第136回:“平成のハチロク”、乗ってみたらどうだった? 〜「トヨタ86」チョイ乗り試乗会から
2011.12.27 エディターから一言第136回:“平成のハチロク”、乗ってみたらどうだった?〜「トヨタ86」チョイ乗り試乗会から
自他ともに認める“ハチロク(AE86)マニア”山田弘樹が、2012年春の発売が予定されているFRスポーツカー「トヨタ86」にチョイ乗り。「現代の86」の呼び声高いニューモデルは、マニアの目にどう映った?
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世界のメディアも大注目!
『webCG』でプロトタイプの試乗記が公開されてから、ほぼひと月。相変わらず高い注目度を保っている「トヨタ86」は、間違いなく、いま日本で一番期待されているスポーツカーと言えるだろう。
筆者も、2011年11月27日に富士スピードウェイで開催されたトヨタのファン感謝イベント「TOYOTA GAZOO Racing FESTIVAL 2011」で初対面。さらに幸福なことに、富士のショートコースで走らせることができた。
インラップ/アウトラップを含めて、“たった3周のアトラクション”レベルではあったけれど、それについては文句は言うまい。この日は、日本のマスコミはもちろん、海外のメディアやジャーナリストまでが押し寄せて、試乗会の受け付けには長蛇の列ができていたのだから!
……もっとも、熱心な海外からの取材陣は、どさくさに紛れて何度か「おかわり」していたようだけど。(ブツブツ)
かくいう筆者は、大のハチロク好き。元祖ハチロク(AE86)には一家言ある、根っからのハチロク・ファンである。
気が付けば、ハチロク歴は20年。はじめは学生時代の後期型「スプリンター・トレノ(GT 2Dr)」で、社会人になってから手に入れた86年式後期型「レビン(GT APEX 3Dr)」には、今でも乗り続けている。さらに一昨年、エアコンやオーディオはおろか、内装がまるごと取っ払われたレース用のレビンも入れた。
学生時代に手に入れたGTはワンオーナー車で、程度もそこそこ以上のものだったが、買ったときより高い値が付くや、次のクルマの頭金に変えてしまった。いまも持ち続けているGT APEXは、13年ほど前に友人から12万円で買ったもので、なぜか手放す気にならず、居着いてしまった猫のようにわが家にすみ続けている。
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さして手を入れているわけではなく、ぱっと見きれいだが実は適度にボロく、エンジンだってノーマルだ。しかし、ハチロクの「4A-GEU」ユニットは頑丈で、これまで大きな故障もなく、時にはサーキット走行に、時にはお買い物に、今もなお活躍している。
ちなみに3ドアハッチバックのハチロクは、驚くほどに荷物が積める。「トヨタ86」のうたい文句ではないが、リアシートを前に倒せば、18インチタイヤ4本をすっぽりと飲み込んでしまう。ニトリで買った巨大な本棚も、ハチロクに積み込んで家まで運んだ。
思えば、コミック『頭文字D』でブームが起こるまでのハチロクは、そういう安価なクルマだった。
名前は似てても、まるで別人
言いたいのは、「かつてのハチロクは、『カローラ』(そして『スプリンター』)だったからよかった」ということだ。
トヨタが作った、昭和の傑作大衆車「カローラ」。その実用性あふれる小さなボディーに頑丈なエンジンを載せて、リア駆動で走らせる――そんな条件が奇跡的に合わさって、今も変わらぬ魅力へとつながっている。
(とまぁ、ここでようやく話がもとに戻るわけですが)
その点「トヨタ86」は、筆者の目にはどうしても“現代版ハチロク”に見えなかった。いまもハチロクに乗り続ける人はみんな、同じ感想だと思う。
「トヨタ86」はむしろ、「当時のハチロクがなりたかった姿」なんじゃないか? もっといえば、「当時ハチロクに乗っていた若者たちが、乗りたかったスポーツカー」なんじゃないか? ちょっと格上で手が届かなかった、“憧れのセリカ”に見えてならなかったのである。
往年のスーパースポーツ「2000GT」を横目にモックアップが作られたという「86」には、往年のハチロクのようなやぼったさがまったくない。水平対向エンジンを搭載したことで、フロントフェンダーよりも低められたボンネット。女の子を隣に乗せても様になりそうな、流れるようなシルエット……。
実際に運転しても、そのスマートなイメージは変わらない。
ハイパワーとはいえないが、リニアに吹け上がるエンジンは、最初からリッター100psの出力を得るほどに磨き上げられている。
前後のウェイトバランスを適正化された、FRレイアウトの洗練。曲がらないクルマを曲げようと格闘したハチロクとは正反対に、「トヨタ86」はとことん素直に曲がり、最小限のスリップアングルで華麗にコーナリングする。むしろパワーよりイナーシャ・バランスで選ばれたとされる水平対向エンジンは、もはやシャシーの一部とすら言える。
いつかはハチロクになる(かも)
だから、昭和のおじさんたちが「トヨタ86」を見ると、「かわいげがねぇんだよなぁ!」となる。
それでも……それでも……。
BMWが手がける新しいMINIが“ミニ”の後を継いだように、今度の86はハチロクになれると思う。
ハチロクという名前が付けられただけで、悲しいかな、やっぱりハチロク好きのおじさんたちは血が騒いでしまうのだから。
それに、現実を振り返れば、これは実にいい着地点だったと感心もする。
前述したとおり、元祖ハチロクの魅力には、実はやぼったさや、荒っぽさが挙げられるのだけれど、では一体どれだけのひとが、いまさらそんなクルマに乗るだろうか? 筆者のようなよほどの好き者でもない限り、いまハチロクを運転したところで、そのしょぼさに愕然(がくぜん)とするだけだ。
しかし、ここでハチロクの淡いイメージは「トヨタ86」へと昇華する。当時のハチロクのいい思い出を心に抱いたまま「トヨタ86」に乗れば、快適に今を走ることができるのである。
チーフエンジニアの多田哲也氏は、プレスカンファレンスの会場で「『トヨタ86』には、ハチロクのスピリットを込めました」とコメントしながら、「復刻版ハチロクを作ったのではなく、ハチロクのように愛されるスポーツカーを作りたかったのです」とも言っている。
筆者は、ひとりのハチロク好きとして、そして自動車ジャーナリストとして、こう言いたい。
「もう一度小粋なスポーツカーに乗りたいオジサン世代よ、『トヨタ86』に乗ろう。それもたくさん、道路にあふれるほどに」。
「あれやこれやとチューニングを楽しんで、最後は新車価格の半分くらいで若者にこれを託そう!」
昔の自分がハチロクを手に入れたときのように、中古の「トヨタ86」がクルマ好きの若者に格安で引き継がれるようになったなら、「トヨタ86」は本当の意味でハチロクに、ハチロクのように長く愛され続けるスポーツカーになると思うのだ。
(文=山田弘樹/写真=webCG)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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