ベントレー・フライングスパー(4WD/8AT)
さらに高みへ 2013.06.10 試乗記 車名から「コンチネンタル」が外され、単に「フライングスパー」と名乗るようになった新型。室内の静けさや乗り心地の良さがさらに磨かれ、高級サルーンとしてさらなる高みに達していた。北京からの第一報。高まった静粛性
ベントレーが新型「フライングスパー」の国際試乗会の舞台に選んだのは、何と中国は北京であった。かの地の交通事情については、これまで何度も訪れてよく知っているが、当然自らステアリングを握ったことはない。正直に言えば、ずっと握らずに済ませたいものだとすら思っていたほどなのだが、そんな個人的な思いを別にすれば、ここが選ばれたこと自体は、十分に納得できることだといえる。何しろ中国は、ベントレーにとって今や世界第2の市場。そして4ドアサルーンのフライングスパーは、紛れもなくその主力となるはずの存在だからだ。
期間中だけ有効な運転許可証を発行してもらい、臨んだ試乗は北京の中心部にあるホテルが起点。そこから、クルマがバイクがひっきりなしに突っ込んでくる道に出ていくだけで、まずはひと苦労という感じではあったが、ともかくも走りだして、しばらくは一般道を行く。舗装の状態も含めて決して走りやすいわけではない中でも、走りの洗練度が増していることは、すぐに感じられた。
まず室内が、とても静か。新型フライングスパーはアンダーフロア全体に新たな防音材を追加している。これは床下のフラット化で空力にも貢献するというものだ。ガラスはすべて防音タイプとされ、取り付けの工夫により密閉性が高められている。さらにはドア外板にも防音材が追加されるなど、とにかく徹底しているのだ。
従来だって当然、騒がしいクルマだったわけじゃない。しかし違いは明らかで、すべての音のレベルが下がっている。どこかだけ下がると、どこかが際立ってかえって耳障りになってしまうものだが、エンジン音も風切り音も含めたすべてが、まったくそうはなっていないのである。
想像を上回る洗練
乗り心地も極上と言い切りたい。事前に受けたプレゼンテーションで、エアサスペンションはすべてが見直され、油圧の制御が緻密になり、またバネ定数は前10%/後ろ13%、アンチロールバーは前13%/後ろ15%ソフト化され、サスペンションブッシュも25%から最大38%も柔らかくなっていると聞かされた時には「大丈夫か?」とも思ったが、その走りはカチッと引き締まった感触を失ってはおらず、ただし路面のザラつきや凸凹に対してのみ、明らかにしなやかさを増した対処を見せるようになった。大きな段差を突破する時だけは、バネ下が揺すられるような感覚もなくはなかったが、日本の道路ならば、そんな段差に遭遇することもないだろう。
もちろん快適なのは前席だけではない。大事な後席も、居心地は抜群だ。シートは新設計。しかもセンターコンソール後端にはめ込まれた「Touch Screen Remote(TSR)」を取り外せば、空調やシート調整、ナビやマルチメディアなどの操作をスマートフォンのような感覚でリモコンで操れる。「Multi-Media Specification」のオプションを選択すれば、各フロントシート背面に備わる10インチモニターで各種ソースを楽しむことも可能だ。
快適性が想像以上に高められていることはわかった。では走りはどうか。街中を抜けて高速道路に入ると、新型フライングスパーは無類のフレキシビリティーと、圧倒的な動力性能で感嘆させた。
ノーズの下に収まる6リッターW12ツインターボユニットは、「コンチネンタルGTスピード」と並ぶ最高出力625psを発生。低速域からとにかくトルクフルな特性と8段ATとの組み合わせは、右から左から、時には路肩まで使って進路に割り込まんとするクルマたちをかき分けて進む時にも頼りがいあるレスポンスを発揮する一方で、いざ前がすけば、まるで離陸しそうなほどの加速で一気に彼らを後方へと追いやる。Cd値0.29という良好な空力性能、車体の50kgの軽量化も、それに貢献しているのだろう。
この動力性能の一方でサウンドは控えめ。重低音が響き渡る……という感じではない。さらに言えば、ピックアップも心なしか穏やかで、サルーンの心臓にふさわしい上質感が演出されている。
ちなみにV8エンジンは設定なし。今後についても現時点ではまったくプランはないとのことだった。
脱「コンチネンタル」の意図とは?
基本の前後トルク配分を40:60としたフルタイム4WDシステムのおかげもあり、高速域の安定感は素晴らしいの一言。それでいて高速道路を降りて、万里の長城へと向かうワインディングロードでの走りも、これまた目覚ましかった。手応えの良いステアリングを切り込むとノーズは期待した分だけ内側を向き、そのまま途中で切り足したりせずとも気持ち良くコーナーを抜けていくことができる。「ミュルザンヌ」と比べれば動きは落ち着いていて、それなりに鼻先の重さや車体の大きさを意識しないではない。しかし、それを持て余すこともまたないという具合である。
実はこちらのワインディングロード、中速コーナー主体の結構楽しめる所も少なくない一方で、道幅が狭く、しかも道路の右に左に現れる三輪トラックを避けながら駆け上がっていくような場面もありという感じだったのだが、この正確なフットワークと全域どこでも力の盛り上がるエンジンのおかげで、ストレスとは無縁だった。もっとも、そこから北京市街までの帰路は、またも中国式のトラフィックに巻き込まれ、結構ヒヤヒヤさせられたのだが、500km近くにもなった試乗は何とか無事に終了。貴重な体験を存分に楽しむことができたのだった。
実は新型フライングスパー、その名前からは先代に付いていた「コンチネンタル」が外されている。そこには「コンチネンタルGTのセダン版」という従来のイメージから脱却し、ミュルザンヌとコンチネンタルGTの中間に位置する別のモデルへと進化させたいという狙いがある。フロントマスクまですべて別物とされたルックスしかり、明確に快適性重視に振った乗り味しかり、なるほど、その意図は見事に達成されていた、そう言ってよさそうだ。
(文=島下泰久/写真=ベントレー)
テスト車のデータ
ベントレー・フライングスパー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5295×1976×1488mm
ホイールベース:3065mm
車重:2475kg
駆動方式:4WD
エンジン:6リッターW12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:625ps(460kW)/6000rpm
最大トルク:81.6kgm(800Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21/(後)275/35ZR21(ピレリPゼロ)
燃費:6.8km/リッター(14.7リッター/100km)(ECサイクル、複合モード。ただし暫定値)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※欧州仕様
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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