというコンセプト(なんて外来語はまだ用いられていなかったが)そのものが、いかにも合理的で、行ったこともないのにヨーロッパっぽいというか、大人っぽかったのだ。
なにしろ、2ドアハッチバック+前輪駆動車そのものがすくないのである。それらの高性能化モデルがどれだけ眩しかったことか、ご想像いただけるだろう。当時の若者に大人気だった、「スカイライン」や「セリカ」に乗っている先輩や従兄弟たちを、「わかってないよナ」と小馬鹿にしていた、まことにイヤ味な高校生だった頃が懐かしい。
たしか“GTIクラス”と呼ばれていた一群のクルマには、その後、「フィアット・リトモアバルト130TC」や同「ウーノターボ」なども加わり、呼び名も「ホットハッチ」へと変わっていった。日本では、1980年代に入って小型から中型車が一気に前輪駆動化され、国産ホットハッチも生まれた。
そして……時は流れて、21世紀。ヨーロッパでは、相変わらず2ドアハッチバック+前輪駆動車が、モータリゼーションの基礎を支えている。一方、ニッポンはミニバン全盛である。いまの若者たちは、クルマでスポーティに走る楽しさを知っているのだろうか? たとえば、この「プジョー206RC」で走る楽しさを。
痛快そのもの
206RCは、177psを発生するハイパワーエンジンを搭載。大径ホイールに205/40ZR17インチの扁平タイヤを履き、ブレーキとサスペンションも強化される。インテリアに目を転じれば、本格的なバケットタイプの専用シートが目を惹く。おまけに、ESP(エレクトリック・スタビリティ・プログラム)も装備される、206のトップレンジである。
5段MTをローに入れて走り出すと、極低回転域からトルクが太く、太いタイヤで路面を鷲掴みするようにダッシュするのが痛快だ。2リッター直列4気筒エンジンは、最高出力を発する7000rpmまで鋭く回るが、途中、4000rpm以上でのパワーの盛り上がり方が大人しくなってしまうのが、ちょっと残念。実用上、なんの不足もないのだが、回転が上がるにしたがいパワーが盛り上がると、もっと面白いのだが。現代のホットハッチとして、低回転域でのトルクを多少削ってでも、ドラマチックなパワーカーブを演出する手もあっただろう。ここら辺りのエンジンセッティングは、ライバルとなる「フォード・フォーカスST170」の方が、一枚上手だと感じた。
走りっぷりは、どんな状況下でもフラットな姿勢を保ち、タイヤグリップを失わない頼もしいものだ。こちらもライバルとなる、「ルノー・ルーテシアRS2.0」の方がロールを許すし、乗り心地も全般的にソフトである。
なんていいながら、206RCに乗るのは、街なかでも山岳道路でも痛快そのものだ。運転のすべての動作に対するクルマからの反応が五感を刺激し、ドライバーを煽り立てる。それが下品にならないのは、206シリーズ自体の完成度の高さの上に構築されているからだろう。
走り以外も魅力
206RC、フォーカスST170、ルーテシアRS2.0と、それぞれに持ち味が異なり、甲乙つけがたい。最終的にどれを選ぶかは、個人の好みによることになるだろう。筆者は、206RCの走りっぷりだけでなく、エクステリア&インテリアの造形センス、アルカンタラを使う贅沢なバケットシートなどにも魅力を感じた。
上記のほかにも、「アルファ147GTA」や「フィアット・プントHGT」「VWルポGTI」など、いまの日本は輸入ホットハッチの選択肢が幅広く、しかも正規輸入されている。ゴルフGTIや5アルピーヌに憧れていた頃、たしか両車は当初、並行輸入でしか手に入らなかったと記憶している。エアコンなども標準装着されていなかったはずだ。206RCとライバル3台はリーズナブルだし、あたりまえのことかもしれないが、正規ディーラーで買えるメリットもある。
ホットハッチを巡る状況には隔世の感があるが、皮肉なことにミニバン全盛時代のわが国にあっては、かなりの少数派に甘んじなければならない。街でホットハッチを見かける頻度に関しては、時代は変わったようで、変わってないのかもしれない。
(文=金子浩久/写真=清水健太、プジョージャポン/2004年7月)

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