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第22回:オラオラ系カーデザイン進化論(後編)

2024.04.24 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
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日本を席巻するオラオラ系カーデザイン。そのトレンドは今やBMWにも波及している! 自動車ユーザー&カーメーカーは、どこまで刺激への欲望に身をゆだねていいのか? あるいは、これこそがデザインの進化なのか!? 元カーデザイナーとともに考える。

前編に戻る)

時がたてば目が慣れる?

清水草一(以下、清水):現行「トヨタ・アルファード」のデザインは、いろんな意味ですばらしいと思うんです。じゃ「ヴォクシー」はどうなのか。

webCGほった(以下、ほった):ヤバいですね。

清水:現行ヴォクシーが出たときは超獣顔って言われたよね。プレデターとか。これはもう地球上の生命体じゃない。口の中に目があるんだから! アルファードよりもっとエグいと思ったんだけど、いま見るとかなり普通じゃない?

ほった:いや、普通じゃないですよ!

清水:でもさ、ヴォクシーのグリルって面積はデカいけど結構平面的じゃない。一部金網風だったりしてグロいけど、真っ黒だからあんまりよく見えないし。「結局黒い部分が大きいだけで、割と平凡だったな~」ぐらいの感想になっちゃってんですよ、今となっては。トヨタは意外とバランスとってたのかもしれない。あんまり怖くないんですよ、これ。

渕野健太郎(以下、渕野):ヴォクシーは「ノア」に対しての差別化でこれをやったと思うんですけど……ただ初期のアイデアスケッチには、もっと面で見せているものがあって(写真参照)、担当デザイナーは本来こういうのをやりたかったんじゃないですかね? クールなイメージで。でも迫力については出にくいと判断されて、もっと大きな口にしたのではないかと思います。

清水:『いなかっぺ大将』の風大左衛門みたいに口が開いちゃってますからね。古すぎてわかんないと思うけど。

ほった:某カプコン製のホラゲにも、こういうバケモンがいたような気がします。

清水:そうなの。バケモノなの。でもこれももう目が慣れちゃった。あ、こんなすぐに目が慣れるんだって、最近しみじみ思うんですよ。

渕野:そうですよね。10年15年前に出たクルマで「え!?」って思ってたやつが、今は全然そう見えないっておっしゃってるのは、そのとおりかなと思います。

ほった:目が慣れるのか、諦めの境地に達するのか、わかんないですけど。

渕野:でも、こういうクルマの後に「ホンダ・ステップワゴン」みたいのが出てくると、「ああ、クルマってこうだよね!」って思うんですよ(全員爆笑)。

オラオラ系カーデザインはすでに世界に羽ばたいていた!? 先鋭化し、グローバルに広がるドヤ顔カーの行き着く先とは?
オラオラ系カーデザインはすでに世界に羽ばたいていた!? 先鋭化し、グローバルに広がるドヤ顔カーの行き着く先とは?拡大
「トヨタ・ノア」のデザイン違いの姉妹車にあたる「ヴォクシー」。「ノアS-G/S-Z」に劣らぬ、立派なフロントグリルを備えている。(写真:向後一宏)
「トヨタ・ノア」のデザイン違いの姉妹車にあたる「ヴォクシー」。「ノアS-G/S-Z」に劣らぬ、立派なフロントグリルを備えている。(写真:向後一宏)拡大
フロントグリルの形状は牙をむいたプレデターのごとし。口を強調するためか、はたまた置き場がなくなったからか(笑)、ヘッドランプと薄暮灯はグリルの内側に配置された。ちなみにグリルの上に装備されているのは、ターンランプ/クリアランスランプである。(写真:向後一宏)
フロントグリルの形状は牙をむいたプレデターのごとし。口を強調するためか、はたまた置き場がなくなったからか(笑)、ヘッドランプと薄暮灯はグリルの内側に配置された。ちなみにグリルの上に装備されているのは、ターンランプ/クリアランスランプである。(写真:向後一宏)拡大
現行型「ヴォクシー」の初期のキースケッチ。ヘッドランプとロワグリルの間に大きな“間”があり、より面で見せるデザインとなっていた。
現行型「ヴォクシー」の初期のキースケッチ。ヘッドランプとロワグリルの間に大きな“間”があり、より面で見せるデザインとなっていた。拡大
2022年5月に登場した、現行型「ホンダ・ステップワゴン」。オラオラ化が進む箱型ミニバンのかいわいにおける、一服の清涼剤である。(写真:荒川正幸)
2022年5月に登場した、現行型「ホンダ・ステップワゴン」。オラオラ化が進む箱型ミニバンのかいわいにおける、一服の清涼剤である。(写真:荒川正幸)拡大
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高いデザイン完成度のステップワゴンでさえ……

