大矢アキオのジュネーブモーターショー2018
最新コンセプトカーは半世紀前のに負けている!?
2018.03.16
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ジュネーブショーは今年で88回目。華やかな新型攻勢で、プレスデーは十分ににぎわった。だが5つの主要ブランドが不参加となったこともあり、急きょ空きを埋めたようなスペースもところどころ見られた。
「ジュネーブでデビューを飾ったクルマたち」というコーナーも、そのひとつだった。新車を紹介するショーが“懐メロ”に頼るのは、決して健全な状態ではないとボクは思っている。それでも、並べられた往年のモデルの中には、思わず息をのむものが少なくなかった。代表的なのは、ここジュネーブで1967年にベルトーネが発表した「ランボルギーニ・マルツァル」である。マルチェッロ・ガンディーニによる前衛的なデザインは、半世紀以上前の作品とは思えない未来感を放っている。スイスの自動車年鑑『レビュー・オトモビル』のスタンドにあった1969年「ピニンファリーナ・シグマ グランプリ」とともに、一般公開日には今年のコンセプトカーと勘違いした来場者がいたに違いない。
一方、ある欧州ブランドのブースでのこと。自動運転を想定してステアリングホイールを廃したコンセプトカーの脇にいた担当者に「エアバッグは、どのように搭載するのか?」と聞いたら、「これは、2030年のコンセプトであることを理解してほしい」という返事しか戻ってこなかった。
前述のマルツァルが「快適な4ドアスーパースポーツ」というコンセプトを掲げていたとはいえ、当時の原始的なクーラーで、巨大グラスエリアに包まれた室内を常時快適温度に保てたとは想像し難い。シグマ グランプリも、「ドライバーが死の危険にさらされないフォーミュラカー」を目指したものの、実際どこまで有効なものかは証明されなかった。
とはいえ、半世紀たったいま見ても、両モデルからは作り手の志がひしひしと伝わってくる。今年のコンセプトカーは50年後、同様に人々の熱い視線を浴びているか? ボク自身は少々疑問に思っている。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)
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1/30この“ニュー・ストラトス”は、カスタムカー工房MAT(マニファットゥーラ・アウトモビリ・トリノ)によるもの。かつてピニンファリーナでスペシャルプロジェクトを率いていたパオロ・ガレッラのもと、25台が限定生産される。
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2/302017年に「イセッタの再来?」と話題を呼んだEV「ミクロリーノ」。メーカーのマイクロモビリティ・システム社(スイス)は、いよいよ生産型を展示した。実際の生産はイタリアのイモラで行われ、価格は1万2000ユーロ(約156万円)。
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3/30ドバイをベースにするWスポーツによる「フェニア・スーパースポーツ」。エンジンはポルシェのものをベースにした水平対向6気筒(最高出力800hp)で、0-100km/h加速2.7秒、最高速400km/hと驚異のスペックが並ぶ。
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4/30ドイツに本拠を置くマンソリーのブースで。「昭和の覆面車か?」と思ったら、「ブガッティ・ヴェイロン」のボディーパネルに「マーブル・コラージュ」と呼ばれるカーボン素材を用いたワンオフモデル。
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5/30スイスのR&D会社であるリンスピードは、2018年1月のラスベガスCESで公開した「スナップ」を欧州初公開した。詳細は『マッキナ あらモーダ!』の第526回を参照のこと。
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6/30リンスピードは24回目のジュネーブ参加。写真は、同社を主宰するフランク・リンダークネヒト氏。
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7/30イタルデザインは、2017年に公開したエアバスとの共同開発コンセプト「ポップアップ」の改良版、「ポップアップ ネクスト」を発表。今回は、フォルクスワーゲン グループ内でイタルデザインと同じユニットに属するアウディのエンブレムを付けて登場した。
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8/30オランダに本拠を置く「空飛ぶクルマ」のメーカー、PAL-V社は、2017年フランクフルトモーターショーに次ぐ積極性を見せた。予価は標準モデルで税別29万9000ユーロ(約3900万円)。
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9/30毎回自動車メーカーの援助のもと、意欲的なマスターコース卒業作品を出展する、デザイン学校のIEDトリノ。今年はヒュンダイ欧州デザインセンターの協力によるEV「カイト」を展示した。
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10/30EV時代のバギーを模索したというIEDトリノの「カイト」。写真はそのコックピット。
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11/30今回は出展者減少にともない、場内各所で“席替え”が行われた。アストンマーティンが移動した後には、ボルボの電動化車両専門ブランドであるポールスターがブースを構えた。
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12/30「ポールスター1」のフロントフェンダーには、このような文字が。もちろん生産型にも貼られる。プロダクトマネジャーいわく「インスピレーションの元となったのは、『iPhone』の背面の文字」とのこと。
