BMW 740i Mスポーツ(FR/8AT)
融合する古典と革新 2023.01.21 試乗記 BMWの旗艦「7シリーズ」が7代目に進化。迫力のある造形と、大胆な提案を盛り込んだヒューマン・マシン・インターフェイスが話題を呼ぶ新型だが、それらは私たちにどんな感動をもたらしてくれるのか? 走りはどう進化したのか? 実車に触れて確かめた。大胆に見えて実は慎重なデザイン戦略
地下駐車場のパレットから動かすべく、新しいBMWの旗艦に編集部のHさんが乗り込み、エンジンをかける。横長のヘッドライトと縦長で大きなキドニーグリルの周囲があやしく光って、う~、こりゃカッコいい!! と外から眺めていた私は思った。薄暗がりの逆光だと、宇宙人襲来!? という感じ。そのフロントマスクはマーベルの「アイアンマン」のようでもある。
2022年4月に本国で発表されたBMWの新型7シリーズは、金看板のドライビングプレジャー、「駆けぬける歓び」と、最新デジタル体験の合体をテーマにしている。最新デジタル体験を進めすぎちゃうと、伝統的BMW像が壊れる。さりとて、進めないと時代に取り残される。そこのバランスをどうとるのか? というのが難問なわけである。
日本仕様に限ると、デジタル方面の頂点として7シリーズ初のEV版「i7 xDrive60」が用意されている。内燃機関モデルとしては、ディーゼル+4WDの「740i xDrive」と、ガソリンでRWDの「740i」がある。どちらも3リッターの直列6気筒ターボで、8段オートマチックにモーター兼ジェネレーターを組み込んだ48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載している。
これから試乗に向かおうとしているのは、BMWの王道、アナログ方面の頂点というべき「740i Mスポーツ」である。
伝統と革新、アナログとデジタルのバランスということで言えば、新型7シリーズ、フロントマスクはアイアンマンのようだけれど、プロポーションやサイド、およびリアのデザインは、Cピラーの「ホフマイスターキンク」も含めて、BMWサルーンの伝統を守っている。もしくは踏まえている。「フォワーディズム」、日本語に訳せば前進主義というような、「フォーディズム」に引っ掛けたとおぼしき独自のことばを7代目7シリーズの発表会では用いつつ、BMWは伝統と革新を同居させた、大胆なようで慎重なデザイン戦略をとっている。
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インテリアに広がるクリスタルな世界
ボディーサイズを確認しておくと、先代より若干大型化している。3215mmのホイールベースは、先代のロングホイールベースモデルより5mm延びている。いわばLWB版が標準とされ、これより短いモデルも長いモデルも現時点では存在していない。
ラグジュアリー方面を象徴するひとつが、なんとなく、ではない、スワロフスキー製のほんまもんのクリスタルを用いたヘッドライトである。やっぱり人間というのはそれが人工であれ天然であれ、光るものが好きなのだ。
4枚のドアはどれもボタンで自動的に開閉させることができる。そのことに、ちょいとばかし驚く。インテリアはクリスタルな世界が広がっている。最初に目に飛び込んでくるのは白いレザーだ。「BMW Individualフル・レザー・メリノ スモーク・ホワイト|ブラック」という125万2000円のオプションが試乗車にはおごられている。
次いで目に入るのは、センターコンソールにあるクリスタル仕上げの、「iDrive」という名称で知られるインフォテインメントシステムのコントローラーである。1980年発表の田中康夫の小説『なんとなく、クリスタル』から40年以上も歳月が流れたいま、私たちのこころを動かすのは、なんとなく、ではなくて、ほんまもんの、クリスタルなのだ。さっきも書いたけど。
じつは真っ先に目に入っていたダッシュボードの、横に長いディスプレイは、12.3インチと14.9インチ、2枚のディスプレイをくっつけて並べたものだ。ステアリングホイールの後ろの、主にデジタルメーターのディスプレイの盤面のデザインは、機械仕掛けのメーターとは文脈を完全に異にしている。油がにじみ出たような、あるいは温度分布を示すような、抽象画のような表現がなされている。
ダッシュボードとセンターコンソールの一部はカーボンパネルで覆われ、ドアのスピーカー部分には、電動シェーバーの替え刃みたいな繊細な模様が施された金属製のパネルが貼られている。薄暗がりのなかだと、雪のように白いレザーはブルーの柔らかな光のライトによって照らされている。コンソールにはクリスタル仕上げのガラスもある。これはもしかして、『アナと雪の女王』、いわゆるアナ雪!? 筆者は思わず歌った。♪ありのままの~。
おほん。というようなことで、新型7シリーズのインテリアはアール・ヌーヴォーの現代的解釈、というような新しい仕掛けに満ちており、これまでのBMW=ドライビングプレジャーとはまた異なる、工芸的ラグジュアリーが追求されている。
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“移動体験”そのものが切り替わる
3リッター直6エンジンをスタートさせ、しずしずと走り始める。タイヤは「ピレリPゼロ」で、前:255/45、後ろ:285/45の、どちらも20インチという大径の前後異サイズを装着している。ランフラットということもあってだろう、低速ではコツコツ感がある。でも、そのコツコツ感以上に、全モデル標準装備のエアサスペンションがふわ~っと、ふんわりした乗り心地をつくり出している。軽やかなのに厚みがある。
これまた、全モデル「インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング」、いわゆる4輪操舵を標準装備しているおかげもあって、全長×全幅×全高=5390×1950×1545mmという巨体をそう気にする必要はない。基本的にスクエアなデザインのおかげで、ボディーの見切りも悪くない。
地下駐車場から地上に出て、一般道を少々走って、首都高速の山手トンネル経由で中央自動車道に乗る。目指すは河口湖方面である。
