メルセデスAMG C63 S(FR/9AT)/AMG C63 Sステーションワゴン(FR/9AT)/AMG C63 Sクーペ(FR/9AT)/AMG C63 Sカブリオレ(FR/9AT)
喜びと共に猛獣を御す 2018.08.20 試乗記 Dセグメントのボディーに500psオーバーの高出力エンジンを搭載した「メルセデスAMG C63 S」。今回のマイナーチェンジで新たに9段ATが搭載されたが、実際に試乗すると、それ以上に注目すべきポイントがいくつも見受けられた。長足の進化の程を、ドイツよりリポートする。変わったのは“ギアの数”だけではない
コンパクトな「Cクラス」のボディーに高出力のV8ユニットを搭載し、後輪だけでこれを御するメルセデスきっての“バンカラ”。そんな「AMG C63」の中でも高性能版にあたる「S」シリーズに、本国ドイツの「Bilster Berg Drive Resort」で試乗することができた。
事前のアナウンスによると、その変更点はこれまで7段だった「スピードシフトMCT」がそのギアを2つ増やした9段ATへと進化したことがひとつ。ここで日本メーカーであればその出力も数psは上げてきたりするのが常とう手段だが、パワーユニットである3982ccのV型8気筒ツインターボ自体に変わりはなく、その出力も最高出力が510ps/5500-6250rpm、最大トルクが700Nm/2000-4500rpmと従来のままだ。
むしろ話題としては、ベースとなるCクラスと同じく、このAMG C63 Sでも車載モニターの大型化やインフォテインメント系装備の充実が図られ、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の操作系がステアリングスポーク上に移設されたことの方が大きい。従って、今回は「C63 Sの走りをリゾートサーキットで楽しみながら、これを紹介しておくれよ」的な、極めてライトな試乗会だと思っていた……のだが。
AMGはそんなヤワな連中ではなかったのである。
もっとも筆者が感心したのは、彼らAMGが、このC63 Sを「さらに扱いやすいモンスター」へと着実に磨き上げていたことだった。それを端的に表すのがドライブモードで、これまでセンターコンソール上にあったダイヤルが、ポルシェやアウディと同じくステアリングホイールへと移設された。モード選択は雨天走行用の「Slippery」、自分好みの組み合わせが可能な「Individual」、快適仕様の「Comfort」と、この3つがまずは通常走行の基本。そして「Sport」「Sport+」「Race」と、その段階をホットゾーンへと導くようになっている。
さらに、これらとは別に車両安定機能の「ESP」も、「Basic」「Advanced」「Pro」「Master」と、段階的に制御の度合いが用意されている。
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従来モデルとは別物のスタビリティー
そして一番下にある「Race」モードを選び、ESPをオフにすると、禁断の扉が開かれる。それまでモード選択に使っていたダイヤルは、9段階で調整が可能なトラクションコントローラーへと早変わり。介入の度合いを絞っていくほどに、510psのパワーが解放されていくというわけである。
ちなみに、このやり方は最もハイパフォーマンスなマシンである「AMG GT R」と同じ手法であり、筆者もwebCGではその様子をリポートしてきた経緯がある。ただし、これを解放するような試乗は筆者もできておらず、「むしろ許されても嫌だ!」と断るような状況だったのだが……。今回、サーキットで先導役をしていたAMGのドライバーは、こちらの走りを数周うかがうと「ESPをオフにしよう!」と笑顔で言うのだった! これには正直、たまげた。日本だったら間違いなく、「危険だ」「責任だ」ということでNGな行為である。ただウオームアップランを終えると、それも不思議はないことだとわかった。今度のC63 Sは、以前とは別物と言えるほどスタビリティーが高められていたのである。
これまでC63/C63 Sは、はっきりと手を焼くじゃじゃ馬だった。それが魅力と強がることもできるが、本音で言えば明らかにパワーを御しきれない荒さが目立っていた。豪快な印象とは裏腹に、ESPをオフにしてそのパワーを解放すると(もちろんサーキットでの話だ)、ドライバーはそのつま先に神経を集中させてパワーをコントロールしなければならない。雨など降ろうものなら、正直なところ4MATICを搭載した「C43」の方が、断然速く走ることができたのである。
それがどうだ。新しいC63 Sのボディーバランスは、510psのパワーを、高い走りの質感とともに見事に包み込んでいたのである。
コーナリングがよりスムーズで楽しめるものに
まずこれまでと大きく違うのは、サスペンションのキャパシティーが大きく向上したこと。そのストロークは一段と深くなり、可変ダンパーがこれを上手に伸縮させるようになっていた。
ハンドリングはフロントのゲインがややおとなしくなったようにも感じられたが、それは意外にもこの性能にして19インチという小さな(?)タイヤが選ばれていたことと、リアのグリップが上がったことで相対的なバランスが変化したせいだろう。あらかじめ走行ラインをイメージしてブレーキングし、フロント荷重を高めながらステアしていけば、V8を搭載するノーズは素直に入っていく。
感心したのは、S字での身のこなしだ。セダンで1680kgと重量を抑えたボディーにかかる慣性を、サスペンションが上手に収束。車体を大きく振ることなくスムーズに切り返すことができる。そしてコーナーの脱出では、その安心感からアクセルを、自然な感覚で踏み込んでいけるのである。
さらにここから、9段階に切られたトラクションコントロールの制御が大きくモノをいう。「ESP master」の制御も見事だったが、これをオフにするとC63 Sはエンジン出力を極端に絞らなくなる。リアタイヤのスリップをある程度許容し、過大なロスが生まれる寸前で、制御を効かせてくれるようになるのだ。
AMGに拍手を送りたい
その制御は実にきめ細やかで、賢い。ダイヤルの変更は「9」から段階的にしっかり試したが、目盛りを1つ変えるくらいだとその違いはわからない。しかし2つ回すと挙動はナチュラルに、オーバーステア方向へと変わっていく。つまりそれだけ緻密な制御のグラデーションによって、出力が管理されていることになる。
筆者の印象としては、今回試乗したコースだとダイヤル「5」がベストだと感じた。出力を絞り過ぎず解放し過ぎず、効率的に速さを求められる。ミスに対しても寛容で、インジケーターの点滅が制御状況を知らせてくれるため、どの程度で踏み過ぎなのかを直感的に理解し、修正することができる。
対してダイヤルを「3」以下にすると、リアグリップがルーズになりすぎ、ドリフトするにはいいのだが、トラクションがかからず明らかに走りが遅い。Cクラスとはいえ大きくなったボディーを気持ち良く、そして速く走らせたいなら、こうした制御を積極的に活用する方がストレスがない。
