アルヴィス4.3リッター バンデンプラ ツアラー(FR/6MT)
大英帝国の遺産 2020.07.28 試乗記 「アルヴィス4.3リッター バンデンプラ ツアラー」は絵に描いたようなクラシックカーだが、実は2020年現在でも1937年式として新車注文が可能な英国車だ。そのカラクリを解き明かすとともに、戦前のスーパーカーの走りを味わってみた。再び動きはじめたアルヴィスの歴史
英国の名車であるアルヴィスが復活した。アルヴィスの名を知る人は、間違いなく筋金入りのエンスージアストだろう。そして、日本では、アルヴィスの実車を見たことがあるという人も、数少ないはずである。日本におけるアルヴィスはそれくらい希少な存在だ。
自動車メーカーとしてのアルヴィスは1920年に創業した。初期にはイギリス初のFF車でレースで活躍して、1930年代になると高性能エンジンを搭載した高速ツアラーとして名をはせた。つまり戦前は世界的にも、もっとも進歩的なスーパーカーメーカーだった。
第2次大戦後もアルヴィスは乗用車事業を継続したが、1965年に当時のローバーと合併。そのローバーが1967年にレイランドグループに吸収されると、アルヴィスの乗用車生産は即座に打ち切られて、もともと手がけていた軍用車両事業に専念することとなった。こうして幕を閉じることになったアルヴィス乗用車の、1920年から1967年までの総生産台数は2.1万台強(うち戦後生産分は7000台以下)だったという。
1981年にレイランドが国有化されると、アルヴィス部門はユナイテッドサイエンティフィック公開有限会社に売却される。その後は買収や再編が繰り返されて、現在は英国の国防・情報・航空宇宙を手がける総合企業、BAEシステムズの一部となっている。
いっぽう、旧アルヴィス乗用車の設計図や顧客データ、補修部品などを受け継いだのはレッドトライアングル社だった。同社は世に出回っているアルヴィスのための部品供給やサービス事業を手がけてきた。そんな会社が現在まできちんと生き残っているのは、さすが自動車文化が根づいた英国というほかない。
そんなレッドトライアングル社が、いつしか使われなくなっていたアルヴィスの商標を譲り受けることに成功したのが2009年。乗用車ブランドとしてのアルヴィスの歴史は、そこからまた動きはじめた。
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1937年式の新車
今回、そんな貴重なアルヴィスを実際に運転する機会を用意してくれたのは、国内屈指の自動車部品商社の明治産業である。会場となった千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイに持ち込まれた試乗車は、同社が所有する2台の1937年式アルヴィス4.3リッター バンデンプラ ツアラーである。
このクルマは文字どおり4.3リッターの直列6気筒エンジンを縦置きする、当時としては屈指の高性能を誇った後輪駆動車だ。1937年当時はアルヴィスからベアシャシーの状態で供給されて、いくつかのコーチワーカーが顧客のオーダーに応じて思い思いのボディーを架装した。これは当時としては一般的な販売手法であり、今回の試乗車はその車名のとおり、英国のバンデンプラ社が架装した豪華な4座グランドツアラーである。
ただ、ここでひとつお断りしておかなければならない。この2台はともにオフィシャルには1937年式の同じ車名のクルマだが、実際の出荷年には80年以上の隔たりがある。その出荷年はそれぞれのナンバープレートの数字どおり。つまり“2020”のナンバープレートを掲げるアルヴィスは、姿形や主要スペックこそ1937年式ほぼそのままながら、クルマ自体はまっさらの新車(!)なのである。
このクルマを手がけたのが、ご想像のとおり、旧アルヴィスのすべての図面と部品生産の権利とノウハウをもち、2009年にアルヴィスの商標権を獲得したレッドトライアングル社(正確には、同社が設立したアルヴィスカーカンパニー)である。復活、復刻、再生産……。このできたてホヤホヤ(!)のクラシックカー(この時代のクルマは、英国流にいうとポストヴィンテージカー)をなんと呼ぶべきかはおおいに迷うところだが、当のレッドトライングル社は「コンティニュエーションシリーズ」と呼ぶ。
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残された150分の77
今の時代に新しい自動車を生産するには、現代の安全基準を満たす必要があるのは英国も例外ではないが、このクルマは例外的だ。アルヴィス4.3リッターは1937年式として当時、150台の生産が認可された。しかし、実際に生産されたのは70台あまりで、77台分のシャシーナンバー(=生産枠)が残っていた。この新車アルヴィスはその残された生産認可枠を使って、当時のシャシーナンバーから連番でつくられる。「コンティニュエーション=継続」という命名の由来はそこにある。
新しいアルヴィスも英国内では1937年式として登録されるので、日本にも1937年生まれのクラシックカーあつかいとして、そのままの姿で輸入できるというわけだ。で、日本での輸入代理店が、戦前にもアルヴィスを輸入していた実績のある明治産業で、今回の試乗車はテスト的に同社が輸入した“新生アルヴィスの日本第1号車”ということになる。
当時ボディーをつくっていたバンデンプラ社はすでに実体がなく、このコンティニュエーションではアルヴィスカーカンパニー所有の同車を3Dスキャンしてデータ化、それをもとに当時と同様の工法で架装されるという。新車なのに1937年式として生産される新生アルヴィスには、これ以外にも、本質をくずさない範囲の現代的モディファイがいくつか施される。
