プジョー206RC(5MT)【海外試乗記】
素晴らしい宝物 2003.05.30 試乗記 プジョー206RC(5MT) プジョーのコンパクトハッチ「206」に、180psを発する2リッターエンジンを載せたスポーツモデル「206RC」が追加された。フランスで開かれた国際プレス向け試乗会で、自動車ジャーナリストの笹目二朗が試乗。プジョーが放つ最もアツい206はどうなのか?
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WRCを連想
“ホッテスト206”ことプジョー「206RC」の国際プレス試乗会が、2003年5月下旬フランスはビアリッツで行われた。206RCの“RC”とは、ポルシェ「911RS」における“RS”(Renn Sport=レーシングスポーツの意)のように固有の意味をもつ略称ではないが、WRC(世界ラリー選手権)などで活躍するイメージを連想させる、スポーティな響きがある。同国のライバル車、ルノー「クリオRS2.0」(日本名ルーテシア)を強く意識していることは確かだ。
206RCは1車型しかなく、ボディは3ドアハッチバックのみ。エンジンは「206」「307」「406」と、プジョーで広く使われる主力の「EW10J4S」型、2リッター直4DOHC16バルブを搭載する。自然給気のまま、S16に積まれるユニットより50psと0.8kgmアウトプットを増した、最高出力180ps/7000rpmと最大トルク20.6kgm/4750rpmにチューンされる。組み合わされるギアボックスは5段マニュアルのみ。1速が引き上げられて、クロースしたステップアップ比をもつ。ちなみに、各ギアで7000rpmまでまわした時の速度は、1速:66km/h、2速:103km/h、3速:142km/h、4速:184km/h、5速:225km/hに達する。
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足元しっかり
サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット、リアはフルトレーリングアームを基本に、中央より伸びる長いリンクで横方向を担う、タイロッド2本が追加される。ちなみにこれは、206のワゴン版「206SW」に採用された形式と同じだ。パワーステアリングはエンジン回転数感応型の油圧アシストで、プジョーとしては初のバリアブルレシオを採用する。
外観上の識別点は、205/40R17サイズのタイヤ&アルミホイール、ハッチゲート上のスポイラー、206RCのバッジ、カーボン調ドアミラー、ハニカムグリルなど。なおこのRC登場を機に、206系全体のヘッドランプの中身やテールランプにも少し手が加えられた。
競技車のそれにも似たホールド性の高いシートに守られて、走り出した最初の印象は、プジョーのスポーツ仕様にしてはよい乗り心地だった。はっきり硬められた乗り味ながらガツガツしたカドがなく、敷石道路の段差でも不快な感じはしない。17インチの大径タイアも、40という偏平率を感じさせない受け止め方をしてくれる。それもブッシュの選定で逃げているだけでなく、ちゃんとストロークして凹凸を吸収している動きを感じる。この乗り心地をもって、206RCは普段の日常生活にも不満なく使えることを確認した。
17インチという、206に不釣り合いなほど大きいタイヤは視覚的にカッコよいが、バネ下の重さが増加するので相対的にサスペンションの華奢な部分が露呈してしまうのではないか、と当初心配した。実際、同様の例は多い。しかし杞憂だった。フロントは鍛造アーム、リアにも前述の極太で長いタイロッドを追加して、剛性アップした効果がはっきりと認められる。足元がしっかりとした骨の堅さこそ、プジョーがプジョーたるゆえんだ。
歌わせるエンジン
サスペンションとタイヤがしっかり仕事をすれば、小柄な身体に180psのハイパワーユニットが搭載されても、もて余すことはない。ロングストローク型ながら、レブリミットが7300rpmと高回転型にチューンされたエンジンは、一切の心理的ストレスなく綺麗に回転を上げる。低いギアポジションを保ったまま、6000〜7000rpmを維持しても、何ら苦しげな風はない。
しかしながら、トルクそのものは下降域にあるから、4000〜6000rpmあたりにとどめて、あとは右手を動かし頻繁なシフトを繰り返す方が面白い。2本出しのテールパイプから発せられる音も、このあたりから快音を伴って雰囲気を盛り上げる。
音量はけしてやかましいほどではないが、たとえば3速に入れっぱなしで一定速クルーズのような使い方をすると、やや耳につく。パォーン、パォーン、と加速した後、アクセルペダルの踏力を抜いた軽負荷の状態では高いギアでクルーズするなど、とにかく同じギアにとどまらせず、絶えず上下させて歌わせてやる方が心地よい。
クロースレシオの5段マニュアルギアボックスは、上げるにしても下げるにしても、同じ調子で操れるからタイミングをとりやすい。それは速められた1速ギアにおいても例外ではなく、タイトな急坂のヘアピンなどで、進入にしろ脱出にしろ威力を発揮する。ブレーキは瞬時に速度を殺すだけ、減速Gを維持して操舵輪に荷重をあたえ続けるのは、エンジンブレーキの役目だ。この場合66km/hまで伸びる1速は頼もしい限りである。
“攻め”のESP
車両重量1100kgのうち、前輪荷重は707kg、ここに180psのパワーが集中しても、駆動系の剛性はビクともしない。砂利の浮いた峠道や雨で濡れたヘアピンなどで、突発的な凸凹に出くわすと瞬時にホイールスピンすることもあるが、そんな時にはESPが仕事をまっとうする。他のESPのようにガクっとエンジンがストールすることなく、ブレーキが片方だけにかかり、瞬間的に方向安定性を取り戻してくれるのだ。また予想外のスプリットミュー(片方の車輪だけ砂利を踏むとか)によってアンダーステアに見舞われ、コーナリングの軌跡がアウト側へ膨らもうとする時でも、このESPは効果的に働いてくれる。
ESPというと「スポーティな味が削がれる」と、目の仇にしてスイッチをオフにする人もいるが、総じてFF(前輪駆動)車のESPは切らないほうがいい。「左足ブレーキなどテクニックで補える」と主張する人がいるかもしれないが、フットブレーキは正直に4輪に作動する。ところが、ESPは片輪だけに効かせることもできるのだ。だから、条件反射的に対応する機械まかせの方が、人間の注意力や能力に勝る時代であるともいえる。RCのESPは危なっかしい状態に陥った場合の救済のみならず、攻めるときにも効果を発揮するセッティングだからなおさらである。
サスペンション形式を同じくする206SWとRCとの違いは、アンダーステアがそれほど強くでない点だ。といって、これまでのS16や「206CC」のような、ニュートラルステア感ともちょっと違う。
従来の206は前輪支配が強く、後輪は浮遊したまま追従するような、存在感の薄いところがあったが、RCでは後輪がしっかり接地しながらついてくる。そのうえでSWほど前輪が逃げないから、スロットルオフしてもタックインはほとんどない。よってジムカーナ的な高い横Gの連続でも、操舵によく従ってくれる。RCの足まわりに対する信頼感は、より高まった。
RCの魅力は、何といっても小柄なボディとパワフルなエンジン、そしてフットワークだ。左ハンドルの5MT仕様しかないが、これに支障のないプジョーファンにとっては、素晴らしい宝物の到来になるだろう。早ければ、2003年秋には日本に登場するはずだ。
(文=笹目二朗/写真=プジョージャポン/2003年5月)

笹目 二朗
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