清水:僕も自分で買うんだったら絶対ステップワゴンですよ!

渕野:自分らはそう思うじゃないですか。だけど、今はやっぱりトヨタのミニバンのほうが売れている。

清水:もう全然。特にステップワゴンはアカンですね。

ほった:ライバルに水をあけられてる。モノとしてはいいと思うんだけど。

渕野:「スパーダ」と「エアー」がありますけど、自分は圧倒的にエアーなんです。室内も、グレーのざっくりとしたファブリックがすごく気持ちいい。

ほった:まったく同意っす。それとエアーの不人気は、デザインというよりマーケティングの問題な気もしますね。ハンドルはウレタンだし、ファミリーカーなのにUSBは足りないし、いくらなんでもビンボー仕様すぎる。

清水:それでエアーは全然売れてないらしいね。自分だったら装備なんてどうでもいい! デザイン優先だ! ってなるけどなー。スパーダなんて中途半端に日和(ひよ)ってる! ステップワゴン エアーの、シンプルで美しいこのハコ感にシビれるよ。サイドパネルもパンとした張り具合が潔い。これはミニバンのデザインとして100点じゃないかな。「レンジローバー」みたいなエレガンスがある。初代以来の傑作じゃないかと思うけど……売れない! まったく売れない!

ミニバンのデザインは二極化してますよね。ステップワゴンみたいなシンプル路線もひとつの流れになってるけど、まだエグいほうが断然優勢なんですよ。徐々に巻き返しがあるのかもと思いますが。

ほった:私は、エグみデザインの領土侵攻はこれからも続くと思いますけど。個人的に気になるのは、自動車デザインのエグみというのが、「それ自体がどこまで先鋭化するのか」っていうのと同時に、「これが横方向にも広がっていくんじゃないか」ってことなんです。日本のトールワゴン、ミニバンが中心だったオラオラデザインが、他のジャンルにも広がっていくんじゃないかと。

渕野:例えば、こういうのですね。(「BMW XM」の写真を指さす)

ほった:そう! これこれ!

明るく開放的な「ステップワゴン エアー」のインテリア。(写真:荒川正幸)
明るく開放的な「ステップワゴン エアー」のインテリア。(写真:荒川正幸)拡大
暗い閉塞(へいそく)感を高級感と勘違いしたミニバンが多いなかで、「ステップワゴン エアー」のインテリアは本当に健康的! しかし、そう思っているのはわれら3人だけのようだ……。(写真:荒川正幸)
暗い閉塞(へいそく)感を高級感と勘違いしたミニバンが多いなかで、「ステップワゴン エアー」のインテリアは本当に健康的! しかし、そう思っているのはわれら3人だけのようだ……。(写真:荒川正幸)拡大
「ステップワゴン」の販売比率は、スタンダードな「エアー」(写真向かって左)より、カスタム風味の「スパーダ」(同右)のほうが、圧倒的に優勢なのだ。(写真:向後一宏)
「ステップワゴン」の販売比率は、スタンダードな「エアー」(写真向かって左)より、カスタム風味の「スパーダ」(同右)のほうが、圧倒的に優勢なのだ。(写真:向後一宏)拡大
日本で、シンプルで優しいミニバンが認められるようになるのは、まだまだ先のこととなりそうだ。(写真:向後一宏)
日本で、シンプルで優しいミニバンが認められるようになるのは、まだまだ先のこととなりそうだ。(写真:向後一宏)拡大
ドイツが誇るキング・オブ・ドヤ顔カー「BMW XM」。子供が見たら泣くと思う。
ドイツが誇るキング・オブ・ドヤ顔カー「BMW XM」。子供が見たら泣くと思う。拡大

