【F1 2017 続報】第6戦モナコGP「フェラーリの“作戦負け”」
2017.05.29 自動車ニュース![]() |
2017年5月28日、モンテカルロ市街地コースで行われたF1世界選手権第6戦モナコGP。9年ぶりのポールポジションから4年ぶりの勝利を目指しレースをリードしていたフェラーリのキミ・ライコネンだったが、僚友セバスチャン・ベッテルにオーバーカットされ2位で終わった。フェラーリは安定して高いマシンパフォーマンスで2001年以来のモナコ1-2を決め、そしてライコネンはピット作戦で負けた。
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特権的モナコGP
モナコは何かと“特別”が許される場所だ。
1周3.3kmというカレンダー最短コースに19ものタイトなコーナーが連なり、そのほとんどはブラインド。ドライバーはガードレールにヤスリをかけるようなギリギリのラインで飛び込んでいかなければならず、さらに1周あたり100回近くのギアチェンジを強いられる。2車線の公道を使用した窮屈なテンポラリーサーキットにはトンネルもある。そして、ほかのコースに求められるような広々としたランオフエリアは皆無であり、ささいなミスすら致命的になる。現代のF1に求められるさまざまな基準からすれば、例外的な扱いを受けているといっていいだろう。
さらに、時として2時間に届かんとする長丁場のレースは、規定の305kmに満たない260kmでゴールとされる。木曜日にGPウイークが始まり金曜日はお休みという変則的なスケジュールも、モナコだけに許されている「特権」だ。
他に類を見ない特殊性と屈指の難易度が、モナコを特別な場所にする。正確無比なドライビング、途切れることのない集中、運、そして勇気──そのどれかが欠けても勝つことはできない。「ここでの1勝は3勝分の価値がある」とまで言われるゆえんだろう。
そんなGPきってのスペシャルコースに今年もF1がやってきた。大幅なレギュレーション変更で、今季型のマシンは昨季20cmプラスの2m幅になった。ただでさえ狭く、追い抜き不可能とまでいわれるモンテカルロ市街地サーキットで、いっそう壁が近づいたことを意味していた。
車幅のみならずホイールベースの長さもモナコでは重視される。シーズン最低速を記録するヘアピンをはじめ、曲がり込む細かなコーナーしかないここでは、回頭性のためホイールベースは短い方がいい。F1公式サイト「Formula1.com」が公表したホイールベースの数値は、最長がメルセデスで3760mm、最短はウィリアムズで3545mmと215mmもの差があった。現在メルセデスと互角の勝負を繰り広げているフェラーリは3594mm。果たしてこの差は走りに影響するのかと、レースウイーク前から話題にあがっていた。
パワーユニットの性能差がタイムに出にくいこともモナコの特徴だ。非力なパワーユニットに手を焼くレッドブルやマクラーレン、そのほか中団より後ろのチームも上記に食い込む可能性があるとなれば、何かが起きるかもしれないという期待感も高まるというもの。これもモナコの魅力のひとつである。
実際、いくつかのサプライズが今年も起きたのだった。
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ライコネン約9年ぶりのポール、フェラーリ最前列独占
3回のフリー走行で2度トップを取ったのはフェラーリのセバスチャン・ベッテル。特に予選目前の3回目ではキミ・ライコネンを従えての1-2で、スクーデリアは好調ぶりを示した。一方のメルセデス勢は初回にルイス・ハミルトンが最速となって以降はフェラーリの後塵(こうじん)を排していた。
抜けないモナコの最重要セッションである予選にも、その明暗は引き継がれた。Q3まで順調に進みポールポジションを決めたのはライコネン。2008年以来9年ものブランクを経てのキャリア通算17回目のポールに、「4年ぶりのアイスマン優勝」への期待も高まった。
2番手はベッテルでフェラーリはフロントロー独占。予選3位にはメルセデスのバルテリ・ボッタスがつけた。ライコネンとベッテルの差はわずかに0.043秒、上位3台が0.045秒内にひしめく僅差の接戦だった。
メルセデスのもう1台、ルイス・ハミルトンは、驚くべきことにQ2落ちの14番手タイム。タイヤをなかなか適温にもっていけず、Q2最後のアタックはストフェル・バンドールンのクラッシュで諦めざるを得なかった。
マックス・フェルスタッペン4位、ダニエル・リカルド5位とレッドブルが並び、トロ・ロッソのカルロス・サインツJr.が今季予選最高位となる6位を獲得。フォースインディアのセルジオ・ペレス7位、ハースのロメ・グロジャン8位ときて、何とマクラーレンの2台がトップ10に入った。
