BMW 740i(FR/8AT)
エレクトロニクスの旗艦 2015.12.09 試乗記 BMWのフラッグシップセダン「7シリーズ」がモデルチェンジを受けた。新機軸を多数搭載した“電子仕掛けの旗艦”は、その走りをどこまで進化させたのだろうか。ラインナップのベーシックグレード「740i」に試乗した。なかなか走りだせない
指を立てたり、前後に振ったり、といろいろ試していたらあっという間に20分ぐらいたってしまった。駆けぬける前に、止まって学ばなければならないことが多すぎて、試乗時間がなくなってしまう。慌ててスタートしながら考えたのは、BMWオーナーはこんな操作法を覚えることにきっとワクワクするんだろうな、ということである。
私の経験から言わせてもらえば、BMWカスタマーは年齢にかかわらず新しい技術やロジックに積極的な人が多い。iDriveの時もアクティブステアリングの時もそうだったが、新しいシステムに拒否反応を示すどころか、進んで学ぶ知的好奇心にあふれた新し物好き、それが私がいままで会ったBMWオーナー像だ。「デジタルデバイド」などまったくどこ吹く風、分からないなら習得すればいいという姿勢である。それゆえ、不親切とまでは言わないが、ちょっと敷居が高いというかクールなBMW流儀が肌に合うのだろう。
今でこそiDriveコントローラーの周囲に独立したスイッチが備わり、ダイヤル頂部にもタッチパッドが仕込まれてずいぶんと使いやすく進化したが、15年ほど前に新しいマンマシン・インターフェイスとしてiDriveが導入された当初は、分かりにくい、面倒くさい、という声が大勢を占めていたと記憶している。当初はダイヤルのみで、この種の操作が苦手な人はどうやっても目指す機能を呼び出せない、なんて話も珍しくなかった。BMWはミラーの調整スイッチにも一切表示がなかったぐらい、できるだけ簡潔を旨としており、それをBMWユーザーは当然と考えていた。一度使えば分かるから、余計な表示など必要ないというわけだ。
対照的なのはたとえばトヨタで、すべてのスイッチに文字か記号でその機能を表示しようとする。誰にでも使いやすく、分かりやすくという親切な配慮ゆえであり、それはそれでひとつの思想だが、親切がすぎて煩雑になるよりは、簡潔で美しいほうがいいと考えるのがBMW、新型7シリーズはこれまで以上の最先端ぶりである。
ナビゲーションなどインフォテインメント・システムを操作するiDriveひとつ取っても、今やダイヤルだけでなく、画面上で直接操作できるタッチコントロール、音声によるコントロール、さらには「ジェスチャー・コントロール」なるものまで備わっている。ルーフに備わるというカメラが認識できるよう指を1本立てて、その後クルクル回すとボリュームを調節できるという具合だ。当然、設定されたしぐさを知らなければ使えないが、それこそがエクスクルーシブであるという主張が聞こえるように思う。
CFRPを骨格材に使用
新型7シリーズには他にも最長600mまで照らすレーザーライト、ジェームズ・ボンドばりに車外からキーを操作して駐車できる「リモートコントロール・パーキング」(ただしリモコンパーキングは2016年半ばに日本導入予定)など、限られたスペースではとても詳しく伝えきれないほどの最新技術、新機能が盛り込まれているが、その中でも注目は、アルミニウムや超高張力スチールにカーボンファイバー強化樹脂(CFRP)を組み合わせたハイブリッドボディー構造である。しかもCFRP素材はボンネットやトランクリッドなどの外装パーツではなく、ピラーやサイドシル、センタートンネル部などボディーの骨格部分に採用されているのが特徴。
「i」とは異なりパッセンジャーセル全体がCFRPで成形されているのではなく、スチールなど他の素材と張り合わせたり、挟み込んだりしているようだが、具体的にどのように接合されているかといった詳細はまだ明らかではない。それでも従来型比で最大130kgの軽量化につながっているという。もちろん、低重心化にも直接効果があるはずだ。ただし、外から見えるところにはカーボンファイバーらしきものはまったく見当たらない。ドアに隠されたBピラー上部に「カーボン・コア」の誇らしげなエンブレムが貼られているのみである。
ハイテクの温泉