当日は「セダン」と「クーペ」を代わる代わる試したが、筆者の好みはセダン。剛性や重量の違いからか(なぜかクーペの方が1745kgと重いのだ)、クーペよりも身のこなしが柔軟かつ扱いやすく感じた。とにもかくにも、4輪駆動を用いずFRでここまでの走りを実現したAMGには拍手を送りたい。
肝心の変更点である9段スピードシフトは、サーキットではそれほど効果的だとは感じなかった。クロスレシオになった分だけその加速性能は上がっているはずだが、どうしても次のギアをスタンバイするDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)のレスポンスにはかなわない。
エンジンはVバンク内に2つのタービンを配置した“ホットインサイドV”形式。排気をすぐさま取り込んでタービンを回すレスポンスの良さが売りだが、低速コーナーの立ち上がりでアクセルをベカッ! と全開にするような場面では、この素早さを変速スピードが相殺しているように感じた。もっともアクセルをきちんと踏み込めるほどシャシー性能が高まったからこそ、こうした部分が目立つようになってきたとも言えそうだ。ちなみにAMG GT Rは、7段ながらDCTである。
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メルセデス流の獣のしつけ方
とはいえこの9段ATは、オンロードでは抜群な黒子っぷりを披露する。低速時は湿式多版クラッチを適度に滑らせながらクリープし、アクセルを踏み込んでもスナッチひとつせず出足は極めてコンフォータブル。そこからいざアクセルを踏み込んでも、オンロードでは十分以上にダイレクトな反応をもって700Nmのトルクを受け止め、クルマを一気に加速させてくれる。こうした“実際に使う部分”でのしつけには、メルセデスクオリティーが見事に反映されている。
今回は「カブリオレ」と「ステーションワゴン」にも公道で試乗した。特にカブリオレの気持ちよさは格別だ。クーペやセダンに対してボディー剛性は圧倒的に劣るはずだが、サスペンション剛性で絶妙なバランスが取られており、フロアの不快な振動や車体のねじれ感がウソのように感じられない。気持ちいいツインターボの快音を聴きながら味わうオープンエアはぜいたくの極みであり、C63 Sが持つ性能のすべてが、快楽のために余すところなく使われている。対して筒状の大空間ボディーを持つステーションワゴンは、クーペほどソリッドではないがカッチリとした足まわりが与えられており、セダンよりも若々しいキャラクターを演出できている。
総じて新型AMG C63 Sは、トランスミッションの変更以上に大きな進化を果たしていた。恐ろしいまでのパワーを持ちながらこれを支配下に置き、制御でがんじがらめにするのではなく、ドライバーに運転する喜びを与える。この徹底した姿勢はメルセデスの流儀そのものであり、この圧倒的な速さやプレミアム性が、ステータスを引き上げる。
しかしその奥底には、AMGとしての純粋で素朴な、走りに対する気持ちが込められていると筆者は感じた。とても自分には手に入れられるような存在ではないのだが、それでいてちっともすねた気持ちにならない。よいクルマというのは、そういうものである。
(文=山田弘樹/写真=ダイムラー/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
メルセデスAMG C63 S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4757×1839×1426mm
ホイールベース:2840mm
車重:1680kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:510ps(375kW)/5500-6250rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)245/35R19/(後)265/35R19
燃費:9.9リッター/100km(約10.1km/リッター、NEDC複合モード)
価格:1379万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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メルセデスAMG C63 Sステーションワゴン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4772×1839×1441mm
ホイールベース:2840mm
車重:1750kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:510ps(375kW)/5500-6250rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)245/35R19/(後)265/35R19
燃費:10.0リッター/100km(約10.0km/リッター、NEDC複合モード)
価格:1398万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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メルセデスAMG C63 Sクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4751×1877×1401mm
ホイールベース:2840mm
車重:1745kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:510ps(375kW)/5500-6250rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)245/35R19/(後)285/35R19
燃費:10.1リッター/100km(約9.9km/リッター、NEDC複合モード)
価格:1424万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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メルセデスAMG C63 Sカブリオレ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4751×1877×1404mm
ホイールベース:2840mm
車重:1865kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:510ps(375kW)/5500-6250rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)245/35R19/(後)285/35R19
燃費:10.4リッター/100km(約9.6km/リッター、NEDC複合モード)
価格:1493万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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