マツダRX-8(4AT)/RX-8 TypeS(6MT)【試乗記】
個人的なベストチョイス 2003.05.10 試乗記 マツダRX-8(4AT)/RX-8 TypeS(6MT)……240.0万円/275.0万円
“4ドア4シータースポーツカー”を標榜する、世界で唯一のロータリースポーツ「RX-8」。プレス向け公道試乗会に参加した『Car Graphic』編集顧問、小林彰太郎によるインプレッションをお送りします。
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すばらしくフレキシブル
富士五湖周辺で短時間ながら試乗した“4ドア4シータースポーツカー”、マツダ「RX-8」の第一印象を記す。
まず乗ったのは「Type S」の方で、これは250ps/8500rpmのハイパワーエンジン+6段MTのパワーパックに、225/45R18大径タイヤを組み合わせた、いわば硬派向けモデルである。
ホテルの玄関口から穏やかに発進しようとして、うっかりエンジンをストールさせ、おおいに恥をかいた。ロータリーエンジンに乗るのは久しぶりのことだが、極低回転域では依然として、レシプロに較べるとトルクの絶対値が小さいことを再認識した。ちなみに、トルクピークの22.0kgmは5500rpmという、かなり高回転で発揮される。
この点をのぞけば、RX-8は全域にわたって自然で、実に乗りやすい高性能車だった。ドライバー正面に備わるレヴカウンターによれば、レッドゾーンは9000pm以上であり、新型ロータリーエンジン「RENESIS」はなんらストレスなしに高回転が利く。だから、最初のうちは各ギアでいっぱいに引っ張って、無類にスムーズで静粛なロータリーの醍醐味を楽しむことだろう。
だが間もなく、このエンジンが同時にすばらしくフレキシブルなことに気付く。同排気量に相当するレシプロエンジン車に較べ、全体にギアリングが低いことにもたすけられて、特に急ぐ気がなければ、ローで6000rpmくらいまで加速したら、2ndを飛ばして3rdへ、次は4thをスキップして5thへ、1→3→5という横着を決め込むことさえ充分可能である。本格的なレースをするなら別だが、すくなくとも路上の実用に、この6段MTは「率直にいって無用の長物」と言っては言い過ぎだろうか。
210ps/7200rpm、22.6kgm/5000rpmのスタンダードエンジンを積むグレードに標準装備の5段MTとギア比を較べると、6段型はローが特に低く、全体に広く分散している(ファイナルギア比は同一)。クラッチも大径なことから推して、将来RX-8で“本気にレースする”ためのホモロゲ対策なのだろうか。筆者は最近のレース事情に疎いので、これはすでに公知の事実なのかも知れない。ギアチェンジは非常に軽く、シフトストロークも手首の動きだけで可能なほど小さく、正確で気持ちよい。
この日は高速道路を走るチャンスがなかったので、正確な動力性能についての評価は差し控える。しかし、実用上は充分以上であり、なによりも無類に静粛でスムーズなので、ロングランには最適だと思った。
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欠点が発見できない
だが、このRX-8についてもっとも印象的だったのは動力性能ではなく、路面、荷重を問わず常にすばらしく快適な乗り心地と、同じく優れたハンドリングが、高度に両立していることだった。2+2ではなく、文字どおりの4シーターを標榜するRX-8では、ドライバー1人とフルロード時とでは荷重変化が著しい。したがって、エアサスペンションでも使わない限り、ひとり乗車の場合、乗り心地については大幅な妥協を余儀なくされるはずだ。
ところが、RX-8ではその欠点が発見できなかったのである。この日の試乗は常に1人乗りで行ったが、あらゆる路面と速度でスポーツサルーン的に快適な乗り心地が得られたのである。ホイールストロークはたっぷり取られている反面、ダンピングは有効で、しかも強い突き上げ感はない。いつも筆者が使うテストコース上には、数百メートルの“極悪非道”がある。ロードクリアランスの充分な四駆車ならいざ知らず、ふつうの乗用車では進入するのを躊躇する酷い路面である。
そこをRX-8は、多少速度を落とすだけで無造作に通過し、飛び跳ねたり、逆にボトミングすることも皆無なら、車体はミシリともいわなかった。
サスペンションは、機能的には前後とも単純なダブルウィッシュボーン(形式上、リアはマルチリンクと記される)である。コイルバネは別にバリアブルではなく、ヘルパースプリングとして有効に機能するバッファーが付いているに過ぎない。しかし足まわりの付くサブフレーム自体の設計はいうに及ばず、それらとバックボーンフレームの結合点など、車体の細部設計には無数の細かい配慮が払われた。その積み重ねが、この類いない高剛性ボディとしなやかなサスペンションを実現し、快適な乗り心地と秀逸なハンドリングを生み出したのだろう。
“絶好の殺し文句”
ラック&ピニオン・ステアリングはきわめて自然な操舵感覚で、適度にクイックである。あとで確かめると、最小回転半径5.3mのところ、ロックからロックまでほぼ3回転もするが、実感としては、この数字から想像されるよりはるかに応答性がよい。ブレーキに関しても、まったく問題はないと思う。ハンドリングについて、ただひとつ気になったのは、50:50という理想的な重量配分をもつわりに、重心を通るZ軸まわりの慣性モーメントが感知されたことだ。この場合、2700mmというロングホイールベースがかえって裏目に出たのかもしれない。
このことは、4ドア4シーターのRX-8を“純粋のスポーツカー”と見るか、それとも“実用性高いスポーツサルーン”と見なすか、その観点によっておおいに評価が割れると思う。率直に言って、たとえ物理的に4人の大人が乗れるとしても、閉所感の強い後席に乗せられてスポーツカー的にカッ飛ばされたなら、誰でもいっぺんで懲りてしまうだろう。
だが、4人乗車のメリットはたしかにある。スポーツカーが欲しくてたまらない世のオトーサンが、女房を口説いて買うのに、RX-8の「4ドアだから後ろにも楽に乗れるんだ」は、まさに“絶好の殺し文句”なのだ。設計と開発に長年全力を傾倒されたエンジニア諸氏には、“殺し文句”ですませるのは申し訳ないが。
最後に、個人的なベストチョイスを述べる。筆者は躊躇なく、210psのエンジンを積む、4段ATアクティブマチック仕様を選ぶ。パワーはこれで充分だし、パドルシフトを使えば全神経をステアリングに集中できるので、ワインディングロードの連続など条件が厳しくなればなるほど、6段MTに対する優位性が増すからである。
(文=小林彰太郎/写真=高橋信宏/2003年5月)

小林 彰太郎
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