リア・コンフォート・パッケージ(76万6000円のオプション)を装着していた740iの試乗車のリアシートは、とにかく安楽、快適でラグジュアリーな雰囲気を演出している。ヘッドレストは羽根枕のように柔らかく、これに頭を預けたら1分もしないうちに熟睡してしまうような心地よさである。「Sクラス」もそうだが、ラグジュアリー志向は高級サルーンのトレンドらしく、今や人間工学的に、そして安全面から正しい姿勢で座るのが何よりも大切、と頑固に主張していたドイツ流シートはどこへやら。モデルによってはマッサージ機能なんてものさえ備わっている。リアシートはそれ自体が分厚く、スライドやリクラインなど電動調整機構が備わっているせいか、足元のスペースは意外に余裕はない。とにかく広々としていることを求める人はホイールベースが140mm長い「Li」をどうぞ、ということなのだろう。
思った以上にソフトで滑らかなのは、アダプティブダンパー付きエアサスペンションを備える740iの足まわりも同様だ。ビシリと路面の不整を踏みつぶしていくのではなく、ヒラリスルリと受け流していくような滑らかさ。リアシートに身を沈めて、スマホのようなタブレットでオーディオを操作すれば、まるでサラサラ柔らかく肌当たりのいい温泉に浸(つ)かっているような心地よさだ。ひとつだけ気になったのは、路面によって低速域ではブルルン、という振動がまれに感じられたこと。やはり、より高速のほうが真価を発揮できるのかもしれない。
軽やかなラグジュアリー
来年にはプラグインハイブリッドの「740e」も導入される予定だが、まず発売されたのは326ps(240kW)/5500rpmと45.9kgm(450Nm)/1380-5000rpmを発生する新仕様の3リッター直6ターボを積む740iとロングホイールベースの「740Li」、それぞれに「Mスポーツ」グレードが用意される。4.4リッターV8ツインターボ(450ps、66.3kgm)搭載の「750i」シリーズは年が明けた1月からデリバリーが始まる予定である。
直6ターボに洗練された8段ATを組み合わせた740iは、スルスル滑るように走る。トップ8速での100km/hクルーズは1400rpmに相当するが、すでにピークトルク発生ゾーンに入っているから、そこからのレスポンスは打てば響くようで、およそ1.9トンの車重を感じさせない。エアサスペンションには「エグゼクティブ・ドライブ・プロ」なる機能が標準装備されており、ステレオカメラが路面の不整やコーナーなどを検知し、ダンパーやスタビライザーをコントロールする。おかげでそのサイズを考えれば、驚くほど敏捷(びんしょう)なセダンである。当たりの柔らかさと身のこなしの機敏さを両立させている新型7シリーズは、確かに自動車技術の先頭を駆けぬけていることをヒシヒシと感じさせられたのである。
(文=高平高輝/写真=小河原認)
テスト車のデータ
BMW 740i
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5110×1900×1480mm
ホイールベース:3070mm
車重:1880kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:326ps(240kW)/5500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/1380-5000rpm
タイヤ:(前)245/40R20 99Y/(後)275/35R20 102Y(ブリヂストン・ポテンザS001 RFT<ランフラットタイヤ>)
燃費:12.2km/リッター(JC08モード)
価格:1217万円/テスト車=1495万3000円
オプション装備:プラス・パッケージ(57万6000円)/リヤ・コンフォート・パッケージ(76万6000円)/20インチ Vスポーク・スタイリング628 アロイ・ホイール(34万3000円)/アンビエント・エア・パッケージ(4万3000円)/BMWレーザー・ライト(16万1000円)/Bowers & Wilkinsサウンド・システム(59万8000円)/BMWナイト・ビジョン(29万6000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2591km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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