マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R(FR/6MT)
スポーツカーの妖精 2026.05.26 試乗記 販売台数わずか200台の限定車「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」に試乗。スーパー耐久レース参戦をはじめとするマツダのモータースポーツ活動を担うサブブランドが生み出した初の市販コンプリートカーは、いかなる走りをみせるのか。車名はS耐参戦マシンのカーナンバーに由来
なんなんだ、この背筋がゾクッとする感じ。これが「マツダ・ロードスター」のエンジンなのか……。
アクセルペダルに触れることなく、クラッチ操作だけで悠々と発進するほど低回転域からトルキーな特性であるいっぽう、3500〜4000rpmを超えるあたりからこのエンジンはキャラ変が始まる。タコメーターの盤面を駆け上がる針のスピードが加速し、同時にもりもりと力感が漲(みなぎ)り、スペシャルなエキゾーストシステムがバリトンの歌声を張り上げる。
コーナーの入り口でヒール&トウ、つま先でブレーキングしながらかかとでアクセルペダルをあおると「フォン!」という胸のすくような音とともに、スパッと回転が跳ね上がる。
丁寧にチューニングされた素晴らしいエンジンで、ドライブしていると、細部にスポーツカーの妖精がいるような錯覚に陥る。スポーツカーとスポーツドライビングを知り尽くした妖精が要所要所にスタンバっていて、自分の操作を機械に伝えてくれているような、そんな繊細な手触りのエンジンなのだ。
……と、コーフンのあまりモデル紹介をすっ飛ばしてしまったけれど、本日の試乗車はマツダ スピリット レーシング・ロードスター12R。スーパー耐久レース(いわゆるS耐)への参戦で得た経験や培った技術を注ぎ込んだ特別なロードスターだ。
マツダ スピリット レーシング・ロードスターには2種類あって、コアモデルと呼ばれるのが「ロードスターRF」と同じ2リッター直4の量産エンジンを搭載する2200台限定の「マツダ スピリット レーシング・ロードスター」。対して、200台限定の12Rは、ポート研磨などのチューニングを熟練のクラフツマンが手作業で施したスペシャルな2リッター直4エンジンを積む。
ステアリングホイールを握っているのは後者で、モデル名の12RとはS耐に参戦するマツダ スピリット レーシング・ロードスターのカーナンバーに由来する。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ドライバーを高ぶらせるサウンド
ヒール&トウの中ブカシ(ブリッピング)で素早く回転が上がるのは、フライホイールをデュアルマスからシングルマスに変更していることに加えて、ヒール&トウ時にエンジンの回転上昇をアシストする制御を採用しているからだ。しかも、この制御がどんぴしゃ。クルマと運転の手だれが入念に調整したことが伝わってくる。つまり、筆者がスポーツカーの妖精だと感じたものは、広島のスポーツカー好きのおじさんたちなのかもしれない……。
アクセル操作に対するレスポンスのよさは、吸気ポートの形状変更と、匠(たくみ)エンジニアが手作業で吸気ポートを研磨したことの効果が大きいようだ。スムーズにたくさんの空気を吸い込むことで、最高出力も量産エンジンの184PSから200PSへとアップしている。
ただし、ドライブしている身には16PSの向上はオマケみたいなもの。「アクセル操作に対して間髪入れずに」と表現したくなる、かみつくようなレスポンスが主役だ。
吸気だけでなく、フジツボと共同開発した排気システムもレスポンスのよさと濁りのないエキゾーストノートでドライバーの気持ちを高ぶらせる。ほろを開け放ってアクセルペダルを踏むと、健康的な音質と程よいボリュームの排気音が鼓膜を震わせる。
排気音がいまいちパッとしないことが歴代ロードスターの数少ない弱点だと感じたけれど、この音をマツダミュージックと表現しても決して大げさではないだろう。マフラーのタイコの中では、スポーツカーの妖精たちが組織するオーケストラが演奏している。
ほかにも、S耐参戦車両と同じ低抵抗のピストンや、ピストンリングにDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)被膜の加工を施し、カムシャフトも変更されるなど、できることは全部詰め込んでいる。そういえばDLCという言葉を聞いたのは、「フェラーリ12チリンドリ」の発表会で、「自然吸気12気筒の魅力を最大化するために、DLC加工を採用した」という話を聞いて以来だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
スポーツカーとして理想的な足まわり
試乗をスタートしてしばらくは、エンジンの魅力にばかり意識がいってしまったけれど、落ち着いて観察すると乗り心地が素晴らしいことに気がつく。ソリッドな乗り心地ではあるけれど、路面のつなぎ目が連続する首都高・横羽線を走っても、不快に感じるような突き上げはない。
足まわりはガッチガチに固められているわけではなく、路面の凸凹を乗り越える瞬間には、動物がスッと膝を曲げるのと似た動きで衝撃を緩和してくれる。そして不整を越えた後は、上下動がビシッと収まって余韻を残さない。
エンジンと同様、サスペンションアームの取り付けやホイールアライメントの調整は熟練のクラフツマンが行っているとのことで、そうしたキメ細かなチューニングも相まって、ソリッドなのに必要なときにはよく動くという、スポーツカーとして理想的な足まわりになっている。足まわりにも、スポーツカーの妖精が宿っているかのようだ。
もうひとつ、レカロ製のフルバケットシートも、乗り心地を快適にしている。調整は前後移動だけでリクライニングは備わらないけれど、座った瞬間に自分がマシンの一部になったかのようにフィットするのと同時に、イヤな振動やショックを確実に吸収してくれる。座り心地が良好だと感じるのは、ABCペダルとステアリングホイールの位置関係など、マツダ・ロードスターというクルマの基本的なレイアウトが優れていることも貢献している。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
本当にうらやましい
このクルマで箱根の山道を駆け回ると、時間がたつのを忘れてしまう。高速道路でも感じたけれど、ワインディングロードだとブレーキのフィーリングのよさが際立つ。ブレンボ製のブレーキセットは、強力な制動力を発揮するだけでなく、ブレーキのタッチがいい。ペダルの踏み加減の強弱を精緻に伝えてくれるのでうれしくなる。
ハードブレーキングで前方につんのめることなく、水平な姿勢を保ちながら沈み込むように速度を殺すあたりには、ブレンボの力だけでなくこのクルマの素性のよさもあるのだろう。
ノーマルのND型マツダ・ロードスターが、程よいロールと前後のロールバランスのよさでひょいひょい、ひらひらと舞うのに対して、12Rはかっちりと路面をかんで曲がっていく印象。コーナリングのフィーリングは軽快というよりシャープで、このあたりがサーキット由来のチューニングだと感じる。
