トヨタ・シエンタ ハイブリッドX 7人乗り(FF/CVT)
「ゴルフ」にはできないことができる 2015.09.14 試乗記 発売から1カ月で4万9000台の注文を受けるなど、見事なスタートダッシュを切った2代目「トヨタ・シエンタ」。ハイブリッド車の試乗を通して、好調の秘密を探った。デザインが突き抜けている
なんてオシャレなんだ! と筆者は驚嘆した。外観は古代エジプト人を思わせる。『ガダラの豚』(中島らも)の集英社文庫版の表紙のアフリカの仮面のようでもある。前後のライトから伸びたモールがアイラインのようでもあり、イレズミ、あるいはヒゲのようでもある。もっとも、テスト車は「ヴィンテージブラウンパールクリスタルシャイン」という名のシックなチョコレート色だったので、アフリカ美術っぽさはかなり控えめだった。
筆者はもっぱら室内のカラーコーディネートに驚いたのである。「フロマージュ」と名づけられたトリム&シートカラー。それに、シートの織りの粗いファブリックなんて、シャネルのジャケットみたいではありませんか。こういう明るい、ショッピングモールのカフェのような雰囲気は、軽自動車の「スズキ・アルトラパン」が近いかもしれない。
なにより驚いたのは、グローブボックスの黒とオレンジの組み合わせです。それは、さる7月下旬、英国大使館でお披露目されたロールス・ロイスの新しいコンバーチブル、「DAWN(ドーン)」と同じコンビネーションだった。ボディーが黒で、内装が鮮烈なオレンジ。それにオレンジのコーチラインが“ドーン”と入っていた。カッチョよかった。それと同じ色の組み合わせがシエンタのグローブボックスに! トヨタ・マーケティング、恐るべし!!
思えば、である。12年前に登場した初代シエンタは、丸いヘッドライトで愛嬌(あいきょう)をふりまいていた。♪ドレミファソラシエンタなんてテレビCMで、若い奥さん風の女性たちが大勢、ラテンな感じで歌い踊りながら洗濯物を干していたのではなかったか。
世は歌につれCMにつれ。2代目シエンタのCMキャラクターがサッカー界のスーパースター、ハメス・ロドリゲスであることは読者諸兄の知るところであろう。オジサンはよく知らんので、こんな二枚目はクリスティアーノ・ロナウドに違いないと思い込んでいた。大間違いであった。
今という時代に照準を合わせて
ハメス・ロドリゲスとシルビア・クリステルじゃなかった滝川クリステルのCM起用がなにを意味しているかといえば、筆者が思うに、洗濯物はもはや奥さんに任せている時代ではないということである。いまや同性同士の結婚だって渋谷区なら認められる。そういう時代に私たちは生きており、トヨタはそういう時代にピタリと照準を合わせて新型シエンタを開発してきた。ごく簡単にいえば、デザインがとても今っぽい。
テーマカラーであるイエローとブルーメタリックの組み合わせとか、2色をコーディネートしたボディー色(「フレックストーン」と呼ばれる)が5種類あって、テスト車みたいなモノトーンが、黄色、緑、赤、青、茶、白、黒、銀と8色ある。南米の鳥のように鮮やかなカラーを攻撃的に選んだ開発担当者はエライ。
新型シエンタは7月9日に発売されるや、1カ月で4万9000台もの受注を得たという。そのこころは、今っぽいからだ、と筆者は思う。月販目標は7000台だから、7カ月分! いわゆる新車効果とはいえ、走者一掃の3ベースヒットである。ちなみに、ガソリンとハイブリッドの比率は半々、とトヨタは発表している。
アクセルは踏み込まないのが賢明
すでにご存じのようにシエンタ2代目には、先代から引き継いだ1.5リッター直4と、新たに「アクア」からもってきたアトキンソンサイクルの1.5リッター直4+モーターのハイブリッドの設定がある。駆動方式はFFを基本とする。4WDもあるが、ハイブリッドには用意されていない。今回、試乗に引っ張り出したのは、後者ハイブリッドの安い方のグレードである。
新型シエンタのセールスを引き上げたハイブリッドには「G」と「X」、2グレードある。前者は232万9855円、後者は222万6763円で、その差、およそ10万円だ。キーレスエントリーと、ステアリングホイールとシフトノブの革巻きのある/なし程度が違いだけれど、Xから見てGは革巻きがちょっとうらやましいかもしれない。
運転席に座ってみる。シートは食卓のイスのように足が長めで、着座位置はフツウのクルマよりもやや高い。スタートボタンを押す。ハイブリッドなので、静かなままだ。アクセルを踏み込むと、電気モーターだけで動き始める。キンキンとかチンチンとかウ〜ッとか、意外といろんな音が入ってくる。誰もいない深夜の台所で冷蔵庫がうなっているような音だ。
1.5リッター直4が始動すると、モーター関連の音が聞こえなくなる。フルスロットルにしなければ、シエンタは粛々と走る。あえて全開にすると、ゴーッ! という事務的な音をアトキンソンサイクルの4発は発する。エンジンは回してもうるさいだけだ。ハイブリッドの特性を生かして、淡々とパワー&トルクを供給してもらうのが賢明である。つまり、全開は避ける。
