ダイハツ・タントカスタムRS(FF/CVT)
くつろぎの運転席 2019.09.26 試乗記 今や軽自動車の主流と呼べるほどの人気を誇るスーパーハイトワゴン。その元祖というべき「ダイハツ・タント」が4代目に生まれ変わった。新たなシャシーやパワートレインに加えて、強力な先進運転支援システムを手にした新型の出来栄えを確かめた。“上”にはまだ余裕あり
軽自動車は、いつもボディーのタテヨコ上限いっぱいでつくられる。例外的に規格枠を使い切らなかったのは、振り返ると、ふたり乗りの「スズキ・ツイン」、事実上ひとり乗りの軽トラック「ダイハツ・ミゼット」などがあるが、売れなかった。
唯一、使い切ってこなかったボディー外寸枠は2.0mの全高だ。全長3.4m、全幅1.48mに対して、バランスってものがあるし、そもそも“座って乗る”クルマにむやみに高い天井は必要ないはずである。威風堂々のVIPカー「トヨタ・センチュリー」だって1.5mだ。ちなみに2mの全高リミットは小型車(5ナンバー)と同じである。厳しい規格枠の中でつくられる軽は「引き算のクルマだ」、なんてことを言われるが、全高に限っては軽独自の縛りがあるわけではないのである。
そんな法の盲点(?)をついて、高さ競争を続けてきたのが、トールボーイ系の軽ワゴンだ。1.7m以上はスーパーハイトワゴンと呼ばれ、いまや軽の一番人気がこのクラスである。
その1台であるタントが7月にモデルチェンジした。プラットフォーム(車台)を刷新し、パワートレインをブラッシュアップしたほか、軽初の駐車サポート機構など、最新の運転支援システムも採り入れている。今回試乗したのは、若向き仕立て“カスタム”シリーズの最上級モデル、RS(174万9600円)である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
運転席で脚が組める
新型ボディーにも受け継がれたタントのお家芸は、ミラクルオープンドアである。左側の前後ドアにピラーを内蔵することで、センターピラーを取り払い、助手席側に長さ約1.5mの大開口を標準装備する。人の乗降はもちろんのこと、後席を畳んでかさモノを出し入れするときもメリットは大きい。
さらに今度の新趣向は「世界初」をうたう運転席のロングスライド機構である。脚の長さに合わせたシートスライドとは別に、停車中、ドライバーズシートを最大540mm後ろへ下げることができる。そうすると、センターピラーのない左側から乗り降りができたり、運転席に居ながらにして、後席の子どもの面倒がみられたり、といったカタログ的使い道には正直ピンとこなかったのだが、高速道路のサービスエリアに立ち寄り、初めてシートをロングスライドさせたとき、効用を実感した。
ハンドルのある運転席で脚が組める。背もたれを寝かせれば、脚を伸ばしてくつろげる。運転席でこんなにリラックスできるクルマがあるだろうか。ロングスライド機構は、Pレンジに入っているときしか作動しない。つまり、ミラクルオープンドア同様、スタティックな“部屋”として使っているときの工夫である。そういう付加価値を次々に考案する軽自動車が売れるのも当然だと思う。
カスタムRSの室内はブラック。「フォルクスワーゲンup!」のような安いガイシャより高い軽だから、内装に安っぽさはない。助手席ダッシュトレーやドア内張に使われる斜め格子柄のパッドなどは、ベントレーみたいである。
高さに挑み続けたからこその走行性能
4人部屋のアメニティーだけでなく、走る性能のほうもトップクラスである。
軽量設計を織り込んだ新型プラットフォームの採用で、車重(920kg)は先代カスタムRSより40kgカットされた。一方、新しいCVTと組み合わされる3気筒エンジンの最高出力は、自主規制値マックス64PSのままだが、最大トルクは92N・mから100N・mに向上している。だからといってピーキーなパワフルさを持つわけではないが、動力性能はひとくちに余裕たっぷりである。
シャシーも安定している。腰から下にズッシリした落ち着きがあり、ワインディングロードをハイペースで走ってもイビツに背が高い感じはしない。急発進や急加速時でも前輪が接地を失って路面をかきむしるようなこともない。頭上の空気を重く感じるばかりなので、クルマの天井がこんなに高い必要はないと思うが、高さのデメリットを克服する努力を重ねてきたからこそ、このフォルムが受け入れられているのだろう。
ひとつ気になったのは、軽なのに意外や小回りが利かないこと。Uターンのときそう感じて、カタログをチェックしたら、165/55R15を履くカスタムRSだけは他グレードより最小回転半径が30cm大きかった。
試乗の数日前、たまたま「三菱eKワゴン」で遠出をした。いやがうえにも比較してしまったその印象を記せば、ボディーの剛性感は日産設計のeKワゴンが一枚上手に感じた。eKワゴンの乗り心地はドイツ車のように硬い。それはそれでスゴイが、しかしボディー剛性も含めて、ちょっとユルいタントのほうが、長時間乗っていて快適だった。パワートレインはシャリシャリした軽っぽいエンジン音をたてるeKワゴンより、タントのほうが大人びていて、より高級に思えた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