ワインディングロードでも乗り心地は快適。路面コンディションのよくない箇所ではザラザラした感触を伝えるけれど、「ヨコハマ・アドバン ネオバAD09」というサーキット走行も視野に入れたスポーティーなタイヤを履くことを思えば、許容範囲だ。ステアリングホイールを通じて伝わる、どんな路面とどのように接しているのかという解像度の高い情報は、このタイヤのおかげでもあるだろう。
加えて、シフトフィールも節度があって抜群だ。東西南北どの方向にもストレスなく、カチッと決まる。ストロークの量も適切で、しかもスムーズにシフトするだけでなく、シフトレバーを次のギアに入れた瞬間、すっと吸い込まれるような感触だ。ギアボックスの中でも、スポーツカーの妖精が仕事をしている。
オプション込みで800万円を超えるプライスタグを見て、「だったらもうちょい頑張って『ボクスター』買うでしょ」という声が上がるは当然だ。でもこのクルマをドライブしてみると、エンジン、サスペンション、ステアリングホイール、ABCペダルなどなど、至るところにスポーツカーの妖精の存在を感じた。
厳正なる抽選の末、限定200台の行き先は既に決まったとのことで、残念ながら新車ではもう手に入らない。200人の幸運なオーナーにはおめでとうございます、うらやましいですとお伝えしたい。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=マツダ)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1245mm
ホイールベース:2310mm
車重:1050kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:200PS(147kW)/7200rpm
最大トルク:215N・m(21.9kgf・m)/4700rpm
タイヤ:(前)205/45R17 84W/(後)205/45R17 84W(ヨコハマ・アドバン ネオバAD09)
燃費:15.0km/リッター(WLTCモード)
価格:710万0500円/テスト車=866万5822円
オプション装備:特別付属品MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R KIT<フロントアンダースカート[RSグレー]、リアスポイラー[RSグレー]、サイドアンダースカート[RSグレー]、リアアンダースカート[ブリリアントブラック]、フロアマット、セレクティブキーシェル[専用BOX付き]、ホイールナットセット[ブラック]、デカール[ボンネット、トランクフード、フロント、サイド、ミラー]、ストラットタワーバー>(51万1500円)/専用アクセサリー<スポーツアライメントキット、チタン製スポーツマフラー[フジツボ製]、スポーツタイヤ[ヨコハマ・アドバン ネオバAD09 ※オープン価格]、ブレーキセット[スリットローター&スポーツパッド ブレンボ製]、LSD&専用オイル[オーエス技研]、フルバケットシート&サイドアダプター[レカロ製]、Sabelt×MAZDA SPIRIT RACINGダブルブランドハーネス[競技用部品 4点式/6点式]>(105万3822円 ※スポーツタイヤを除く)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:5167km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:417.3km
使用燃料:31.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.4km/リッター(満タン法)/12.7km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】 2026.8.21 メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。
-
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】 2026.8.19 マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】 2026.8.18 クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【試乗記】 2026.8.17 BMWの新世代電気自動車の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。
-
NEW
トヨタRAV4アドベンチャー(前編)
2026.8.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」に試乗。ご存じのとおり今やトヨタの屋台骨を支えるSUVであり、先代モデルではグローバルでの年間販売台数が100万台に到達。世界で最も多く販売されるトヨタ車の6代目だ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
DS N°8エトワールAWD(4WD)
2026.8.22試乗記DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。 -
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】
2026.8.21試乗記メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。 -
これは“ヨーロッパ版軽自動車”か? 欧州の新自動車規格「M1E」とニッポンの軽の可能性
2026.8.21デイリーコラム欧州で検討されている、新たな小型電気自動車(BEV)規格「M1E」。手ごろなBEVの普及と域内自動車産業の保護を目的としたこの規格は、軽自動車という独自の小型車を育んできた日本にとってもチャンスとなるのか? 新たな自動車規格の展望と可能性を考察する。 -
FCEVで世界一の販売台数 「ヒョンデ・ネッソ」にみる水素の可能性と普及へのカギ
2026.8.20デイリーコラムフルモデルチェンジしたヒョンデの燃料電池車(FCEV)「ネッソ」は、1014km(参考値)の一充填走行距離を実現したという。進化したゼロエミッションの走りを味わいながら、ヒョンデが目指す水素社会の可能性とFCEVの未来について考えてみた。 -
第292回:350SEが運ぶのは幸福か、それとも究極の不幸か…… 『星の時 4K』
2026.8.20読んでますカー、観てますカーブラジルの女性小説家クラリッセ・リスペクトルが1977年に発表した小説を、女性監督スザーナ・アマラウが1985年に映画化した伝説の作品。「メルセデス・ベンツ350SE」がもたらす運命の瞬間を謎めいた手つきで描き出す。


















