低速から高速まで、駆動系のスムーズなことに感心する。高速時のエンジン音もロードノイズもよく抑えられており、室内はたいへん静か。100km/h巡航は風の音が控えめに聞こえてくるのみである。
いわゆるドライブモードには、「スポーツ」「エフィシエント」「エクスプレッシブ」「リラックス」等があるけれど、その切り替え方法を確認することなく走りだしたものだから、「オッケーBMW」と話しかけることで車載のAIを起動し、なんとかデフォルトのエクスプレッシブからリラックスモードに切り替えた。
ここでは大きくたまげた。エンジン、トランスミッション、サスペンションのレスポンスうんぬんの変化によってではない。シートの角度が自動的に変わって、マッサージが始まったのだ。頼んでもいないのにパノラマガラスサンルーフが持ち上がって冷たい空気が入り、換気までしてくれる。ディスプレイの景色は青空から砂漠に切り替わる。
このとき、740iは富士吉田線に来ており、正面のフロントガラスには本物の富士山が見えている。人工の窓からはデジタルの風景が見え、リアルとバーチャルの世界に私たちは生きていることを意識する。これこそ現代の自動車がもたらした新しい景色である。
BMWは、速いとか遅いとかにとどまらない、新しい自動車のラグジュアリーの価値観をつくろうとしている。マッサージ機能等、ニッポンのOMOTENASHIなんてのはその道具立てのひとつにすぎない。
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走りに宿る古典的な味わい
「ドライブの楽しさがピュアに感じられるダイナミックな設定」のスポーツモードに切り替えると、タコメーターが出てきて、エンジンががぜん活発になる。従来のBMW的世界に回帰するのだ。
740iの3リッター直6は、ターボ過給によって最高出力381PSと最大トルク520N・mを発生する。エンジンの負荷が大きいときには、18PSと200N・mのマイルドハイブリッドシステムのモーターが、ドライバーである筆者にはほとんどそれと知られることなく加勢しているはずで、システムトータルの最高出力は381PSとエンジンのパワーと同じだけれど、最大トルクは540N・mにアップする。車重2t少々には十分以上だ。
猛々(たけだけ)しさはみじんもない。直6ユニットはあくまでスムーズかつエレガントに回ることで、ドライバーに心地よさを味わわせてくれる。Mスポーツなのに、乗り心地も含めてエクセレントなスポーティヴネスで、スポーティヴネスを強調しすぎてはいない。
とはいえ3000rpm以上回すと、グオオオオッという、BMWの「M240i」とか「Z4」や「X4 M40i」と同種の野太いサウンドを控えめに発しもする。驚くほど先進的でありながら、古典的でもある。BMWの伝家の宝刀、直6のガソリンエンジンを搭載した740iはステキな大型サルーンなのだった。ああ。なんてワクワクする時代なのでしょう。
なお、車両価格は740d xDriveが1460万円、740iが1490万円、i7 xDrive60が1670万円である。そうすると、お値打ちなのはディーゼルのマイルドハイブリッドで4WDなのに740iより30万円も安い740d xDriveということになる。こちらも気になります。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
BMW 740i Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5390×1950×1545mm
ホイールベース:3215mm
車重:2160kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:381PS(280kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:520N・m(53.0kgf・m)/1850-5000rpm
モーター最高出力:18PS(13kW)/2000rpm
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/0-500rpm
タイヤ:(前)255/45R20 105Y XL/(後)285/40R20 108Y XL(ピレリPゼロPZ4)※ランフラットタイヤ
燃費:12.8km/リッター(WLTCモード)
価格:1490万円/テスト車=1931万3000円
オプション装備:ボディーカラー<フローズン・ディープ・グレー>(52万円)/BMW Individualフル・レザー・メリノ スモーク・ホワイト|ブラック(125万2000円)/セレクト・パッケージ<スカイラウンジ・パノラマ・ガラス・サンルーフ+インテリア・カメラ+Bowers&Wilkinsダイヤモンド・サラウンド・サウンド・システム>(75万2000円)/リア・コンフォート・パッケージ<リア・ベンチレーション・シート+リア・マルチファンクション・シート+エグゼクティブ・ラウンジ・リア・コンソール+ヒート・コンフォート・パッケージ+リア・マッサージ・シート>(61万9000円)/Mライト・アロイ・ホイール・スタースポーク・スタイリング908M(15万1000円)/アラーム・システム(6万8000円)/エグゼクティブ・ラウンジ・シート(30万1000円)/リア・シート・エンターテインメント・エクスペリエンス(75万円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1007km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:297.5km
使用燃料:27.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.9km/リッター(満タン法)/10.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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