フェルナンド・アロンソのインディ500出場により、1戦だけのカムバックとなったジェンソン・バトンは9位、Q2でマシンを壊したバンドールンはノータイムながら10位。しかしバトンはパワーユニット交換のペナルティーで15グリッド降格、バンドールンは前戦での接触のペナルティーで3グリッドダウンと好位置を逃した。トロロッソのダニール・クビアトが9位、ルノーのニコ・ヒュルケンベルグが10位に繰り上がった。
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トップ快走のライコネン、しかし……
快晴の決勝日。78周のレースは大きな混乱なく始まり、ライコネンを先頭に2位ベッテル、3位ボッタス、4位フェルスタッペン、5位リカルドと順当にスタートを切った。バトンの降格で13番グリッドを得たハミルトンは12位でオープニングラップを終えた。
トップのライコネンは10周して2位ベッテルに2秒超、3位ボッタスとは6秒以上のギャップを築いた。ベッテルは、このままチームメイトに優勝をさらわれるわけにはいかないとペースを上げ、数周して1秒半、25周を過ぎると1秒まで差を詰めてきた。この時点になると周回遅れも出始め、優勝を争う上位陣のタイム差は忙しく上下した。
一番やわらかいウルトラソフトタイヤでもロングランが可能なことが分かっていた今回は、よほどのことがない限り各陣営1ストップで走り切るとみられていた。抜けないコースとなれば、順位変動のチャンスはピット戦略にかかっていた。
33周目、4位を走っていたフェルスタッペンがフロントランナーの中で先陣を切ってタイヤ交換に飛び込んだ。3位ボッタスは、ライバルに先んじてピットに入りポジションアップを図る「アンダーカット」を防ごうと翌周ピットに入り、何とかフェルスタッペンの鼻面を抑えてコースに戻ることができた。34周目に首位ライコネンもチームに呼ばれピットストップを行った。
一方、暫定首位のベッテル、同2位のリカルドは、スタートタイヤのまま飛ばしに飛ばし、アンダーカットとは逆の「オーバーカット」を狙いにいった。39周目にリカルドがタイヤ交換を済ませコースに戻ると、フェルスタッペン、ボッタスを抜き3位に上がることに成功。翌周ベッテルもその動きにならうと、ベッテルが1位、ライコネン2位と順位が逆転していた。フェラーリ2台の間隔は徐々に開き、50周を過ぎると10秒まで拡大していた。
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喜ぶベッテル、複雑な表情のライコネン
60周目、ショッキングなシーンが飛び込んできた。パスカル・ウェーレインとバトンが海側の「ポルティエ」コーナーで接触。アウト側にいたウェーレインのザウバーは横転し、コックピットをウォールに向けて止まった。幸いドライバーは自力で脱出しことなきを得たが、セーフティーカーの出番が回ってきた。
レース再開の67周目、ターン1で3位リカルドがウォールに当たり、4位ボッタス、5位フェルスタッペンと数珠つなぎになったが、こちらも幸いなことにリカルドは走行を続けることができ、ポジションは変わらなかった。
結果、フェラーリはミハエル・シューマッハーとルーベンス・バリケロが1-2フィニッシュを飾った2001年以来となるモナコ1-2を達成。昨年レースをリードしていながらタイヤ交換時のチームのミスにより2位で涙を飲んだリカルドが、今年は笑顔で3位表彰台にのぼった。
ポディウム前で16年ぶりのモナコ勝利にわくフェラーリのクルーたち、そして今季6戦して3勝を飾ったことに喜ぶベッテル。その隣では、いつものクールな表情というよりも、複雑な顔で2位のトロフィーを受け取るライコネンがいた。
ベッテルとタイトル争いを繰り広げているハミルトンは7位でゴール。ポイントリーダーのベッテルは、ハミルトンとの差を6点から25点にまで一気に広げることができた。
タイトル争いを考えれば、ライコネンではなくベッテルに勝たせ、ハミルトンとのポイント差を広げることがフェラーリにとっての「得策」だともいえた。ベッテルは、意図的にライコネンに不利な作戦を取ったという「隠れたチームオーダー説」を否定したが、ライコネンがチーム判断によるピット作戦で負けたと思っても仕方がない状況だった。
いずれにしろ、チャンピオンシップ、そしてチーム内でのベッテルの立場がより強固になったことは事実だろう。
次戦は北米に舞台を移してのカナダGP。決勝は6月11日に行われる。
(文=bg)