新旧アルヴィス(しつこいようだが、オフィシャルにはともに1937年式)を比較すると、エンジンは本体設計をそのままに、燃料供給がトリプルSUキャブレターから3連スロットルの燃料噴射装置に、点火系もポイント式からトランジスタ式の一体型ユニットとなり、冷却系も強化されている。変速機も当時は4段MTだったが、今はTREMEC製の6段式だ。
ほかにも、ステアリング機構は現代的にラック&ピニオン(以前はウォーム&ローラー)に、ダンパーはフリクション式から油圧式、ブレーキは4輪ドラムから4輪ディスク……と主要部品は巧妙にモダナイズされている。またエアコンも用意されるし、オーディオも見た目は旧式のラジオでも、中身はBluetooth接続の最新ヘッドユニットだそうである。
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新旧1937年式のちがい
前記のとおり、今回は新旧の1937年式アルヴィスに乗ることができた。
最初は古い(=本当に1937年に生産された個体)ほうに乗る。古いといっても、フルレストア済みにして、2019年のクラシックカーイベント「ラ フェスタ ミッレミリア」で完走するなど、バリバリ現役の稼働車である。整備が行き届いた4.3リッターエンジンはすこぶる快調で、低回転でもまったくグズらない。レバーストロークが長い変速機さえ慎重に扱えば、気むずかしさはない。
ただ、ステアリングだけは、腕力には多少の自信がある私でも“切り遅れアンダーステア(笑)”が出てしまうほど重い。また、曖昧なステアリングフィールとわずかな不整にも乱される直進性、そしてブレーキの鈍さ……など、これをうまく手なずけて乗りこなすには、それなりのコツと経験と勇気と愛情が必要なのは否定できない。
続いて、1937年式の新車となるコンティニュエーションである。古いほうの4.3リッターにあった気になるクセのようなものが、見事に解消している。エンジンはより滑らかになり、低回転からよりきれいにトルクが出ている。変速はカチッと心地よく決まり、リーズナブルな重さとなったステアリング反応の正確さには、雲泥の差がある。そして、袖ヶ浦の難所である3コーナー(=下り高速コーナー)でも確信をもってブレーキを踏めるようになっている。
それでも「扱いやすすぎてつまらなくなった」などという印象はみじんもなく、80年以上前の設計でこれだけ走るアルヴィスのスゴさに素直に感心した。
英国車の先進性
今回の個体はバンデンプラのツアラーだったが、この4.3リッターのコンティニュエーションシリーズには、ほかに「ベルテッリ スポーツクーペ」や「ランスフィールド コンシールドフード」も用意される。4.3リッターの生産枠は前記のように70台以上分が残っているのだが、コンティニュエーションシリーズとしては、ひとまずは25台の生産が予定されているという。明治産業もこの1号車に続いて数台をオーダー済みだが、どれも最終的なオーナーは決まっていないそうだ。
その生産手順も当時と同じく「ベアシャシー製造→コーチング(架装)→塗装→内装→電装」という5つのステップを踏み、そのステップごとにオーダー契約していく方式をとる。なので、生産途中のクルマであれば、その次のステップから自分好みのオーダーをすることも可能……と明治産業は説明する。
繰り返しになるが、80年以上前の設計のクルマが、こうして細部をアップデートしただけで、現代のサーキットでこれだけガンガン走れるとは、当時の英国車はやはり先進的だったのだと痛感せざるをえない。1930年代半ばといえば、日本では日本初の量産乗用車といえる「ダットサン14型」がつくられはじめたばかりで、トヨタはまだトラックしかつくっていなかった。いずれにしても、この先進的なスーパーカーと比較すれば、当時のダットサン(=日産)やトヨタなど、恐縮ながらオモチャにしか思えなかっただろう。
あの時代からこんなスゴいクルマが存在していて、こうして今の時代にまさかの復刻まで果たし、その手法はいささかトリッキーだとしても、それもあえて許容する……という、英国自動車産業の歴史の長さと自動車文化のフトコロの深さは、日本人として心底うらやましい。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アルヴィス4.3リッター バンデンプラ ツアラー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4900×1700×1360mm
ホイールベース:3135mm
車重:1620kg
駆動方式:FR
エンジン:4.3リッター直6 OHV 12バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:160PS(118kW)/3600rpm
最大トルク:--N・m(--kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)5.50/6.00×19/(後)5.50/6.00×19(ブロックリー・スペシャル)
燃費:--km/リッター
価格:5274万5000円/テスト車=5274万5000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1082km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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