買った後にもクルマが進化! トヨタ&GAZOO Racingが提供するアップデートサービスのねらいと意義
2026.05.25 デイリーコラム最新のソフトウエアアップデートプログラムを発表
「もっといいクルマづくり」をキーワードに、地道に製品のアップデートを続けているGAZOO Racing(以下GR)。その取り組みは、ハードウエア(=クルマ)の改良とソフトウエアの進化が両輪になっているのだが、今回は後者に関する話題である。2026年5月11日、「トヨタGRヤリス/GRカローラ」を対象とした最新のアップデートプログラムが発表されたのだ。
これまでにもGRは、
- GRヤリスのトルクアップ(2022年8月28日)
- GRヤリス等への「サーキットモード」の追加(2024年8月21日)
- 旧来型「GR86」(~2024年7月生産)のソフトウエアアップグレード(2025年6月5日)
- ROOKIE Racingによる「GRMNヤリス」のアップグレード(2026年1月14日)
などのアップデートを、既納のオーナーに提供。「クルマが改良され続けるので、いつ買っていいのかわからない」「買ってもすぐに改良版が出てしまう」という、ユーザーの不満や不安に寄り添ってきた。
そして今回発表されたのは、2024年8月導入のサーキットモードの機能をより強化する、「GR YARIS/GR COROLLA PERFORMANCE SOFTWARE Series(GRヤリス/GRカローラ パフォーマンスソフトウエアシリーズ)」である。2026年5月13日から、全国のGRガレージで提供が開始された。
そもそもサーキットモードとは、GPSによる位置判定により、特定のサーキットに入るとスポーツ走行向けの機能が解放されるというもの。シフトタイミングやエンジン回転数の表示が切り替わり、アンチラグ制御が作動し、スピードリミッターの上限速度が引き上げられるといったものだった。
今回のパフォーマンスソフトウエアシリーズは、より広範な車両の制御を、より細かく設定変更できる点が特徴で、また「シリーズ」と銘打っているとおり、ユーザーの用途に応じてソフトウエアプログラムが3つ用意されている。公道でGRらしい走りをもっと引き出して楽しみたいという人には「ストリート」、サーキットトライアルやジムカーナで走りを楽しむ人には「サーキット」、ダートトライアルやラリーといった競技に参加する人には「コンペティション」といった具合だ。
ソフトウエアの設定を行うインターフェイスは、従来のサーキットモードと同じでスマートフォンだ。専用のアプリケーションでセッティングを変更すると、そのデータがまず「T-connect」サーバーへと送られて、そこを経由して自車のECUにデータが転送される。
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よりスポーツ走行や競技に適した制御も導入
既存のソフトウエアからの変更点、設定を調整できるメニューを3つのラインナップごとにお伝えすると、まず「ストリート」では、サーキット以外の場所でもシフトタイミングインジケーターの使用が可能に。エンジン制御の調整も、これまでドライブモードに連動していたアクセルレスポンスをスマホで設定できるようにしている。また4WD制御では、前後の駆動トルク配分を6段階(70:30、53:47、50:50、45:55、40:60、30:70)から選択可能に。通常は自動制御されるカップリングのイニシャルトルクも、0~30N・mの間で5N・m刻みで設定できるようになった。電動パワステの制御変更も可能となっているが、こちらは「GRガレージ」での制御の書き換えが必要とのことだ。
次に「サーキット」では、サーキット走行時におけるシフトインジケーターの点灯の仕方を、3ステップと4ステップから選択可能に。ジムカーナやダートトライアル、ラリーなどでは、低いギアでのシフトが頻繁に行われるため、3ステップのほうがわかりやすいからだ。またパワーステアリングのアシスト量も、8段階で細かく調整できるように変更。これは常用的な扱いやすさを基準としながら、段階的に重くなっていく設定で、ドライバーの好みや競技の特性に応じた選択を可能とした。さらに、吸入空気量を増やしてタービンの回転を維持する「アンチラグ」機能も、これまでの「無/弱/中/強」に「強+」を追加した5段階に設定を拡大。より高い過給圧を実現して、アクセルレスポンスを向上させた。ちなみに、触媒を保護するべく排気燃焼は行っていないので、アクセルオフしても派手にバブリングするわけではない。
「フラットシフト」機能の導入も魅力的だ。これは6段MTの変速時に、アクセルを全開にしたままギアチェンジを可能にする制御である。制御的にはクラッチを切るタイミングで燃料を瞬間的にカットすることで、エンジンの回転上昇を抑えながら(つまりはエンジンを保護しながら)素早いシフトを可能にするというもの。シフトダウン時にエンジン回転を上げてくれる「iMT」制御と合わせて使えば、タイムアタック時に有効な武器となるだろう。またレブリミットいっぱいまで回さないショートシフトにも対応しているというから、耐久レースでの燃費走行やウエット路面での変速でも活用できそうだ。
そしてGRヤリスといえば専用の8段AT「GR-DAT」も目玉のトランスミッションだが、これにもサーキット特化型の制御が導入される。急制動時にブリッピングしてシフトダウンする閾値(しきいち)の緩和、Dレンジでパドル操作した際のシフトダウン受け付け速度の引き上げ、アクセルオン時のトルクレスポンスの向上……といった具合だ。
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大事なのは機能と遊び場の両方を提供すること
最後に「コンペティション」を選ぶと、その制御がより競技色の強い設定となる。GR-DATはさらに変速の領域を拡大し、Dレンジでも1速を積極的に使う制御を導入してダイレクト感を向上。またローンチスタート制御の作動領域を拡大するなど、より実戦に即した内容が盛り込まれる。
驚いたのは4WD制御の細かさで、カスタムモードを選ぶと1%刻みで、70:30~30:70の間で前後トルク配分を調整できるという。カップリングトルクも0~299N・mの間で、1N・m刻みで調整が可能となるのだが、設定によってはドライブトレインに大きな負荷がかかるため、4WDシステムは保証の対象外となるのでご注意を。
以上が、新しいパフォーマンスソフトウエアシリーズの概要だが、せっかくなので、同商品や既出のサーキットモードで走りを楽しめる施設が増えたことにも触れておきたい。2024年8月21日のスタート直後は、JAFの競技会が開催される場所を中心に全国34カ所だったその数は、2026年4月下旬の取材会時点で79カ所に。本稿執筆時点では85カ所にまで増えており、これからもユーザーの要望に応えるべく、その拡充に取り組んでいく予定だという。
GRヤリスとGRカローラの改良の早さ・細かさには、正直、毎回あきれるばかりだ。それは素晴らしいことである反面、先ほども触れたとおり「いつ買えばいいの?」「買ってもすぐに古くならないか?」と不安を抱く人がいるのも事実である。また、せっかくのスポーツカーも、思う存分走らせられる環境がなければ宝の持ち腐れだ。その点、GRのこうしたアップデートプログラムの提供やインフラの整備、すなわちユーザーを置いていかない姿勢には、大いに共感させられる。スポーツカーで大切なのは、機能と遊び場、その両方の提供なのだ。GRとトヨタは、それをよくわかっている。
(文=山田弘樹/写真=トヨタ自動車、向後一宏、webCG/編集=堀田剛資)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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