「駆けぬける歓び」はどこいった?

清水:BMW XMのキドニーグリルは気持ちよく吸い込まれそうだね。大好きです、このデザイン。

ほった:ええ~っ! 『宇宙戦艦ヤマト』にこういう戦艦ありましたけど(笑)。

渕野:エグい顔っていう今回のテーマを聞いて、真っ先に浮かんだのはトヨタですけど、今やBMWもそうですよね。これと「7シリーズ」は、顔がそれまでのBMWデザインとだいぶ異なり、かなり迫力重視です。

清水:すごい評価が分かれますね。

ほった:分かれてませんよ! XMの顔がいいって言ったの、清水さんが初めてですよ!

清水:いや、一般ユーザーはみんないいって思ってるんじゃないかな。マニアだけがダメ! って言ってる気がする。価値観が固まっちゃってるから。

渕野:あのー(笑)。XMの前に7シリーズが出たわけじゃないですか。私らなんかは、その時点でもう「これまでのBMWとは違うな」って思ったわけです。BMWっていったら、自分が若いころはセダンデザインのまさにベンチマークでしたから。それがこういうことになってしまった(全員爆笑)。だけど、なんの理由もなしにこうなったわけではないと思うんですよ。例えば現行の7シリーズって、従来型から車高が57mmも高くなってるんです。つまりBEV(電気自動車)化したから、こうなったってことなのかも。もちろん市場要望もあると思いますけどね。

ほった:BEVは床下にバッテリー敷かなきゃいけないですしね。

渕野:そのぶんウエストラインは高くなるわけですよ。そういうパッケージを設計から受け取ったとき、BMWのデザイナーは多分「ハァ~……」って思ったでしょう(笑)。「これはもう、これまでの路線じゃできねえな」と。だから縦方向にドンと厚くした強めの顔にしようってことになったのかもしれない。

だけど、自分らみたいな「BMWはこうだ!」って認識が凝り固まってる人間から見ると、なんでこんな鈍重な! って思ってしまう。駆けぬける歓(よろこ)びがぜんぜん感じられない(笑)。ぜんぜん駆けぬけてない。そう思ってたら、次にXMが来たわけです。

清水:カッコいいじゃないですか!

「BMW XM」が誇る連装の拡散波動砲……ではなく、金縁のキドニーグリル。これがあれば白色彗星(すいせい)も敵ではあるまい。
「BMW XM」が誇る連装の拡散波動砲……ではなく、金縁のキドニーグリル。これがあれば白色彗星(すいせい)も敵ではあるまい。拡大
2022年4月に発表された新型「7シリーズ」(写真はBEVモデルの「i7」)。ボディーはドーンとぶ厚くなり、先代後期モデルで騒がれたキドニーグリルの大型化は、一層加速することとなった。
2022年4月に発表された新型「7シリーズ」(写真はBEVモデルの「i7」)。ボディーはドーンとぶ厚くなり、先代後期モデルで騒がれたキドニーグリルの大型化は、一層加速することとなった。拡大
ちなみに、昨今のBMW車のなかには、暗所でキドニーグリルが光るものも……。(写真:荒川正幸)
ちなみに、昨今のBMW車のなかには、暗所でキドニーグリルが光るものも……。(写真:荒川正幸)拡大
現行型「7シリーズ」のボディーサイズは全長×全幅×全高=5391×1950×1544mm。3215mmというホイールベースは先代のロングボディーと共通だが、それと比べても外寸は全方位的に拡大し、特に全高が増した。
現行型「7シリーズ」のボディーサイズは全長×全幅×全高=5391×1950×1544mm。3215mmというホイールベースは先代のロングボディーと共通だが、それと比べても外寸は全方位的に拡大し、特に全高が増した。拡大
新しい「7シリーズ」にはBEVモデルの「i7」もラインナップされている。BEV化を想定した車両構造もまた、肉厚な現行7シリーズのデザインに影響したのではないだろうか。
新しい「7シリーズ」にはBEVモデルの「i7」もラインナップされている。BEV化を想定した車両構造もまた、肉厚な現行7シリーズのデザインに影響したのではないだろうか。拡大

