マツダRX-8 SPIRIT R(FR/6MT)【試乗記】
また会う日まで 2012.05.01 試乗記 マツダRX-8 SPIRIT R(FR/6MT)……325万円
2012年6月に生産中止される「RX-8」。最後の特別仕様車「SPIRIT R(スピリットアール)」に乗り、RX-8の、そしてロータリーエンジンの来し方に思いをめぐらせた。
二重の「残念」
「マツダRX-8 SPIRIT R」のリアシートに乗り込んだ。フル4シータースポーツをうたうRX-8の一大特徴たる、後ろヒンジ、前開きになったリアドアを閉めようと手を伸ばしたとたん、「アッ!」と思って慌てて引っ込めた。助手席に座ったカメラマンが、無意識のうちに勢いよく前のドアを閉めたからだ。正確には、閉めようとしたからだ。
ご存じのように、RX-8は、普通のクルマなら前席・後席間にあるセンターピラーをもたない。フロントドアのキャッチは、リアドアに組み込まれているから、カメラマンが閉めようとしたドアは、むなしくゴムの縁取りにはね返されただけ。振り返ったカメラマンが、ビックリした顔のリポーターを見ながら、「ゴメン、ゴメン」と笑いながら謝った……。
全国のRX-8を所有するご家庭では、意外にこんなこと多いんじゃないでしょうか。特に、普段クルマに乗り慣れない年配の方を後席に座らせるときは、多少の注意が必要だろう……って、賢(さか)しらにアドバイスするのが9年(!)遅かったですね。
2003年のデトロイトショーでデビューし、同年、国内での販売も開始されたRX-8。モデルライフ10年目の声を待たず、2012年、ついに生産中止が決定された。排ガス規制の関係で欧州ではすでに販売が打ち切られていたから、日米での終えんも時間の問題だったけれど、なにはともあれ残念なニュースだ。
ユニークなロータリーエンジンを搭載したクルマがなくなることに「残念だ」と思わないクルマ好きはいないだろう。同時にいくら「残念だ」と言っても状況は変わらないことを、誰もが理解していると思う。それでもなお、RX-8の生産中止は、二重の意味で「残念だ」。
ロータリーエンジンの今日的な長所とは?
1996年、マツダがフォードの傘下に入ったころ、「経営合理化のため、まっさきにロータリーエンジンは“切られる”だろう」、そんな観測がまことしやかに囁(ささや)かれたことがあった。実際には、むしろフォード陣営が、ロータリーエンジンの存続を強く望んだという。「マツダの個性を象徴するもの」として。
ところが世界金融危機の余波を受け、フォードのくびきを逃れて約5年。今度はマツダ独自の判断としてRX-8を止めざるを得ない。なんとも、やるせないことである(内部の方々の落胆もお察しします)。残念。
人類史的な大きな視点からさまざまな社会間の勝敗を決める要因を探った名著『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド著/草思社)によると、新大陸が旧大陸によって「発見」され、人類発祥の地アフリカがヨーロッパによって分割され、文明発祥の地のひとつ、中国が近代には帝国主義の餌食になった理由は、いささか身もふたもない言い方をすると、絶対的な母数(同程度の技術をもつ社会の人口)と多様性の差だったという。
突如、やたらとスケールが大きくなって、書いている自分も驚くが、ハナシをRX-8の生産中止に引き戻すと、結局は、マツダが孤軍奮闘の末、刀折れ矢尽きた、といったところだろう。
ロータリーエンジンの長所として、主に“モーターのように”スムーズな回転フィールと、シンプルにして軽量コンパクト、の2点が挙げられる。前者においてはしかし、世界中の自動車メーカーがよってたかってレシプロエンジン、すなわちピストンの往復運動を回転に変えるタイプの発動機を改良した結果、大きなアドバンテージとはいいにくくなった。独特の回転フィール? モーターそのものを使用するEVやプラグインハイブリッド車が出てくる時代には、ロータリーエンジンのスムーズさは、かつてバブルのころに流行した小排気量V6エンジンのような、ある種、希少種の扱いに甘んじなければならない。
隴西(ろうさい)の李徴(りちょう)が吟じる詩のように、素晴らしい素質を持ちながらも十分な切磋琢磨(せっさたくま)を経ない作品は、どこか足りない部分が出るものなのだ。RX-8に関していえば、2リッター級の出力にして10km/リッターに達しないカタログ燃費(10・15モード)がそれにあたる(SPIRIT RのMTモデルが9.4km/リッター、ATモデルは9.0km/リッター)。
325万円はバーゲンプライス
「スポーツカーのカタログは文字が多い」と看破したのは自動車評論家の下野康史さんだ。作り手の思い入れが詰まっているから、言いたいこと、伝えたいことが文字となってあふれ出る。RX-8 SPIRIT Rのカタログも、例に漏れない(でも、FDのそれよりは減ったかな)。
RX-8 SPIRIT Rのカタログ11ページ目では、「スポーツカーを操る悦びにこだわり抜くと、ドライブトレインはこうなる」と見出しを付けて、小型軽量のRENESISユニットの利点を力説している。
より後方の低い位置に搭載する「アドバンストフロントミドシップ」。そこからもたらされる「俊敏かつリニアな操舵(そうだ)感」。「優れた回頭性」。そうしたスポーツカーの特性と大人が4人乗れる商品としての市場性になんとか折り合いを付ける必死の工夫が、センターピラーを廃して観音開きの前後ドアを採用した「フリースタイルドアシステム」だったわけで、「やはり無理があった」と切り捨てるのは酷に過ぎよう。
ただ、ロータリーならではのパッケージングが、その特異なスムーズさと併せても、実際に消費者の財布を開かせるには至らなかったという事実が厳然と横たわるのみである。
ちょっとうれしいニュースが飛び込んできた。RX-8最後の特別仕様車となるSPIRIT Rの販売が好調で、当初予定された1000台に加え、さらに1000台を生産するという。
SPIRIT Rには、215psの6ATモデルと、235psの6MTモデルがある。ことに後者はスポーティーで、19インチのホイールを、ビルシュタイン社製ダンパーをおごられたスポーティーなサスペンションでつり、車内に入れば、シートはレカロ社のバケットタイプである。
走らせれば、スムーズかつ自然なパワーの出方が心地よいエンジンはもとより、ソリッドなボディー、シャープなハンドリング、フル2シーターの後席があることを忘れさせるドライブフィール。これで325万円は、間違いなくバーゲンプライスだ。願わくば、SPIRIT Rに続き、「SPIRIT R Final」とか、「SPIRIT R Final Eternal version」とか、延々と“最後の”限定モデルを出し続けていただきたい。
自動車のテクノロジーは、温故知新。時代遅れと思われた機構が、周辺技術の進歩からよみがえり、埋もれていた工夫が時代の要請によって再び脚光を浴びることも珍しくない。雑食性の強いロータリーエンジンが、ひょんなことから見直される可能性だって、なきにしもあらず。だからRX-8、まだサヨナラは言わないよ。なんちゃって。
(文=青木禎之/写真=高橋信宏)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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