さらば「マセラティ・グラントゥーリズモ」 イタリアが生んだ名車の足跡をたどる
2019.12.02 デイリーコラム12年の歴史を締めくくるワンオフモデル
2019年11月11日、マセラティは「グラントゥーリズモ」をベースとするワンオフモデル「グラントゥーリズモ ゼダ(GranTurismo Zeda)」の製作を全世界に向けて発表した。
「ゼダ」とはモデナ地方の方言で、アルファベット最後の文字「Z」を意味するとのこと。つまりグラントゥーリズモ ゼダは、イタリア・モデナ工場における「グラントゥーリズモ/グランカブリオ」の生産が終了することを、世界に宣言するモデルなのだ。
マセラティ・グラントゥーリズモは2007年春、ジュネーブショーで“ワールドプレミア”に供された。スタイリッシュながらフル4シーターの車内空間を実現したボディーは、名門ピニンファリーナの手になるもの。1947年の「マセラティA6 1500」に架装されたピニンファリーナ製クーペを現代的に解釈したというデザインワークは、当時同社に在籍していたジェイソン・カストリオータ氏が担当したといわれる。
パワーユニットは、「フェラーリF430」系とブロックなどの基本設計を共有する自然吸気のV型8気筒エンジン。当初は前任モデルにあたる「マセラティ・クーペ/スパイダー」から踏襲された4.2リッターのみの設定だったが、程なく最高出力440PS、最大トルク490N・m(50.0kgf・m)を発生する4.7リッター版も追加された。
また2009年秋のフランクフルトショーでは、オープンモデルのグランカブリオを追加。この後も、グラントゥーリズモ/グランカブリオともに数回にわたるアップデートを行い、最終型に相当する2018年モデルでは、両モデルに「スポーツ」と「MC」をラインナップした。
人気モデルが生産終了となる事情
2007年の発表以来、12年にわたり生産されるロングセラーとなったばかりでなく、累計の生産台数はグラントゥーリズモで2万8805台、グランカブリオでは1万1715台に達したとのこと。マセラティという高級ブランドを象徴するエクスクルーシブなクーペ/カブリオレ、しかも近年では「ギブリ」や「レヴァンテ」に生産の中心が移行していることを勘案すれば、十分という以上のヒットモデルとなったと断じてもよいかと思われる。
しかし、そんな人気モデルが惜しまれつつ表舞台から姿を消すには、クルマそのものの旧態化以外にも、やむを得ない事情があるようだ。
まずは車両生産拠点の問題。今回発表されたリリースによると、次期グラントゥーリズモとグランカブリオは、これまでのモデナ工場ではなくトリノで生産される予定とのこと。おそらくは現行ギブリや「クアトロポルテ」と同じ、もともとはカロッツェリア・ベルトーネのグルリアスコ工場だった「アッヴォカート・ジョヴァンニ・アニェッリ」工場で行われるのだろう。生産拠点の集約は、近い将来の電動化への取り組みを生産面から考えれば、心情的には残念ながら正しい選択とも思われる。
一方、オルシ親子による1947年の移転以来、長らくマセラティの名車を生み出してきたヴィアーレ・チーロ・メノッティのモデナ工場では、新型ハイパフォーマンススポーツカーの生産に向けた改修が始まっている。2019年11月20日には、この工場でつくられることになるという「ミュール(試作車)」が工場から走りだす姿を写したオフィシャル写真が公開されたことは、『webCG』でもすでにお知らせしたとおりである。
次期型はマセラティ史上初のフルEV
そしてもうひとつ、ガソリンエンジンを生産するフェラーリ側の意向も考えられよう。ギブリ/クアトロポルテ/レヴァンテに搭載される3リッターV6ツインターボ、クアトロポルテ/レヴァンテ用の3.8リッターV8ツインターボとは別ラインで、数字の上では少数となってしまった専用の自然吸気4.7リッターV8をアセンブルしなければならないのは、マセラティのエンジン生産を一手に受託しているフェラーリにとっても、大きな負担となったようなのだ。
ここで最も注目すべきは、グラントゥーリズモ/グランカブリオの後継車が「マセラティ史上初のフルEV(電気自動車)となり、マセラティの電動化という新時代の到来を告げるモデルになる」という公式声明である。それは2014年にショーデビューしたコンセプトカー「アルフィエーリ」のことなのか、それともまったく新しいモデルになるのか、現時点では明かされていない。
いずれにせよ、古きよきポート噴射&自然吸気V8の美しい息吹がマセラティから失われることに一抹の寂しさを感じつつも、同時に次世代のマセラティ製EVに期待を寄せたいところである。
(文=武田公実/写真=マセラティ/編集=堀田剛資)

武田 公実
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