BMW XMは果たしてカッコいいのか?

ほった:清水さんはああ言ってますけど、カッコいいんですか、これ?

渕野:極端な比率の顔まわりだけじゃなくて、ボディーの至るところのディテールも含めると、ちょっとてんこ盛りすぎるかもです(笑)。

清水:これが結構品があるんですよ。

ほった:いやいやいや(笑)。

清水:確かにゴールドを多用してたりするけど、ソフィスティケートされたブラック趣味って感じでイケてるよ! 顔も、7シリーズはロールス・ロイスのパンテオングリルを2分割したみたいな感じじゃない? でもXMは、BMWのキドニーグリルをうまいこと未来的にデカくしてると思うんだ。しかもこのキドニーグリル、デイライトで光るんだもんね! それがまたかっこいい!

ほった:いやいやいやいやいや!(笑)

清水:『ビバリーヒルズ・コップ』って感じじゃない? 最初は俺も笑っちゃったんだけど、すぐ大好きになった。XMの顔はエグみと洗練が両立してるよ。

渕野:うーん。そうですかねぇ。

ほった:……。

清水:いや、否定してくださいよ。こんなの絶対ダメだと!

渕野:いや~(笑)。やっぱりどうしてもBMWっていうと先入観が自分にはあるんで。自分の目標だったBMWがこんなんなっちゃって、今、目標が消えちゃった気がするんですよ。「カーデザインとはこうあるべきだ」っていうのが。昔でいえばBMWとかアウディあたりがそうだったんで。

ほった:皆が目指した指極星ではなくなったことは確かなようですね。まぁ、今の時代にそんな存在であり続けるのは不可能でしょうし、そういう意味でも、このイメチェンは必然だったのかもしれませんが。

清水:それにしても、XMの顔のブラックアウトされた部分の面積を見ると、やっぱりトヨタのアルファードは先駆者だったって気がしますよ。

渕野:そうですね。でも、同じアルファード系の「レクサスLM」は、顔を面で見せてるじゃないですか。ドア面の流れがそれなりにフロントにもつながっている。デザイナーとしてはこっちのほうがしっくりくるんです。

清水:そうなんですか。私はしっくりこないな~(笑)。

渕野:このデザインがいいというわけではなく、デザイナーの考え方として、こっちのほうが理解できるということです。前にも触れましたけど、アルファードはサイドの豊かな面形状とフロントグリルまわりのつながりが薄い感じがします。