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「実用車の鑑」にも負けていない
全長は「フォルクスワーゲン・ゴルフ」程度で、ホイールベースはゴルフより100mm以上長い。これだけでパッケージのよさげな感じが伝わるのではあるまいか。アクアのパワートレインでアクアより300kg重いボディーを引っ張るため、速さはそれなりに遅いけれど、アクアよりも乗り心地はフラットで、ハンドリングも悪くない。3列目シートは大人が座ってもレッグルームがちゃんと確保されている。
スライド式の後ろのドアはワンタッチで自動開閉できて、開口部が初代より広がっている。ありがたいことに3列目に出入りしやすくなっている。フロアに格納しておける3列目シートは、引き出すのも収納するのも、ヒモを引っ張るだけ、という感覚だ。
テスト車は、185/60R15のタイヤ&ホイール、赤外線レーザー+単眼カメラ方式のプリクラッシュセーフティーシステム、ともに5万4000円、スマートエントリーパッケージ、4万6440円、スタンダードナビ、15万120円、サイドエアバッグ、4万8600円、LEDランプ、10万5840円など、計56万7108円ぶんのオプションがついていた。車両価格と合わせると、合計279万3871円になる。こうなると、革巻きステアリングにしよう、ということになります。
「実用車の鑑(かがみ)」といわれるフォルクスワーゲン・ゴルフは266万円からである。ゴルフは5人乗りだが、今回試乗したシエンタは7人乗りで、ゴルフにはできないことがシエンタはできる。ドライブの楽しさを乗る人7人みんなでつくることができるのだ。そういう意味では乗員全員により創造性と能動性が求められる。そんなシエンタがかくも売れているということは慶賀ではあるまいか。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
トヨタ・シエンタ ハイブリッドX 7人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4235×1695×1675mm
ホイールベース:2750mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:74ps(54kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:11.3kgm(111Nm)/3600-4400rpm
モーター最高出力:61ps(45kW)
モーター最大トルク:17.2kgm(169Nm)
タイヤ:(前)185/60R15 84H/(後)185/60R15 84H(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:27.2km/リッター(JC08モード)
価格:222万6763円/テスト車=279万3871円
オプション装備:ボディーカラー<ヴィンテージブラウンパールクリスタルシャイン>(3万2400円)/185/60R15タイヤ+15×5.5Jアルミホイール(5万4000円)/Toyota Safety Sense C<プリクラッシュセーフティーシステム+レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム>(5万4000円)/スーパーUVカット&シートヒーターパッケージ<スーパーUVカット+IRカット機能付きグリーンガラス[フロントドア]+運転席・助手席シートヒーター>(2万9160円)/ナビレディパッケージ<バックカメラ+ステアリングスイッチ>(2万9160円)/スマートエントリーパッケージ<スマートエントリー&プッシュスタートシステム+盗難防止システム>(4万6440円)/LEDランプパッケージ<Bi-Beam LEDヘッドランプ+フロントフォグランプ+リアコンビネーションランプ+コンライト>(10万5840円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>+SRSカーテンシールドエアバッグ<フロント・セカンド・サードシート>(4万8600円) ※以下、販売店装着オプション スタンダードナビ ナビレディパッケージ付き車(15万120円)/ETC車載器 ビルトインタイプ<ナビ連動タイプ>(1万7388円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1496km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:329.5km
使用燃料:22.2リッター
参考燃費:14.8km/リッター(満タン法)/16.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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