メルセデスAMG C63 Sクーペ(FR/7AT)
実用的モンスター 2016.08.10 試乗記 500psオーバーの高出力を誇る、高性能クーペ「メルセデスAMG C63 Sクーペ」に試乗。高速道路やワインディングロードを走らせてみると、速さだけではない、このハイパフォーマンスカーならではの魅力が見えてきた。すごみの伝わるたたずまい
メルセデスAMG C63 Sクーペを初めて見た時、あまりのかっこよさにしばし目を奪われた。セダン、ステーションワゴンに次ぐAMG C63第3のボディーがクーペである。後ろのドアがない分、ボディー後半があっさりしていて、マグロとかサバとか、流体力学的に正しい形であるところの魚類を思わせる。
視線をリアエンドに移すと、丸みを帯びた曲面と細長いテールライトが2座スポーツカーの「メルセデスAMG GT」との血縁関係を直感的に悟らせる。「メルセデスV8トップパフォーマンスのリアルスポーツクーペ」というメーカーの主張が瞬時に理解される。
DTM参戦車両を思わせる張り出したフロントフェンダーを見よ。「C180クーペ」のトレッドと比べると、前は60mm、後ろは35mm幅広い。ボディーからはみ出たタイヤをフェンダーが無理やり覆っている。これはあなた、隠そうにも隠せない膨らみ、いや、隠そうともしない、むしろ強調した男性的膨らみである。
ロードラッグ(マグロ)→AMG GT(スポーツカー)→DTM(モータースポーツ)という連環がC63 Sクーペの周りでは回っていて、それがC63 Sクーペにただならぬたたずまいを醸し出している。タイヤなんて、前255/35、後ろ285/30の、ともに19インチという超偏平具合だ。
ただ速いだけじゃない
ボンネットの下に潜んでいるのは、6.2リッターのV8自然吸気でも5.5リッターV8ツインターボでもない。メルセデスAMG GTと基本を同じくする4リッターのV8だ。ドライサンプ化こそされていないけれど、標準で最高出力476psと最大トルク66.3kgmを生み出すモンスターである。テスト車はしかも単なるC63ではなくて、高性能版の「S」である。ノーマルよりも10%ほど強力な最高出力510psを5500-6250rpmで、最大トルク71.4kgmを1750-4500rpmで発生する。
スターターボタンを押すと、バフォンッというAMG特有の爆発音が聞こえてきて、思わずほほが緩む。2基のターボチャージャーをVバンク内に収めた新しい4リッターV8は単にダウンサイジングで高効率化を図ったもの、と解するとAMGを誤って理解することになる。
まずもって、あの地獄の釜がたぎっているような野太くて豪快なAMGサウンドは不変で、そのことに喜びを覚える。アクセルを踏み込めば、過給エンジンとはにわかに信じられないほどラグがない。ターボであることがわかるのは、二次曲線的にGが急上昇するからだ。回転自体は実にスムーズで、ストレスがまったくない。
フルスロットルを試みると、モーレツに速い。あっという間に日本の公道では許されない速度に到達してしまうので、自制心を必要とする。しかし同時に冒険心も持っていないと、C63に乗っている甲斐(かい)がない。
扱いやすいダークヒーロー
C63 Sクーペは、3つの連続可変フラップによって排気音を電子制御する「AMGパフォーマンスエグゾーストシステム」なるデバイスを持っている。エンジン、ダンパー、ステアリングなどのプログラムを切り替えられる「AMGダイナミックセレクト」という固有名詞のドライブモードが付いていて、Comfort、Sport、Sport+、RACEと4つのモードがある。Sport+を選ぶと、ステアリングがいっそう重くなって足まわりがキリリと締まり、乗り心地ががぜん硬くなって、エンジンがごう音を発する。ドロドロ、デロデロ、アクセルオフすると、アフターファイアみたいな爆裂音がしたり、ゴボゴボとガソリンを飲み込むような音がしたりもする。平和な街の中をレーシングカーで走り回っている狼藉(ろうぜき)者になった心持ちがする。
正義の味方というより、『明日に向かって撃て』とか『俺たちに明日はない』とか、あるいはダース・ベイダーとか、はたまた「若大将」シリーズの青大将とか、ピカレスク・ロマンな感じが、個人の感想ですけれど、悪の魅力がAMGモノにはあるように思われる。
その一方、ハンドリングは安定志向で、基本的に真っすぐ走るように仕立てられている。それゆえ安心感がものすごく高い。オーバー500psの怪物なのに鼻歌を歌っていられる。極めて御しやすい。フロントにコンポジットディスクを採用したブレーキも安心感をいや増してくれる。おまけに、Sはキャリパーが赤く塗られていてる。ルージュのようでステキだ。
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「普通に乗れる」に価値がある
ボディーサイズが手ごろなこともありがたい。ドアが2枚しかないので、多少乗り降りが不便ではあるけれど、後席にも大人2人が乗れる。天井は頭がつかえるし、乗り心地は荷台のごとくである。とはいえ、東京から小淵沢まで移動して体に不具合が生じないぐらいの快適性はある。
この実用性こそ2座スポーツカーのAMG GTに対するアドバンテージであり、実用スポーツカーのキングである「ポルシェ911」を凌駕(りょうが)する部分である。普通に乗れるモンスター、というところに大いなる意味がある。後席は荷台のごとく、と書いたけれど、前席の乗り心地は快適だ。唯一、ホイールを傷つけるかも……という心配はあるけれど、そんな心配性の人はこういうものに乗らんでしょう。
問題は、それだったら4ドア、もしくはステーションワゴンのC63の方がモア・ベターでは? ということである。う~む、これは悩ましい。値段はC63 S同士だと、クーペが1358万円で、セダンが1352万円。ただし、セダンはクーペでは標準のパッケージオプションが付いておらず、これを付けると1387万7000円になる。セダンの方が約30万円、ドア2枚分高いのは納得がいく。ますますもって悩ましい。結局、欲しい方を買うべきである、という無責任なアドバイスを思いついた。けれど、俺はどうする?
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
メルセデスAMG C63 Sクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4750×1875×1400mm
ホイールベース:2840mm
車重:1850kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:510ps(375kW)/5500-6250rpm
最大トルク:71.4kgm(700Nm)/1750-4500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 96Y/(後)285/30R19 98Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5P)
燃費:9.7km/リッター(JC08モード)
価格:1358万円/テスト車=1358万円
オプション装備:なし
(※生産制約に伴いヘッドアップディスプレイが装着されない車両の場合、価格は1348万円となる)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1906km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:468.1km
使用燃料:69.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.7km/リッター(満タン法)/7.0km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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