顔ばかりが取りざたされる「BMW XM」だが、全体を見ても、そのディテールはことごとくクドい。
顔ばかりが取りざたされる「BMW XM」だが、全体を見ても、そのディテールはことごとくクドい。拡大
ガラスエリアを一周するゴールドのモールディング。 
清水「これがさ、ちょっとくすんでいて渋いというか、絶妙なさじ加減なんだよ」 
ほった「いや、もうそういう次元の話じゃないですよ」
ガラスエリアを一周するゴールドのモールディング。 
	清水「これがさ、ちょっとくすんでいて渋いというか、絶妙なさじ加減なんだよ」 
	ほった「いや、もうそういう次元の話じゃないですよ」拡大
マフラーは六角形で、片側タテ2本出しの計4本! ディフューザー調の装飾部分にも、ゴールドの縁取りが施されている……。
マフラーは六角形で、片側タテ2本出しの計4本! ディフューザー調の装飾部分にも、ゴールドの縁取りが施されている……。拡大
キドニーグリルの存在感に目を奪われがちなフロントまわりだが、実はその下の、ブラックで塗られた箇所も強烈にデカイ。
キドニーグリルの存在感に目を奪われがちなフロントまわりだが、実はその下の、ブラックで塗られた箇所も強烈にデカイ。拡大
巨大化の一途をたどる高級車のフロントグリル。一足早くにそれを実践した「トヨタ・アルファード」は、偉大なる先駆者(車)……なのか?
巨大化の一途をたどる高級車のフロントグリル。一足早くにそれを実践した「トヨタ・アルファード」は、偉大なる先駆者(車)……なのか?拡大
渕野「清水さんは『レクサスLM』はダメなんですか?」 
清水「やっぱり『アルファード』にはかないませんねっ」
渕野「清水さんは『レクサスLM』はダメなんですか?」 
	清水「やっぱり『アルファード』にはかないませんねっ」拡大

アルファードのよさは“顔”に宿る

清水:ぼくはアルファードは見事だと思うんですけどね。真横から見ると、こう鼻先がつんと立っていて、逆スラント気味になってて。確かにほとんど顔全面真っ黒ですけど、ちゃんと豊かな面づくりがされている。

渕野:確かに、このボディーの流れでいくと、逆スラントの顔は正解な気がします。むしろもう少しそこを強調してほしい。グリルのグラフィックも含めて。

清水:自分がアルファードのファンだったら、これでもう大喜びですよ。どストライクです。

渕野:(レクサスLMを指して)これじゃダメなんですね?

清水:ダメです。この顔はセミですから。あるいはイカ星人。

ほった:LMの顔はエグいとかそれ以前に、生理的にダメって人にはしんどいんじゃないですか? だってこれ、集合体恐怖の人には悪夢でしょう。

渕野:自分もこれは、気持ち悪いなとは思います(笑)。

清水:気持ち悪いですよ! 現行アルファードにはほとんど文句ないです。先代と比べても明らかに洗練されてるし、顔だって美しい。

ほった:確かにエグみ系のデザインも進化はしてますね。わたしゃどちらかといえば、今回はヴェルファイアのほうが好きなんですけど。アメ車っぽくて。

清水:ヴェルファイアは全然ダメ!

渕野:自分もどちらかというとアルファードですね。ヴェルファイアは、ノアの上級モデルと一緒で、横の流れを完全にバンパーの縁で断ち切ってるので、洗練度はアルファードです。でもそれは派生車の宿命なんですよね。