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13/30トヨタのブースで。チェコにあるグループPSAとの合弁工場で生産されているシティーカー「アイゴ」には、フェイスリフトが施された。バンパーの彫りがますます深くなったフロントフェイスは、どこか歌舞伎の隈(くま)取りを思わせる。
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14/30ピニンファリーナのプレスカンファレンスで。ジャン・トッドFIA会長(左)は73歳を迎えた。ピニンファリーナのシルヴィオ・ピエトロ・アンゴリCEO(右)と。
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15/30さまざまな議論もあって、ここ数年主要ブランドでは減少気味のモデルやコンパニオンだが、タイヤメーカーやエクスクルーシブな工房では健在だ。こちらはクーパータイヤのブース。
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16/30現代版「ストラトス」を展示したトリノのカスタムカー工房「MAT」のコンパニオン。
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17/30スイスのエミール・フレイ・クラシックス。一見普通のオリジナル「ミニ」と思いきや、後方にまわると、強化された「ゴルフGTI」用エンジンが押し込まれていた。プロジェクトリーダーのラファエル・ハイエルリ氏とともに。
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18/301969年にピニンファリーナがスイスの自動車年鑑『レビュー・オトモビル』と企画した「シグマ グランプリ」。当時F1ドライバーの死亡事故が多発する中、安全なフォーミュラカーの姿を模索した。
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19/301927年まで起源をさかのぼるジュネーブのコンクールデレガンスを2016年に復活させたマティアス・ドゥトルロー氏(写真右)。「『ランボルギーニ・ミウラ』をはじめ、ジュネーブでは多くの名車が誕生しました」とその歴史的意義を強調した。
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20/30創業120周年を迎えるルノー。第1号車である1898年「ティープA」と写真が撮れるブースでの筆者。
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21/30突如「テスラ・モデル3」の実車が! 実車なのは確かだが、出展したのは「ライバル会社の製品をパーツの材質に至るまでスキャンできる」とアピールするケアソフト社。
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22/30「テスラ・モデル3」はケアソフト社のアイキャッチとして用いられていた。2017年のロサンゼルスオートショーでは、テスラのブースでさえ鍵が掛かっていたのに、ここではドア全開。シートやドア内張りのデザインは凡庸だが、ダッシュボードは「モデルS」などと比べて、より“ファーニチャー感”が強い。
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23/30これも今年の“席替え”による影響。ランボルギーニのブースが別の場所に移動したため、ぽっかりとできてしまった休憩スペース。
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24/30「ジュネーブでデビューを飾ったクルマたち」のコーナーで。1956年「ソレッタ750プロトタイプ」は、ヴィリー・ザルツマンが「ルノー4CV」のシャシー上に製作したもの。ドアは助手席側が前ヒンジ、運転席側が後ろヒンジ(次の写真を参照)になっている。
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25/30右はグリューンフットというスイス企業が1956年のジュネーブショーで発表し、その後生産した「ベルカー」。エンジンは単気筒230cc。
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26/30レマン湖畔のホテル前にて。みんなカメラを向けているので、セレブでもいるのかと思ったら「パガーニ・ウアイラ」だった。
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27/30近年ジュネーブでは、これ見よがしな高級車が減った代わりに、年季の入ったクルマをたびたび見かけるようになった。これは初代「日産マイクラ」(K10)。それも1984年までの初期型ラジエーターグリルだから、車齢は最低でも34年ということになる。生まれた子どもが、いいおじさんになる年月だ。
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28/30市街の玩具店フランツ・カール・ウェバーは、モーターショーに合わせて毎年ストアウィンドウを飾っている。今年はこんな感じ。ベスパではなく、往年のイタリアンスクーターのもう一方の雄・ランブレッタであるところが渋い。
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29/30ベルトーネがデザインした1967年「ランボルギーニ・マルツァル」。
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30/30「ランボルギーニ・マルツァル」のインテリア。当時フェラーリでは得られなかった快適な居住性を追求したフェルッチオ・ランボルギーニの意思を、ベルトーネが的確にくみ取っている。「今年のショーカー」と紹介しても通用するかのような未来感を見よ。