駐車支援システムは使えたものの……
軽初の駐車支援システムを使ってみた。縦列駐車もできるらしいが、手頃なロケーションがなかったので、ほかにクルマがいない駐車場の白線区画内に90度曲げながらお尻から入れるというパターンを試す。
止める区画をカメラが認識し、ドライバーが承認すると、ハンドル操作はクルマがやってくれる。ドライバーはリアカメラの映像に出る文字情報や音声ガイドに従って、アクセルとブレーキを操作する。ハンドルが勝手に動くというのは、桁違いに自動運転感が増す。
結論を言うと、できた。けれど、同じことをやろうとしても、なぜか駐車区画を認識してくれないことがある。最初の停車位置が悪いのか、路面や光線の加減だろうか、初めての使用だと、人間が悩んでいる時間のほうが長かった。一番条件のいい駐車でこれだから、次から次へと後続車がやってくるような公共駐車場で、気軽に使えるかどうかは疑問である。いつも決まった自宅の車庫入れなら大丈夫かもしれないが、自分で車庫入れができない人や、できなくなった人は、クルマを運転するべきではない。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ダイハツ・タントカスタムRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1755mm
ホイールベース:2460mm
車重:920kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64PS(47kW)/6400rpm
最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:25.2km/リッター(JC08モード)/20.0km/リッター(WLTCモード)
価格:174万9600円/テスト車=221万9897円
オプション装備:ボディーカラー<パールブラック>(2万7000円)/コンフォータブルパック(3万7800円)/スマートパノラマパーキングパック(7万0200円)/スマートクルーズパック(5万4000円) ※以下、販売店オプション カーペットマット<高機能タイプ・グレー>(2万5553円)/9インチスタイリッシュメモリーナビ<標準プランC>(22万1616円)/ドライブレコーダー<スタンドアローンモデル>(3万4128円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1481km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:348.9km
使用燃料:25.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.9km/リッター(満タン法)/13.7km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.3 フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.30 日産のプレミアムミニバン「エルグランド」がフルモデルチェンジ。その動力を担う第3世代の「e-POWER」は優れたドライバビリティーとともに、懸案だった高速燃費の改善もうたう。ロングドライブで進化のほどを確かめた。
-
NEW
パナソニックが市販カーナビを終売! 巨人の撤退からカーエレクトロニクスの変化を読み解く
2026.10.9デイリーコラムパナソニックが、市販市場向けカーナビゲーション、ドライブレコーダー、リアビューカメラの終売を発表! カーエレクトロニクス界の巨人は、なぜ市場からの撤退を選んだのか? 変化し続けるマーケットの在りようを振り返り、車載機器の未来を考察した。 -
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.10.8試乗記フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。 -
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る
2026.10.8デイリーコラムスバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。 -
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。














