清水:ヴェルファイアは、あのぶっとい横桟のおかげで、アルファードみたなグリル面の美しいうねりがまったく見えないじゃん。立体感がぜんぜんない。

渕野:そっか、グラフィックも含めての評価の違いなんですね。なるほど。

現行型「アルファード/ヴェルファイア」の初期のキースケッチ(上)と、アルファードのサイドビュー(下)。逆スラントしたフロントの先端からボディーの流れが始まるデザインは、当初から志向されていたものだった。
現行型「アルファード/ヴェルファイア」の初期のキースケッチ(上)と、アルファードのサイドビュー(下)。逆スラントしたフロントの先端からボディーの流れが始まるデザインは、当初から志向されていたものだった。拡大
「レクサスLM」のフロントマスク。レクサスでは、ボディーと一体化したこのグリルデザインを他のモデルにも展開してくというが……。 
ほった「ちょっと、集合体恐怖症の人にはキツくないですか?」
「レクサスLM」のフロントマスク。レクサスでは、ボディーと一体化したこのグリルデザインを他のモデルにも展開してくというが……。 
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「アルファード」人気の沸騰により、一時は廃止寸前まで追い詰められた「ヴェルファイア」。現行型は、デザインだけでなくパワートレインの設定や足まわりの調律など、多方面でよりオーナーカー寄りのモデルとなった。(写真:山本佳吾)
「アルファード」人気の沸騰により、一時は廃止寸前まで追い詰められた「ヴェルファイア」。現行型は、デザインだけでなくパワートレインの設定や足まわりの調律など、多方面でよりオーナーカー寄りのモデルとなった。(写真:山本佳吾)拡大
「ヴェルファイア」ではバンパーの左右にエアインテークが設けられており、フェンダーパネルからの流れを思いっきりブッタ切っている。「ヴォクシー」や「ノアS-G/S-Z」などでも見られる意匠なので、“あえて”のデザインなのだろうが……。
「ヴェルファイア」ではバンパーの左右にエアインテークが設けられており、フェンダーパネルからの流れを思いっきりブッタ切っている。「ヴォクシー」や「ノアS-G/S-Z」などでも見られる意匠なので、“あえて”のデザインなのだろうが……。拡大

いいオラオラ、悪いオラオラ

清水:もうひとつ、悪い意味で大注目なのが「ダイハツ・タント カスタム」です。いったん少し控えめになったが、マイナーチェンジでまたパチンコ台に戻ったんですよ。昔ながらのオラオラ顔に。

渕野:ライバルの「スズキ・スペーシア カスタム」は、前のモデルはグリルが下までつながってましたけど、新型では上下に分けていて、オラオラ度は控えめです。スズキは逆に引いてますよね。顔の中央をボディー色が横断するだけで、“面の流れ”ができる。フロントマスクにボディーとの一体感が出てくるわけです。一方タントカスタムは、完全に顔だけのデザインになってます。

清水:個人的には、いいオラオラ顔と悪いオラオラ顔があると思うんですよ。タント カスタムは悪いオラオラで、アルファードはいいオラオラ。

渕野:デザイン的な洗練度の差なんですかね、それは。

清水:そうです! 洗練度の差です!

ほった:うーん。アルファードも先代と比べれば確かに洗練されてますけど……。

清水:ほった君は「ラム」(アメリカのピックアップトラック)のブタ鼻とかはいいんだよね? なんでアルファードはダメなの? えこひいきじゃない?

ほった:ラムはグリルもデカいけど、それ以上にボディーもデカいから、つり合いがとれてるんですよ。日欧のオラオラカーって、顔は強いけど横から見たらそうでもないじゃないですか。だからヘンに感じられるんじゃないですかね、自分には。

現行型「ダイハツ・タント カスタム」は2022年10月のマイナーチェンジでフロントマスクを刷新。従来は角を丸めたややソフトな顔立ちだったが、改良モデルはヘッドランプの角を立て、グリルをメッキの縁取りで強調したオラオラ顔へと原点回帰した。
現行型「ダイハツ・タント カスタム」は2022年10月のマイナーチェンジでフロントマスクを刷新。従来は角を丸めたややソフトな顔立ちだったが、改良モデルはヘッドランプの角を立て、グリルをメッキの縁取りで強調したオラオラ顔へと原点回帰した。拡大
ライバルの「スズキ・スペーシア カスタム」は、フルモデルチェンジでややおとなしい顔つきに。「ホンダN-BOXカスタム」も同様で、軽自動車ではドヤ顔デザインの分化が進んでいるのだ。
ライバルの「スズキ・スペーシア カスタム」は、フルモデルチェンジでややおとなしい顔つきに。「ホンダN-BOXカスタム」も同様で、軽自動車ではドヤ顔デザインの分化が進んでいるのだ。拡大
顔がデカいといえばアメリカのフルサイズピックアップトラックにとどめを刺すが、あちらは顔に輪をかけてボディーもデカいので、バランスが不釣り合いにならないのだ。
顔がデカいといえばアメリカのフルサイズピックアップトラックにとどめを刺すが、あちらは顔に輪をかけてボディーもデカいので、バランスが不釣り合いにならないのだ。拡大
「BMW XMレーベル」のリアクオータービュー。前から見ると強烈なBMW XMだが、サイドビューやリアビューは、意外とフツーのSUVだ。(写真:花村英典)
「BMW XMレーベル」のリアクオータービュー。前から見ると強烈なBMW XMだが、サイドビューやリアビューは、意外とフツーのSUVだ。(写真:花村英典)拡大

箱型のミニバンを“デザインする”難しさ

渕野:そもそも、この手のピックアップやSUVは、ああ見えてフォルムがちゃんとしていますからね。タイヤへ向けてボディーが収まってる。

デザイナーの立場でいうと、よく私が言う「タイヤを中心として、ボディーの絞りがどうのこうの……」っていう点で、やっぱりミニバンは難易度が高いんですよ。バンパーコーナーがほとんど真っすぐなんで。クルマのデザインとしては、やっぱりボディーの四隅をタイヤに対して“収めて”ほしいんですよ。そういうところを無視して顔だけで頑張っちゃってるから、「ちょっとな~」っていうところがある。

清水:アカデミズム的な見解はわかりました。アルファードも、もうちょっとタイヤ径がデカくて存在感があれば、もっとかっこよくなるんでしょうね。

渕野:それはそうですよ。そもそもボディーがこんなに厚いんで、現状でも普通のミニバンよりはかっこいいプロポーションになってると思います。

ほった:個人的には、こねくりまわさんでも箱グルマには箱グルマのカッコよさがあると思うんですけどねぇ……。なんだか、今回は異常に議論が熱してるんですけど。これ、オチはつくんですか?

清水:今後どうなっていくんでしょう? エグ系デザインは。

ほった:んな唐突な(笑)。

渕野:いや、だからトヨタみたいな大きな会社はもう少し社会全体のことを考えましょうということで(笑)。

清水:俺は「芸術は爆発だ!」で、人類の進歩や調和をブッ壊してもいいと思いますよ。

ほった:さいですか。次の大阪万博に期待しましょ。

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=向後一宏、荒川正幸、山本佳吾、花村英典、峰 昌宏、BMW、トヨタ自動車、ダイハツ工業、スズキ、ステランティス、ゼネラルモーターズ、webCG/編集=堀田剛資)

斜め前から見た際の、ボディーのシルエットとタイヤの相関に注目。シルエットのラインがほとんどタイヤの方向へと収束していないのがわかる。(写真:山本佳吾)
斜め前から見た際の、ボディーのシルエットとタイヤの相関に注目。シルエットのラインがほとんどタイヤの方向へと収束していないのがわかる。(写真:山本佳吾)拡大
空間効率を追求するミニバンは、とにかくボディーが四角く、車体の裾まで目いっぱいにボディーを広げている車種が多い。そのため、「シルエットをタイヤへ向けて収める」「タイヤを張り出させてスタンスをよく見せる」といったデザイン手法が、ほとんどとれないのだ。(写真:峰 昌宏)
空間効率を追求するミニバンは、とにかくボディーが四角く、車体の裾まで目いっぱいにボディーを広げている車種が多い。そのため、「シルエットをタイヤへ向けて収める」「タイヤを張り出させてスタンスをよく見せる」といったデザイン手法が、ほとんどとれないのだ。(写真:峰 昌宏)拡大
webCGほったがミニバンデザインの完成形と信じて疑わない「シボレー・アストロ」。グネグネ、ウネウネと余計なことをしなくとも、箱型のクルマには箱型のクルマのカッコよさがあるというのが持論である。
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清水「芸術は爆発だ! カーデザインも爆発なのだよ!」 
ほった「岡本太郎がこれを見たらなんと言うか、聞いてみたかったですね」
清水「芸術は爆発だ! カーデザインも爆発なのだよ!」 
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渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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